ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2012年5号
特集
解説2 ネットスーパー市場の行方

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2012  30 ネットスーパー市場の行方  ネットスーパー市場が急拡大している。
新規参入が相次 ぎ、既存プレーヤーは事業スピードを加速させている。
し かし、利益を確保できているのはほんの一握り。
多くは 採算性のメドすら立っていない。
このままでは、いずれ 淘汰の波に晒される。
            (石鍋 圭) 直近二年で市場規模が一・九倍に  富士経済の調べによると、二〇一一年のネットスー パーの市場規模は七八一億円で、対前年比三七・三% 増の成長を達成したと見られる。
同調査における〇 九年の市場規模は四一九億円だったので、わずか二 年間で市場規模が約一・九倍に膨らんだことになる。
 ネットスーパーとはウェブ経由で生鮮食品や日用品 の注文を受け、当日の指定時間に配達するオンライン 版スーパーマーケットだ。
そのロジスティクスは近隣の 店舗の店頭在庫をピッキングして商品を配達する“店 舗出荷型”が主流で、イトーヨーカ堂やイオン、西友 といった多くの企業がこの方式を導入している。
 ネットスーパー首位のヨーカ堂は〇一年から事業を 開始し、〇七年を境にその展開速度を早めている。
それまで九店舗で展開していたネットスーパーを、一 気に八〇店舗にまで拡大。
以降、拡大を続け、現在 では一三七店舗で実施している。
同社の一一年度の ネットスーパー事業の売上高は三五〇億円に上り、市 場の約四五%のシェアを握っている。
 そのヨーカ堂を拡大スピードで凌いでいるのがイオ ンリテールだ。
〇八年にネットスーパーを開始すると、 一〇年度中に一一五店舗、翌一一年度中には約一七 〇店舗での実施を実現した。
イオン北海道やイオン九 州といったグループ会社も含めれば、その数は約二〇 〇店舗にものぼる。
 米ウォルマート傘下の西友も拡大路線を打ち出して いる。
同社は〇〇年にいち早く市場参入したが、こ れまで事業拡大には慎重な姿勢をとってきた。
それ を一転し、一一年度中に首都圏四七店舗から全国一 二五店舗に拡大、一五年までに三五〇店舗体制を構 築し、売上高を二〇倍にする計画を発表している。
 さらに、ここ数年でダイエーやサミット、東急スト ア、ユニー、フジ、カスミなど有力チェーンがネット スーパー事業を相次いで開始したほか、全国各地の中 堅以下のスーパーも続々と新規参入を果たしている。
 この状況をビジネスチャンスと捉え、ヤマトホール ディングスは〇九年から中小スーパー向けのネット スーパー支援サービスを展開している。
サイト立ち上 げから配送、決済までを一貫して請け負っている。
 ヤマト運輸の山田正俊監査部長は「ネットスーパー 関連の宅急便個数は順調に伸びており、一一年度は 対前年比七〇%増を記録している」と語る。
今後は 中小スーパーだけでなく、大手・準大手のスーパーに 対しても営業を強化していくという。
 食品スーパー以外の異業種の参入も始まっている。
昨年一〇月にはローソンが食材宅配のらでぃっしゅ ぼーやと合弁で「らでぃっしゅローソンスーパーマー ケット」を立ち上げた。
食品宅配のパイオニアである 生協のコープネット事業連合も、一〇年四月からネッ トスーパーの実証実験に乗り出している。
 さらに、今年七月には楽天が自らネットスーパー事 業をスタートする。
ライバルのアマゾンもアメリカで ネットスーパーの実験を重ねており、遠からず日本で も展開すると目されている。
 こうした動きの背景には、高齢化や共働き世帯の 増加などに伴う食品宅配に対する強いニーズがある。
ネット普及率もさらに高まり、事業を展開する土壌も 整った。
低迷する店舗事業を補うための有望ビジネス として、ネットスーパーは大きな注目を集めている。
 しかし、今のところ各社の収益性は芳しくない。
大手プレーヤーの中で黒字化を達成しているのはヨー カ堂だけ。
イオンや西友を含むその他の企業は、売 上高どころか会員数や注文件数さえ公表していない 31  MAY 2012 特 集 ケースがほとんどだ。
現段階では採算が取れていな いことは、周知の事実となっている。
 コストを消費者に転嫁できていないことがその要 因だ。
ネットスーパーの注文が入ると、店の従業員が 注文商品を集め、梱包して配送する。
そこには当然、 人件費や配送費、システム運用費が発生する。
 ところが、ネットスーパーの物流サービスは「一定 額以上の購入で配送料無料」がスタンダードになって いる。
消費者は配送料がかからないよう、設定され た金額以上の注文をするので、事実上サービスは無 料化されている。
販売価格は原則として店頭と同じ。
ただでさえ利幅の薄い商売にオペレーションコストが のしかかり、利益を食いつぶしている格好だ。
 英テスコはネットスーパー事業で三〇〇〇億円規模 の売り上げを誇っている。
営業利益率も六%台を達 成していると推測されるが、同社の場合、配送料は 必ず有料としている。
しかし、「サービスは無料」と いう感覚が染みついた日本の消費者相手に同様の施 策は打ちづらい。
 黒字化を実現するには、会員を増やし、注文件数 を上げ、配送一件あたりのコストを落とすしか方法は 無い。
それには多くの時間とコストがかかる。
実際、 ヨーカ堂は黒字転換するまでに八年を要している。
センター出荷型は未知数  一方、店舗とは別に専用物流センターを設置し、そ こに在庫を置いて配送する“センター出荷型”も、サ ミットなど一部の企業で採用されている。
楽天もこ のモデルだ。
作業を一カ所で集中的に処理できるた め、店舗型に比べ作業コストを抑えられる。
ただし、 大きな初期投資が必要なことに加え、一定の物量が 確保できないと固定費負担によって収益が圧迫され る。
事実、サミットは〇九年からセンター型を実施し ているが、黒字化は一四年度以降としている。
 また、賞味期限の短い生鮮品を無駄なく在庫し、 日々変動する受注量を吸収しながら当日配送を実現す るには高度なノウハウも求められる。
物流のプロでは ない小売りには荷が重いと懸念の声も上がっている。
 既に一定の物量を確保しているヨーカ堂やイオンは、 センター出荷型への転換や併用を視野に入れ、注意 深く動向を窺っている状況。
サミットや楽天の今後の 実績が、ひとつのベンチマークとなりそうだ。
 各社攻勢を強めている現状だが、今後は中堅以下 を中心に赤字運営に絶えきれず撤退するところも増 えてくると予想される。
 
