ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2012年5号
現場改善
第112回 建材卸W社のドライバー不足と在庫管理

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2012  68 ドライバー人材の枯渇  建築資材卸のW社は関東に本社を置く年商約 二〇億円の二次卸である。
東京、神奈川、千 葉、埼玉を商圏とし、商物一致の営業体制を 敷いている。
一〇〇年近い社歴を持つ老舗であ り、安定した経営を続けてきた。
とりわけ近年 は通販事業の立ち上げが奏功し、年率一〇%近 いペースで売り上げが伸びている。
 それもあって、配送ドライバーが不足してい た。
募集はかけているのだが、思うように人が 集まらない。
人手不足から約二万アイテムにも 及ぶ在庫の管理も疎かになっていた。
現場の整 理・整頓さえ十分とは言えない状態だった。
 
彈劼瞭鸞緻楫弍勅圓任△襭亮卍垢らホーム ページ経由で問い合わせを受け、後日、同社を 訪問することになった。
W社の本社事務所は、 木造の一軒家が多く残る下町にあった。
大手の ゼネコンやハウスメーカーよりも地場の建設会 社や工務店が好まれる土地柄である。
W社の社 屋に近づいていくと、ショップ型のファザード (入り口)が先ず目に入った。
周辺の職人達が 現場への行き帰りに道具類を調達していくので あろう。
地域と共にW社が歩んできたことを推 察できた。
 出迎えてくれたN社長は我々が想像していた よりもずっと若く、フレッシュな人物であった。
学校を卒業して数年ほどサラリーマン生活を送 った後、先代の創業社長の娘婿として養子に入 り、W社を継ぐことになった。
それまでN社長 は企業経営に関わった経験はなく、先代から経 営の手ほどきを受けたこともなかったという。
 様々な試行錯誤を繰り返しながら現在に至っ ていることは、N社長の経歴だけでなく、事 務所の様子からも窺い知ることができた。
残骸 となってしまった新旧のパンフレットとカタロ グの山、万屋のような様々なセールスフレーズ がペイントされた看板、そしてショップ型の本 社事務所などが、卸売りへの特化と小売りへ の参入の間で、W社が揺れ動いてきたことを物 語っていた。
 
亮卍垢鷲者に対して「売り上げが増加して いくなかでドライバー不足が深刻になっている。
色々な物流会社にも相談しているが、これと言 った具体策が見つからない」という。
そこで何 か打つ手がないかを聞きかったとのことであっ た。
 相談内容自体はすぐに理解できた。
しかし、 事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表  建築資材卸のW社は、当日納品と豊富な品揃えを武器に 安定経営を続けてきた。
しかし、同社の課題もそこにあっ た。
売り上げの増加によってドライバー不足が深刻化、増加 する一方のアイテム数を管理するノウハウも欠いていた。
先 代の後を継いだ若き二代目社長は頭を抱えていた。
建材卸W社のドライバー不足と在庫管理 第112 回 あおき・しょういち  1964年生まれ。
京都産業 大学経済学部卒業。
大手運 送業者のセールスドライバー を経て、89年に船井総合研 究所入社。
物流開発チーム・ トラックチームチーフを務め る。
96年、独立。
日本ロジファ クトリーを設立し代表に就任。
現在に至る。
主な著書に『経 営のテコ入れは物流改善から』 明日香出版社、『物流のしく み』(同文館出版)などがある。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp PROFILE 69  MAY 2012 なぜW社が売り上げを増加させているのか、N 社長とのやり取りからは、納得のいく要因を見 つけることができなかった。
ショップ型の本社 脇には資材や部品、道具類が無作為に置かれて いた。
小売りへの展開が上手くいっているよう には見えなかった。
 後から分かったのだが、W社の増収要因の一 つは残存者利益であった。
バブル崩壊以降、建 設需要の低迷が長く続き、周辺の建材卸が一つ ひとつ姿を消していったことで、自然と老舗の W社に注文が集まった。
 もう一つは物流サービスであった。
地場の建 設会社や工務店にカタログを配布し、電話で注 文を受けて、当日に現場に届ける。
業態として は通販でも、同業界では伝統的に行われてきた サービスなのだが、古くからの同業者が消えて いくなかで、これがいつしか武器になっていっ たのである。
 それだけに配送ドライバーの確保は、W社に とって重要な課題であった。
しかし、求人チ ラシやサイトを使って、地元で経験者を募集し ても問い合わせすらないことは明らかであった。
現在の一人前の仕事ができる平車両のドライバ ーは全国的に枯渇している。
とりわけW社周辺 のエリアではその傾向が顕著である。
地元の運 送会社に継続契約で増車を要請しても相当な運 賃を支払わない限り断られるのがオチであった。
 そこで我々日本ロジファクトリー(NLF) のネットワークを使って、軽貨物会社に車両を 持ち込んで営業した経験のある個人事業主、い わゆる一人親方のOBの採用を狙うことにし た。
それが決まるまでの間は応急措置として、 既存の物流会社にスポットでの増車をかけるほ か、また以前にW社が横持ち輸送に使用してい た自社車両、平ボディ二t十三尺(荷台約四メ ートル)が空いていたため、そこに派遣ドライ バーを調達することで一台を成立させた。
 
