ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2012年4号
SOLE
情報とモノの停滞を改善する個別受注生産の「見える化」

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SOLE 日本支部フォーラムの報告 The International Society of Logistics APRIL 2012  78  二月のフォーラムでは、「個別受注 生産『見える化』のしくみ」と題する 講演を行った。
個別受注生産型の製 造業では、修正作業や補正作業、量 産現場からの修理依頼など多数の突 発作業が発生し、頻繁に生産計画が 変更され、生産が停滞する。
具体的 な工程管理を見える化して情報とモノ の停滞を改善し、そうした課題を解 決するためのシステムとその導入事例 を紹介した。
本稿で講演要旨を報告 する。
(シムトップス 伊藤昭仁シニアソリ ューションアーキテクト)  筆者が所属するシムトップスは、一 九九一年に国産生産スケジューラ専 門会社の草分けとして誕生した。
産 業機械、生産設備、試作、工機、金 型など個別受注タイプの生産工場向 けに特化し、生産スケジューラを中核 に据えた工程管理、原価管理システ ムである「DIRECTOR6」の開発に 注力してきた。
 個別受注生産は、熟練者たちによ る職人的で高度な管理技術により成 立している製造形態であり、日本人 だからこそ可能な、他ではなかなか まねのできない世界に誇れるものだ と考える。
ただ、それ故になかなか IT化が進まないのが現状である。
作業手順・工数の変更が頻発  個別受注生産とは、顧客の要求仕 様に従って、その都度製品を「設計」 して製作する生産形態である。
例え ば重工業などのプラント設備や専用 の生産設備、検査装置を生産する専 用機メーカー、量産工場の生産ライ ンや治具、金型を製作する工機部門、 試作品などを製作する生産準備部門 などを対象にしている。
 図1は、個別受注生産の各段階を 表したもので、横軸は時間軸を表す。
個別受注生産は時間軸に沿って、内 示から受注、設計完了、出図、その 後の仕様変更、設計変更と経ていく。
その最大の特徴は、仕様の変更や製 作方法の改善による見直し、製造の 不具合などにより、受注前後から出 図前後、製造途中でも作業手順や作 業工数等が頻繁に変更され、生産計 画の基準となるデータが変化していく ことにある。
 特に、製造期間が半年、一年に及 ぶ重工業のプラント設備では、研究 開発部門や設計部門において改善や コストダウンのために仕様変更・設 計変更が日々行われる。
また、工機 部門では、量産現場からの補修品が 飛び込みオーダとして入ってくること がある。
量産部門の生産を止めるわ けにはいかないため、工機部門はこ れらの特急オーダに大至急対応する 必要がある。
このような事象により、 製造現場は常に混沌とした状態に置 かれていることが多い。
 以下、個別受注製造業の工程管理 を難しくしている要因を具体的に列 記する。
●受注前後、出図等のタイミングで計 画工数、作業手順が変化していく ●修正、補正など、計画時には想定 できなかった突発作業が発生する ●製作方法の見直しや改善による仕 様変更、設計変更が発生する  上記はすべて内部要因だが、以下 の様な外部要因もある。
●客先からの仕様承認待ちなどによ り作業に待ちが発生する ●長納期品と呼ばれる、特殊材料や 海外調達品など必要なものを必要 なタイミングで入手できない。
発注 時期が読みにくく、納期確保のた め、相当前から発注を行う必要が ある 工程管理に多くの人員を投入  様々な要因によって計画に遅れが 発生した結果、納期が近づくにつれ て残業したり、特急扱いになったり、 いわゆるどたばたが発生し、品質と コストに深刻な影響を与えることにな る。
そもそも事前に予測不可能な要 因をはらんでおり、まさに負の悪循 環となっている。
 では、個別受注製造業の大手メー カーなどは現状、どうやって工程管 理しているのかという大きな疑問が 湧いてくる。
実際に我々が体験した ある製造現場では、班長、職長、現 業スタッフ、ボースン、進行さんなど 様々に呼ばれる進捗管理担当者が現 場を走り回って情報を収集し、計画 全般の調整業務に追われていた。
