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59 FEBRUARY 2004
電子メールで女性に安心感
渋谷区内で一人暮らしする女性会社員のA
さん。 最近、彼女はネット通販サイトにハマ
っている。 昨日は毎日使用するとスーパーモ
デルみたいなプロポーションになれるという
触れ込みの健康器具を購入した。 二週間後に
彼氏とのサイパン旅行が控えている。 「短期
間で体を引き締めて、ピチピチの水着姿で彼
を悩殺したい」
思い立ったら吉日だ。 一日でも早く健康器
具を使い始めたい。 そんなわがままなユーザ
ーのためにサイトを運営する通販会社では注
文日の翌日には商品を届けるようにしている。
Aさん宅には今日、宅配便で健康器具が届く
予定だ。
ところが、肝心の彼女は今夜、会社の飲み
会&カラオケ大会。 帰宅時間は午前零時を回
ってしまいそう。 通販会社から送られてくる
お目当ての品は受け取れそうにない。 ピチピ
チの水着姿がまた一歩遠のいていく。
でも大丈夫。 贔屓にしているこの通販会社
は購入した商品を好きな時間に自宅に届けて
くれるからだ。 配達は二四時間いつでもOK。
もちろん深夜時間帯でも構わない。 今回は健
康器具の配達希望時間を「午前一時」に設定
した。 これで今夜からエクササイズを始めら
れそう。
ただし、午前一時という時間帯だと、いっ
たいどんな配達員が自宅にやってくるのか、
深夜宅配を展開する軽トラベンチャー
ニッチ&付加価値で大手に対抗
2002年創業の軽トラ会社。 痒いところに
手の届く物流サービスで急成長を遂げてい
る。 昨年6月には午後9時〜午前3時に集
荷や配達を行う「夜間便」を新たに開始し
た。 車両販売を収益基盤とする同業他社の
戦略に異を唱え、物流事業のサービス強化
に力を注いでいる。
グランティオ
――ビジネスモデル
ちょっと不安な面もある。 配達員のはずが、
実は宅配便を装った強盗だったらどうしよう。
そんなことを想像すると、ドアを開けて荷物
を受け取るのが怖くなってしまう。
だが心配はいらない。 通販会社が利用して
いる宅配便会社から事前に電子メールで配
達員の顔写真が送られてくる。 玄関のTV
モニターでドライバーの顔をきちんと確認す
れば、深夜でも安心してドアを開けることが
できる。
「平日はほとんど夜遅くまで自宅を空けて
いる。 そのため、これまでは休日にならない
と通販会社からの宅配便を受け取ることがで
きなかった。 その点、深夜配達は欲しいモノ
がすぐに手に入るからすごく便利」とAさん。
今では深夜配達が可能かどうかが通販サイト
を選ぶ際の一つの基準となっているという。 潜在需要を掘り起こす
荷受け人のわがままに何でも応えてくれる
――。 そんな宅配便がいま各方面から注目を
集めている。 東京・墨田区に本社を置く軽ト
ラック運送会社「グランティオ」が昨年六月
に始めた「夜間便」がそれだ。 物流業界でも
まだ珍しい深夜配達をメーンとする宅配便サ
ービス。 Aさんが最近お気に入りのネット通
販サイトも、実はこの「夜間便」を商品配送
に利用している。
「夜間便」はグランティオが展開する「二
四時間宅配」サービスの一商品だ(図1)。 料
金は荷物一個につき一〇〇〇円。 一般の宅配
便と比べるとやや割高だ。 しかし、このサー
ビスを利用すれば、不在による荷物の持ち戻
りがほぼゼロになる。 荷受け人の利便性が高
まり、例えば通販などでは購入リピート率が
高まる、といったメリットを荷主側は享受で
きる。 それらを勘案すれば、一〇〇〇円とい
う料金設定は決して高くないという。
配達時間帯は午後九時から翌日午前三時
まで。 好きな時間を指定できる。 荷物は当日
の午後六時までに出荷すればいい。 荷物一個
でもきちんと集荷してくれる。 現在、サービ
スの対象地域は東京二三区内に限定されてい
るが、将来は一都三県(東京、千葉、埼玉、
神奈川)にまで拡げていく計画だという。
もともと共働きの夫婦、一人暮らしの学生
や社会人など帰宅時間の遅い人たちの深夜配
達に対するニーズは少なくなかった。 しかし、
