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JUNE 2012 20
高収益を支えるロジスティクス
名古屋に本社を置くオオサキメディカルは、ガー
ゼや脱脂綿といった医療材料および産科・婦人科製
品の製造販売を事業の柱としている。 なかでも分娩
時に必要な衛生用品等を詰め合わせた同社の「お産
セット」は全国の病院の産婦人科などで広く使用さ
れており、現在、同分野における国内シェアは約六
割に上る。 また、昨年には同業のスズランと資本業
務提携を締結。 これにより、両社のガーゼ類の国内
シェアは三〇%超、脱脂綿類は四〇%超と国内首位
グループに躍り出ている。
業績も好調に推移している。 直近三年で売上高は
三〇%以上アップし、二〇一一年一〇月期には一三
四億円を計上した。 今期はスズランとの提携効果も
あり、一七九億円を見込んでいる。
利益率も良好だ。 一一年一〇月期の営業利益率
は約六%だったが、これは同業のライバル企業より
も高い水準だ。 医療材料や産科製品は利益率の高い
医薬品とは異なり、薄利多売的な要素が強い。 オオ
サキメディカルの数値は異例と言える。
高い利益率の要因は何か。 同社の大崎将男社長は
次のように説明する。
「独自性のある商品群に加えて、一〇年ほど前か
らロジスティクスの概念を持ち込んだことが大きい。
人件費を除けば、企業で最も大きいコストは物流費
だ。 しかし、私が
入社する以前の当
社は物流が放置さ
れた状態だった。 こ
れから販売ネット
ワークを全国に広
げようというタイミングだったので、物流費は今後
ますます膨らんでいく。 物流効率化の成否が、当社
の経営全体を左右すると判断した」
メーカーの経営者としては珍しく、大崎社長(当
初は常務)は自ら先頭に立って物流改善を主導して
きた。 それまで社員が片手間で行っていた物流業務
をアウトソーシングし、物流コストを変動費化する
ことを基本理念に据えた。 ただし、全てを物流企業
に丸投げするのではなく、物流ネットワークの構築
や見直しには主体的に取り組み、庫内作業の改善ノ
ウハウも社内に蓄積していくよう管理を徹底した。
そして〇八年、愛知県岩倉市に同社の基幹物流
センターともいえる「中部物流センター」を開設し
た。 延べ床面積一九七〇坪の五層式で、約六〇〇
〇アイテムを在庫。 中部圏の納品先および全国の物
流拠点への配送拠点としての機能を有している。
同センターは物流拠点としての機能の他に、「岩
倉工場」としての顔も持つ。 一階と三階が物流機能
で二階と四階が工場機能、五階が事務所という構造
だ。 大崎社長は「工場と同じ建物に物流機能も併設
すれば、横持ち輸送がゼロになる。 また、それまで
に得た知見を基に設計をすることで、物流業務のさ
らなる効率化も実現できると考えた」と言う。
事実、このセンターには大崎社長のアイデアが詰
まっている。 その一つが一階の荷捌き場における空
間の有効利用だ。 通常の物流センターの場合、荷捌
き上の天井高も保管エリアと同様に設計されている。
しかし、荷捌き場にはそこまでの高さは必要なく、
上の空間が無駄になっているケースが多い。 そこで、
設計段階から荷捌き場の上に中二階を設け、流通加
工の作業場として活用している。
ダイフク製の自動倉庫も導入した。 物流と工場機
社長のアイデアが詰まった自動倉庫
──オオサキメディカル
メーカーとしては珍しく、経営トップが物流改善
を主導してきた。 2008年に開設した大型物流拠点で
は設計段階から参画し、マテハン選定も自ら行った。
庫内オペレーションは日立物流にアウトソーシングす
るものの、コスト管理の手綱は緩めない。 一方、現
場からの声には常に耳を傾け、必要な投資は継続す
るスタンスをとっている。 (石鍋 圭)
オオサキメディカルの
大崎将男社長
センター概要
延べ床面積 約1970 坪・5 層建て
在庫アイテム数 約6000
物流作業員 約70 人
1 人1 時間当たり平均処理行数
15.6 行(10 年比69.6%増)
マテハン 自動倉庫、ハンディ端末、WMS(パッケージ)など
管理手法 5S、ABC分析、フリーロケーションなど
事 例 研 究 生産性の上がった現場を訪ねる
特集
21 JUNE 2012
できる。
その理由の一
