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FEBRUARY 2004 88
物流こそ女性の仕事
センター長や営業所長など管理職を対象とし
た勉強会は無事終了した。 今回からは再び現場
で働く社員向けの勉強会となる。 今日の参加者
はオブザーバーを含めて約三〇人。 全国各地か
ら集まった。 まずは前回の勉強会に出席したセ
ンター長たちが、オレに言われた通り、きちん
と現場に指示を出したかどうかを確認すること
から始めようか。
勉強会を終えたセンター長たちは「社長に指
示されたことを現場に徹底させます」と言って、
職場に戻っていった。 しかし、それが口だけの
場合があるんだ。 「徹底させます」と約束したの
に、その後なにもアクションをおこさない。 残
念ながら、そんなセンター長も少なくない。
センター長がきちんと指示を出したかどうか。
それを確かめるには現場の社員に直接聞いてみ
るのが一番いい。 センター長に聞いても、「やり
ました。 頑張っています」という答えしか返っ
てこないからな。 これに対して、現場の社員は
「センター長から何も説明を受けていませんよ」
と正直に話してくれる。
別に意地悪しようというわけじゃないんだ。 オ
レは事前に「現場の社員に後日確認するから、
きちんと研修を済ませておくように」とセンタ
ー長に伝えてある。 それでも実行に移さない。
目が届かないのをいいことに放置したままにす
る。 そうしたいい加減な対応が許せないんだ。
現場社員を集めて勉強会を開いているのには、
センター長がきちんと仕事をしているかどうか
チェックするという意味合いもある。
それにしても今回の勉強会には女性の参加者
が多い。 ひとり、ふたり…全部で五人か。 これ
までの勉強会にも女性社員は参加していたが、
これだけ数が揃ったのは今回が初めて。 男だら
けの勉強会よりも何となく雰囲気が華やかだ。
現在、ハマキョウには女性の正社員のほかに、
ピッキングなどの現場作業で活躍している女性
のパートタイマーが全国で二〇〇〇人ほど在籍
している。 トラック運送をメーンとする物流企
業に比べ、女性社員の占める割合は高い。 セン
ター運営が中心のハマキョウは女性に支えられ
ている会社だと言える。
今の世の中ではもう当たり前のことだが、ウ
チの会社にも男女の差別はない。 男も女も処遇
は同じ。 実力さえあれば、女性でも出世は可能
だ。 女性であっても頑張って働いていれば、セ
ンター長や役員、最終的には社長にだってなれ
る。 女性であることで不利な面は何一つない。
近い将来、女性センター長が誕生してほしい
な。 女性は男性よりも細かい部分に目が届く。
現場改善でたくさんのヒントを出してくれるの
はいつも女性だ。 きっと女性のほうがセンター
長の仕事に向いている。 オレは昔からそう睨ん
でいるんだ。
他の業界に比べ遅れているとはいえ、最近で
第11回「
セ
ン
タ
ー
長
が
足
り
な
く
な
る
」
このまま物流センターの数を増やせば、肝心のセンター長
の数が足りなくなるのは確実だ。 センターの成績はセンター
長の腕次第。 それだけに慎重に人材を選ばなければならない。
そこで今年から新たにセンター長の資格制度を導入すること
にした。
大須賀正孝ハマキョウレックス社長
――ハマキョウ流・運送屋繁盛記
《前回までのあらすじ》
緩んだ社内の雰囲気を引き
締めるため「合同勉強会」を始めた。 現場社員を対象
にした勉強会を数回こなした後、今度はセンター長や
営業所長など管理職を対象にした勉強会を開いた。 温
泉、宴会付きで一泊二日を共に過ごして社員たちと親
睦を深める。 同時に彼らにセンター運営のイロハを叩
き込んでいる。
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は物流業界でも少しずつ女性の活躍する場が拡
がっている。 昔は滅多に見掛けなかった女性の
トラックドライバーも今となっては珍しいもの
ではなくなった。 依然として物流には男性によ
る肉体労働というイメージが根強く残っている。
しかし、そのうち「物流は女性の仕事」と言わ
れるような日が訪れるかもしれないな。
これがオレ流の3PL
話が横道に逸れてしまった。 元に戻そう。 今
日集まってくれた現場のみんなに知っておいて
もらいたいことがいくつかある。 それらをきちん
と頭に叩き込んでから各自の職場に戻っていっ
てほしい。
そのうちの一つはハマキョウという会社が「日
本一の物流企業」を目指しているという点だ。
ご存じのとおり、いま物流業界で売り上げ規模
の日本一は日本通運だ。 年間売上高は軽く一兆
円を超えている。 これをウチが追い抜くには相
当な時間が掛かってしまうだろう。
そこで当面は同じ日本一でも「3PLとして
の日本一」を目指そうと思っているんだ。 この
「さん・ぴー・える」とはサードパーティ・ロジ
スティクスの略。 物流の本や雑誌によると、3
PLは「荷主から包括的に物流サービスを受託
すること」を指すそうだ。
しかし、この説明ではどうもピンとこないだ
ろう? だから最近またオレなりに3PLとは
何かを考えてみたんだ。 3PLの新しい定義っ
てやつさ。 とても分かりやすいから、お客さん
から説明を求められた際にでも是非使ってもら
いたい。
オレ流の3PLの解釈はこうだ。 運送サービ
スだけを提供するならファースト。 それにもう
一つ付加価値のあるサービスを加えたらセカン
ド。 さらにもう一つ加えて、三つのサービスを
提供するようになればサード。 つまり、お客さ
んに対して三つ以上の物流サービスを提供でき
る物流企業が3PLってわけだ。 どうだ、難し
い言葉を並べて説明するよりも分かりやすいだ
ろう?