これまでこうした声に応えてきた物流企業は
皆無に等しかった。 ヤマト運輸や日本通運と
いった宅配便大手も例外ではない。 各社とも
数年前に比べ二〜三時間延長しているものの、
最終的な配達時間の締め切りは午後一〇時前
後に設定している。
宅配便大手が深夜配達に踏み切らないのに
はそれなりの理由がある。 まず配達員の深夜
就業に関して労働組合からなかなか理解が得
られない。 そして、そもそもニーズがあると
はいえ、深夜配達に投入する人やインフラの
コストに見合うだけの荷物量には達しないと
算盤を弾いているからだ。
これに対して、グランティオは「深夜配達
の潜在的な需要は大きい。 そうしたサービス
が存在してこなかったから、これまで利用さ
れなかっただけ」(横山寛社長)と大手の発
想を一蹴する。 同社は、図体の大きい宅配便
大手は採算ラインに乗せるため、たくさんの
荷物を確保しなければならないが、軽トラ会
FEBRUARY 2004 60
グランティオの横山寛社長
0:00
3:00
6:00
9:00
12:00
18:00
20:00
21:00
夜間便
縦+横+高さ=100cm
最大10kgまで
1個=1,000円
グランティオ便
縦+横+高さ=100cm
最大10kgまで
1個=500円
図1 グランティオの『24時間宅配』
※21:00〜3:00に集荷して昼に配達する場合は料金1,000円
※9:00〜20:00の配達時に不在で、21:00〜3:00に配達した
場合は500円+500円で1,000円
61 FEBRUARY 2004
社なら、大手よりも少ない荷物量で十分ペイ
する体制を構築できると判断した。
実際、サービスを開始して以降、「夜間便」
の取扱個数は日を追うごとに増えている。 一
日当たりの取扱個数が一〇〇個に達する日も
ある。 もっとも、この程度の個数では軽トラ
であってもさすがに採算ラインには届かない。
それでも、他のネット通販会社や、SOHO
で働くデザイナーとデータの入ったCDを夜
間にやり取りする印刷会社が大口ユーザーに
加わるなど徐々に手応えを感じつつあるとい
う。
高校時代に家電配送でバイト
「夜間便」を展開するグランティオは単に
荷物を運ぶだけの軽トラ会社とは一線を画し
ている。 大手物流企業が見向きもしないよう
なニッチな市場にターゲットを絞り、そこで
「運送プラスアルファ」の付加価値の高いサ
ービスを提供していく戦略で急成長を遂げて
きた。 現在、軽トラの登録台数は二八〇台。
二〇〇三年三月期の売上高は約四億五〇〇
〇万円。 間もなく迎える二〇〇四年三月期に
は売上高約一〇億円と二倍強の増収を確保
する見通しだ。
「資金力の豊富な大手と同じ土俵で勝負す
れば、我々のような中小企業に勝ち目はない。
しかし、大手が手を出せないようなサービス
を提供していくことで差別化していけば、十
分生き残っていける」と横山社長。 これまで
に「夜間便」のほかにも、マンスリーマンションに家
具を配送して組み立て・
設置作業までを引き受け
たり、官公庁や集合住宅
に備え付けてある古い消
火器を新しいものに交換
する「設置便」など、ユニ
ークな物流サービスを数多
く世に送り出してきた。
横山社長が初めて物流
に接したのは、バブル景気
の最盛期、まだ高校生の
頃だった。 たまたま親友の
実家が運送業を営んでい
て、そこにアルバイトとし
て手伝いに行くうちに物
流に興味を持つようになっ
たという。 当時、その親友
の実家では家電量販店か
ら依頼を受けて、商品を購入者宅まで届ける
仕事を請け負っていた。
正確にいうと、横山社長が興味を持ったの
は物流の仕事そのものではなかった。 古い冷
蔵庫や洗濯機を動かして新しいモノを搬入す
る際、その前に床を雑巾で拭いてあげる。 テ
レビの配線作業や機械の組み立て作業を手伝
う。 本来、仕事のメニューには含まれていな
い、こうしたサービスを提供したときにお客
さんからもらえるチップに、横山社長は惹き
つけられた。
それだけはない。 配送時に引き取った古い
オーディオ機器を高校の友人たちに横流しす
る。 それによって一台につき数万円の収入が