つが、日立物流
の作業範囲の拡
大だ。 当初の日
立物流の役割は
入出庫やピッキングといった物流作業がメーンだっ
たが、段階的にオオサキメディカルが自ら行ってい
た工場物流を委託し、今年の六月からは流通加工業
務も任せる予定だ。
現場を指揮する中部日立物流サービスの加藤裕也
中京第一営業部マネージャーは「作業対象が広がる
ことで、人員を有効に回すことができるようになっ
た。 作業や持ち場によって、忙しくなる時間帯は違
う。 適正な人員を適正な作業に投入することで、扱
う物量が増えても吸収できている」と語る。
優秀な現場作業員を育成するため、加藤マネー
ジャーは七つの評価項目を設定している。 半年に一
度、「スピード」「業務習熟度」「多能工レベル」「協
調性」「空き時間の対応能力」「向上心」「作業時間
外貢献度」について日立物流側の三人の社員が細か
く評価し、評価の高かった作業員については時給な
どの待遇面を上げる。 質の良い人材が長く働ける仕
組みを構築する狙いだ。
加藤マネージャーは「オオサキメディカルさんはあ
る意味で『簡単には儲けさせてくれない荷主』。 大
崎社長自らが物流を熟知し、少しでもコストに甘い
ところがあればすぐに指摘される。 ただ、厳しい側
面がある一方で、現場の声にも耳を傾けてくれ、深
い理解を示してくれる。 必要と判断すれば十分な投
資もしてくれる。 荷主企業と物流企業のあるべき関
係が築けているのでは」と語る。
能が混在する同センターには相性が良いという判断
からだ。 例えば、一階で製造に必要な部材を自動倉
庫に積み込み、四階の工場に上げる。 同時に、四階
で製造された商品を自動倉庫に積み、一階や三階の
在庫スペースに下ろすといったことが可能になる。
作業が効率化することに加え、自動倉庫がエレベー
タ機能を果たすことで、エレベータの設置台数を減
らすことにも繋がった。
自動倉庫自体にも工夫を凝らしている。 導入に際
し、当初は通常のパレット式の自動倉庫を検討して
いたが、大崎社長の発案でカゴ車をそのまま積み込
める仕様に変更した。 パレット式の場合、フォーク
リフトやそれを操縦するフォークマンを必要とする。
それに対し、オオサキメディカルが導入したカゴ車
仕様なら、女性作業員でも手作業で簡単に積み込み
や取り出しができる。
これにより、高額なフォークリフトやフォークマン
に対する投資を抑えられる。 さらに、自動倉庫の前
にフォークリフトを取り回すための広いスペースを設
ける必要も無く、倉庫面積をより有効に活用するこ
ともできる。 何より、パレットへの積み降ろしが発
生せず、在庫スペースから製造現場まで同じカゴ車
で移動することができる。 これが庫内オペレーショ
ンの利便性に大きく寄与している。
ただし、この自動倉庫は特注品のため初期投資は
高くついた。 カゴ車を止める鉄製のストッパーなど
も新たに開発する必要があったことなどもあり、パ
レット式の自動倉庫と比較した場合、導入コストに
約二〇%の開きがあった。 それでも、フォークへの
投資や作業効率などのメリットを考慮すれば三年で
ペイできると判断し、導入に踏み切った。
現場は日立物流が指揮
庫内オペレーションは日立物流に任せている。 コ
ンペで選んだ。 大崎社長は「私は色々とアイデアを
出すが、それを業務に落とし込むのは物流会社。 当
然、精度の高い現場力、システム対応、スタッフを
集めるためのブランド力などが必要になる。 そうい
った視点で見たとき、多少コストは高いが日立物流
の存在は頭一つ抜けていた」と説明する。
オオサキメディカルのビジネス拡大に伴い、センタ
ー開設から物量は一貫して増加し続けている。 加え
て、オオサキメディカルは同センターのバラ出荷比率
を徐々に高めている。 現場作業は年々、複雑性を増
している。 それに対して、日立物流が現場に投入し
ている作業人員や労働時間はほとんど変わっていな
い。 現場の生産性は向上していると判断することが
中部日立物流サービス
の加藤裕也中京第一営
業部マネージャー
ハンディ端末で出荷検品
現場からの提案により、ハンドリ
ングしやすい6 輪台車を導入
工場と物流拠点が共存
カゴ車をそのまま積める自動倉庫
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