ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年1号
特集
物流企業番付平成16年版 2004年の物流市場はこう動く

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2004 26 二〇〇三年度中間期の総括 ――各社の中間決算が出そろいました。
その総括 から始めたいと思います。
まずは全体の感想から お聞かせ下さい。
成田さんからお願いします。
野村證券金融研究所・成田康浩企業調査部研究員 (以下、野村・成田) 八月頃の冷夏などを考え ると、割と利益が残ったなという印象です。
国内 の事業環境が好転しているため、特に後半は貨物 の荷動きも良くなっている。
これに各社とも人件 費が削減できたことと合わせて、当初懸念してい たような業績の下ブレはなかった。
あとは国際の 部分ですね。
海上コンテナや航空貨物などの国際 物流がやはり伸びている。
――一柳さん、今の話に付け加えることはありま すか? 大和総研・一柳創企業調査第一部アナリスト(以 下、大和・一柳) 業績的には上期までの部分で は、やはりコスト削減の成果が残っている。
昨年 あたりまで各社とも退職給付金も含めた人事制度 の見直しなどを、かなり進めてきましたから、そ れが利益として残ったという印象です。
また下期 にかけて九月、一〇月と少し雰囲気が変わってき た、好転してきた印象があります。
これでスター トダッシュをかけられる企業と、かけられない企 業で差が出てくるだろうと見ています。
――土谷さん、いかがですか。
三菱証券・土谷康仁リサーチ本部エクイティリサ ーチ部アナリスト(以下、三菱・土谷) 基本的 にはお二人と変わりませんが、トラック運賃に関 しては単価が下げ止まったとはいえ、まだ低下傾 向がありました。
これを合理化で補ってカバーし たというところだと思います。
個別で見ると、セ ンター業務中心のハマキョウレックスのようなと ころは好調で、単価下落の影響をあまり受けずに 利益を出している。
これに対して運送専業では、冷 夏の影響を受けた食品物流などは、各社の合理化 努力が進む一方で、食品物流全般の環境悪化が業 績の足を引っ張ったという印象があります。
――続いて個別の業界を見ていきたいのですが、ま ず陸運は運賃の下落傾向に少し歯止めがかかって きたということですが、環境規制の強化などでコ ストはアップしているはずです。
それはまだ中間決 算にはあらわれていないのでしょうか? 野村・成田 多少は出ていると思います。
ディー ゼル排ガスの粒状物質の除去装置の取り付けなど を、事前に手当をしていたかどうか。
去年から法 律などはできていましたから、大手では各社とも 車両の代替などの準備をしていた。
ですからコス ト増はあったけれど、業績への大きな影響はなかった。
――退職給付金の引き当て問題は既に決着したと 見ていいのですか。
大和・一柳会計上の対応は済みましたが、積み 立て度合いという意味では、まだまだ問題は残っ ていると考えるべきです。
あくまで将来の費用計 上を、その期の分だけ処理しているというのが現 状ですから。
そういう意味では以前より人件費に 対する見方をシビアにしなければいけなくなって いる。
――その結果、大手運送会社が正社員を雇わなく なる。
傭車比率が増えるということになるのでし ょうか。
マーケットから見ると、正社員ドライバ ーを増やす陸運業者は、マイナス材料になります 「2004年の物流市場はこう動く」 現在の大手物流業者の経営を株式マーケットはどう評価し ているのか。
さらには今後の物流市場の展開をどう予測して いるのか。
2004年3月期の中間決算が出揃った12月、大手証 券会社の有力アナリスト3人を招いて、注目企業の現状と今 後の展開について議論した。
土谷 康仁 三菱証券リサーチ本部 エクイティリサーチ部 アナリスト 成田 康浩 野村證券金融研究所 企業調査部 研究員 一柳 創  大和総研企業調査第一部 アナリスト(氏名50音順) 【司会】本誌編集長大矢昌浩 第3部物流担当アナリスト座談会 27 JANUARY 2004 か? 野村・成田 むしろ私はプラス面も多いと思いま すね。
