*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
DECEMBER 2011 72
製・配・販の大手四三社が連携
食品や日用雑貨品といった最寄品業界において、
サプライチェーンの全体最適を目指す取組みが始動
し、その動向が注目を集めている。 二〇一一年五月
一九日、経済産業省が旗振り役となり、四〇社が
参加する形で発足した製配販連携協議会である(一
一年一〇月三一日現在の参加企業数は四三社)。 も
ともと一〇年五月に一五社で始めたものが拡大して
実を結んだもので、その顔ぶれは図1に見るように、
わが国を代表する錚々たるものである。 会の運営は、
(財)流通システム開発センター、(財)流通経済研
究所が担当している(発足当初の事務局は経産省に
あったが、その後会が拡大するにつれ、その機能が
両団体に移管された経緯がある)。 なお同取組みに
ついては本誌七月号に詳細が掲載されているので参
照されたい。
このような業界をあげての取組みは、今回が初め
てではない。 なかでも一九九七年に約五〇社が参加
して行われた「ECRニッポン」プロジェクトは、大
きな期待を集めたものであった。 著名なコンサルティ
ング会社ボストンコンサルティンググループが主導し
返品問題の抜本的解決には
三分の一ルールの是正に加え
所有権移転時期の整理が必要
食品・日用雑貨品分野の製造業、卸売業、小売業をそれ
ぞれ代表する企業四三社が参加する製配販連携協議会が取
引制度改革に取り組んでいる。 そこでは返品問題の根源の
一つにもなっている「三分の一ルール」の見直しもテーマの
一つに挙がっている。 しかし、それだけでは不十分だ。 商
品の所有権の移転時期にまで踏み込んだ改革を実行しない
限り、返品問題の抜本的解決には至らない。
第 9 回
たものである。 九三年に米国で誕生したECR(効
率的な消費者対応)は、その後世界各国で取り組ま
れるようになったが、その日本版として鳴り物入り
で開始されたプロジェクトであった。 しかし、大手
小売業の関与度が低かったこと、総論賛成・各論反
対の企業が多く具体的かつ強制力のある施策まで話
を落とし込めなかったこと、参加費が高く参加企業
に無理を強いたことなどが原因で、わずか二年で立
ち消えになってしまった。
翻って今回の取組みはどうだろうか。 経産省が主
導し、また大手小売業が積極的に関与するなど、か
つての取組みとは真剣さの点で違う。 返品削減ワ
ーキンググループ(以下、WG)、配送最適化WG、
デジタルインフラ検討WG(発足当初は流通BMS
導入推進WG)の三つのWGが並行して走っている
が、返品削減WGの長をイトーヨーカ堂が務めるな
ど、小売業自らがこうした問題の解決を積極的に考
えている点は高く評価できる。 しかし、今回の取組
みを成功に導くには、解決すべき様々な根源的問題
があることを忘れてはならない。 今回はWGのテー
マの一つでもある返品問題について考えてみること
にしよう。
一般に、メーカーが製造した製品は、卸売業を介
して小売業へと届けられる。 今、返品問題が顕著な
問題となっている小売業を例にとると、小売業が商
品を保管する場所は、?物流センター、?店頭、の
二カ所になる。 物流センターは、その多くが小売業
専用センターと呼ばれるもので、イオン専用センタ
ー、イトーヨーカ堂専用センターのように、特定の
小売業しか利用できないセンターである。 流通経済
研究所が実施したアンケート結果(ロジスティクス&
チャネル戦略研究会、二〇〇七年)によると、加工
食品分野では小売業の九〇%、酒類では七七%、日
用雑貨品では八八%が専用センターを設置している
(N=六八)。 いまや多くの小売業が専用センターを
設置する時代である。
専用センターは、?DC(在庫型)、?TC(通
過型)の二タイプに分類できる。 大手小売業やコン
ビニエンスストア等はDC型であることが多い。 そし
てそこでの所有権は、メーカーや卸売業にあること
が殆どである。 これを「預かり在庫」または「預託
在庫」と呼ぶ。 小売業専用センターとは言いながら、
その所有権はまだ小売業に移転されておらず、店舗
から発注があった時点、すなわち専用センターから
物流行政を斬る
産業能率大学 経営学部 准教授
(財)流通経済研究所 客員研究員
寺嶋正尚
73 DECEMBER 2011
店舗に出荷された時点で、所有権が小売業に移ると
いう仕組みである。 つまり店頭の棚在庫が減り、売
れることが確実になった時点で、小売業は初めて商
品の所有権を担うことになる。 小売業にしてみれば、
