ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2012年5号
DHLレポート
ドイツポストDHL「Delivering Tomorrow:Logistics 2050」2050年のロジスティクス:5つのシナリオ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2012   38 シナリオ1 暴走する経済──迫り来る崩壊 ヴィジョン  二〇五〇年、物質主義がいよいよ蔓延する。
人びとはこぞって量的拡大に狂奔し、物質的所 有欲を満たすため新たなレベルの消費が登場し た。
 貿易障壁が撤廃され、それまでの四〇年間に わたって世界の貿易量は増加した。
だが、より持 続可能な経済成長をめざすグローバルな協定を 締結しようという努力は、国際的な統治システ ムの未熟さにより何の成果ももたらさない。
か つて「新興経済発展国」とよばれた国々は、数 十年におよぶ経済成長に支えられながらそれぞ れの国益を力強く追求する一方、西側先進諸国 は財政赤字の退治に終始して停滞を余儀なくさ れた。
その結果、財政・貿易・消費の中心は東 側およびアジアに移った。
自由貿易に関するW TO未参加の新組織など、多くの国際機関で主 役を演じるのはこうした国々となった。
自国の 経済的利益のみを追求する前者と政治的混乱に 手足を縛られた後者との間で、持続可能な原則 にもとづく国際的管理の枠組みはいっこうに日 の目をみない。
 生産拠点はアジアの大消費地周辺や南半球へ と移ったが、一部は西欧諸国へ回帰した。
グロ ーバルな輸送網“スーパーグリッド”が世界中 のモノの移動スピードを加速した。
しかし持続 不可能なライフスタイルと天然資源の濫用で加 熱するこの暴走する経済は自壊の要因を孕んで いる。
──大きな気候変動がひたひたと忍び寄 り、自然災害によってサプライチェーンが途絶 することもめずらしくない。
深海や北極の採掘 があたりまえとなり、かろうじて残っていた世 界中の自然環境は天然資源の濫用によりその多 くが破壊されてしまう。
世界のGDP 成長 物量 環境問題 規制の開放性 従来型ロジスティクス の成長ポテンシャル ロジスティクス分野 の新領域 ロジスティクス分野 の変化の度合 それぞれのシナリオが及ぼす影響 シナリオ1 シナリオ2 シナリオ3 シナリオ4 シナリオ5 暴走する経済巨大都市における 超効率化 カスタマイズされた ライフスタイル 麻痺状態を招く 保護貿易主義 グローバルな 回復力  ドイツポストDHLは2月、2050年の未来予測「Delivering Tomorrow:Logistics 2050」を発表した。
広範な分野の著名な 専門家たちの協力を得て、40年後の世界の姿を5つのシナリオか ら想定、それぞれについて社会や環境の変化が人々の行動と価 値に与える影響を分析した。
同報告書に描かれた未来のロジス ティクスを紹介する。
(以下の記事はドイツポストDHLが2月27日に発表した報告書「Delivering Tomorrow:Logistics 2050」の一部を本誌が抜粋して翻訳したものです) Delivering Tomorrow:Logistics 2050 39  MAY 2012 ロジスティクス産業への影響 ●世界経済と貿易が確実に成長するということ は、ロジスティクスと輸送サービスへの需要 が大幅に増えることを意味しており、ロジス ティクス関連企業は規模の大小にかかわらず その恩恵を受ける。
その結果、グローバルな ロジスティクス市場に、世界的大手だけでな くローカルな優良企業も加わる。
●フレートフォワーディング、サプライチェー ン、エクスプレス事業はこの展開から同じよ うに利益を享受する。
もっとも急成長するの は海上輸送で、その次がエクスプレス・ロジ スティクスに対する需要が安定的に増加する  航空輸送である。
●ロジスティクス企業は各 プロセスをより効率的に計 画・管理できるようになり、 メーカーはロジスティクス 機能をますますアウトソー シングする。
●OEM企業でさえ規格化さ れた生産プロセスのかなり の部分をアウトソーシング する。