今は多くの物流業者が実務をアウトソース している。
それによって確かに売り上げの伸びが 違ってくる。
しかし現状で利益を出しているのは、 逆に正社員やパート・アルバイト社員を抱えてい る会社のほうです。
物流業はやはり労働集約的で あって、いかに労働生産性を向上させるかがカギ になる。
そこをアウトソースすると結局ムダがで きてしまう。
ハマキョウもそうでしょう。
物流の 現場を遊ばせない。
それが低コストにつながって いる。
そして、低コストが売り上げの増加につな がっている。
――そこは、どうなのでしょう。
少なくとも数年前 まではフォワーダー的に人やアセットをあまり持た ない会社の方が有利という見方が主流でした。
今 の成田さんの話は興味深いものの、大勢はまだ逆 にあると思う。
どうですか、土谷さん? 日本でノンアセットは成り立つか 三菱・土谷 ノンアセットに走っていくと、究極 的にはコンサルティングに近い形になってしまう。
しかし日本人というのは、そういうサービス、目 に見えない無形のサービスにコストを支払うとい う意識がない。
それでビジネスが成り立つのか。
コ ストに見合った収益が上がるかと考えると、ノン アセットは日本においてはしんどい。
日本では何かを抱えなければいけない。
抱える ことをリスクとしてリターンを得ていく。
その意 味では、人を抱えるというのは一つのやり方だと は思います。
成田さんがおっしゃったように、足 元で収入を伸ばしている企業はイコール、サービ スレベルが高いと思われているところ、人を抱え ているところだというのは一つの事実です。
株式 としてみれば、要は投資に見合ったリターンが出 るかどうかだけですから、上手くやってくれれば 人を抱えようが、何だろうがOKです。
――ハマキョウは確かにそうですが、トランコムは どうでしょう。
業績は伸びているものの、事業の 中味としては水屋業です。
またキユーソー流通シ ステムも全て傭車です。
人も車両も抱えていない。
実は今回の特集のように物流業者の業績を評価す る番付を作る場合、「一人当たりの収益」を指標に 加えると、人を抱えている会社がみんな落ちてし まう。
それでいいのか正直なところ、よくわからな い。
しかし、一人当たりの収益というのが一つの 指標であることは間違いない。
大和・一柳 いっそのことドライバー分を、差っ 引いてしまうというのはどうでしょう。
数字をと るのが難しいという面はあるでしょうが、そうや って実務の部分を取り除いて、業務の生産性だけ を見る。
野村・成田 しかし、トランコムも求貨求車サー ビスの部分はノンアセットですが、センター事業 や他の部分は自分でやっています。
キユーソーに しても結局、ベースカーゴがあるから、ああいう 仕組みを作ることができた。
そもそもキユーソー というのは、かなり珍しいケースだと私は考えて います。
大和・一柳 しかしキユーソーも、単体ベースで 見ると何も持っていませんが、キユーソーグルー プという観点では、人材を抱えているという言い 方もできる。
――他にも連結で見る場合と、単独でみる場合の 違いはありますか? 野村・成田 最近は単独だけで見ることは、ほと んどありませんね。
――ただし日通は別ですね。
日通の場合、連結で は事業別の業績が出ない。
日通は基本的に店舗単 位の経営ですから店舗の売り上げを積み上げてい る。
事業単独で出しているセグメントについても、 一応は数字を分けているが、実際のところどうな っているか分からない。
宅配便事業の収益も公表 していない。
数字がないのに経営管理ができるの か。
ここはアナリストの方にもしっかりウォッチし て欲しい。
また最近では3PL(サードパーティ・ロジス ティクス)が、事業としても本格化してきました。
3PL事業は各社の業績にどう影響しているので しょうか。
皆さんは、3PLの普及がマーケット に影響しているとは考えていますか? 野村・成田 結局、各社とも決算短信では3PL を目指しているという書き方をしていますが、実 際にできている会社はあまりない。
