*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
JULY 2012 18
製品を輸送する距離が長くなっている。 生産段階
でいくら原価低減に汗をかいても、その後の物流
が非効率だと全てが水の泡になってしまう。 生産と
同等レベルのムダ取りが、物流にも必要になった。
全社一丸となり物流の余分なコストを徹底的に削
ることがプロジェクトの目的だ」
まずは、その運営体制を確認しておこう。 三菱
電機では家電、半導体、自動車機器、FAシステ
ムなどの事業本部ごとに生産拠点(製作所)が分
かれている。 各製作所は包装を担当する「包装キ
ーマン」と輸送や荷役を担当する「物流キーマン」
をそれぞれ選出している。 彼らが主導する形で、現
場ごとに年間の具体的な数値目標と、それを達成
するための施策を策定している。
これに対して本社のロジスティクス部は、各製作
所のキーマンたちに対して勉強会を実施するほか、
一緒に現場に入って改善のノウハウを伝えるといっ
た“伝道師”の役割を果たしている(写真1)。
各製作所が策定した年間目標に対して、その進
捗や効果を議論・検証する会議を月に一度のペー
スで開催している。 この会議には製作所の所長以
トレードオフを見極める
三菱電機は二〇〇六年に、「物流JIT改善」と
呼ぶプロジェクトをトップダウンで立ち上げている。
JITはもちろん「ジャスト・イン・タイム」の
略で、トヨタ自動車が実践し、後に多くのメーカ
ーが導入した生産方式だ。 本来は生産工程におい
て “必要なときに、必要な物を、必要なだけ” 届
けることを指すが、三菱電機の物流JIT改善で
は、これを広く「ムダ取り」と捉えている。
物流JIT改善において、包装の効率化は輸送
や荷役などと並ぶ柱の一つに位置付けられている。
それまで、同社が包装改善に手を付けていなかっ
たわけではない。 むしろ、積極的に取り組んでき
た。 実際、包装の簡易化や使用資材の削減といっ
た分野で、多くの改善を実現している。 ただし、
その切り口は常に「環境への貢献」だった。
三菱電機グループは一九九四年からほぼ三年ご
とに「環境計画」を立案しており、今年度からは
「第七次環境計画(一二年度〜一四年度)」が走り
出している。 物流分野の取り組みは「エコ・ロジ
ス活動」と名付けられ、包装改善はその中で継続
されてきた。
〇六年に物流JIT改善を新たにスタートさせ
たのは、従来の環境に加え、「コスト削減」をより
明確に意識するためだといえる。 三菱電機の高橋
明久ロジスティク
ス部長は、その背
景を次のように説
明する。
「グローバル化の
急速な進展に伴い、
製品強度と包装強度を最適化
──三菱電機
製品の強度を高めれば、生産コストは上昇し、包装コスト
は低下する。 製品の強度を下げれば、逆の現象が起きる。 製
品と包装にかかるトータルコストが最も安くなり、しかも製
品の安全性が保たれる最適なバランスを見極めるために、「5
つのステップ」を定めている。 (石鍋 圭)
高橋明久
ロジスティクス部長
図1 ルームエアコン室外機の改善事例
ルームエアコンの室外機を小型化
トラックへの積載量アップ
従来小型化後
従来小型化後
373×930×594[ ? ]
奥行を59?、幅を131?、
高さを10? 短縮!
314×799×584[ ? ]
20%
小型化
20%
アップ
140 台170 台
19 JULY 2012
るが、その分、包装にかかるコストは高くなる。
このトレードオフを見極めて、最適解を導き出す
ため、三菱電機では包装設計・包装改善における
五つのステップを設定している。 第一ステップは、
物流環境の「ストレスレベル」の把握だ。 出荷し
た製品に、どのタイミングで、どれだけの負荷がか
かるのかを検証する。 第二ステップでは、その負
荷を考慮した上で、製品の設計や仕様を決定する。
製品の小型化、荷姿のコンパクト化なども同時に検
討する。
第三ステップでは、その製品に最適な包装材を
選定する。 続く第四ステップで、実際に包装を設
計する。 この時に大切なのが、包装に求める機能
を明確化することだという。 最後の第五ステップ
で強度を評価・検証する。 製品と包装が一体とな
り、必要なだけの強度を有しているか、コスト高
になっていないかを判断する。 もし問題が生じて
いる場合には、第二ステップの製品設計にフィード
バックし、各ステップを再度見直す。
包装コンパクト化プロジェクトも始動
この五つのプロセスを通じて、これまでに多くの
改善事例が生まれている。 その一例が、ルームエ
アコンの室外機だ。 トラックの積載効率を高めるた
め、室外機の設計を見直した。 奥行きを五・九セ
ンチ、横幅を十三・一センチ、高さを一センチコン
パクトにした。 これによって、それまで一〇トント
ラック一台に一四〇台だった積載台数が一七〇台
になり、積載率が二〇%向上した(図1)。
システム制御装置の包装改善にも踏み込んだ。 以
前は制御装置にはスカシ木箱による包装を施して
いた。 一度使用されたスカシ木箱は、通常、納品
先でそのまま廃却されていた。 制御装置の出荷数
だけ木箱が必要になるため、包装コストがかかり、
環境面でも課題があった。
そこで、折りたたみ式のスチール枠を導入し、そ
れをリターナブル化することで問題を解消した(写
真2)。 スチール枠の支柱は取り外せるようになっ
ており、返却時にはコンパクト化できるよう工夫が
施されている。
二〇一〇年からは新たに「包装コンパクト化プロ
ジェクト」を展開している。 三菱電機独自の空間
比率指標を構築し、包装材と製品との間に生じる
隙間を、さらに減らしていこうというものだ。 昨
年度に実施したパワー半導体の改善は、その代表
例といえる。
パワー半導体の包装には段ボール箱が使用されて
いるが、以前は半導体を平置きしていた。 段ボー
ル内は上下二層に分かれていて、それぞれに二個
ずつ、計四個が収納されていた。 強度検証を実施
した上で、平置きから縦形に挿入する方法に改め
た。 これにより、収納できる半導体は六個になり、
段ボールの使用量は三分の二に削減された。
さらに、専用のパルプモウルドを用いることで、
収納できる数を八個にまで伸ばした(写真3)。 当
初と比べ、二倍にまで増えた計算だ。
「環境」に加え、「コスト」を意識した取り組み
がトップダウンで始まったことで、同社の包装改善
の取り組みは大きく加速された。 しかし、高橋ロジ
スティクス部長は手綱を緩めようとしない。 「今年
度からはユニットロード化に本格的に着手したい。
製品強度の評価スキル向上にも取り組む必要があ
る。 まだまだ取り組みの余地は残されている」と
意気込みを語る。
下、改善に関係するあらゆる部署のスタッフの参加
が義務付けられている。 製品の設計段階まで踏み
込んだ包装改善がテーマであれば、当然、設計担
当者も会議に参加する。
具体的な活動内容や方法は各製作所によって
様々だ。 ただし、改善のコンセプトは共有されてい
る。 製品強度と包装強度の最適化だ。 「製品と包装
にかかるトータルコストが最も安くなり、しかも安
全性が保たれる最適な強度のバランスを目指してい
る」と高橋ロジスティクス部長は説明する。
製品の強度を高めようとすれば当然ながら生産
コストは上がる。 しかし、それによって簡易な包
装で済むようになるため、包装コストは安くなる。
反対に、製品強度を下げれば生産コストは安くな
写真2 折りたたみ式のスチール枠を導入
写真1 より効率的な梱包を模索 写真3 パワー半導体の改善事例
パワー半導体6個
パワー半導体8個
特集
|