そしてロジスティク ス企業がすべての生産工程 や組み立て部品のハンドリ ングをするケースが多くな るようになる。
●OECD(経済協力開発機 構)加盟諸国では、従来の 郵便事業はかなりの程度ま でeメールにとって代わら れる。
急激な発展と需要の 急増で、当初は一時的にビ ジネス郵便の市場が大きく なるアジアの国々もある。
しかし情報通信技術がまた  たく間に拡がり、やがては eメールに駆逐される。
●気候変動はロジスティクスにおける価値創出 という側面に影響をあたえる。
まず地球温暖 化で航路が変わる。
北極の氷が溶け、短距離 で効率的な航路が出現する。
しかし異常気象 の発生頻度が増え、航路上の障害が日常的に 発生する。
したがってロジスティクスのオペ レーションにおいては、災害対応とコンティ ンジェンシープラン(緊急時対応計画)が重 要になる。
次に、異常気象の発生頻度が高く なると、ロジスティクス企業に対する保険会 社や金融市場のリスクアセスメントが厳しく なる。
ロジスティクス企業は資本コストの増 加に直面する。
●燃料価格の高騰で比較優位が変わり、オフシ ョアリング(海外へのアウトソーシング)だ けでなくニアショアリング(近隣国へのアウ トソーシング)も普通に行われるようになる。
大手ロジスティクス企業はこうした近隣国の メーカーに対して適切なコンサルティング・ サポートを行う。
●コスト増加分をすべて価格転嫁するのはむず かしく、エネルギー・資源価格の高騰で利益 率が圧迫される。
●希少資源の再利用が重要性を増し、リバース ロジスティクス(静脈物流)の分野が成長す る。
この流れに乗って補修・返品サービスも 注目される。
●先進国は高齢化にともなう財政負担に苦し み、インフラストラクチャーへの公共投資が 手薄になる。
インフラの民営化政策が進み、イ ンフラへの投資ばかりでなくその一部を担う MAY 2012   40 ピングモール、あるいは建設現場などでのシ ステムサービスも同様である。
●大手ロジスティクス企業が重要な役割を果た す。
公共輸送インフラを運営するだけでなく、 先進的な生産活動に必要とされる複雑なロジ スティクス・プランニングとオペレーション・ プロセスをも受け持つため、高度なケイパビ リティが要求される。
そのうえ、効率的な共 同管理や混載にはオートメーション技術への 多額の投資が必要とされる。
こうしたことを アメリカとアフリカにある一部の 巨大都市はまだ環境保護政策で遅 れをとっているが、二〇五〇年現 在、いまにも追いつこうとしてい る。
トラック・船・航空機ばかり か宇宙空間を飛ぶシャトルなどの 巨大運搬装置が行き交うグローバ ルなスーパーグリッドが、世界の 巨大都市間の主要な取引関係を開 いた。
ロジスティクス産業への影響 ●都市の交通渋滞や排気ガスへの 対策として、工場や店舗への搬 入出の多くは地下の輸送網が担 う。
都心の周りを環状に自動交 通システムが走り、都市周辺に は発送センターが、工場やショ ッピングモールの地下には貨物 を搬入出する場所が設けられ る。
●大手ロジスティクス企業は、都 市の発送センターと地下輸送網を運営して巨 大都市のインフラとしての役割を担い、都市 運営上欠くべからざる存在となる。
●都市部では燃料電池やバッテリー・パックを 搭載した電気自動車が日々の配送を行う。
●大規模なインフラ整備プロジェクトや複雑な 計画の必要性から、自治体と企業のコラボレ ーションが進む。
都市内のロジスティクス・ オペレーションは、地元自治体から認可を受 けた特定の企業が行う。
空港、病院、ショッ ロジスティクス企業さえ出てくる。
シナリオ2 巨大都市における超効率化 ヴィジョン  二〇五〇年、社会的/経済的/政治的発展の 中心は巨大都市だ。
巨大都市はグリーン成長へ 向けたパラダイムシフトの推進役であるととも に受益者でもある。
人口密集や排出物質など、拡 がり続ける都市構造の課題を克服するため、超 国家的な組織と連携を結びながら巨大都市が先 頭に立って自由貿易やグローバル統治モデルを 推進する。
こうした新たなグローバル・カルチ ャーの中心地は進歩と繁栄への道を突き進む一 方、地方は取り残される。
そして、さまざまな 面で国民国家は二義的な役割しか果たさなくな る。