そこで言われ ている3PLというのは、要は従来の一般輸送だ けでなく、トータルサービスの提供という話だと 思います。
そうした事業の利益率はやり方次第で は悪くないとは思っていますけどね。
ハマキョウ にしても、トランコムのセンター事業にしても利 益率は高い。
社会的規制強化の影響は ――スピードリミッターと、環境規制による車両 代替については、この下期から本格的に影響が出 てくるはずです。
明らかにコストアップ要因で、そ れを運賃に転嫁できる見込みも少ない。
皆さんは 特 集 JANUARY 2004 28 影響をどう予測していますか。
大和・一柳 基本的にコストプッシュファクター ではあるんですが、対応できる会社も限られてい ますので、結果としてメリットを受ける大手と、そ の他諸々という姿を現時点では想定しています。
――大手にはメリット? 大和・一柳 そう思います。
車両の代替も一気に 入れろと言うと勘弁してよとなるが、五年とか七 年で定期的に車両の入れ替えをやっている陸運業 者にとっては大きな影響はない。
むしろ対応でき なかった中小の荷物が大手に回ってくる。
そうし た積載効率などでのプラス効果との差し引きで、プ ラスが残る企業もあるだろうと思っています。
――大手になればなるほど有利。
逆に中堅以下は 厳しい? 大和・一柳 中堅以下というより本当に小さいと ころがどうなるのかが、気になっています。
トラッ ク業者数は過去に減ったことがない。
しかし、そ ろそろトレンドが変わってくるかも知れない。
九 〇年代以降に業者数が増えているのはゼネコンと 陸運くらいでしょう。
そう考えると正常ではない。
そろそろギブアップする企業が出てきてもおかし くない。
――つまり、ここで供給が減少に転じるというこ とですね。
土谷さんは、いかがですか? 三菱・土谷 私としては運賃の改善に期待してい ます。
実際、足元ではスポットの値段は上がって きているようです。
先日、関東の保有車両数を調 べたのですが、やはり減ってきています。
逆にJ Rコンテナが増えているなど、関東のトラックが 減った分はどこかで数量増になるわけです。
――成田さんはどうですか? 野村・成田 私は大きくは変わらないとみていま す。
結局、参入障壁が上がった話ではありません からね。
三年後に今を振り返ってみたときには、「何かあったけど、なんだっけ」という感じになる のではないでしょうか。
短期的には、地方から東 京にくる車両のコストが多少は上がるでしょう。
し かし、業界構造が変わるという話ではないと思い ます。
――撤退が増えて供給が減るという見方について は? 野村・成田 本当に撤退が増えるかどうかですよ ね。
五万六〇〇〇社のうちの一〇〇〇社が撤退し ても大勢は変わらない。
例えば十二月というのは 需給が引き締まるわけです。
それでパンクするか と言えば、恐らくしない。
まだスペースの方が多 いわけです。
それが多少締まっても、運賃が上が るほどではない。
――マクロで見たら、まだまだ供給過多だと。
ど うですか、土谷さん。
三菱・土谷 確かに限界的なところはあります。
そ れでも運賃交渉のやりやすさは出てくるのではな いでしょうか。
運賃値上げ論者と思われると困る のですが(笑)。
業界の中にも運賃をなんとかしよ うという動きが出てきた。
上がらないまでも、下 げ止まりを期待したいですね。
――結局、下期は上期に比べてどうなるのでしょ うか。
大和・一柳 経営サイドからすれば楽になってい るのではないでしょうか。
上期の方がきつかった と思います。
ただし中小の専業者は別です。
大手 と中小では収益構造がぜんぜん違う。
大手にとっ てトラック収入が占める割合は、せいぜい二割、三 割に過ぎない。
他にプラスαのいろいろな部分が ある。
正念場を迎えたヤマト運輸 ――陸運のなかでも宅配市場では、二〇〇三年十 一月にヤマトの取扱個数が五年ぶりに前年割れし たというニュースがありました。
現在のヤマトをど う評価しますか。
大和・一柳 今は辛いでしょうね。
宅配のネット ワークにメールの仕組みを乗っけようとしている。