繊Γ圈Εーニーの後藤治パートナーは次のように 説明する。
「そもそもネットスーパーに全ての参加プ レーヤーが黒字化できるだけのポテンシャルがあるか は疑問。
マクロで見れば、いま市場が拡大している のは店舗事業の減少分の振り替えに過ぎない。
今後 も人口減少に伴って食料の消費量が減っていくため、 規模の経済の獲得はますます難しくなる。
結果的に、 少数の勝者が提供するサービスになっていくのでは」  その有力候補は、やはりヨーカ堂とイオンだろう。
二強が豊富な資金とインフラを背景に、全国規模の サービスを築いていく過程で、多くの企業が脱落して いくことになる。
独自モデルを構築するほか、中堅以 下の活路は見当たらない。
三重のスーパーサンシや大 阪のイズミヤは、あえて小商圏にエリアを限定し、“御 用聞き”を武器に顧客を囲い込んでいる。
配送料も有 料にするなど、大手にはできない手法に挑んでいる。
 どれほど厳しい環境でも、イノベーションの余地は 常に残されている。
それができなければ、淘汰の波 に晒されることは避けられない。
ネットスーパーの市場規模推移 900 800 700 600 500 400 300 200 100 0 (億円) 09 年10 年11 年 (見込み) 419 569 781 市場規模 富士経済発表資料より作成 A.T. カーニーの 後藤治パートナー

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