ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2012年4号
ケース
ノキア 欧米SCM会議?

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2012  48 間接材購買に年間四二億ユーロを支出  当社ノキアはスウェーデンを代表する通信 機器メーカーです。
現在、世界各国で一〇億 人以上が当社の携帯電話を使用しています。
携帯電話メーカーとして世界トップの座にあ ります。
しかし、業界の競争は激しくなる一 方で、当社としてもこれまで以上にコスト削 減や効率化を進めていかなければ生き抜いて いくことはできません。
 私自身は一〇年以上前に当社に入社して以 来、一貫して様々な調達業務に携わってきま した。
IT部門からマーケティング部門まで 社内の主要部門を渡り歩き、地域別のプロジ ェクトと本社プロジェクトの両方で経験を積 んできました。
これに伴い勤務地もアメリカ、 イギリス、フィンランド、シンガポールと移 り変わり、現在は本社のあるスウェーデンの エスポーで働いています。
 ノキアの調達業務は大きく二つに分類され ます。
一つは「直接調達(direct sourcing)」 であり、もう一つは「間接材の調達(indirect sourcing)」です。
直接調達というのは、当 社の主力商品である携帯電話を作るのに必要 な部材や半導体、ソフトウエアといった原材 料の調達を指します。
企業の生命線となるS CMの部分です。
 それに対して間接材の調達というのは、事 務用品から販促品、各種のレンタル商品、人 材派遣のスタッフ、建物や法律事務所への業 務委託など、日常の業務を遂行する上で必要 となる様々な物品やサービスを対象としていま す。
メインとなる事務用品一つとっても、一 冊のノートからパソコンやコピー機まで、価格 帯や使われ方が全く異なる商品がそこに含ま れます。
 間接材の調達というと地味なイメージを持 つ方もいると思います。
しかし、当社は現時 点で、間接材の購入に年間に約四二億ユーロ (四五三六億円)を支出しています。
これは当 社の売上高全体の一〇%強に相当します。
従 って、間接材の調達戦略は経営のボトムライ ン(最終損益)に大きな影響を与えることに なるのです。
 年間の間接材の調達金額を部門別にみると、 一番大きいのはマーケティング部門です。
次 が社内で「MTE&ケア」と呼んでいる部門 で、製造および製品テスト用の設備・ソフト ウエア・ハードウエアのメンテナンスを受け持 っています。
その後はIT部門、プロフェッ ショナル・サービス部門、施設、旅行──と 続きます(図1)。
 月間の調達注文件数は約一万三〇〇〇件 で、仕入先の数は一万四〇〇〇社に上ります。
これが携帯電話の部材となる直接材の調達で あれば、仕入先を世界的に数百社の優秀なサ プライヤーに絞り込んで、そこから大量の部 材を購入することで料金交渉につなげること もできるのですが、間接材はその性質から地 域ごとの取引が必要となるため、現在も数多  ノキアの間接材購入費は売上高の1割以上に相 当する。
その調達を効率化するため専門部隊を組 織して10年がかりで改革を進めてきた。
リーマン ショックを機に取り組みには拍車がかかっている。
2013年までに年間10億ユーロのコスト削減効果を 達成する計画だ。
同社で間接材の調達を担当する マリア・アーテラ氏が取り組みを説明する。
欧米SCM会議? ノキア 間接材調達部門を組織して効率化推進 年間10億ユーロのコスト削減を目指す 49  APRIL 2012 くのサプライヤーとの取引を行っているので す。
 直接材の調達と比べて、間接材の調達業務 の一番やっかいなところは、それまで事務所 ごと、部署ごとに、ばらばらに発注を行って きたために、業務全体を統一することが難し い点にあります。
直接材であれば、調達の権 限を持つのは、工場責任者やマーケティング 部門の責任者などに限られてきます。
しかし、 ノートや筆記用具の購入は、多くの従業員が 日常的に行っています。
 そこで当社は二〇〇一年に間接材の調達を 効率化するためのプロジェクトを立ち上げま した(図2)。
当初は一四〇人体制で専門部 隊を組織し、間接材の購入に関して一定のル ールを作り、従業員の調達業務を代行するこ とを狙いました。
 しかし、当時はノウハウも権限もほとんど なく、本社のあるスウェーデンや、ヨーロッ パの一部の国の調達業務に関与するのが精一 杯でした。
はっきりとした業務の評価基準も 定まっていませんでしたし、我々が代行する 注文書の件数の割合も低い水準にとどまって いました。
 当社の間接材の調達に大きな変化が起きた のは〇五年のことでした。
当時の経営陣の決 断によって、間接材の調達部門にそれまで以 上の人員と予算が与えられ、それと同時に大 きな権限が付与されました。
 人員は発足当時の二倍に当たる三〇〇人と なりました。
間接材の調達の仕組みを変える のに、一年半の期間をかけ、一〇〇〇万ユー ロの資本を投資しました。
