ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2012年5号
物流行政を斬る
第14回 LCC時代がついに幕開け国内市場の食い合いを避け、アジアのハブ機能奪回を急げ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2012  74 低価格支えるコスト管理  今年三月、わが国初となる本格的な格安航空会 社(LCC)、ピーチ・アビエーション(ピーチ社) がサービスを開始した。
関西国際空港(関空)を拠 点に、三月一日に札幌線、福岡線が就航したのを 皮切りに、二五日には長崎線もお目見えした。
 ピーチ社発表によると、三月の同社の平均搭乗率 は八三%だった。
長崎線でトラブルが発生し欠航が 相次ぐなど今後の課題は残されるものの、従来の大 手空港会社(FSA:フルラインサービスエアライ ン)の平均搭乗率が高くても七〇%前後であるなか、 まずまずの滑り出しと言ってよいだろう。
 ピーチ社に続き、日本航空(JAL)が出資する ジェットスター・ジャパンが七月に全日空(ANA) が出資するエアアジア・ジャパンが八月に、運航を 開始する。
欧米に遅れること二〇年、ようやくわが 国もLCC時代を迎えた。
今後、航空業界の勢力 図が大きく様変わりすると予想される。
 
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例え ば関空─福岡空港の片道料金を見ると、大手のF SAの約二万二〇〇〇円に比べ、ピーチ社の料金は LCC時代がついに幕開け 国内市場の食い合いを避け、 アジアのハブ機能奪回を急げ  欧米から遅れること二〇年、日本でもようやくLCC (格安航空会社)が就航した。
利用者の選択肢が広がるこ とは歓迎すべきだが、既存の国内航空会社とのシェアの食 い合いは市場縮小を招くだけ。
視点をアジア全域にまで広 げ、LCCをハブ機能奪回の契機とすべきだ。
第14 回 最安値で三七八〇円と圧倒的な低価格である。
新 幹線料金(新大阪─博多で片道約一万四〇〇〇円) と比較しても、十分な競争力を有している。
 ここまで格安な料金を実現するため、LCCは 様々なコストを徹底的に削減している。
代表的な低 コスト策は以下の通りである。
?運航コストの削減  機材は基本的に一機種に統一。
これにより、メン テナンスの際の部品を共通化できる。
さらに、パイ ロット、客室乗務員、メンテナンス要員の訓練コス トも抑えられる。
そして、その機材を可能な限り高 回転させ、一運航当たりのコストを下げている。
 機内でも合理化が図られている。
座席間隔は詰ま っており、より多くの乗客を収容できるよう設計さ れている。
機内誌や新聞等のサービスは無く、出さ れる飲み物や食事、毛布の使用やビデオ鑑賞等は有 料。
最低限の設備と人員で運航をしている。
 また、機内に荷物を持ち込む際も料金を取られる (ピーチ社の場合、一個〈二〇?まで〉一〇五〇円)。
さらに、乗客にボーディングブリッジでなくタラッ プを使用してもらったり、LCC専用ターミナルを 使用したりすることで、運航コストを削減している。
?チケットのネット販売  旅行代理店を使わず、乗客自らインターネット により予約を行う。
キャンペーンの実施もネットを 介して周知している。
マイレージサービスは行わず、 一度購入したチケットの払い戻し条件も厳しい。
ピ ーチ社の場合はキャンセル不可となっている。
?人件費の削減  パイロットや客室乗務員の訓練コストを削減すべ く、新卒採用ではなく、既に訓練された他社のパイ ロット及び乗務員を積極的に雇っている。
整備業務 は他社に外注し、機内の清掃は客室乗務員自身が行 っている。
パイロット、客室乗務員を含む社員の給 料及び待遇に要するコスト全般も引き下げられてお り、場合によっては業務で使う制服を有料配布する ケースもある。
?第二地方空港の活用  着陸料が安く、比較的大都市に近い地方空港を 活用する。
最近ではLCC誘致に積極的な地方空 港が多く、こうした空港から破格の条件を引き出し ている。
こうした空港はFSAが利用しないため、 カウンターや発着枠の制約も少なく、LCCが自由 に使うことができる。
物流行政を斬る 産業能率大学 経営学部 准教授 (財)流通経済研究所 客員研究員 寺嶋正尚 75  MAY 2012   このように、LCCはこれまでのFSAとは全く 異なるビジネスモデルであることが分かる。
サービ スレベルはFSAよりも低いが、乗客はそれを承知 の上で低価格を選好している。
実際、ピーチ社が運 航を開始する前の二月上旬にJTBが行ったインタ ーネット調査を見ると、四二%の消費者が「乗りた い」と回答している。
なかでも二〇代以下では過半 数が「乗りたい」としている。
他の輸送機関とのバランスも考慮  
味達辰誕生し、わが国の航空市場が活性化さ れることは望ましいことである。