 情報・コミュニケーション技術における広範 囲のイノベーションにより、以前には想像もつ かなかったほどオートメーション化が進んだ。
ロボット工学は生産とサービスの世界を劇的に 変えた。
生産は巨大集積地近辺のロボット化さ れた大工場で行われる。
オートメーション化で 有給の職は少なくなり、サービスセクターを中 心に個人事業主が増え、それをベーシックイン カムなどの公的補助が支える。
消費行動はモノ の所有からレンタルへと移る。
 物資輸送網の地下化や新たな公的交通機関な ど、超効率的な交通コンセプトにより混雑は緩 和される。
ゼロ・エミッションのオートメーシ ョン工場が炭素排出量削減に貢献する。
ラテン Delivering Tomorrow:Logistics 2050 41  MAY 2012 ●消費の脱所有化で確実なデータ送信が重要に なる。
そこで荷物を早く確実に送り届けるだ けでなく、安全確実な情報伝達をも求められ るようになる。
シナリオ3 カスタマイズされたライフスタイル ヴィジョン  二〇五〇年、教育レベルの向上、デジタル機 器の普及、富の増大などで、カスタマイズは全 世界的な現象となった。
カスタマイズされた消 費パターンがあたりまえのことになる。
人びと はユニークなライフスタイルを送ることに高い 価値をおく。
他人とは違っていたいという顧客 の要望に応えるため、企業はそれぞれの好みに 細かく合わせた商品を提供し、消費者は自分好 みの商品をつくり出すことができるようになっ た。
取引規制の地域的な偏りとインフラの分散 があいまってそれぞれの地域特有の取引慣行が 生じ、原材料とデータだけがグローバルに流通 する。
分散型のエネルギーシステムとインフラ、 食料の地産地消がカスタマイズと地元での生産 を支える。
 技術進歩は目まぐるしい。
数あるカスタマイ ズ技術のうち、もっとも革命的かつ影響力が大 きいのは3Dプリンターである。
過去二〇年間 で価格が下がり、この新たな技術はいまでは生 産現場と多くの家庭に浸透している。
3D印刷 のアプリケーションは家庭用の簡単なものか ら、地域の印刷ショップや印刷工場向けのより 複雑なものまで各種ある。
運搬装置の操縦はオートパイロット・システ ムがアシストする。
運搬装置同士が通信する ことで、たとえばコンテナを数珠つなぎにし たロードトレインなどでも自動操縦による安 全で効率的な運行ができる。
●巨大運搬装置を効率的に動かすには高積載率 が必要条件となる。
高積載率の達成には、複 数の発送元からの貨物を発送・混載センター でプールすることが欠かせない。
ロジスティ クスセクターでは、コーペティション(競合 同士の協力)が一般的な方法となる。
●きわめて価値の高いモノの場合、二点間の高 速輸送にリモートコントロールで制御する低 軌道のシャトルが活用される。
●一般消費者や企業向け小口貨物の二点間単純 輸送は集約化されない。
なぜなら大都市間の こうしたサービスはどのロジスティクス企業 でもできることだからだ。
RFIDチップの 技術が進んで個々の貨物の位置情報や状態を 把握できるようになるため、こうした小口の クーリエサービスの信頼度は飛躍的に向上す る。
●都市の状況とは対照的に都市部から離れた地 域のロジスティクスは手薄になる。
人びとは オンラインで注文し、荷物は比較的大きな町 の集荷場や店舗まで取りに行く。
ラストワン マイルの配送には別料金がかかる。
●消費の“脱所有化”に合わせ、ロジスティク ス企業はさまざまなレンタル、シェアリング のサービスを提供する。
ロジスティクス企業 が運営するブッキング・プラットフォームに より、個人同士のレンタルが可能になる。
担えるのは大手企業のみである。
●グローバル巨大都市内部および都市間で、大 規模な経済活動と輸送需要が発生する。
都市 間は専用ターミナルを備えたダイレクト・フ レートレーンで結ばれる。
従来のハブアンド スポーク型物流システムも存続するが、中小 都市への輸送に限られる。
●急増する国際/大陸間輸送需要に応えるた め、四〇年前に一般的であったような最大級 の航空機、ギガライナー(超大型トラック)、 貨物列車、船などの巨大運搬装置が使われる。
MAY 2012   42 い。
●リサイクルの流れは加速する。
