*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
MAY 2012 2
ア系の商材で他の追随を許さない強力
なインフラを作り上げたことで、商品
の横展開が可能になりました」
「現在のアマゾンのミッションは?地
球規模の品揃え?です。 明確に総合化
へと動き始めている。 米国アマゾンの
売り上げを見ると、五年ほど前までは
半分以上がメディア系だったのに、今
はそれが三割程度まで落ちている。 そ
の脅威に晒されているのは通販会社
だけではありません。 リアル店舗を展
開する大手チェーンストアにとっても、
アマゾンは今や最も怖いライバルです」
──小売市場全体のパイが増えない状
況でネット通販が拡大していけば、他
の販売チャネルが浸食されていくこと
になりますね。
「日本の小売業の販売総額は現在一
三〇兆円程度です。 この一〇年間で約
一〇兆円ほど減少しました。 少子高齢
化でこれからもっと減っていく。 これ
に対してネット通販の売り上げは、今
のところ小売市場全体の数%を占めて
いるに過ぎませんが、今後は二〇〜二
五%程度まで拡大することが予想され
ています」
「ネット通販の顧客は、これまで二
〇代から四〇代の年齢層が中心でした。
しかし、現在は会社でパソコンを使っ
ていた団塊の世代がシニア層に突入し
ています。 リアル店舗やカタログ通販
専門化から再び総合化へ
──既存のカタログ通販会社は、イン
ターネットの普及を強力な追い風にす
ることもできたはずです。 しかし現実
にはそうなっていません。
「一つはビジネスモデルの問題でしょ
う。 既存の通販会社はカタログをベー
スにモデルを組んでいます。 マス媒体
やダイレクトメール、折り込みチラシな
どを使って顧客リストを作り、そこに
カタログを送るというやり方です。 一
方、アマゾンと楽天の?二強?、アパレ
ルのZOZOTOWN(スタートトゥ
デイ)もそうですが、彼等は始めから
ネットをベースにビジネスモデルを組み
立てています」
「アマゾンの創業者のジェフ・ベゾス
が紙ナプキンに書いたビジネスモデル
(図1)は有名になりましたが、そこ
に示されているように、アマゾンは顧
客に豊富な品揃えと低価格という利便
性を与え、そこで買い物をすることで
顧客が得た満足感、顧客の経験知をエ
ンジンとして好循環を回し、持続的に
成長していくモデルを構築して成功し
ました。 同じ通販といっても、カタロ
グ通販とは商流から物流まですべて違
う」
──とはいえ、アマゾンや楽天は、こ
の一〇年で台頭したベンチャー企業で
す。 資本力もノウハウもあった既存の
大手通販は、もっと上手くネットに対
応できていても良かった。
「おっしゃる通りです。 ただし、変
化への対応という面では、総合通販は
ネットが登場する以前から問題を抱え
ていました。 小売業全体の大きな流れ
を振り返ると、八〇年代はワンストッ
プショッピング、総合量販店(GMS)
全盛の時代でした。 それが九〇年代に
入って専門化していく。 ユニクロやニ
トリ、マツモトキヨシといったカテゴリ
ーキラーが台頭し、選択消費が進んで
いきました」
「二〇〇〇年代に入ってネットの普及
が、さらにそれを後押ししました。 自
分の欲しい商品や価格の情報を、消
費者が簡単に入手できるようになった。
何をどの店から買うのか自由に選べる
ようになったことが、小売業の専門化
に拍車をかけた。 そのことが、百貨店
やGMSと同様に、総合通販を苦しい
立場に追い込んでいます」
──現在のアマゾンは専門化の流れと
逆行し、取扱商品の幅を大きく広げよ
うとしています。
「アマゾンも当初は本やCD、DVD
などのメディア系商材の専門店として
存在感を示しました。 そして、メディ
日本通信販売協会 柿尾正之 理事 主幹研究員
「ネットは一億総通販時代をもたらした」
インターネットの普及は、通信販売を業界から手段に変えた。 あら
ゆる業態、あらゆる業種で、ネット通販への対応が急務となっている。
既存の販売チャネルとネット通販を併存させるマルチチャネル型のビジ
ネスモデルを確立し、ネット通販専業者に対抗していかなければなら
ない。 (聞き手・大矢昌浩)
3 MAY 2012
の顧客すべてが、ネットユーザーでも
ある。 我々は?一億総通販?と言って
いるのですが、消費者はTPOによっ
てネット通販、店舗、カタログ通販と
いったチャネルを使い分けるようにな
る」
