ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2012年7号
ケース
日本ヒューレット・パッカード SCM 「MADE IN TOKYO」の対象製品を拡大常識を覆す生産国内シフトの算盤勘定

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2012  46 受注生産品を五営業日で納品  日本ヒューレット・パッカード(以下では日 本HP)は昨年八月、デスクトップパソコンな どに続き、それまで中国でODM(Original Design Manufacturing)生産していた日本 向けのノートパソコンについても、一部機種 の国内生産を開始した。
近年、円高などを背 景に日本メーカーの海外への生産移転が加速 するなかで、同社はあえて人件費の高い日本 での生産を増やしてきた。
品質や納期への要 求が世界一厳しい日本でマーケットシェアを 拡大するため、国内生産のメリットを最大限 に活かす戦略をとっている。
 同社はパソコン世界最大手のヒューレッ ト・パッカード(HP)の日本法人で、HP がコンパックコンピュータを吸収合併したのに 伴い、二〇〇二年十一月に旧日本HPとコン パックの日本法人が合併して、新生日本HP として再出発している。
 日本におけるパソコンの生産開始は十三年 前にさかのぼる。
合併前の旧コンパックが一 九九九年七月に東京都あきる野市の工場で法 人向けデスクトップPCの生産を開始したの がはじまりだ。
 それまで旧コンパックは日本向けのパソコ ンをシンガポールの工場で見込み生産し、販 売代理店などが在庫を持って販売する事業形 態をとっていた。
九〇年代の初頭に衝撃的な 低価格パソコンで日本上陸を果たしたコンパ ックだが、海外と違って日本では思うように シェアが伸びず、過剰な流通在庫が問題にな っていた。
 そこで同社は、パソコンのスペックに対す るこだわりが強い日本の顧客向けに、CPU の種類やメモリー、ハードディスクの容量な どを自由に選べるモデルを市場に投入し、直 接販売する戦略を打ち出した。
この戦略の要 となるのが日本の工場でのCTO(Configure to Order =注文仕様生産、一般的にはBT O)方式による生産体制の実現だった。
 同社では従来の在庫型モデルに対して、こ  生産拠点を海外からあえて人件費の高い日本へ 移し、客の注文通りにパソコンを1台ずつカスタマ イズ生産して5営業日で届けるサービスを提供、国 内シェアを着実に伸ばしてきた。
受注生産のため 在庫費用がかからず輸送コストも大幅にダウン、サ プライチェーン全体のコスト削減にも成功している。
SCM 日本ヒューレット・パッカード 「MADE IN TOKYO」の対象製品を拡大 常識を覆す生産国内シフトの算盤勘定 図1 東京生産のあゆみ 1999.07 法人向けデスクトップPC 2006.06 X86サーバー 2010.06 一体型デスクトップPC 2011.11 個人向けノートPC 2011.08 法人向けノートPC 2001.07 ワークステーション 2007.03 個人向けデスクトップPC 47  JULY 2012 のモデルを「ダイレクトプラス」と呼んでいる。
オンラインストアもしくはコールセンターで顧 客から仕様について細かな注文を受け、日本 の工場でCTO方式により一台一台組み立て る。
納品のリードタイムは受注日を含めて「五 営業日」というスピードだ。
 あきる野工場が操業を開始した翌二〇〇〇 年には、販売代理店の要望に応えて既存の販 売チャネルにもこのスキームを拡大した。
「ダ イレクトパートナー制度」を新設し、在庫を 持って販売する従来の形態とは別に、特定の モデルについては代理店も、顧客からパソコ ンの構成について細かな注文を受けて販売で きるようにした。
直販モデルと同様にあきる 野工場でCTO方式によりオーダーメイド生 産し、代理店の倉庫を経ずに工場から顧客へ 直送する。
 さらにその後、仕様の決まった従来の在庫 型モデルについても生産拠点をシンガポールか ら日本へ移し、BTO(Build To Order = 同社では?型番仕様生産?としてCTOと区 分)方式による受注生産を開始した。
これに よって日本で販売する法人向けデスクトップ PCについてはすべて、日本で最終組み立て を行い、完成品の在庫を持たずに販売するオ ペレーションに切り替わった。
 このビジネスモデルが市場に受け入れられ、 日本での販売は順調に伸び、あきる野工場の 生産数量も増えた。
〇一年には新たにワーク ステーションのBTOおよびCTO生産がス タート。
生産規模の拡大につれてスケールメ リットによるコスト低減を実現し、国内生産 は軌道に乗ってきた。
合併で国内生産中止の危機  ところがその翌年、旧日本HPとの合併に からみ、あきる野工場の閉鎖問題が浮上する。
コンパックを吸収合併したHPは、合併効果 を生むため、法人向けパソコン事業について はコンパックのブランドで製品ラインの一本化 を決めた。
