ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年12号
現場改善
第107回 燃料メーカーH社の輸送品質改善

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2011  66 おんぼろ車両に横乗り調査  �
伴劼篭甬γ亙�瞭麌椹邑�飽譟札�蠅留超� 所を展開する業務用燃料メーカーである。
売上 高は約五〇億円。
原料となる重油を元売り会社 を通して産油国から輸入し、大阪府郊外の自社 精製工場で約二五〇アイテムに加工して販売し ている。
 製品の約九割は精製工場からエンドユーザー に直接納品している。
残りは営業所を経由して、 営業担当者が得意先に納品する。
荷姿はドラム 缶、ボトル、梱包ケースなど様々で、得意先の 顔触れも大手メーカーから商店レベルまで多岐 にわたっている。
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伴劼琶��甘�嫻ぜ圓鯡海瓩襭蘇�垢呂覆� らく、直送分の配送を委託している協力運送会 社による納品ミス、商品・車両事故に頭を悩ま せていた。
A部長と配下のS課長の二人が中心 となって改善を促してきたが、トラブル件数は 一向に減る気配がなかった。
そこで外部の専門 家から指導を受けようということになり、当社 日本ロジファクトリー(NLF)に業務改善の 依頼が入った。
 事前打ち合わせのためA部長、S課長と面談 し、まずはH社の要望を確認した。
二人の説明 によると、ミスの多くは、伝票の回収忘れと納 品数量の間違いであり、また商品事故や車両事 故も少なくないため、得意先に大きな迷惑をか け、クレームを発生させているとのことであっ た。
その処理費用や未収金の発生などが、H社 にとって大きな負担になっていた。
 最初の面談から約一カ月後、我々NLFのス タッフが現地調査に入った。
H社は協力会社三 社・計二五台の車両を配送に使っている。
使用 車両の内訳はタンクローリー車二台、四トン車七 台、三トン車六台、二トン車一〇台である。
こ のうち五台を選び、いわゆる?横乗り調査?を 実施した。
配送車両の助手席に乗り込んで、積 み込みから輸配送、荷降ろし、納品、回収まで のドライバーの一連の業務をチェックしたので ある。
 この横乗り調査が三日目を迎えた頃には、ト ラブルの主たる原因がつかめてきた。
原因の一 つは高齢化だ。
ドライバーの大半は五〇代以上 で、文字の細かな伝票や暗い中での伝票チェッ クが負担になっていた。
加えて、大手企業に納 品する場合などには、H社の納品伝票のほかに 大手得意先向けの「指定伝票」も処理しなけれ 事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表  協力運送会社による納品、ハンドリングのミス、車両事故 等のトラブルが多く、一向に好転する気配がない。
業を煮や した荷主が社外のコンサルタントの手を借り、改善に本腰を 入れることに。
ドライバーの業務実態を調べたところ、予想 以上に事態は深刻だった。
燃料メーカーH社の輸送品質改善 第107 回 67  DECEMBER 2011 ばならず、作業が繁雑であった。
 荷物の積み込み時の数量検品も杜撰であった。
出勤時間が遅く、出発ギリギリまで積み込みを 行っているドライバーもいて、検品を徹底する どころかノーチェックが横行していた。
納品先 でも、検査場や資材庫に常駐のスタッフがいる 場合には立会い検品が行われるが、それ以外の ところではドライバーが自分で格納庫に搬入し、 事務所で受領サインをもらうといったやり方だ った。
納品ミスが発生するのも当然だった。
 しかも、タンクローリー車以外の納品は、フ ォークリフトでのパレット降ろしか手降ろしで、 高齢ドライバーには作業負担が大きく、また重 量物のためにハンドリングミスによる製品の落 下、破損をしばしば発生させていた。
油類の 破損は、その清掃と処理に大変な手間がかかる。
ミスをしたドライバー自身が現場で処理をして、 納品先に謝罪し、その場で丸く収めているケー スもあったが、大きな事故になると、H社に直 接クレームが来た。
 しかし、クレーム窓口となるS課長は、A部 長に全てを報告しているわけではなかった。
協 力運送会社のドライバーに対する温情もあった のかも知れないが、そのことが輸送品質の改善 にはブレーキとなっていた。
 車両の傷みも酷かった。
燃料を取り扱ってい るため車両は常にオイルで汚れている状態であ った。
洗車は行っているものの、普通のやり方 ではなかなか汚れが落ちない、むしろ染み付い ていく始末であった。
新型車を投入してもすぐ に汚れてしまうことから、協力運送会社は古 くなった車両をH社の業務に回す傾向があった。
老朽化した車両が多く、ライト切れやパンクが 月平均三~五件起きていた。
ブレーキの利きも 悪く、横乗り調査で助手席に乗っていた筆者は 何度も冷や汗をかかされることになった。