その見返りとして、 一年目に一億ユーロの経費を削減し、二年目 にもさらに一億ユーロを削減することができ ました。
 最も大きな部分を占めていたマーケティング 部門の間接材の調達を、本社で一本化したこ とが大きな効果をもたらしました。
当時、マ ーケティング部門は四つに分かれており、それ ぞれが非常に強い権限を持っていました。
そ れを考えると、経営陣の決断なしにはこのプ ロジェクトを進めることはできなかったと言 えるでしょう。
 またコスト削減に成功した一因として、電 子調達システムの「アリバ・バイヤー(Ariba Buyer)」というソフトを全社的に導入した ことが挙げられます。
現在は六〇カ国以上で、 このシステムを使っています。
 当時、私はシンガポールで、アジア太平洋 地域における間接材の調達の一本化に関わっ ていました。
ちなみに当社は現在、約二〇カ 国に間接材を受け取るセンターを置いていま すが、発注センターは、ハンガリーとインド、 中国の三カ所に集約しています。
経営環境の悪化が取り組みに拍車  プロジェクトが一定の成果を上げたことか ら、その後も間接材の調達部門の人員は増強 されていきました。
ところが、〇八年後半に リーマンショックに直面して以降、状況は大 きく変わります。
〇八年度の決算で当社の売 上高は、それまでの五〇〇億ユーロ台から四 図1 間接材の部門別の発注割合 年間 42 億 ユーロ プロフェッショナル サービス 15% ファシリティ 4% 旅行 3% IT 22% MET&ケア 23% マーケティング 33% 図2 間接材プロジェクトの発展の道のり 2001 年 ● 140 人体制 ● スウェーデン・欧州中心の活動 ● KPIなどの欠如 ● 注文書の低いカバレッジ ● 300 人体制 ● マーケティング部門の間接材調達に着手  18カ月で1000 万ユーロを投資 ● 電子調達システムのAriba Buyerを導入 2009 年 ● 450 人から380 人体制へ ● 注文書のカバレッジが80%に上昇 ● リーマンショック後に人員は15%削減し、  合計で5 億ユーロのコスト削減 2011 年 《プロジェクト開始》 《本格的に稼働》 《発展段階》 《新しい戦略のスタート》 2005 年 APRIL 2012  50 〇〇億ユーロ台へ、ほぼ五分の四に落ち込み ました。
売上高だけではなく、利益率も悪化 しました。
 経営環境が厳しくなったことを受け、この 年、我々の部門は四五〇人から三八〇人に人 員を減らされました。
そして経営トップはそ れまで以上に厳しいコスト削減の数値目標を 我々に課しました。
我々は〇八年に年間五億 ユーロのコスト削減を達成しましたが、〇九 年以降はさらに少ない人員で、より多くの成 果を上げることが求められました。
 間接材の調達部門のトップはミッコー・キ ビスト副社長で、業務内容の報告はCFO (最高財務責任者)に対して行われます。
こ の副社長の指示の下、〇八年から〇九年にか けて計一二〇〇件のコスト削減案が提案され ました。
そのうち八二〇件の提案を最優先事 項と位置付けて取り組み、経営陣から求めら れた数値目標を達成しました。
調達業務の約九〇%を集約  一〇年秋、当社はマイクロソフトから新し いCEO(最高経営責任者)のテファン・エ ロップ氏を迎え、経営のテコ入れを図ること になりました。
エロップCEOは、北米でソ フトウエア会社や通信機器メーカーのCEO を務めた後、マイクロソフトで「マイクロソフ ト・オフィス」などを扱うビジネス部門のト ップを務めてきた人物です。
 当社は携帯電話機全体のシェアでは依然ト 期・下期に再び削減額が大きくなっているの は、経営環境の悪化を受けてコスト削減に拍 車がかかった結果です。
 また、この図にあるROI(投下資本利益 率)はあくまで全社的な経営指標ではありま すが、リーマンショック以降に当社のROI が上昇しているということは、間接材の調達 部門も含めて当社の経営効率が上がったこと を表しています。
ップの地位を維持していますが、高付加価値 商品であるスマートフォンの分野では出遅れ てしまった感があります。
この部門を強化し て同業他社からシェアを奪い取ることが、新 CEOの戦略の一つです。
 エロップC E Oはマイクロソフトと組み、 新しいタイプのスマートフォンを作ることで、 ノキアの携帯電話の利用者を現在の十二億人 から二〇億人台に乗せることを目標に据えて います。
しかし新製品が完成して市場に出 るまでにはまだ時間がかかります。
(編集部 注・ノキアがウィンドウズ搭載のスマートフォ ン「Lumia 710」を発売するのは、こ の講演より後の一一年の第4四半期に入って からのことだった)  その間、全社的に求められたのは、さらな るコスト削減です。
間接材の調達部門の場合、 一〇年をベースラインとして、一三年までに 一〇億ユーロのコスト削減を求められていま す。
しかも、コスト削減のスピードは落とし てはならず、目標より早く達成することが望 ましい、という厳しい要求です。
 そこで間接材の調達部門のそれまでの成果 と、今後の課題を改めてまとめてみました。