ウチの会社は3PLです。 だから三つ以上の
業務を任せてほしい。 運送、倉庫、受発注の処
理など業務の内容は何でもいい。 受託の範囲が
広がれば、それだけコストダウンもしやすくな
る――。 そんな口説き文句でお客さんにアプロ
ーチしてみるのも一つの手だろう。 お客さんも
3PLには必ず三つ以上の業務を委託しなけれ
ばならないと勘違いするかもしれないな。
3PLにルールなんてものはない。 物流に関
係するサービス、物流とはまったく関係のない
サービス、何をお客さんに提供すべきか。 お客
さんに喜んでもらえれば、実はサービスの中身
なんてものは何でもいいんだ。 3PLはお客さ
んが困っていることを何でも解決する「何でも
屋」であるべき。
他社が始めたサービスの良い点をマネするの
も必ずしも悪いことではないぞ。 「このサービス
はウチがやっているから、お宅ではやってはい
けない」という決まりはないんだから。 物流の
サービスに特許はない。 だからいいモノはどん
どん採り入れていったほうがいい。 もちろん、ウ
チのやり方を参考にしてくれるのも大歓迎だ。
お客さんは3PLにコスト削減だけを求めて
いる。 複数の物流サービスをいかに安いコスト
で提供してくれるか。 3PLを選ぶ際、お客さ
んはそれしか見ていないんだ。 どんなやり方で
も構わないから、とにかくコストを安くしてく
れ、というのがお客さんの本音。 そして、それ
に応えていくのが3PLの役目だ。
ハマキョウが日本一の3PLになるためには
どうしたらいいのか。 答えは簡単だ。 他社より
も安いコストで、しかも質の高いサービスが提
供できるようになるしかない。 質の高いサービ
スを高いコストで提供するのは難しいことでは
ない。 どんな物流企業でもできる。 しかし安い
コストで質の高いサービスを提供し続けていく
のはたいへんだ。
きっと女性のほうがセンター長の仕事に向
いている
張って働くわ」――。 女性のパートさんたちに
そうやって慕われるくらいの人材じゃないとセ
ンター運営はうまくいかない。
反対にセンター長に適していないのは独裁的
な人。 ただ威張っているだけのセンター長は問
題外だ。 ワンマンなセンター長はそのうち現場
社員たちにそっぽを向かれるようになる。 そん
なセンターはいずれ問題を起こす。 最終的にお
客さんにも迷惑を掛けることになってしまう。
ただし、優しい性格だけでも通用しない。 時
には部下に厳しく接することができる性格では
ないとダメだ。 現場がいつも弛んだ雰囲気にな
ってしまうからな。 厳しさと優しさをうまく使
い分けることができるバランス感覚のある人物
がセンター長には適任だ。 メリハリってやつが
求められるんだ。
資格制度の準備が整ったら、いまのセンター
長たちに「この人こそセンター長に相応しい」
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安いコストを実現するためには、現場での小
さなムダ取りの積み重ねが大切だ。 現場で働く
社員の一人ひとりがコスト意識を持って作業に
あたる。 個々は小さい努力でもいいんだ。 それ
がたくさん集まれば、コスト削減の大きなイン
パクトになるからな。
今日集まってくれたみんなにお願いしたいの
は、こうした地道なムダ取り作業を今後も続け
ていってほしいということだ。 コスト競争力で
他社に負けない日本一の3PLになるためには
現場社員たちの日々の努力が欠かせない。
センター長資格制度を創設
3PL日本一のほかに、もう一つ知っておい
てもらいたいことがある。 それは今後ウチの会
社が次々と物流センターを立ち上げていくのに
伴い、センター長不足に陥ってしまうというこ
とだ。 この二、三年で少なくとも物流センター
を二〇カ所増やす計画。 単純に二〇人のセンタ
ー長が新たに必要となる計算だが、実はそれを
確保できるメドが立っていないというのが実情
だ。
他社からセンター長をスカウトしてくるのも
ひとつの手だろう。 しかし、オレとしては社内
から、もっと言えば勉強会に参加している現場
社員の中からセンター長候補がどんどんと出て
きてほしいんだ。 「よし、オレが新しいセンター
を上手に切り盛りしてみせる」――。 そんな頼
もしい人材の登場に大きな期待を寄せている。
ただし、やる気だけでセンターがうまく運営
できるわけではない。 センター長にはパートさ
んの管理方法など様々なノウハウや経験が不可
欠だ。 そうしたセンター長としての資質を備え
ている人材なのかどうか。 見極めるのはとても
難しい。
そこで今年は新たに「センター長資格制度」
を導入するつもりだ。 現場のみんなにセンター
運営に関する試験を受けてもらう。 それに合格
したらセンター長に昇進する権利を与える仕組
みだ。 この制度があれば、みんなやる気を出し
てセンター長を目指して努力するようになるは
ずだ。