本来であればストラクチャーがまったく違うはず なのに、一部相乗りしているわけですから上手く いきにくい。
その歪みが、現場に出ているように 見える。
修正も半年や一年ではできそうにない。
数 十年かけて作りあげたネットワークを作り直すの ですから、そう簡単ではないと考えるのが普通で す。
もっとも業績的には、増益基調だとは思いま すが、去年や一昨年の六〇〇億円くらいの営業利 益にまで戻すのは容易ではない。
三年から五年の スパンで見なければいけないのかなという印象で す。
――土谷さん、いかがですか。
ひとつやなぎ・はじめ 97年3月早稲 田大学理工学部土木工学科卒。
同年4 月大和総研入社、企業調査部インフラ チームに配属。
99年から物流担当に。
29 JANUARY 2004 三菱・土谷 最近、エリアセンター制にしても拠 点を新設した地域はそれなりに成果がでているけ れども、既存のエリアを分けたところは、あまり 成果が出ていないようでした。
その辺の成果が出 てくるまでは、もう少し時間がかかる気がします。
――一柳さんも、土谷さんも評価としては「B」、 ニュートラルでしたね。
どうですか、成田さん。
野村・成田 「買い」は私だけですか。
確かに費 用をかけてネットワークを細分化しているが、拠 点の分散を進めることで、増収が見えてくると、私 は考えているわけです。
――今のヤマトは五〇〇〇店に拠点数を増やそう としている。
この五〇〇〇店というのは、誰が考 えても対郵政公社戦略です。
郵政の五〇〇〇店に 対抗するために、新しいモデルを描き、そこに投 資している。
ところが、十一月のように売り上げ が下がってしまうと今、ヤマトがやっている投資 は本当に有効なのかという疑問が出てくる。
その 点、成田さんは、今の投資を間違った判断ではな いとみているわけですね? 野村・成田 そうですね。
将来的にどこが勝ち組 になるのかといえば、確かに短期的には費用増か もしれないけれど、長期的にみたら、ここしかな いというコンセンサスはあると思います。
――一柳さん、どうですか? 大和・一柳 難しいところですね。
郵政を相手に 勝負を仕掛けるのであれば、あれしかない。
郵政 の土俵に上がるのであれば、今の投資は必要だと 思います。
ただ、そうではないやり方も本当はあ ったのではないか。
同じような成果を上げている 会社として佐川急便がありますが、あそこは拠点 の分散ではなく、マンパワーで対応しています。
あ るいは地場の軽トラを集約化していっても、同じ ような効果を得られると思う。
――最近の郵政の動きを見ていると、コンビニを どんどん取り込んでいる。
ヤマトにとってコンビニ を潰されてしまうと、さすがに単価が下がる。
今 の単価は到底維持できない。
ヤマトは固定費の高 いモデルですから、いったん潮目が変わると大変 なことになるのでは。
野村・成田 結局、売り上げだろうと思います。
増収が続けられれば、大丈夫でしょう。
いまイン フラに積極的な投資ができるのは手元現金で一〇 〇〇億円持っているヤマトだけです。
ヤマトが売 り上げを伸ばす手段としては、宅配の寡占化を進 めることだと思います。
――しかし売り上げが伸びなければ、大きな赤字 が避けられなくなる。
ここはもう結果で見るしか ない。
しかしヤマトとしてはリスクがあっても現状 を放置できない。
このまま何もしなければ単価は 下がり続けるということですかね。
土谷さん、い かがですか? 三菱・土谷 ヤマト運輸の置かれた環境を考える と、単価が大幅に上がる環境だとは思えませんし、 過去のように市場が急成長している環境でもない とみています。
そんな中、何らかの需要拡大策が 必要なんだと思いますので、ヤマト運輸の事業構 造改革はサービスレベル向上という意味ではポジ ティブに考えていますが、いつその成果が出てく るのか、悩ましいところですね。
――宅配マーケットは、九〇年代の中頃から頭打 ちとも言われながら、実際には伸び続けています。
これが本当に頭打ちなのかというのも一つありま すね。
野村・成田 ヤマトの今後のターゲットは、B to C、B to Bの部分だろうと思います。
ヤマトは今、 組織改革でセグメントを分けて、ビジネス向けを 伸ばそうとしている。