 図3は、間接材の調達にかかる運用コスト (間接材への支払コストを除く)とコスト削 減の数字を、〇三年から一〇年まで並べたも のです。
このうち〇六年下期のコスト削減額 が突出しているのは、営業部門の調達の代行 をするようになったからです。
また〇九年上 図3 間接材調達の効率化効果 300,000 250,000 200,000 150,000 100,000 50,000 0 18.0 16.0 14.0 12.0 10.0 8.0 6.0 4.0 2.0 0 (単位:スウェーデンクローネ) RO(I 単位:%) 03 年上期 03 年下期 04 年上期 04 年下期 05 年上期 05 年下期 06 年上期 06 年下期 07 年上期 07 年下期 08 年上期 08 年下期 09 年上期 09 年下期 10 年上期 10 年下期 5.4 3.4 6.0 6.1 コスト削減 運用コスト RO(I 投下資本利益率) 5.7 4.5 4.5 6.5 6.3 5.6 6.7 6.9 15.1 15.4 12.4 9.6 51  APRIL 2012  しかし、我々がやれること全体から見れば、 まだ氷山の一角に過ぎません。
依然やり残し ていることの方が多い、というのが、現在の 自分たちの業務に対する分析です。
 今後我々が力を入れて取り組まなくてはな らないのは、間接材の需要を合理化して、そ の発注に一定のルールを適用することです。
今までは、多くの人が、自分の好きなように、 間接材を注文してきましたが、コンピュータ ーやコピー機などの高額商品には耐用年数を 決めるなどして、一定のルールに則って発注 する態制を整えていくつもりです。
この分野 で我々が達成したのは今のところ四分の一程 度に過ぎず、課題は山積していると言えます。
 他にほとんど手つかずとなっている分野も あります。
間接材の調達プロセスの管理です。
四半期ごと、あるいは月次で、経営陣に対し て間接材の支出を報告できる仕組みづくりを 目指しています。
この報告には、決められた ルールに従っていない支出についての情報も 加えるつもりです。
 また今までは、間接材の調達において支出 を抑えることができても、そこで得られたコ ストメリットがボトムラインに反映される前に、 どこかに消えてしまうというケースが少なく ありませんでした。
支出の削減をそのまま利 益の増加に直結させるプロセスが求められて います。
そのためには、我々の部門がさらに 大きな権限を握り、当社の隅々にまで目を光 らせていく必要があります。
各地域の配送サービスも対象に  一一年一月の組織改編で、私の直接の上司 である先のキビスト副社長は、マーケティン グ部門やIT部門、MTE&ケア部門におけ る各地域の調達と配送の全責任を負うことに なりました。
加えて、調達業務におけるアウ トソーシングなどの新しい試みにも取り組む ことになりました。
 このうち私が現在担当しているのが、間接 材の調達に関するアウトソーシングと取引企 業との共同購入です。
これまで間接材の調達 は可能な限り社内の人材で行ってきましたが、 コストと業務内容のバランスを見ながら、ア ウトソーシングできるものと、社内に残す業 務の仕分けを行っているところです。
 我々はこれまで以上の柔軟性を持って業務 に取り組み、アウトソーシングすることでコス ト削減ができる分野があれば、積極的にアウ トソーシングを進めていくという考え方に立 っています。
 もう一つは、取引先を巻き込んで、間接材 の共同調達ができないか検討しています。
取 引先と発注量をまとめることで、価格交渉力 を強化し、その分をコスト削減として取り込 もうという考えです。
もっとも、アウトソー シングも共同調達も、まだ立ち上げたばかり で、どのような成果を出せるかは今後の取り 組みにかかっています。
(ジャーナリスト 横田増生)  これまでを振り返ってみて、当社が間接 材の調達で成果を上げることができた主な要 因としては、サプライヤー管理が一番大きか ったと分析しています。
我々は一般事務用 品や、コンピューター、販促製品などのカテ ゴリー別に、それぞれ調達戦略を立てました。
また、発注先をできるだけ絞ることで、価 格交渉を有利に進めることもできるようにな りました。
現在、本社で集中管理している 調達の割合は、注文書ベースで九〇%に近づ いてきました。
この分野でやるべきことの四 分の三ほどは、既に達成できたと考えていま す(図4)。
図4 これまでの成果と今後の課題 ■サプライヤーの絞り込み ■カテゴリー別の調達戦略 ■注文書の80%以上を本社で管理 ■需要の合理化 ■具体的内容の最適化 ■より強力な社内の権限 ■経営陣に対する透明性の確率 ■コスト削減を利益の向上につなげる ■より強力な社内の権限 サプライヤー 管理 有利な価格交渉 社内 vs アウトソーシング 具体的内容 サービスレベルの向上 全体的に認知された プロセス キャッシュフロー 需要管理プロセス管理

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