さ らには計画立案担当者として大日程 計画担当者、中日程計画担当者、加 工工程の小日程計画担当者、組立仕 上げ工程の小日程計画担当者などが 配置されており、多くの人員と工数 が費やされていた。
 それらの現場責任者は常に計画全 情報とモノの停滞を改善する 個別受注生産の「見える化」 79  APRIL 2012 る計画や実績データを流用することも 必要である。
2.工程計画の効率化  スケジューリングを行う基となるデ ータを工程計画データと呼ぶ。
個別 受注生産では、仕様確定、出図など のタイミングでこの工程計画データを 効率良くメンテナンスするしくみが必 要である。
 この工程計画を立案する機能は、作 業着手後の設計・仕様の変更に備えて、 オーダが仕掛かり中でもメンテナンス できるものでなければならない。
また、 工程の進捗状態をリアルタイムに把握 できる機能も必要となる。
仕掛かり途 中で変更が発生する都度、他システム の進捗状況を照らし合わせながら工程 計画データを編集するのでは、効率の 良いメンテナンスは不可能である。
 仕様確定前の段階では、基準日程 としてざっくりした大日程計画を策 定し、それを基に仕様確定後、中日 程を作成していくといった手法もあ る。
しかし、この大日程も中日程も 各工程に「余裕」を持たせることが 一般的であり(図2)、これではいつ までたってもリードタイムの短縮は望 めない。
そもそも大日程の精度も合 っていない。
物量などを基準にした 換算値で計画する手法や、原価見積 もり部門がコストからの視点で計画工 手配品の発注タイミングを検証したい。
といった理由で、仕様確定前でも計 画を作成しなければならない。
仕様 や図面が無ければ作業手順も計画工 数も見積もりできない。
ではどうす るか。
 個別受注製造業における生産管理 システムやスケジューラの導入事例に おいて、失敗の原因として最も多い のは、スケジューラの対応範囲を仕 様確定後、あるいは出図後からの計 画に限定してしまうことである。
こ れでは中長期の計画に人手による曖 昧さが残ったままになり、その部分 の変動に小日程計画が大きく影響す ることになる。
するとシステムによる 対応が難しくなり、結局、現場管理 者は日々の調整業務に追われること になってしまう。
 個別受注生産においては、中長期 の負荷も考慮した正確な中長期のシミ ュレーションと小日程の生産スケジュ ールの二段階で対応することが必須と なる。
そのためには、まず計画作成 の効率と精度を高めるために、作業 手順と計画工数のテンプレート、い わゆる雛形を作成しておき、このデー タを流用することである。
毎回、仕 様書や図面を見ながら作業手順や計 画工数の見積もりを行う訳では無く、 類似情報を基にして新たな情報を作 成する。
加えて、過去の製番におけ 般の調整業務に追われている。
当社 がある会社において業務分析を行っ たところ、現場責任者はこの調整業 務に日々の業務時間のうち七五%も 費やしていたという結果もあった。
 しかし、それは製造現場の責任者 の本来の業務では無い。
本来であれ ば、業務改善、製造現場から設計部 門へのものづくりのフィードバック、 突発的な変更作業・不具合などへの 対応・対策など、豊富な経験を持つ 人間の判断が必要な業務を行うべき である。
作業者の育成や不具合対策 の立案など現場力の向上に時間を費 やすことも重要である。
 
稗圓砲茲襦峺える化」のしくみ を構築すれば、日々の調整業務を軽 減することは十分可能だ。
ITで自 動処理できる業務はITに任せ、日 本の製造現場の宝とも言うべき豊富 な熟練ノウハウを持つ現場管理者のム ダな調整業務を減らす。
本来取り組 むべき「本来業務時間」を作るとい うことが、我々のシステム開発の重要 なテーマである。
見える化に必要な機能  工程管理の阻害要因に対してど のように対処 していくの か、どのよう な機能でカバ ーしているの か、三つのポ イントに絞っ て説明する。
1.仕様確定 前の計画策定  仕様確定 前( 図1 参 照)から負荷 調整しておき たい。
納期の 確認、検証を しておきたい。
図2 長いリードタイムと見えない余裕 大日程 中日程 仕上げ 仕上加工 製缶 荒加工 仕上 荒 加工 加工製缶 荒 仕上 加工 加工 製缶 実工数 余裕 仕上げ 組付 出荷準備 現地調整 部品図 材料調達 材料調達 資材調達 資材調達 材料調達 資材調達 設計 手配 加工 部品図 修工図 製図 正式図 部品図 基準日程 図1 受注前後、出図前後、製造中でも作業手順や作業工数が変わる ひとつの 製番/製品 内示段階 受注段階 設計完了段階(出図) その後の設変、仕様変更段階 APRIL 2012  80 場作業者に負担を掛けずに実績を収 集するかということが非常に重要と なる。