得られることも高校生の横山社長にとって大
きな魅力だった。
「その頃はバブル絶頂でみんな羽振りがよか
ったから、ちょっと掃除をするだけでたくさ
んチップをくれた。 オーディオなんてまだま
だ使えるものばかり。 それなのにみんな新し
いモデルに買い替える。 それほど景気がよか
宅配サービスの対象は東
京23区内。 将来は一都
三県に拡大する
品川区・勝島の物流セ
ンターが「24時間宅配」
の仕分け拠点
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った。 実家では未だに配送先からもらってき
た家電が現役で活躍している」と横山社長は
当時を振り返る。
家電配送の仕事ですっかり物流の仕事の旨
味を知った横山社長だが、そのまま業界入り
したわけではなかった。 高校卒業後は北海道
でスポーツのインストラクターとして活躍し
た。 秋が終わる頃に山に入り、五月のゴール
デンウィークまではスキー。 その後秋までは
パラグライダーのインストラクターの仕事で
生計を立てた。
物流業界に本格的に足を踏み入れたのはそ
れから四年後、二二歳の時だ。 インストラク
ターの仕事を辞めて東京に戻り、小さな運送
会社に入社した。 しかしその翌年には早々と
その会社を退社し、ある友人と一緒にグラン
ティオの前身となる軽トラ会社を興した。 知
人の会社の事務所の一部を自分たちの会社の
事務所として間借りするかたちでのスタート
だった。
マージンをピンハネしない
手持ち資金がほとんどなかった二人は赤帽
などを参考にして、業務委託方式での軽トラ
事業を立ち上げることにした。 車両はほとん
ど持たずに、軽トラの一人親方(個人事業
主)たちを組織化して彼らに実務の部分を任
せる。 自分たちは荷主から徴収する運賃の
数%をマージンとして徴収する、というビジ
ネスモデルだ。 雑誌や新聞などに募集広告を
出して軽トラを掻き集めた。
当時は仕事がいくらでもあった。 運賃も現
在とは比べものにならないくらい高い水準だ
った。 ヤマト、佐川、日通といった大手宅配
会社の下請けの仕事だけで、十分にメシが喰
える時代だった。
二人は下請けの仕事に専念した。 大手から
流れてくる仕事の量は一社当たり月に六〇〇
〇万円に上った。 三社でざっと一億八〇〇〇
万円。 あっという間に年商一五億円規模の会
社にまで成長した。
しかし、そんな時代は長くは続かなかった。
バブル崩壊以降は大手からの仕事量が減り、
運賃も下がる一方だった。 それに伴い、軽ト
ラの一人親方たちがひとり、またひとりと会
社を去っていく。 欠員が出れば、すぐに広告
を打って補充する。 その繰り返し。 大手に
「おんぶに抱っこ」。 ドライバーは使い捨て。
そんなビジネスモデルに疑問を感じるように
なっていた。
結局、二人三脚で会社を大きくしてきた相
棒と袂を分かつことにした。 独立して今のグ
ランティオを立ち上げたのは三二歳の時だっ
た。 「大手の下請けの仕事をやめる。 そして
業務委託のあり方を見直す。 会社を新たにス
タートさせる際、まずこの二つを実現しよう
と心に決めた」と横山社長は述懐する。
とはいえ大手の下請け仕事に代わる新たな
仕事はなかなか見つからなかった。 軽トラで
もできる画期的な物流サービスはないだろう
か。 試行錯誤していた時に、ふと思い出した
のが高校時代のアルバイトでの経験だった。
当時チップがもらえたサービスを正式にサ
ービスメニューのなかに盛り込んで、きちん
と料金を設定する。 目的地にモノを運ぶだけ
でなく、配達先で何かほかの仕事を手伝って
あげる。 そんなサービスを提供すれば、お客
さんに喜んでもらえるはずだ、と横山社長は
考えた。
最初に始めたのは住宅建築現場にバスタブ
を運び、さらに指定された場所にそのバスタ
ブを据え付けるという仕事だった。 ドライバ
ーを研修に派遣して、据付作業のノウハウを
習得させた。 次がパソコンの設置サービス。
そして前述したマンスリーマンションへの家
具の設置。 消火器の据付・交換。 フリーペー
パーのラック入れ……。 こうした配送プラス