彈劼箸靴討癲△海譴泙覗瓦手を打っていな かったわけではなかった。
過去に同様のドライ バー不足に陥った時には、営業、事務、仕入れ の担当の垣根を取り払い、繁忙期は誰もがトラ ックに乗るように仕向けていた。
また車両サイ ズも物量と発注品の荷姿にあわせて平ボディ一 辺倒ではなく、一tのバン車やワゴン車、軽車 両など車種を増やしていた。
 こうした対策をフル活用すれば、持ち込み軽 貨物OBの採用が決まるまでの期間を凌ぐこと は可能であることを伝えた。
滞留在庫の皮肉な効用  続いて在庫問題に移った。
我々が現場を視察 したところ、本社倉庫、本社近くの物流センタ ー、外部の賃貸倉庫とも、基本的な整理・整 頓さえできていなかった。
ルールのない状態で 在庫が分散し、しかも埃をかぶった滞留在庫が 多かった。
そのために出荷品の埃の?拭き係? が成り立っていたほどである。
 さらに確認を進めると、在庫量は概算で、A ランク品が三〇日分、B・Cランクが約六〇日、 Dランク以下になると一八〇日分以上という状 態であった。
聞けば商品の改廃は長らく行って いないという。
また実地棚卸しは決算時の年一 回だけとのことだった。
相当な在庫差異が発生 していることが予想できた。
しかも、その状態 では月次(損益)決算さえできないことをN社 長に伝えた。
在庫改善の5ステップ 欠品の防止 廃棄損の削減 (期限切れ・陳腐化) かかる手間の削減 営業メリットの最大化 利益の極大化 1 2 3 4 5 STEP 実施項目達成目標実施方法 必要なものを十分に持つ 発注ミスの防止 リードタイムの短縮 不要なものは仕入れない (実需に基づかない仕入れの防止) 仕入れたものを確実に売切る努力 実地在庫棚卸しの廃止 即時納期回答の実現 自動化/ 外注化 売りたいものを安心して 売れる仕組みづくり 売れる製品を作り、 売れる時期に売り切る ABC 分析による基本在庫量の設定 自動発注(EDI・EOS)の実施 発注者の専任者化 アイテムの絞り込み 発注タイミングの標準化(定期・定時発注) 期限管理の徹底(単品ベース・lot 管理) 需要予測の精度向上(DRP・MRPの実施) 入出荷情報の一元管理実現 ワンウェイオペレーション(重複作業の防止) マーケティングに応じた後方支援体制の整備 予実管理の徹底(±5% 以内) 売上計画と同時に仕入計画を設定する SCMの実現(流通在庫の最小化) →製販が同じ情報を持って仕事に臨む MAY 2012  70  このように、W社は在庫管理が全くと言って よいほどできていなかった。
ところが、このア バウトかつムダだらけの在庫管理が、時には効 力を発揮することがあった。
とりわけ昨年の震 災後には全国的な評判を呼ぶことになったので ある。
 「他の卸にはない資材がW社にはある」「品が ないとあきらめていたモノが、ダメもとでW社 に電話をかけたところ、何と一〇個も手に入っ た」「メーカーから廃番になったと知らされて いた部品がW社にはあった」という噂が口コミ で業界に広がり、日本全国から多くの引き合い が入った。
 もちろん引き合いのあった商品を全て供給で きたわけではない。
欠品によって断る場合も多 かった。
それでも、本来ならないはずの商品を W社が在庫していることは少なくなかった。
そ の大半は仕入れを行って時間が経過したもの、 要するに古い製品で、通常ならDランク以下に 分類されてメーカー返品(メーカー側でも受け 付ける期限を設けている)か、廃棄処分となる シロモノである。
 これもまた、物流サービスと並ぶW社の武器 であった。
卸、しかも二次卸で、当日納品を 強みに生業を立ててきたW社にとって「在庫 は悪」ではなかった。
一般の在庫管理ルールよ りも多い在庫を持たなければ即納ができないし、 欠品を防げない。
それはW社の?負け?を意味 する。
大手や同業者との差別化が図れなくなる からだ。
 