そのために対応すべき機能は 以下のように多岐にわたる。
●バーコード付きの現品票を出力して おき、実績入力時にバーコードリ ーダを使用し、簡単な操作で実績 入力できる機能 ●専用のハンディーターミナルを用い て作業指示と連動しワンクリックで の実績入力を行う機能 ●加工機械などから自動的に実績を 収集する機能 ●設計部門、加工部門、組立部門等 実績入力の頻度や作業者環境に合 わせた入力形態に対応した操作を 混在して使用できる機能  さらに、この実績の入力結果は作 業指示とリアルタイムに連動させる必 要がある。
自工程の先行工程は計画 どおりに進んでいるのか、遅れてい るとしたらいつ終わるのか、だれが 作業しているのか、等の情報を常に参 照できるようにしておかねばならない。
現場では頻繁に実績入力を行うことが 難しいという意見も多いが、その恩恵 は計り知れない。
すべての作業の進捗 状況を把握できるということは、す べての「問い合わせ」業務が無くな ることに繋がるからだ。
進捗の見える 化の効果は非常に大きく、製造現場 のより一層の改善に繋がっていく。
するのに必要な情報は、 ●作業が完了しているか ●未着手か ●作業が仕掛かっている場合には、今 使用しているリソース(資源)の 情報と、該当の作業があとどれだ け工数が必要か である。
 これらの情報を基に、スケジュー ラは終了予定日を計算し、作業指示 にフィードバックすることになるため、 作業を実施した結果を報告するだけ の日報報告や実績工数の収集だけで は不十分な場合が多い。
以下に数点、 必要な機能を挙げる。
●計画工数が正確では無い場合が多 いため、着手後の残工数を入力す る機能 ●作業に着手してしまったが、仕様 変更や設計変更により、つづきの 作業はすぐには行わないため、計 画上は残りの作業分を未来に再ス ケジュールする「保留機能」 ●不具合や作業のやり直しの作業履 歴の情報入力機能 ●計画外作業の入力機能 ●複数の作業を同時に行った場合に 工数を按分できる機能 ●作業者が複数人で交互に作業した場 合や、補助した場合など、実際に行っ た作業をスムーズに入力できる機能  この実績入力機能では、いかに現 ム導入時、新たに工程計画を行うこと にした結果、リードタイムを大きく短 縮できた例もある。
 時間軸上で現実に近いリードタイム、 工数で引かれたガントチャートを使っ て工程計画を行うことは、見える化 の基本でもある。
3.作業指示と実績入力  現場では事前に予測不可能な事象 が発生し、計画どおりに作業が進ま ないということが頻繁に起これば、そ の結果、ワーク、治具、図面などを 探したり、次にどの作業を行うのか 管理者に聞きに行ったり、いわゆる 「問い合わせ」と呼ばれる作業が頻発 する。
それらが作業の円滑な進行を 停滞させている。
 そのために、計画に対する実績入 力を行う従来のしくみでは、実績す ら入力できないという事態が発生す る。
現場の実績のすべてを把握でき なければ、結果的に現場責任者は現 場を走り回ることとなる。
原価管理 のためだけに製番と工数を日報とし て報告している工場も多いが、数日 に及ぶ作業の場合には作業の終了予 定が判らないということになる。
決 められたタイミングで進捗を報告する 必要はあるのだが、着手・完了報告 だけでは不十分である。
 スケジューリング(再計画)を実施 数を見積もっている場合などでは、計 画の精度は頭打ちとなる。
 こうして製造現場の実工数とは乖 離した工数を管理し、そのデータを基 に基準日程を立案しているケースは多 い。
また工程計画を実施していても、 パートチャート(図3)で計画してい る場合などは、リードタイム短縮に結 びつくことはない。
 課題を解決するための答は簡単だ。
実は時間軸上で、ガントチャートを 使って工程計画を行えばいい(図4)。
製造現場ばかりでなく、設計や生産 技術まで巻き込んで、製造方法の検討 を行うことが非常に重要になってくる。
あるメーカーでは、工程設計した結果 においてリードタイムを要する長い加 工作業があれば、設計部門にワークを 分割して並列に作業できるようにフィ ードバックをかけることがある。