そこでは宅急便を使わず、傭 車を使ってでもやりますと言っている。
社員の意 識としても宅配便だけの会社ではないという動機 付けをしている。
そういう部分の売り上げは、や はり伸びるという気はしています。
大和・一柳 宅配という定義そのものが今、難し くなっていますよね。
貨物のダウンサイジングが 言われて久しいわけですが、これはまだまだ続く。
特積みというマーケットで動いている貨物のうち、 宅配に移っていない部分もまだかなりある。
現状 では概算で、凄くラフな数字しか出てきませんが、 それでも宅配業者が扱う荷物はまだ増えてもいい。
ダウンサイジングの結果としてね。
負け組の宅配撤退は?買い〞材料 ――日通、西濃、福通など、宅配の二番手クラス 以下はどうでしょう。
大和・一柳 事業としてブレークイーブンを超え ていませんからね。
特 集 つちや・やすひと97年3月神戸大学 大学院卒。
98年4月和光証券入社。
そ の後いちよし証券を経て、2001年3月 国際証券(現三菱証券)入社。
現在に 至る。
JANUARY 2004 30 ――もし撤退したら、そこはアナリストとして評価 しますか? 大和・一柳 そこは評価すべきだと思います。
勝 ち目のない分野に経営資源を突っ込むのを止める というのは、評価すべきことです。
――土谷さん、どうですか。
三菱・土谷 宅配も決済サービスなどを始め、新 しい機能が今後も出てくる。
二番手以下がそのた めの投資をすれば、それだけ業績の足を引っ張る 可能性もあるのではないかと思います。
主力事業 との相乗効果が持てるような体制にするなどの見 直しも必要なんじゃないかと思います。
野村・成田 ただ実際問題として、二番手クラス 以下はすでに宅配事業には力を入れていないよう に見える。
――「宅配が少なくなったから利益が上がった」、 なんて言っているところもあるくらいですからね (笑)。
唯一、福山通運ががんばっているけれど、や りすぎると利益が出なくなる。
日通はどうでしょ うか? ペリカン・アローというのは無視できる ほど軽くない事業なのでは? 野村・成田 そうですね。
今は採算重視で縮小し ながら単価を維持していこうとしているわけです から、いいのではないでしょうか。
他で伸ばせれ ばということでしょう。
定温物流は儲かるか ――次に定温物流です。
バブル崩壊以降の数少な い優良マーケットですが、今後はどうでしょう。
三菱・土谷 私は今、定温物流の足元の環境はそ れほど良いとは思っていません。
二〇〇三年は冷 夏もあって業績が芳しくなかったと思いますが、そ れを除いても、足元の景況感の改善が業績改善に 繋がりにくい印象です。
定温物流の場合は三温度 帯輸送のノウハウや大型設備投資が必要なので、 比較的参入障壁が高いのは事実だと思います。
た だ、その一方で、定温物流に参入してくる物流会 社が最近では少なくない。
食品分野は卸業者の数 が多いので、競争が激しく、なかなか運賃改善が 難しい業界でもあるんじゃないんでしょうか。
野村・成田 結局、定温物流は大手にシェアが集 まっているから、売り上げが伸びているんですね。
確かに最近はいろいろな会社が定温に手を出して いますが、同じ定温でも大手は一つ上を行ってい る気がします。
ただし、従来は付加価値があるか ら単価が高いといっていたのに、参入企業の増加 で単価が下落しているのは事実です。
三菱・土谷 確かに大手は競争力もあるのでしょ うが、物流を含めた食品業界全体でみると、店頭 に並ぶ食品の単価は下がっている。
単価が下落傾 向にある単純輸送や保管業務だけでなく、付加価 値を付けたサービスが必要なんでしょうね。
――定温物流の担い手というのは、大部分がメー カー系です。
規模もそれほど大きなところはない。
野村・成田 その意味ではNTR(日本低温流通) と名糖運輸の提携が注目される。
まさに良い流れ です。
ただし物流業界の常として、あまり提携が 上手くいかないというのがある。
上手くいけばア ライアンスの良いやり方というのも出てくるので はないでしょうか。
そういった意味でも何とか成 功して欲しいと期待を込めて見ています。
