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MAY 2012 14
大型貨物向け全国宅配網を構築
全国翌日配達が当たり前となった現在も、通常の配送
網に乗らない大型商品は、いまだ5日から1週間のリード
タイムが標準となっている。 家具の通販でトップシェアを
握るニッセンは、プラスロジスティクスと手を組み、そこ
に新たなソリューションを提供しようとしている。
(大矢昌浩)
大型家具も荷造送料一律五〇〇円
ニッセンが家具をメーンとする大型商品の在庫分散
に動いている。 同社は家具通販の先駆けとして知ら
れる。 九〇年代に中国や東南アジアで生産した組み
立て式の自主企画製品を割安な価格で販売して売り
上げを伸ばした。 その後、他の通販会社も追随した
が、現在も家具通販ではトップクラスのシェアを誇っ
ている。
これまで同社は家具・大型商品の在庫を三重県い
なべ市の「三重大型商品配送センター」に集め、そこ
から各地のデポを経由して全国に家具を届けてきた。
これを改め、消費地に拠点を分散させる。 まずは関
東に二拠点、九州に一拠点を計画している。 「マルチ
拠点化によって配送リードタイムの短縮はもちろん、
トータルコストも削減できる」と、ニッセン一〇〇%
出資の物流子会社、通販物流サービスの田﨑達昭社
長はいう。 生産地の中国から国内の消費地まで直接
海上輸送で運ぶことで、割高な日本国内のトラック
輸送を回避する。
トライアルを繰り返し、各拠点に一〇日分程度の在
庫を置くことで、欠品は避けられることを確認した。
これまで生産地で保管していた在庫の一部を日本に
移すことになるが、トータルの在庫量は変わらない。
保管料と海上輸送費の上昇分を差し引いても、国内
トラック輸送の削減分で十分にお釣りが来る。
しかも、受注から納品までのリードタイムは最短翌
日に短縮される。 近い将来は、大型家具の全国翌日
配達を実現したい考えだ。 現在、家具を始めとする
大型商品の配送リードタイムは、五日から一週間が標
準となっている。 ニッセンも「六日前後」と定めて
いる。
通販用の家具は通常、組み立て式であるため、配
送は休日に配達する前提で設計されている。 ところ
が、実際に期日指定配達の実績を調べてみると、必
ずしも土日に集中しているわけではなく、最短で届
けて欲しいとの声が大きいことが分かった。 「家具の
配送にもスピードが求められていることを痛感した」
と田﨑社長。
しかし、コストはかけられない。 家具通販の販売価
格は下落傾向にあり、平均単価は現在二万円を切っ
ていると推測される。 それに対して配送コストは大
型家具を宅配便で運べば三〇〇〇円前後かかる。
これまで通販業界では大型商品の配送料は、商品
価格とは別建てにして、大きさに合わせて料金を設
定し、顧客から徴収するやり方が一般的だった。 し
かし、ネット通販の拡大に伴い「送料無料」が広がっ
たことで、大型商品といえども高額な配送料は通用
しなくなった。 そこで現在、ニッセンでは家具の配送
料を一律五〇〇円に設定している。 物流サービスに
よる差別化が狙いだが、当然ながら大型商品につい
ては足が出る。
納品時の組み立て・設置を希望する顧客も増えて
いる。 ドライバーと作業員が二人一組のツーマン配送
が必要になるため、通常の宅配便ネットワークでは対
応できない。 それでもニッセンは従来、アパレル品や
小型家具の配送を委託する宅配会社にツーマン配送
も委託してきた。 宅配会社は既存のインフラとは別に
大型商品向けの配送網を作る必要があり、割高にな
るだけでなく、品質面でも課題が多かった。
抜本的な改革が必要だった。 その突破口となった
のがプラスロジスティクスとのコラボレーションだっ
た。 同社はオフィス機器メーカーのプラスの物流子会
社で、グループのアスクルの配送も担ってきた。 大型