ロジスティク ス企業は新品の印刷カートリッジを運ぶだけ でなく、使用済み製品の回収も行う。
●生産主体の分散化で、各地域でのロジスティ クス機能とラストワンマイル・ネットワーク の充実がきわめて大きな成功要因となる。
●設計図が取引されるオンラインマーケットに 参入するロジスティクス企業もある。
海賊版 の脅威から、この成長市場は安全なオンライ オフライン・セグメントは生産の ための原材料輸送とリバースロ ジスティクスである。
一方安全な インターネット・インフラを基盤 とするオンライン・セグメントに は、データ配信とオンラインショ ップでのデータ販売が含まれる。
●3D印刷用カートリッジの生産 者や都心の印刷ショップ向けに 原材料を運ぶ需要が増える。
プラ スチックグラニュール、メタルダ スト、多種多様なバイオ材料など のこうした原材料は、目的地の港 まで船で運ばれ、そこから列車や トラックで地元の製造所や印刷 所へ配送される。
●カートリッジの製造と補給をす る業者はすべての都市、もしくは 町ごとにある。
●生産計画と密接に結びついたロ ジスティクス・プランニングは先 進的なサービス産業にまで発展 する。
高度で複雑な製品の生産において、ロジ スティクス企業はモノに関するすべてのバリ ューチェーンを管理する。
そしてアセットを あまり持たないプロダクトデザイン会社、ア セットが豊富かつフレキシブルな下請工場、 そして地元の運送会社のあいだを調整するシ ステムインテグレーターとしての役割を果た す。
さらに、生産・デザインの設計図の通信 に必要な暗号化されたデータも取り扱う。
し かしこの分野ではICT企業との競争が激し  セキュリティにフォーカスした規制は、特に IP保護とデータ管理の分野で技術進歩と消費 者行動の後追いとなることが多い。
適切な組織 とインフラを備えた発展途上国では、新たな生 産技術は伝統的な生産技術パターンを更新する 好機となる。
世界中の多くの人がいまやプロダ クトデザイナーとして暮らしている。
しかし一 方、製造業におけるブルーカラーの仕事の多く が失われた。
そして低賃金のサービスセクター で働く人びとにとり、生活は依然厳しい。
広範囲 にわたるカスタマイズされた製品の生産で、エ ネルギーと原材料の全体的な消費量は増える。
その結果、温室効果ガスが増加する。
世紀の終 わりには、地球の平均気温が三・五度上がると されている。
ロジスティクス産業への影響 ●モノの生産プロセスが劇的に変わる。
多くの 家庭には3Dプリンターがある。
比較的小さ めで複雑ではないものは家庭で作られる。
設 計図も自分でデザインするか、あるいはオン ラインショップで購入する。
●サイズが大きかったり材料が多岐にわたるも のにはもっと専門的な生産技術が用いられ、 専門店や工場で生産される。
●過去数十年と比較するとサプライチェーンは かなり統合されている。
このバリューチェー ンの統合と地域化により、最終製品もしくは その手前の製品の長距離輸送需要は急減し た。
同様に航空輸送の需要も減っている。
●大まかに言えば、二〇五〇年のロジスティク スはオンラインとオフラインに分けられる。
Delivering Tomorrow:Logistics 2050 43  MAY 2012 な取り組みは行われず、いくつかの国々が時々 思いつきのように実行する対策はほとんど効果 がない。
気候変動が続き、世紀の終わりには気 温が三・五度上がるとされている。
ロジスティクス産業への影響 ●ロジスティクス企業が直面する最大の課題 は、世界貿易の沈滞と分散化、その結果とし てのサプライチェーンの地域化である。
他の 経済ブロック市場へ参入するのは不可能に近 い。
●平均輸送距離は減少する。
海上輸送の位置づ けが低下する一方、地域の陸上および鉄道輸 送の重要度が高まる。
●経済構造の変化により、グローバル・ロジステ ィクス企業の活動領域は大きく制限される。
関税障壁と輸入制限で輸出入は振るわない。
そのため国際輸送とエクスプレスのセグメン トは大幅な縮小と統廃合を迫られる。
●グローバルに展開していた企業の規模は以前 にくらべてだいぶ小さくなる。
一方、同じ経 済ブロック内の取引と国内市場が重要性を増 す。