 工程計画を行うということは、設計、 生産準備、製造のコンカレント化をよ り一層進めていくということである。
そのため、ここからが本当の知恵の 出し合いになる。
プランニングの原点 に立ち戻り、一番時間を要する作業、 あるいは並行してできる作業といった ものを、工場運営に関わるすべての 人々の知恵とノウハウを込めて改善し ていくことが必要である。
こうしたこ とがきちんと出来ている製造現場は意 外に少ない。
我々のユーザではシステ 81  APRIL 2012 価の低減に繋がっていくことになる。
 見える化のためには製造現場の情 報を意味の有るものにしていくための 情報の整備や、タイムリーに進捗を報 告するという製造現場の意識改革も 必要である。
製造に関わるすべての 人がリアルタイムの進捗・負荷状況 を把握できるようになることで、日々 変動するボトルネック工程に対しても 適切かつ先手の対応を取ることが可 能になる。
 我々シムトップスは、「DIRECTOR6」 を本当の見える化を実現し、製造現 場を支え、ものづくり、生産管理の 悩みを解決するためのツールとして開 発した。
 日本の「ものづくり」の誇れる部 分をサポートし、次の若い世代へのノ ウハウの継承や改善のための時間を生 み出し、コストダウンにも繋げていく ことが、我々の使命である。
?本当の見える化  現在の進捗状況や、それによって 再計画した結果としての未来の予定、 現状と未来の負荷状況など、製造現 場の実態・実情が常に把握でき、計 画外の事態に即座に対応するための 情報が常に揃っている。
そうした状 態が実現してはじめて、本当の見え る化と言える。
 進捗の見える化ばかりでなく、熟 練の計画担当者の頭の中も「見える 化」していく必要がある。
 熟練の計画担当者のノウハウや管 理技術を尊重しつつ、それらを製造 現場の作業者全員で共有できるよう にし、全員でリードタイム短縮、品 質向上、コストダウンの工夫をし合え る環境を作っていく。
そして、熟練 の計画担当者の管理技術を次世代へ 伝えていくことが重要である。
 個別受注生産の製造現場では、前 述の通り多数の突発的な作業が発生す る。
いかに優秀な生産管理システム やスケジューラであっても、これらの 突発作業を予測することは困難である。
このような状況下では、タイムリーに 製造現場を見える化するしくみが非 常に重要となる。
これにより、各種 問い合わせ業務の低減や迅速な計画の 組み替えが可能になり、リードタイム の短縮、全体的な稼働率の向上、原 ど、一見、表やグラフで「見えてい る」が、絵に描いた餅で実績、進捗 が反映されていない。
そもそも反映 するのに時間がかかる。
反映して再 計画するためにはもっと時間と労力が かかる。
このような製造現場の本当 の「実情」を反映していない状態を うその見える化と呼ぶ。
?不十分な見える化  オーダ毎の進捗状況は判っても、負 荷状況や進捗を反映した結果の未来の 予定が見えないなど、作業者、設備 などのアイドル時間や負荷、余裕状況 がわからないので、計画外の突発作業 に即対応することができない。
このよ うな状態を不十分な見える化と呼ぶ。
見える化の功罪  見える化の功罪のうち、「罪」の部 分は、製造現場の責任者やスタッフ が日々の業務とは別に、膨大な管理 資料を作成する必要があるというこ とだが、その反面、見える化されて いなければ、膨大な情報を収集、確 認し手作業で資料を作成する必要が ある。
しかもその結果のアウトプット はすでに過去の状況で、製造現場の 現在の状況を表していない場合も多 い。
我々は見える化には三つのレベル があると考えている。
?うその見える化  「見せかけだけのガントチャート」な 次回フォーラムのお知らせ  次回フォーラムは4月9日(月)、 陸上自衛隊朝霞駐屯所・輸送業務 センターの現場見学会を予定して いる。
このフォーラムは年間計画 に基づいて運用しているが、単月 のみの参加も可能。
1回の参加費 は6,000円。
ご希望の方は事務局 ( s-sogabe@mbb.nifty.ne.jp) までお問い合わせ下さい。
図3 パートチャート 図4 時間軸上で、現実に近いリードタイム、 工数で引かれたガントチャート

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