消費者は高サービ ス・高価格のFSA、低サービス・低価格のLC C、その中庸型というように、様々なタイプのサー ビスを取捨選択することができるようになる。
 しかし現状の市場規模のままLCCが隆盛を誇 れば、その分FSAが割を食う構図になる。
いわ ゆる?カニバリ?である。
ANAにしても、LC Cを二社抱えるが、本来業務のFSAのシェアが 食われる形でLCCが売り上げを伸ばしていく可 能性も否定できない。
 これを避けるには、全体としてパイの拡大が必 要になる。
しかし、既に人口減少社会を迎えたわ が国の場合、何らかの施策を早期に実施しなけれ ば、じり貧になるのは目に見えている。
乗客を増 やすには、?一人当たりの旅行あるいは出張回数 を増やす、?海外の航空会社からのシフトを見込 む、?鉄道や船利用者からの流入を見込む、など の方法が考えられるが、特に?を強化すべきだろ う。
 例えば、現在は日本の顧客が韓国の仁川空港を 経由して諸外国に出かけているが、今後はその逆 の流れを作らなければならない。
韓国の顧客を日 本のLCCが成田あるいは関空まで乗せ、そこか ら世界各地に飛ばす。
つまり、ハブ機能を我が国 の空港に持たせるのだ。
 ピーチ社は、今年五月から関空─仁川空港を結 ぶ便を片道五二八〇〜二万三九八〇円で提供する としたが、これはそうした需要の掘り起こしに貢 献できる可能性があると期待できる。
このような 動きがさらに活発になり、韓国だけでなく、中国、 台湾等の顧客を日本に呼び寄せない限り、日本の 航空市場の縮小基調は免れない。
 これを実現するためには、行政によるサポート が不可欠だ。
空港使用料や着陸料の引き下げなど 検討課題は多いが、特に早急に手を打つべきは空 港数の整理だろう。
わが国に地方空港が多すぎるこ とは以前本欄でも記した(一一年十一月号)が、こ うした状況を放置したままでは少ない需要を奪い合 うケースが繰り広げられ、いずれは価格競争に陥る。
 適切な数のより大型化した空港を整備し、そこか ら地方都市へ繋がるバスや電車といったインフラを 充実させるなど、航空以外の輸送機関も含めた全 体としてのグランドデザインを描くことが重要だろ う。
LCCが就航するのは、福岡、札幌、長崎な ど地方の中核都市のみである。
地方中核都市とそ の他の地方都市を他の輸送機関で結ぶことで、より 多くの人が恩恵を受けることができる。
 同時に、LCCと競合する他の輸送機関への影響 も考慮する必要がある。
LCCが破格の料金でサー ビスを行えば、これまで安さが売りだったフェリー や高速バスは打撃を被る。
適度な価格競争は望まし いが、こうした輸送機関をどう位置づけ、場合によ ってはどう補助していくのかも議論が必要だろう。
 さらに現在再建途上にあるJALをどうするか、 という問題も考えなければならない。
同社もLCC を設立するが、元々はFSA主体である。
LCC が儲かれば儲かるほどJAL本体の業績が傾くこと のないよう、JALの経営立て直しの中でLCCと いう変動要因をどう位置づけて行くかを考えなけれ ばならない。
てらしま・まさなお 富士総合研究所、 流通経済研究所を経て現職。
日本物 流学会理事。
客員を務める流通経済研 究所では、最寄品メーカー及び物流業 者向けの研究会「ロジスティクス&チャ ネル戦略研究会」を主宰。
著書に『事 例で学ぶ物流戦略(白桃書房)』など。
わが国におけるLCC3 社 ピーチ・ アビエーション エアアジア・ ジャパン ジェットスター・ ジャパン ANA39%、ファースト イースタン・インベスト メントグループ33%、 産業革新機構28% 福岡、札幌、長崎、 鹿児島、沖縄、ソウ ル、香港、台北 福岡、札幌、沖縄、 ソウル、釜山 福岡、関西、沖縄、 札幌、近距離アジア 2012 年内に7 機、 5 年後に20 機体制 2012 年内に4 機、 5年後に30機超体 制 2012 年内に3 機、 3 年後をメドに、24 機体制 当面、国内線はエア ロプラザ、国際線は 既存の関空ターミナ ルを使用。
12 年秋か らピーチ用のLCCター ミナル使用開始。
国内線はエアアジア 用暫定ターミナル(着 工中)、国際線は既 存の成田第2ターミ ナルを使用。
成田の LCC 専用センターミ ナル建設を要望中。
国内線、国際線とも 成田第2ターミナルを 使用(国内線はJAL 施設と供用)。
将来は 成田のLCC専門ター ミナル建設を要望中。
ジェットスターグループ 33%、JAL33%、三 菱商事17%、東京セ ンチュリーリース17% ANA67%、 エアアジア33% 関西空港成田空港成田空港 2012 年3月2012 年8月予定2012 年7月予定 運航 開始 時期 拠点 空港 路線 計画機材計画空港施設 (出所)週刊東洋経済

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