試験の具体的な中身については検討中だが、
収支日計表のつけ方や日替わり班長制度の進め
方などを問うつもりだ。 収支日計表と日替わり
班長制度の二つはセンター運営の基本だからな。
これをきちんとマスターしておいてもらう。 今
まではこの二つについての知識があやふやなま
までもセンター長に昇格させてきたケースもあ
ったが、これからは認めないぞ。
筆記試験だけではなく、面接試験も実施した
い。 とりわけ面接は重視していくつもりだ。 セ
ンター長の仕事はいわゆる「お勉強」が得意な
だけでは務まらないからな。 性格的にセンター
長に相応しい人物かどうかを判断する必要があ
る。
センター長に向いているのは協調性のある人。
他人の意見にちゃんと耳を傾けられる人、誰か
らも信頼されるような人じゃないとダメ。 それ
と女性に優しいこと。 「センター長のために私頑
資格制度では収支日計表のつけ方などセン
ター運営の基本を問う
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という人物をどんどん推薦してもらおうと思う。
班長の仕事を任せると、何も言わなくても作業
を円滑に進めることができる。 そんな優秀な人
材にはどんどん資格制度にチャレンジしてもら
いたい。 受験生を送り込めない、センター長に
なれる人材を育成できないようでは、そのセン
ター長は失格だな。
もちろんセンター長の推薦がなくても、自信
のある人は受験してもらって構わない。 向上心
というか、ガッツというか。 少しでも上を目指
すという姿勢を大切にしていきたい。 繰り返し
になるが、ウチの会社には男女の差別がない。
学歴も昇進とは関係ない。 誰でも頑張れば、セ
ンター長になれる。 だから今回のチャンスを絶
対に逃さないでほしい。
「段取り」で日本一の3PLに
同業他社が業績低迷で苦しんでいる中で、い
まウチの会社は絶好調だ。 現場で働いているみ
んなが日々頑張ってくれているおかげだと本当
に感謝している。 ウチの会社の現場はライバル
の物流企業の現場に比べ、コストに対する意識
が高い。 そのことが好業績につながっている。
コスト、コストと口酸っぱく言い続けてきた
ので、今では社員はもちろん、パートさんにま
でコスト意識が浸透している。 それは狙い通り
なので、とても嬉しい。 しかし最近は過度とい
うか、謝った認識というか、現場で展開されて
いるコスト削減に向けた活動にヘンな傾向が見
られるんだ。
例えば、あるセンターではコスト削減策とし
て電気代を節約しているという。 この取り組み
は決して間違いではない。 電気代や水道代を節
約するといった地味な活動も大切だ。 しかし、
オレが本来期待しているのはそうした活動では
ない。 もっと人が絡む部分での節約やムダ取り
に知恵を絞ってもらいたいんだ。
物流コストの大半は人件費だ。 だいたい五割
から六割は人件費が占めていると言われている。
そしてこの部分にはコストを削減できる余地が
まだまだたくさん残っている。 反対に電気代や
燃料代などは固定費だから、コスト削減できる
範囲にどうしても限界がある。
具体的には、例えば八時間で作業を済ませる
のを五時間に短縮できるようにしてほしいんだ。
パートさん一人ひとりの労働時間をカットする
ことが目的ではない。 時間短縮でパートさんの
全体の数を少なくする。 それでも以前と同じく
らいの作業量を処理できるような体制にしたい。
そのためには「段取り」が肝心だ。 「段取り」
とは事前に作業の準備をしておくことだ。 今日
の出荷量はどのくらい発生しそうなのか。 作業
は何人で処理できそうなのか。 どのエリアにど
れだけの人材を投入したら、現場がきちんと機
能していくのか。 それらを正確に予想できる能
力が「段取り」だ。
「段取り」がうまくできるようになれば、現場
の作業員から卒業できる。 センター長として十
分活躍できるはずだからだ。 センター立ち上げ
と同じスピードで「段取り」のできる社員が増
えていけば、ウチの会社の将来は安泰。 間違い
なく日本一の3PLになれるんだ。
(以下、次号に続く)
おおすか・まさたか
一九四一年静岡県
浜北市生まれ。 五六年北浜中卒、ヤマハ
発動機入社。 青果仲介業などを経て、七
一年に浜松協同運送を設立。 九二年に現
社名の「ハマキョウレックス」に商号変
更した。 二〇〇三年三月に東証一部上場。
主要顧客はイトーヨーカ堂、平和堂、フ
ァミリーマートなど。 流通の川下分野の
物流に強い。 大須賀氏は現在、静岡県ト
ラック協会副会長、中堅トラック企業の
全国ネットワーク組織であるJTPロジ
スティックスの社長も務めている。 ちな
みにタイトルの「やらまいか」とは遠州
弁で「やってやろうぜ」という意味。
ハマキョウレックスでは“心”を大切にしている
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