付帯作業のサービスを次々と開発し、顧客に
売り込んでいった。
「モノを運ぶだけの仕事は誰でもできるから、
最後は運賃の叩き合いになってしまう。 しか
し配送の部分で勝負するのではなく、付帯サ
ービスの部分で他社との違いをアピールでき
れば、それが受注の決め手になる」と横山社
長は力説する。
新サービスの開発と並行して、実務を担当
するドライバーたちとの契約のあり方も見直
した。 現在、所属する軽トラを同業他社に派
遣する場合、グランティオではドライバーか
ら月に一万円の手数料しか徴収していない。
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ドライバーは派遣先と直接契約を交わす仕組
みになっている。 グランティオが間に入って
マージンを抜かないのは、ドライバーの収入
をできるだけ増やすことで、ドライバーが派
遣先で長期間働き続けるようにするためだ。
グランティオから直接仕事を融通してもら
うケースでも、ドライバーたちは色々な契約
方法の中から自分に合ったものを選択できる。
グランティオでは「日給制」、「歩合制」、「日
給制+歩合制」などのオプションを用意して
いる。 それによってドライバーに無理な負担
を掛けないようにしている。
業務委託方式を採用する軽トラ会社ではド
ライバーにローンを組ませて高額な軽トラを購入させるケースが少なくない。 物流という
本業の収入よりも車両販売による収入のほう
が大きい、物流企業とは呼べない軽トラ会社
すら存在する。
これに対して、グランティオの車両販売は
良心的だ。 「車両販売で儲けるビジネスモデ
ルは今後一〇〇年続くとはとても思えない。
当社は車両をほぼ定価に近い値段で販売して
いる。 売り上げのほとんどは物流事業による
ものだ」と横山社長は説明する。
「軽急便事件」が採用に悪影響
創業から約四年間、グランテ
ィオではスポット配送や、「設置
便」のような付加価値配送を中
心に事業を展開してきた。 しか
し、その間も常に横山社長は
「宅配便サービスをどのタイミン
グで開始するか」を模索してき
たという。
今さら大手と正面からぶつか
るつもりはない。 宅配便でも大
手が足を踏み入れていない領域
に的を絞る。 宅配便マーケット
で成功を収めるためにはどうす
ればいいのか。 グランティオの
出した答えは「夜間便」を中心
とした「二四時間宅配」サービ
スを提供することだった。
宅配便のようなネットワークビジネスには
いったん採算分岐点を上回ると、そこから先
はすべて利益になるという旨味がある。 ただ
し、そこに到達するまでに時間が掛かり、そ
れまでは赤字を垂れ流すことになるというリ
スクもある。 残念ながら現段階ではグランテ
ィオの宅配便事業はまだそのラインに到達し
ていないという。
課題は軽トラ一台当たりの取扱個数を引き
上げること。 そのために同社は営業活動に力
を注いできた。 その結果、ネットオークショ
ン出展品や古本の集荷、高級洋酒の配送、ク
リーニング品の回収・配達など新規顧客の開
拓に成功した。 さらに近日中には「宅配便大
手があっと驚くような新サービスを市場に投
入する予定だ」(横山社長)という。
宅配便事業の黒字化に向けて個数確保の面
でのメドがようやく立った。 ところが、グラ
ンティオは現在、予想もしなかった新たな問
題に直面している。 昨年九月、軽急便の名古
屋支店が爆破された事件が発生して以降、肝
心のドライバーを確保することが困難になっ
てきているのだ。
「あの事件によって軽トラ業界にはダーティ
ーなイメージが染みついてしまった。 最近は
新聞や雑誌に広告を掲載してもほとんど応募
が寄せられない。 荷物が増えても車両が足り
なくなれば、お客さんに迷惑を掛けてしまう。
早くこの状況が改善されてほしい」と横山社
長は頭を悩ませている。
(刈屋大輔)
グランティオでは軽
トラをほぼ定価で販
売している
『夜間便』の配達トラッ
クは午後8時頃センタ
ーを出発する
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