国際貿易は主に同じ経済ブロック内の加 盟国同士で行われる。
●行政や公的機関と密着した地元の有力企業が 現れる。
行政側はロジスティクスが戦略的重 要性を持つと評価するようになる。
こうした 有力企業は多くの国々で国営化される傾向が ある。
●経済ブロック同士や国際間の緊張が高まる と、ブロックに所属しない国々のロジスティ クス企業が、知識経験のみならず国際貿易の ョンは後退した。
多くの国が保護貿易障壁を引 き上げ、世界の貿易量は減少。
政治的には過剰な ナショナリズムが世界中を席捲する。
保護貿易 主義の世界で第二世代が成人するにつれ、自由 貿易の良き記憶は人びとの記憶から遠のきつつ ある。
いまだに国際間で貿易される原材料もあ るが、取引は主に各地域の経済ブロック内に限 られる。
同様にサプライチェーンもほぼ完全に 地域化している。
とりわけヨーロッパやアジア では高齢化社会への対策に資金が費消され、貿 易活動はインフラとメンテナンス の欠如に阻害されている。
こうした 情勢によって国際関係の仕事は激 減し、全体の生産性は低下する。
技 術の進歩も停滞する。
アウターネッ トが導入されたが、国や地域間での 互換性の問題が相当発生している。
 資源は不足する。
というのも新た に開発される鉱床からの産出量は 少なく、代替品の開発調査もめった に成果が出ないからだ。
保護貿易主 義と生産性の低下が資源不足に追 い討ちをかける。
伝統的工業国の多 くで収入が減りその他の国々の成 長が明らかに減速しても、モノを消 費するのがあたりまえという習慣 は抜けない。
 経済ブロック同士の関係は芳し くない。
エネルギー価格の高騰と不 足の深刻化が資源採掘をめぐる国 際間の軋轢に油を注ぐ。
こうした情 勢下、温室ガス排出削減への国際的 ンでの取引に依存せざるをえない。
長年デジ タル情報のやり取りをしてきた経験から、こ のマーケットセグメントで大成功するロジス ティクス企業も現れる。
シナリオ4 麻痺状態を招く保護貿易主義 ヴィジョン  経済危機が引き金となってグローバリゼーシ MAY 2012   44 ルを駆使した効率的原材料で供給の安全性は高 まる。
同様に、消費する側も効率的原料を用い た耐用年数の長い製品に着目するようになる。
ロジスティクス産業への影響 ●回復力を備えた二〇五〇年の世界では、不測 の事態が発生しても輸送は途絶させないロジ スティクス・セクターの貢献で、域内貿易が 盛んになっている。
●経済活動の地域化でハブアンドスポークとい にとっては、こうした交換にともなう配送と いうニッチな領域の仕事が発生する。
シナリオ5 グローバルな回復力──地域の適応 ヴィジョン  二一世紀初頭の一〇年間はエネルギー価格の 安定と安価な自動化生産により消費レベルが向 上した。
それによって気候変動が進んで異常気 象が増え、数多くの大災害を引き起こした。
世 界経済に貢献していたオートメーション化され た巨大サプライチェーンが、実は非常に脆いも のだったということが露呈する。
頻繁に発生す るカタストロフによりリーン生産システムは破 壊され、あらゆる製品の供給が滞るのも日常茶 飯事となる。
このように不安定な世界では、コ ストを最適化したサプライチェーンにもはや存 在の余地はない。
 こうしたことから政財界のリーダーたちの考 え方が変わる。
これまでの効率最大化ではなく、 脆弱性克服と回復力の重視が経済に対する新し い考え方の特徴となる。
遊休部分の多い生産シ ステムとサプライチェーンの地域化で、世界経 済が気候問題で打撃を受ける頻度は減る。
 同じ経済ブロックに属する国々は、安全供給 をめざして災害復旧スキームに共同で取り組 む。
人工知能によって技術は柔軟性を増す。
相互 に接続された機械の群知能(SI)が、予期せ ぬ突然の事態に素早く対応する。
いまでは生産 現場やインフラは需要パターンにしたがって稼 働・停止を繰り返す。
省エネルギーとリサイク 仲介業務を担いうるという信頼性をも獲得す るようになる。
●通関プロセスの煩雑化と長時間化により、専 門的な乙仲業務への需要が増え、そこにコン サルティング・サービスの進出する余地が生 まれる。
●比較的単純で短い地域的なサプライチェーン では、精緻かつ高度なロジスティクス・ソリ ューションの必要性は低下する。