ただし両社の工場の統廃合を検討 するにあたり、旧日本HPが合併前に日本で のパソコンの生産から撤退していたこともあ って、HP本体の上層部の判断はあきる野工 場の閉鎖に傾いていた。
 ブランドは残ったものの、工場閉鎖の方向 性が示されたことに日本側は強い危機感を抱 いた。
品質や納期に厳しい日本でパソコンの 売り上げを伸ばすには国内生産が大前提であ り、日本での生産を中止すればパソコン事業 にとって大きな痛手になると考えたからだ。
 工場の人件費だけを根拠に海外生産を得策 とする判断にも納得がいかなかった。
部品を 調達して製品に組み立て顧客へ配送するまで のサプライチェーン全体でコストを比較した場 合、国内の工場で受注生産する方がむしろコ ストはかからないという確信もあった。
実際、 旧コンパックが日本でパソコンの生産を開始し た際には、それ以前と比べ輸送費を中心に物 流コストを一五%も削減している。
 海外で生産して日本へ輸入する従来型のモ デルでは、国際輸送のコストがかさむだけで なく、完成品の在庫を抱えることによってさ まざまな費用が発生する。
また日本向けに出 荷した後で品質面の不具合が判明した場合に は、日本へ着いてから何千台、何万台という 数の製品の梱包を解いて検査を行わなければ ならず、その費用もあなどれない。
 こうした費目を細かく抽出して、サプライ チェーン全体のコストシミュレーションを行い、 国内生産のメリットをコスト面からも実証し た。
これを根拠に営業部門や製造部門が一丸 となって工場の存続を強く訴えた。
 この主張が通り、国内生産の継続は認めら れた。
ただし、あきる野工場ではなく、旧日 本HPの昭島工場へ製造ラインを移して生産 することが条件だった。
昭島工場はサーバー 製品などを製造していた拠点で、床面積があ きる野工場の四分の三程度しかなかった。
そ れでも日本側はこの条件を呑み、狭いスペー スでも同じ規模の生産能力を維持することを コミットして国内生産中止の危機を乗り切っ た。
清水直行昭島事業所長 JULY 2012  48  合併当時の工場のメンバーで、現在、パー ソナルシステムズ事業統括PSGサプライチ ェーン本部長を兼務する清水直行昭島事業所 長は「それが生き残る道だったが、われわれ にとってかなり大きなチャレンジでもあった」 と当時を振り返る。
日本独自のビジネスモデルで成長  〇三年一月に昭島工場でパソコンの生産が スタートした。
工場では四分の三のスペース で従来と同規模の生産台数を確保するため に、短いラインで効率よく生産する日本独自 の方法を取り入れた。
昼夜の二交替制も導入 し、最長二四時間稼動を可能にした。
 部品の調達方法も見直した。
工場の施設内 にサプライヤーの預託在庫を持って運用する VMI(Vendor Managed Inventory)方式 のオペレーションを取り入れ、段階的に拡大 した。
これにより部品在庫に関わるコストの 削減を実現した。
 こうした取り組みの積み重ねによって昭島工 場は〇六年に、アジア・パシフィック地域に あるHPの工場のなかでサプライチェーンコス トを最も削減した工場として表彰された。
こ れは「国内生産はコスト高」という既成概念 が覆されたことを象徴する出来事だった。
こ れ以来、日本での生産を疑問視する声はなく なった。
 〇七年に入ると個人向けデスクトップPC の生産も始まり、工場のラインナップは一気 て日本でのシェアが小さいノートPCのてこ入 れを図るため、国内生産に踏み切った。
海外 生産のノートPCは、品質もさることながら とりわけ納期に関し国内で生産しているデス クトップなどとは明らかな違いがあった。
国 内製品は受注から五営業日での納品が確約さ れるのに対し、海外から調達するノートPC は納品までに十二日もかかる。
そのうえ納期 が遅れることも時々あった。
このため顧客や 代理店から国内生産への要望が日に日に高ま っていた。
 昭島工場はノートPCの生産開始にあたり 生産ラインを一・五倍に拡張した。
八月にま ず法人向け二機種の生産を開始し、さらに十 二月には個人向け一機種の生産もスタートし た。
 今や昭島工場は規模こそ小さいものの、H Pの工場のなかでは製造する機種の最も多い 工場となった。
しかもCTOの比率が極めて 高く、デスクトップで七割、ワークステーシ ョンでは九五%に達する。
オーダー一件当た りの台数は、全体の九五%が五台未満で、一 オーダー一台という注文が七割を占めている。
 
達圍呂寮宿覆鷲品の組み合わせによって 最もシンプルな機種でも二万〜三万通りの構 成パターンがある。
構成の異なる製品を効率 よく生産するために、工場ではオーダーごと に必要な部品を準備して一台ずつ組み立てる 方法をとっている。
 受注情報をもとに工場に生産指示が出ると、 に拡大する。
合併前にHPとコンパックはと もに日本の個人向けパソコン市場から撤退し ていたが、〇六年に再び参入を果たし、ノー トPCの販売を開始していた。
このときは中 国でのODM生産だった。
