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JUNE 2012 16
「物流生産性三倍の法則」を確認
物流現場の生産性調査を行った。 現場の作業実
績に関するアンケートを、本誌読者を中心とする約
二〇〇〇社に送付、本誌ホームページでも回答を
呼びかけ、計一七四社一九〇拠点の有効回答を得
た。 (詳しくは「調査の方法」参照)
同様の調査を本誌は約二年前(二〇一〇年六月
号掲載)にも実施している。 二回目となる今回の
調査目的は大きく二つ。 一つは、前回の分析結果
の信頼性の評価だ。 前回の調査で本誌は、「作業員
一人一時間当たりの処理行数」を物流生産性の指
標と位置付け、生産性の高い上位二〇%の「良い
現場=ベストプラクティス」と、それ以外の現場と
の比較を行った。 その結果、良い現場とそれ以外
の現場では、一般に考えられているよりもはるか
に大きな生産性の違いがあることが分かった。
ただし、庫内作業の効率は、作業条件に大きく
影響される。 その現場で取り扱っている荷物のタ
イプやアイテム数、注文ロット、サービスレベルや
サービス範囲によって、作業員一人一時間当たり
の処理行数は当然ながら違ってくる。 同じ業種・
業態の調査回答を比較しても、各拠点の生産性指
標は大きくバラついている。
その平均値をとった数字にどれだけの妥当性があ
るのか、一回だけの調査では確認はできなかった。
相対評価によって大まかな傾向をつかむことはで
きても、そこで算出した平均値の絶対値を、生産
性の目安にすることはためらわれた。 そこで前回
と同様の調査をもう一度実施し、二回の結果を比
較することで信頼性を評価することにした。
その結果は図1の通り。 前回調査と今回ではア
ンケートの回答母体が違うにもかかわらず、物流生
産性の水準には大きな違いは見られなかった。 生産
性の高いトップ二〇%の現場と、それ以外の現場、
そして全体平均との相対的な関係も同じだった。
業態別(図2)、拠点機能別(図3)、納品先別
(図4)の分析結果においても、トップ二〇%と全
体平均の差は前回と同様にそれぞれ約三倍だった。
「優れた現場は、普通の現場に比べて作業の生産性
が三倍高い」という前回調査の仮説には一定の妥
当性のあることが確認できた。
この発見は、物流現場管理の重要性を荷主企業
の経営層に再認識させることになるはずだ。 物流
現場の生産性が、どれだけ企業競争力に影響して
いるのか、従来は把握する方法がなかった。 同じ
業種のライバル企業同士であっても、物流拠点の
業務内容は異なっているため、その効率を厳密に
比較することはできない。 生産性の指標管理は、
同じ拠点の経年変化を見るか、もしくは同じ会社
の複数拠点間を比較するしかない。
しかし、二度にわたる物流生産性調査によって、
現場の作業効率の違いが企業業績に与える影響が
国内190 拠点の作業実態を分析
優れた現場は、普通の現場に比べて作業の生産性
が3倍も高い。 2度の調査によって、そのことが確認
できた。 同じ業界のライバル同士で、物流コスト比
率に大きな差があるのはなぜか。 3PLの利益率がな
ぜ二極化しているのか。 現場の生産性の違いによって、
その多くを説明できる。
図1 一人1時間当たりの処理行数
=物流生産性
60
50
40
30
20
10
0
11.1
(11.9)
20.6
(21.8)
(行) ※カッコ内の数値は前回調査
58.2
(63.2)
全体
平均
TOP
20
TOP
20外
全業態
解 説
特集
17 JUNE 2012
全体
平均
全体
平均
全体
平均
全体
平均
図2 業態別物流生産性
80
70
60
50
40
30
20
10
0
74.9
11.7
24.8
45.4
10.8
17.4
49.2
10.6
18.7
(行)
図3 納品先別物流生産性
80
70
60
50
40
30
20
10
0
13.5
25.4
41.2
10.4
17.1
38.4
9.9
16.0
TOP
20
TOP
20外
メーカー
全体
平均
TOP
20
TOP
20外
全体
平均
TOP
20
TOP
20外
卸売業小売り
全体
平均
(行)
40.0
11.5
16.3
TOP
20
TOP
20外
事務所/消費者宅
全体
平均
71.5
10.4
23.1
TOP
20
TOP
20外
その他及び混合
全体
平均
図4 拠点機能別物流生産性
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
43.1
11.1
17.4
4.1
17.3
94.0
17.9
33.1
(行)
63.4
TOP
20
TOP
20外
TOP
20
TOP
20外
TOP
20
TOP
20外
全体
平均
全体
平均
TOP
20
TOP
20外
TOP
20
TOP
20外
TOP
20
TOP
20外
製造業流通業物流業主に在庫型(DC) 主に通過型(TC) 混在型
76.1
生産性の違いがその主な原因であるのは明らかだ。
同じ案件を同じ料金で請け負っても、現場の生
産性次第でその案件は黒字にもなれば赤字にもな
る。 3PLにとっては、現場の運営能力と生産性
の向上ノウハウこそがコアコンピタンスであり、事
業の成否を分ける最大のカギになる。
収益性の低迷に苦しんでいる3PLは、事業運
営の比重が提案力や営業力に偏っている可能性が
ある。 継続的な生産性の向上を可能にする仕組み
作りを改めて検討する必要がある。 また、前回の
調査に続いて今回も、ベストプラクティスの現場と、
それ以外の現場で、スペックや運営方法にどのよ
うな違いがあるのかを比較した。 それを「拠点機
能・サービスレベル」、「改善手法・管理ツール」、
「マテハン機器・IT」に分けて本特集の「徹底比
較 良い現場 VS 普通の現場」のコーナーに掲載
した。 現場作りのヒントにして欲しい。
生産性が上がった現場を追跡調査
二回目となる今回の調査のもう一つの目的は追
跡調査だ。 前回調査と今回調査の両方に回答して
いる拠点のうち、生産性が大きく向上した拠点で
は、どのような管理を行っているのか、実際に現
場を取材してケーススタディを行った。
対象となる拠点の数自体が限られているうえ、回
答者にヒアリングを行い、生産性が向上した理由が
業務内容や物量などの環境変化によるものである
場合は対象外としたことから、多くの事例を採り
上げることはできなかった。 しかし、ケーススタデ
ィに登場した現場はいずれも物流改善に高い優先
順位を置いている?良い現場?であり、その取り
組みからは多くのことが学べる。
見えてきた。 物流コストの約六割は人件費だと言
われる。 その生産性に三倍もの開きがあれば、コ
スト効率の格差は決定的となる。 経営者が認識し
ている以上に物流現場の管理能力は、その会社の
競争力を左右している。
物流会社も同様だ。 本誌が毎年実施している3
PL調査(毎年九月号に掲載)によると、3PL
事業の営業利益率は「八%以上」と「三%未満」
への二極化が、年々進む傾向にある。 物流現場の
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