航空・海運・倉庫の市場 ――航空貨物はどうでしょう。
土谷さん。
三菱・土谷 航空貨物は、単価は下がっているの に、仕入れの運賃が上がっているため、環境は厳 しくなっています。
輸出量は伸びてきているので すが、利益確保という意味ではかなり厳しい。
各 社ともにシェアアップを図ったために、上期の単 価はやや下落したと聞いています。
――昨年、近鉄エクスプレスは郵船航空サービス に利益率でだいぶ水をあけられましたからね。
三菱・土谷 郵船航空サービスは自動車関連に強 いことから、昨年は港湾ストの影響で一時的にシ ェアが上がった。
もっとも航空貨物は売値が全体 的に下がるなかで、SARSがあり、飛行機も減 便されて燃料代は上がった。
それだけ環境が良く なかったにもかかわらず、郵船航空サービスと近 鉄エクスプレスの二社は増益を確保している。
こ の二社は、相当の合理化を進めてきている。
その 効果が下期から来期にかけて出てくる。
利益を底 上げすると見ています。
――専業ではありませんが実質的に最大手の日通 は? 三菱・土谷 上期の日通はやや苦戦した印象があ ります。
昨年の北米向け大型輸送などがなくなっ なりた・やすひろ 98年3月一橋大学 卒。
同年4月野村證券入社。
2000年 から野村證券金融研究所で運輸(物流) セクターを担当。
31 JANUARY 2004 たことや、単価下落、仕入れ運賃上昇の影響を受 けたんだと思います。
――海運については一柳さんにお願いします。
大和・一柳 上期に関しては市況の一言です。
基 本的には、欧米の消費が依然として強いなかで荷 動きが堅調。
供給に関しては、造船所との絡みで、 数年先まで概ねスケジュールが見えています。
あ とは伸び率に対する参加者のマインドで運賃が上 下しています。
今の状況を言えば、運賃が思い切 り上がっているという状態で、各社ともその市況 をエンジョイしているということです。
ただし、こ れをエンジョイできるようになったのは、過去の 合理化努力の成果です。
二〇年近くかけてボーダ レス競争にさらされるなかで合理化を進めて、や っと競争で勝てるような状態になったということ です。
――この傾向はしばらく維持できるのですか? 大和・一柳 海運市況は凄くサイクルが短いんで す。
ほんの数カ月で運賃が数分の一に下がってし まうこともある。
市況を当てるのは現実には無理 です。
船の償却年数は十三〜一五年。
しかし実際 には三〇年〜四〇年使用できますから、その間に 取り返せればいいという考え方です。
――各社による違いはないのですか? 大和・一柳 積み荷の違い程度ですね。
――結局、サービスに差別化がないので、三年後 には大きな反動が出るのではないかとも言われて いますね。
また横並びという意味では倉庫にもそ うした傾向があります。
アナリストは倉庫業をど ういう視点で評価するのですか。
大和・一柳 やはり不動産ですね。
世間的には物 流業でも、実際の事業構造としては不動産業者が、 物流にもタッチしているという形です。
その不動 産の方の利益が、物流業の水準と比較すれば高い ため危機感が足りない。
そのため変革が進んでい ない。
野村・成田 不動産という収益源がある限り、今 後も動きはないでしょう。
本当は、やればできる はずだと思います。
二〇〇四年の注目銘柄は ――少し時間も押してきましたので、最後に二〇 〇四年は何に注目していくのかというのを一言ず つお願いします。
三菱・土谷 私はエアカーゴ二社に注目していま す。
あとは、運賃水準の是正への期待も込めて日 通に注目していきたい。
業績の予測という意味で は、あまり伸びていないんですが、そろそろ動い て欲しい。
――一柳さん、どうですか。
大和・一柳 一つはヤマトの取り組み。
もう一つ は船会社の船舶投資。
あとはトラック全般の人件 費をもう一回、抑えにいきたい。
――成田さんは? 野村・成田 ヤマト運輸ですね。
売り上げが伸び るのか。
あと上組の取り組みも面白い。
――今日はありがとうございました。
特 集

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