リスクヘッジを十分に効かすことのできるビジネスモ
デルと言える。
この仕組みを実現する上で効果的に機能している
のが、食品業界における慣習、三分の一ルールであ
る。 例えば製造してから賞味期限までを一年だとす
ると、メーカーや卸売業から小売業への納入は、製
造してから三分の一に当たる四カ月以内に行われな
ければならない。 それを過ぎると、小売業は買い取
ってくれない。 小売業専用センターに保管している
商品は、その時点でメーカーあるいは卸売業へ返品
されるというわけである。
このような仕組みを前提としているので、小売り
から卸あるいはメーカーへの返品が常態化している。
専用センターから返品がいくら行われたとしても、
小売業の懐は全く痛まないからだ。
所有権移転を前倒しに
今、連携協議会では、三分の一ルールには合理
的な根拠はないとするコンセンサスが得られ、これ
に代わる新たな基準作りが行われている。 この流
れを主導しているのが小売り最大手の一角、イト
ーヨーカ堂であることは大変頼もしい。 カテゴリー
毎・流通各層毎に望ましい基準値を話し合うこと
は、大変意義深いものと評価できるだろう。
しかし実際問題として、ここでの話し合いが行
われた後、どれだけの小売業が現在の条件を緩和す
る動きを見せるだろうか。 確かに返品・廃棄問題
は環境問題等の視点からも重要な問題であり、小
売業はCSR(企業の社会的責任)を果たす一つ
の施策として実施するかも知れない。 しかし企業
はそもそも営利団体である。 こうした自発的な行
動を期待するばかりでは、問題の根本的解決を図
ることはできないだろう。
小売業に取引条件の緩和を促すには、それなり
のインセンティブが不可欠である。 端的に言えば、
納価引下げの提示が必要になると推測される。 賞
味期限ぎりぎりの商品は、安い金額で納める必要
があるというわけである。 これを実現すれば、賞
味期限ぎりぎりの商品であっても小売業は購入して
くれるわけで、その意味では返品・廃棄量は減少
するだろう。 しかし納価が引き下げられれば、違
った意味でメーカー及び卸売業の収益の圧迫要因に
なるだけで、リスクがメーカー及び卸売業にあり続
注 筆者は(財)流通経済研究所で客員研究員を務めているが、
本原稿は、同連携協議会の事務局としての意見ではなく、あく
までも個人的見解である。
ける構図は変わらない。
このように考えてみると、返品の削減の為には、
三分の一ルールの緩和からもう一歩踏み込んだ議論
が不可欠であると言える。 現行の仕組みを前提にし
た上での議論には限界がある。 条件が緩和されたと
しても、その時点を越えれば小売業が仕入れてくれ
ないのであれば、根本的な解決にはならない。
根本的な解決の為には、所有権の移転時期を専用
センター出荷時点から、専用センター着荷時点へと
投機(前倒し)する必要がある。 センター在庫の所
有権が小売業にあれば、当然小売業は仕入れた商品
の消化に自ら努めることになる。 売切り値引き等を
積極的に行うことで、ロスを最小限にしようと試み
るだろう。
所有権の移転時期を投機するには、メーカー及び
卸売業の取引制度を改定する必要がある。 当然難
しさも伴うが、そこまで踏み込んだ議論がなされな
ければ、返品は一向に減らない可能性が高いだろう。
そしてそれを支える行政の働きにも期待したいとこ
ろである。 同点については、二つ目のWG、配送最
適化WGの問題と直結してくるため、稿を改め次回
にその詳細を記すことにしたい。
てらしま・まさなお 富士総合研究所、
流通経済研究所を経て現職。 日本物
流学会理事。 客員を務める流通経済研
究所では、最寄品メーカー及び物流業
者向けの研究会「ロジスティクス&チャ
ネル戦略研究会」を主宰。 著書に『事
例で学ぶ物流戦略(白桃書房)』など。
図1 「製配販連携協議会」加盟企業一覧
製:メーカー配:卸売業
アサヒビール
味の素
花王
キユーピー
キリンビール
サントリー食品
インターナショナル
資生堂
日清食品
日本コカ・コーラ
P&Gジャパン
ユニリーバ・ジャパン・
ホールディングス
ライオン
あらた
伊藤忠食品
加藤産業
国分
日本アクセス
Paltac
三井食品
三菱食品
アークス
イオンリテール
イズミ
イズミヤ
イトーヨーカ堂
ココカラファイン
コメリ
サークルKサンクス
CFSコーポレーション
スギホールディングス
セブン-イレブン・ジャパン
ダイエー
DCMホールディングス
ファミリーマート
フジ
平和堂
マツモトキヨシホールディングス
マルエツ
ミニストップ
ヤオコー
ユニー
ライフコーポレーション
ローソン
販:小売業
|