多くの人が “ロジスティクス産業の格下げ”と呼ぶ現象 は、ソリューションのカスタマイズの減少と サービスの標準化をもたらした。
●昔ながらの郵便物の配達はどこでも頻度が減 り、効率性を重んじて他の配達と一緒にされ ることが多い。
●ブロック間のデータ通信が厳しく規制される ため、遠距離通信の手段として手紙類がある 程度復権する。
●資源不足で必要不可欠な原材料の入手が不安 定となり、多くの国々で徹底的なリサイクル が行われる。
そのためリバースロジスティク スがロジスティクス企業の成長の柱のひとつ として浮上する。
●収入の減少で購買行動が変化して寿命の短い 商品の消費が減り、再利用や補修がさかんに 行われるようになる。
より長持ちして修理可 能なものが増え、ロジスティクス企業にとっ ては保守・返品サービスというビジネスチャ ンスが生まれる。
●交換と再利用が盛んになる地域も出てきて、 eBayのようなローカルの“不要品交換会” ネットワークができる。
ロジスティクス企業 Delivering Tomorrow:Logistics 2050 45  MAY 2012 ●緊急輸送の必要性は劇的に低下する。
生産者 が必要なパーツをすべて在庫するようにな り、スペアパーツの当日・翌日配送はあまり 行われなくなる。
●しかし同時に、災害時に救援物資を緊急輸送 することが非常に重要になる。
世界の多くの 地域で混乱や災害が日常的に発生するため機 敏な救援活動が優先事項となり、儲かるビジ ネスとなる。
●国々が危機に直面した際、エマージェンシー・ ロジスティクス企業は広範囲にわたって災害 支援サービスを提供する。
これにはライフラ インの復旧だけでなく、救援物資の搬入、危 険にさらされている人びとの避難、ダメージ を受けた地域の洗浄、災害地域および周辺の 損傷した建物やインフラの再建などが含まれ る。
●さらに、ロジスティクス企業は災害や破壊後、 すみやかに製造所を再開するコンサルティン グ・サービスを提供する。
●消費レベルの低下と長持ちする製品への嗜好 で、各家庭への配送頻度は落ちる。
だが発電 機など、家庭で使用する機器のサービスとメ ンテナンスの必要は高まる。
したがって希少 資源リサイクルのために使用済み製品を回収 するなど、ロジスティクス企業はラストワン マイルのオペレーションに届け先での技術サ ービスを組み込む。
●オンラインシステムが機能しない場合のコミ ュニケーション・サービスのバックアップと して、ラストワンマイルの配送網が維持され る地域も出てくる。
である。
●とはいえ国際的大企業は引きつづき主要な役 割を担う。
不安定かつ危険な状況でも確実な 輸送を保証し、脆弱なサプライチェーンをバ ックアップするインフラと機械設備を備える には、大企業の資本力が必要であるからだ。
●サプライチェーンの回復力を最大限維持する ため、つまりいざという時ただちに輸送モー ドを変換できるよう、ロジスティクス企業は  莫大な遊休キャパシティを保持  する。
●自然的・人為的リスクが高まり、 ガス・石油・水のパイプラインさ え脆弱であるとみなされるよう になる。
万が一に備えトラック・ 鉄道・船が待機する。
●しかしこうした万全のバックア ップシステムはアセット負担が 重く、炭素排出量削減という目 的にも沿わない。
排出量を減ら し、しかもエネルギー効率とサ プライチェーンの回復力を両立 させるため、キャパシティの使 用効率を高める高度なロジステ ィクス・プランニングが活用さ れる。
●リスク低減がもとめられて複雑 なジャストインタイム・デリバ リーは姿を消す。
それに代わり 製造者の近隣に位置する巨大倉 庫が欠かせないバッファーとな る。
うアーキテクチャーは変化した。
グローバル ハブはもはや昔日の栄光を失った。
とって代 わったのは安全な地域にある数多くの地方ハ ブである。
●サプライチェーンの地域化でグローバル・ロ ジスティクス企業の役割はどう変わるか?  ひとつ言えることは、多数のサプライヤーか らの少量・短距離輸送は、その地域や地元資 本のロジスティクス企業に有利だということ

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