ニッセン/プラスロジスティクス
15 MAY 2012
家具の取扱量は月間約三〇万個に上る。 一日当たり
一万個。 一〇トン車で六〇台程度の物量を持つ。 二
〇一〇年一〇月には千趣会とも業務提携を結び、B
2Cの実績もある。
プラスロジの鈴木俊一執行役員経営企画室室長は
「当社がメーンとするB2Bの配送は平日がほとんど。
土日にも配達のあるB2Cの通販貨物とは相性がい
い。 B2Bは基本的にツーマン、B2Cはワンマンが
多いという違いはあるが、両者の物流を統合すれば
競争力のあるネットワークを構築できる」という。
通販物流サービスはプラスロジと家具・大物商品に
おける配送業務の全面委託契約を結び、今年一月に
新体制をスタートした。 三重のセンターから全国百数
十カ所のデポを経由してエンドユーザーに配送するま
でのプロセスをプラスロジが3PLとして管理。 配送
を始めとするオペレーションをプラスロジ傘下のプラ
スカーゴサービスが担っている。
通販物流サービスの田﨑社長は「独自の配送網を
構築することで、宅配会社の実力に左右されない環
境を獲得することができた。 今後はこのインフラに他
社の貨物を取り込んで積載量を確保し、従来は積合
輸送に任せるしかなかった地方にも専用便を走らせ
ていく。 既に引き合いはどんどん来ている」という。
当日配達時代のセンター運営
一方のプラスロジは家具通販のプラットフォーム構
築を狙う。 一般の宅配便はヤマト運輸と佐川急便の
“二強”で既に決着が付いている。 しかし、いずれも
大物貨物は苦手だ。 他に家具専門の全国ネットワーク
を持つ輸送会社も存在しない。 その隙間を突く。 家
具の配送を切り口に、庫内オペレーションまで含めた
通販物流事業の拡大を図る。
アスクル向けの業務を通じて蓄積したノウハウを活
かせる。 通販各社は現在、リードタイムの短縮を最大
の経営課題の一つに掲げている。 当日・翌日配達へ
のニーズも強い。 しかし、鈴木執行役員は「通販会
社の多くは単純に出荷作業を速くすれば対応できる
と考えている。 実際にやってみるとそれでは無理で
あることが分かるはず」と指摘する。
アスクルはスタート当初から全ての注文を翌日配達
する前提でビジネスを組み立てた。 一週間前後にリー
ドタイムを設定した一般の通販会社が同じことをやろ
うとすれば、倉庫の立地から、受注・仕入(入荷)・
出荷(ピッキング)という一連のプロセスまで全て再
構築しなければならない。
ポイントの一つは注文から現場に出荷を指示するま
でのスピードだ。 ファクス受注分には、必ず読み取り
不可などのイレギュラーが発生する。 それでもアスク
ルは、イレギュラー処理まで含めて三〇分以内に出荷
指示を出している。 また配送では時間帯別・地域別
の道路の混雑状況を考慮して、午前中の出荷分と午
後の出荷分で組み立てを変えている。
宅配便を使って全国翌日配達を実施する場合でも、
サプライチェーンの上流・中流・下流を完全に連動さ
せないと、約束したリードタイムを守ることはできな
い。 方面別の受け渡し時間から逆算して出荷作業を
処理するには、稼働時間に合わせて多様な雇用形態
を用意する必要がある。 少しでも積み残しが出れば
クレームが発生する。
「当日どころか翌日配達でも一〇〇%実施するのは
大変なこと。 それに気付いた通販会社は自社運営の
センターのアウトソーシングを検討するようになる。
当社がその受け皿となりたい」と鈴木執行役員は意
欲を燃やしている。
プラスロジの鈴木俊一
執行役員経営企画室室長
ニッセンの福井ロジスティクスセンター。 アパレル・小物類は在
庫を集中し、処理の自動化を進めてできるだけ同梱している通販物流サービスの
田﨑達昭社長
特 集
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