「これに対応するために商品の供給
側は様々なメディアを用意して顧客と
の接点をマルチに持つ必要があります。
誰もが通販を使う時代になったことで、
従来は一つの業界だった通販が、販売
手法の一つに変わりました。 流通業は
もちろんメーカーでさえ、もはやネット
を無視できない。 実際、GMSはネッ
トスーパーに本腰を入れ、メーカーは
ネット直販に動き出している」
──しかし、現状を見る限り、マルチ
チャネル型のプレーヤーはネット通販
専業に太刀打ちできていません。
「ただし、楽天とアマゾンではモデル
が違う。 楽天は数万店もの店舗の集合
体であって、自分では在庫を持ってい
ません。 物流センターもまだ一カ所し
かない。 従って、ごく限られた商品を
センターでクロスドッキングして、まと
めて運ぶぐらいのことしか今のところ
できない。 楽天がアマゾンに対抗する
には、アマゾンとは違うモデルを構築
する必要があります。 それには時間が
かかりそうです」
──現在のアマゾンはフルフィルメン
ト代行会社という側面も持っています。
既存の物流会社にとっても競合にもな
り得ます。
「その通りです。 今後も彼等は各地に
物流センターを建設していくでしょう。
当日配送のネットワークによって日本
全土を網羅することになります。 それ
は宅配会社や一般の運送会社、倉庫会
社にとっても脅威になるはずです。 物
流会社もまた、ネット時代への対応を
迫られているのです」
「ネット専業の優位は今後もしばらく
続くでしょう。 それでも対応せざるを
得ない。 大事なのはメディアの環境が
どう変わろうと、それに対応してマル
チにチャネルを持つことです。 既に欧
米ではマルチチャネル・リテーラーが常
識となっています」
棚と物流に資源を集中
──アマゾンはスタート当初から物流
に莫大な投資をしてきました。 日本で
も当日配送と配送無料化で市場をリー
ドしました。 しかし、そうした物流サ
ービスが本当に投資に見合った競争力
をもたらしているのかは判然としませ
ん。 実際、楽天も最近まで物流にはタ
ッチしてこなかった。
「物流サービスによる差別化は、日
本ではアマゾンよりもむしろアスクル
が先に証明したのではないでしょうか。
アスクルは文字通り、今日注文すれば
『明日来る』ことで顧客をつかんだ。 た
だし、アスクルのビジネスは法人向け
だった。 これをアマゾンは消費者向け
のB
to
Cで実施した」
「アマゾンの競争力は、あらゆる商品
を取り揃えるロングテールが第一。 こ
れはネットだから実現できたことでし
た。 そして第二が物流。 当日配送には
自社在庫の裏付けが必要でした。 その
ため彼等は日本各地に巨大な物流セン
ターを建設していった。 この二枚看板
が彼等の武器になったのは確かだと思
います」
──消費者は当日配送を求めていたの
でしょうか。
「アマゾンが配送スピードにこだわっ
たのは、本やCDという商品の特性も
大きかったと思います。 他の商品であ
れば、今日届ける必要はないから、受
け取りの期日や場所を指定したり、ま
とめて届けて欲しいというニーズもある
でしょう。 それでも、当日配送によっ
て、アマゾンと他の通販会社との差が
開いたことは事実です。 顧客ニーズか
ら出発したかどうかとは関係なく、差
別化にはなっている」
──当日配送は今後、他の通販会社に
も広がっていきますか。
「カタログ系の通販会社が今からアマ
ゾンと同じようにやろうとしても、コ
スト構造やビジネスモデルが違うので現
実的ではありません。 カタログ通販は
マーチャンダイジングに人を割き、カタ
ログの制作と配布に大きなコストをか
けています。 アマゾンはそれをITで
自動化し、棚と物流に資源を集中しま
した。 そうやって積み上げてきた物流
インフラが、今や一小売業では対抗で
きないほどの規模を獲得している」
──楽天も物流整備に本腰を入れてい
ます。
柿尾正之(かきお・まさゆき)
1954年千葉県生まれ。
中央大学卒。 マーケティング
コンサルティング会社を経て、
86年4月、社団法人日本
通信販売協会に入局。 現在、
理事、主幹研究員。 日本ダ
イレクトマーケティング学会
理事。 早稲田大学大学院商
学研究科客員准教授。 通販
関連の著書多数。
図1 Amazon のビジネスモデル
ジェフ・ベゾスがレストランのナプキンに書いたとされる
ビジネスモデルのコンセプト
トラフィック増加
選択増加
売り手増加 顧客経験
低コスト化低価格
成長
|