続いてデスクトッ プPCの販売が検討された際に、日本サイド は国内の工場でCTO生産するかたちでの再 参入を願い出た。
 かつて日本で個人向けパソコン市場からの 撤退を余儀なくされたのは、量販店チャネル に依存する間接販売の収支が悪化したためだ った。
再び同じ轍を踏みたくはなかった。
個 人の顧客はカスタマイズへのニーズがより強く、 ダイレクトプラスのスキームこそが日本のコン シューマー市場へ再参入するうえで大きな武 器になると主張した。
 
硲个聾朕邑けパソコンをすべて中国など でODM生産し各国へ供給する体制をとって いる。
日本側の主張によって、HPのなかで は異例の自社工場生産によるコンシューマー 市場への参入が初めて認められた。
 合併から一〇年、日本HPのマーケットシ ェアは着実に伸びてきた。
合併時は個人向け に参入していなかったため法人向けパソコン の出荷台数だけでシェアの推移を見ると、〇 二年にわずか五%だったのに対し一一年には 一五%まで上昇した。
なかでも国内生産が先 行したデスクトップPCのシェアは約二〇% (IDC調べ)でトップクラスにつけている。
 日本HPは昨年八月、デスクトップと比べ 49  JULY 2012 初期動作試験を行う。
部品の構成がオーダー 通りになっているか、PCがきちんと動くかを ここで確認する。
シリアルナンバーを入力し てサーバーからオーダーの構成情報と製品の 診断プログラムをPCへダウンロードし、自 動検査とオペレーターによる対話式検査を行 う。
この後で、サーバーと交信しながら連続 動作試験とソフトウエアのインストールが完 全自動によって実行される。
 ここまでの工程で製品に問題があれば、ラ インから引き上げて原因を解析し、部品交換 などの対応を行った後、再びもとの工程へ戻 して作業を再開する。
 検査とインストールが済んだものは梱包工 程へ移し、キーボードなどの付属品やマニュ アルをバーコードで確認しながら梱包作業を 行う。
梱包ケースに保証書と製品ラベルを貼 付し、通常はこのまま一階の出荷場へ送る。
 ただしラベルに「FA」の文字が印字され ているものは梱包を解いて抜き取り検査を行 う。
一つの筺体または一つの型番に対して一 定の比率で抜き取り検査の指示が出る仕組み になっている。
周辺機器と接続してセットア ップを行ったり、DVDソフトを再生したり、 顧客が実際にPCを使用する状況を想定して テストを行う。
 生産準備開始からここまでの工程に要する 日数は約一・五日。
受注日を一日目としてカ ウントし、二日目から三日目にかけて生産・ 検査を行い四日目までに出荷。
小口注文が多 いため、配送は宅配便がメーン。
離島などを 除き五日目に届く。
協力運送会社の拠点で荷合せ  オーダーが一個口でも複数口でもオペレー ションは変わらない。
同じ顧客から複数の注 文が入っても、あるものは抜き取り検査の対 象になるなど、工程によってタイムラグが生 じ、同じタイミングで梱包作業が終了すると は限らない。
 このため出荷場では荷揃えをせず、早く済 んだものから順に出荷し、運送業者の拠点で 顧客ごとにグルーピングして届ける「マージ・ イン・トランジット」という方法をとってい る。
プリンターやモニターなど、海外生産し ているものを顧客がPCといっしょに発注し た場合も同様に、千葉県内にある輸入品の倉 庫から出荷して業者の拠点でまとめて配送す る。
 今年の一月、工場は新たに四機種の生産を 追加し、これにより法人向けノートPCの八 割が日本製になった。
パソコン市場で今後ノ ートPCの比重が高まることを見越し、昭島 工場ではノートPCに適したより生産性の高 い仕組みを構築していく考えだ。
清水事業所 長は「ノートPCでも、たくさんの種類を生 産するビジネスモデルの成功事例を日本の工 場でつくり、世界に発信していきたい」と意 欲を見せている。
(フリージャーナリスト・内田三知代) 工場の四階にある部品倉庫で当日生産する分 の部品をキッティングし、生産ラインのある 三階へ搬入する。
三階でパソコンの筺体にシ リアルナンバーを貼り、生産システムのサーバ ー上で顧客のオーダー情報(部品の構成内容) と紐付けてから作業を開始する。
 まずサーバーから一台分の生産に必要な部 品の構成内容がモニターで作業者に指示され る。
作業者はこれを見て部品をピックアップ し、シリアルナンバーと部品のバーコードを読 んでミスがないか確認しながら、トレーに部 品を並べて準備する。
 ここから組み立て作業がスタートする。
手 作業でトレーに並んだマザーボードやメモリ ーなどの部品を筺体にはめ込んでいく。
作業 者は製品の部品構成を意識せずに作業を行う。
この方法によって一台一台構成の異なる製品 を同じラインで仕上げることができる。
 組み立てが終了するとPCに電源を入れて PC 図2 マージ・イン・トランジットのフロー サーバーモニタープリンター 昭島昭島 顧客 完成品倉庫 輸送業者 輸送業者 Merge 輸送業者 配達店

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