 協力運送会社はいずれもH社とは長い付き合 いで、業務運用上のルールや報告などは曖昧に なっていた。
協力会社三社のうち運行日報をH 社に提出していたのは一社だけ。
他の二社は日 報を自社に持ち帰っていた。
その内容を調べて みたところ、記述はいい加減で空欄も多かった。
高齢者に配慮して伝票レイアウトを修正  これらの調査結果をA部長とS課長に報告し た。
その内容に二人は驚きを隠せなかった。
そ こまでドライバーの業務が不安定かつルーズで あるとは信じがたいといった表情であった。
通 常の輸配送管理では出発時の状況しか見ること ができないため、実態を掴めていなかったので ある。
DECEMBER 2011  68  後日、我々は次の項目を改善策としてH社に 提示した。
いずれも基本的な取り組みであるが、 その徹底が必要と判断した。
?H社納品伝票の改善 ?運行日報提出の義務化 ?「輸送品質向上ミーティング」の定期開催 ?社別・担当者別ミス・事故グラフの張り出し ?指差し検品(数量)の徹底  このうち「?H社納品伝票の改善」は、伝票 のレイアウトを高齢者にも見やすくすることで、 ドライバーの読み間違いを減らすことが目的で ある。
得意先の指定伝票をH社で勝手に変更す ることはできないが、H社が発行している納品 伝票であれば、すぐにも修正できる。
 具体的には、紙のサイズは変更せずに、文字 を一回り大きくし、行数も十二行から七行に減 らした。
そして工場内のピッキングリストと同 様に、数量検品の行毎のチェック欄と当事者の 署名欄を設けた。
 「?運行日報提出の義務化」に関しては、協 力運送会社に改めてルールを伝えると同時に、 H社側でも協力会社から提出された日報の管理 を、物流管理部門の日常業務のなかに明確に位 置付けた。
 車両管理に対する重要性を促す狙いから日報 には、各車両の出発前点検の「未」、「済」を必 ず入れてもらうことにした。
そして納品後の車 両はH社に戻らず、協力会社各社の車庫へ直接 戻ることとなっているため、各社の事務所から H社へファックスするという流れを採った。
 これをH社側ではS課長がチェックして、各 車両の運行距離、納品件数、残業時間を把握す る。
そのためにS課長の業務の一部をパート社 員に振り替えて、人員を増やすことなく、物流 管理項目に運行管理を追加した。
 「?輸送品質向上ミーティング」は、それま での?丸投げ?を改め、月一回、毎月第三土曜 日の午後に、荷主と協力運送会社三社の責任者 が同じテーブルを囲んで、改善を進めていこう とするものだ。
S課長が司会役を務め、当面は A部長も同席し、主に以下の議題について討議 する。
●前月のミス、事故件数、状況の報告 ●それに対する改善点、注意点の指示 ●納品先からの意見・要望・評価の伝達  (ドライバー→H社、H社→ドライバー) ●今月の予定、注意事項 荷主の覚悟が協力会社を動かす  「?社別・担当者別ミス・事故グラフ」は精 製工場の出荷スペースに隣接して現場事務所前 に大きく張り出すことにした。
当初はドライバ ーの個人名まで張り出すのはやり過ぎではない かという意見も出た。
しかし、トラブルが頻発 している現状ではやむを得ない手段であり、開 示に耐えられない会社もしくはドライバーには 退場してもらうしかないと覚悟を決めた。
 「?指差し検品(数量)の徹底」は、数量検 品のやり方として?指差し?という具体的な動 作を指定するところがポイントだ。
当初は「オ マエの数を読む声が大きすぎてオレが数えられ ない!」と他のドライバーから怒られている者も いた。
大半が高齢者ということもあって、新し いやり方に慣れるには少々時間を要したが、そ れでもドライバーは総じて協力的で、徐々に定 着していった。
 開始から三カ月間の取り組みで、思うように 数値が好転しない場合は、協力運送会社三社の うち、最も成績の悪かった一社との契約を見直 す方針であった。
これに対しては協力会社以上 に、H社のオーナーが心配していた。
?こんな ご時世(不況)にウチの仕事が無くなれば、そ の会社は潰れてしまう?と周囲に漏らしていた という。
 しかし、オーナーの心配は杞憂に終わった。
取 り組み前には毎月一〇件以上あったトラブルが 三カ月後には月一件程度に大きく改善された。
そ の報告を受けたオーナーは、?次は全社の物流コ スト削減がテーマだ?と、物流管理担当の二人 そして我々NLFに通告したのであった。
あおき・しょういち  1964年生まれ。
京都産業大学 経済学部卒業。
大手運送業者の セールスドライバーを経て、89年 に船井総合研究所入社。
物流開 発チーム・トラックチームチーフ を務める。
96年、独立。
日本ロ ジファクトリーを設立し代表に就 任。
現在に至る。
主な著書に『経 営のテコ入れは物流改善から』明 日香出版社、『物流のしくみ』(同 文館出版)などがある。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp PROFILE

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