彈劼通常よりも多い在庫を持つことを、我々 NLFも否定するつもりはなかった。
だからと いって、W社のそれまでの在庫管理が正当化さ れるわけでもない。
?在庫差異の解消、?各 アイテムのランク付け、?保管方法の改善、? マスター管理の徹底などは、当然ながら改善し なければならない。
実地棚卸しができない  ?の在庫差異問題については、実地棚卸し を年一回ではなく月一回、循環棚卸方式で三 カ月で全アイテムを一巡(全品)するよう提案 した。
しかし、N社長は、「今まで商品を数え たこともない素人の社員達では難しい」と難色 を示した。
そこで、外注費の予算化を条件に、 棚卸し専門会社への委託によって第一回目の棚 卸しを実行した。
 しかし、この試みは誰にとってもプラスにな らない結果に終わった。
事前に概算で見積りは とっていたものの、予想外の在庫の多さから、 実際には当初予算の一・五倍もの経費がかかっ てしまったのである。
 しかも、業務を委託された側の棚卸し会社は、 在庫の保管状態が悪いために正しく商品をカウ ントできていないという。
手間がかかり終了の 時間が遅くなっただけではなく、棚卸し精度に も問題が残った。
結局、二回目からは手順を覚 えながら、自社で行うことになった。
 ?各アイテムのランク付けは、既述の通り、W 社では売れ筋商品が品薄状態にあり、あまり売 れない、もしくはほとんど売れない商品の在庫 が莫大に残っていた。
それが全体の在庫増を押 し上げていた。
W社に限らず、多くの会社に見 られる傾向だが、W社の場合はとくに顕著であ った。
 在庫量を適正化するためには、まず出荷頻 度でアイテムを分類する必要があった。
W社の 取り扱いの大半は、物理的にバーコードシール を貼ることのできない商品であった。
システム 上の出荷情報は伝票からの手入力であり、入力 精度には不安があったが、このデータを使う以 外に現実的な方法はなかった。
 通常、出荷頻度分析では、AランクとCラン ク以下のアイテムについては、担当者の?勘ピ ューター?が働く。
日頃の処理経験から大まか な区分けはできる。
データ分析はそれを裏付け るだけである。
 問題はBランクである。
昔は良く売れていた が今ではほとんど売れていない、あるいは新商 品で取扱期間が短く、出荷動向がまだはっきり していないといった商品が多い。
ここは数字を 詳しく見る必要がある。
実際、担当者の思い込 みと実際の売れ方に驚くほどのギャップの出る ことが多い。
 また、メーカーや小売業におけるABC分析 には一般に、パレートの法則と言われる二〇: 八〇の構成比ルールが適用される。
上位二〇% の商品が売上全体の八〇%を占めるため、その ラインをAランクと設定するのである。
 ところが卸売業には、この法則が必ずしも当 てはまらない。
取扱アイテム数が多いことに加 え、中間流通としてバッファー機能を果たす必 要があるからだ。
そのため卸におけるABC分 71  MAY 2012 析では、売上構成比で上位五〇%のラインをA ランクとして仮決めすることが多い。
 ?保管方法の改善は、棚卸し作業の改善の ためにも必須であった。
まずはAランク商品と Bランク商品を物流センターに集約、Cランク 以下の在庫を本社倉庫に集約して、外部倉庫 を解約することとした。
 そしてケース単位の大ロット品の保管は、パ レット用ラック「ネステナー」の二段積み。
小 ロットのケース品とバラ(ピース)には中量ラ ックと軽量ラックを使用した。
長尺物はオリジ ナルのラックで枠組みし、立てかける状態で保 管することで、棚卸時にも数量をカウントしや すいように収納した。
社長が在庫管理の担当者に  在庫の移動と共に、キャッシュ・アンド・キ ャリー方式の店頭販売は、場所を本社倉庫から 物流センターに移管することになった。
はじめ は不便さを訴える常連の職人もいた。
しかし、 物流センターは本社から近く、駐車エリアも備 えている。
 本社倉庫には駐車スペースがなく、商品の引 き渡しのために客の多くが路上駐車を余儀なく されていた。
それが物流センターに移ったこと で、駐車違反を心配せず、ゆっくりと商品を選 べるようになったため、次第に受け入れられる ようになっていった。
 ?マスター管理の徹底については、精度の高 い商品情報の蓄積に向けて抜本的に手を入れる ことにした。
そのために仕入先の各メーカーに 商品マスターのデータ提供を求めた。
ところが、 これが覚束ない。
管理精度の疑わしいメーカー が多く、データ自体が存在しないというメーカ ーもあった。
このテーマに関しては長期戦覚悟 で挑むほかなかった。
 こうして、我々は一連の取り組みをひとまず 完了した。
結局、W社においては一年以上に わたってまったく動いていないアイテムが全体 の約二五%を占めていた。
豊富な在庫がW社の 武器であることは事実だが、「戦略的に在庫を 多く持つ」ことと「成り行きで在庫を多く抱え ている」ことには大きな違いがある。
 そのことを我々はN社長に強く訴え、アイテ ムごとに適正在庫と発注点を設定するよう、一 連の取り組みを通じて繰り返しアドバイスした。
しかしながら、W社のスタッフには、それを実 施するスキルを持った人材は見当たらなかった。
結果的にN社長自身が在庫管理の当事者とな らざるを得なかった。
 これが思わぬ副産物を生んだ。
在庫管理を通 じて、通販事業の商品を選択するN社長の目利 きが磨かれたのだ。
三カ月に一度の在庫のメン テナンスもルール化され、欠品を発生させない 体制も整った。
こうして、改善に向けた流れが できあがったことを確認し、我々はW社の任務 を終えたのであった。

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