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AUGUST 2012 14
残り二カ月で何をすべきか
今年一〇月一日に改正労働者派遣法が施行され
る。 ターゲットは物流現場だ。 日雇いを含めた三〇
日以内のスポット派遣が原則禁止になる。 その大部
分は倉庫や引越などの物流作業に利用されている。
これと並行して厚生労働省は今年度、トラック運
送会社に対する労務監査を強化する方針を打ち出し
ている。 ドライバーの労働環境の改善に主眼を置いた
ものだが、一〇月以降はそこに違法派遣や偽装請負
などの法令順守が加わることになる。
これまで派遣会社にレイバーマネジメントを依存し
てきた物流会社や自社センターを運営する荷主企業
は、残り二カ月の間に法改正への対応を済ませる必
要がある。 その駆け込み相談に追われて、派遣会社
や業務請負会社の担当者たちは大忙しの毎日を送っ
ている。
派遣から直接雇用への切り替えは、もう間に合わ
ない。 派遣期間の上限を三年に定めた規制が一斉に
期限を迎えた二〇〇九年に、いわゆる?抵触日問題?
が表面化して以降、多くの物流現場でパート・アルバ
イトの直接雇用化が進められてきた。 しかし、どこ
も切り替えには想定以上に長い時間を要している。
雇用するだけなら難しくはない。 しかし、波動分
の労働力を管理する仕組みがないと、大幅なコスト
アップを招いてしまう。 日雇い派遣は、電話一本で
それを解決してくれる便利なサービスだった。 必要な
時に必要なだけ、ジャスト・イン・タイムで作業員の
頭数を揃えることができた。
物流現場への派遣が一九九九年に解禁になると、日
雇い派遣は一気に業界に広まった。 そして〇六年の
偽装請負問題の顕在化が、請負から派遣へのシフト
に拍車をかけた。 大量のフリーターを組織化するこ
とに成功したグッドウィル・グループの売上高は、同
業で事実上の最大手だったクリスタルの買収も手伝い
ピーク時には五〇〇〇億円を超えた。
しかし、その後、事態は急変する。 違法営業と財
務戦略の失敗によってグッドウィルが破綻。 業界二位
のフルキャストも違法派遣で事業停止命令を受け、創
業者抜きでの再出発を余儀なくされた。 ワーキングプ
ア問題が深刻化し、人材派遣がその元凶とされたこ
とで、市場の潮目が変わった。
〇九年に政権をとった民主党は、派遣問題に関し
て日雇いだけでなく、登録型派遣や製造業派遣の禁
止にまで踏み込んだ法案を国会に提出した。 これで
派遣業も終わりだと誰もが受け止めた。
その後、政局の混乱から民主党案は審議継続を何
度も繰り返した。 今年の通常国会でようやく可決さ
れたが、その内容は当初案からは大きく後退したも
のとなっている。 登録型派遣の原則禁止と製造業派
遣の禁止が先送りされた。
それでも世間の反応は鈍い。 法案の成立に先行し
て産業界では脱・派遣が進み、景気の悪化も手伝い
派遣市場の規模は大幅に縮小している。 批判のやり
玉に上がった人材ベンチャーも既に社会的制裁を受け
た。 日雇い問題への熱は冷め、人々の関心は今やワー
キングプアから生活保護へと移った。
今回規制の対象になった日雇い派遣労働者の数は
一日当たりの稼働平均で約六万五〇〇〇人、対象者
全体でも六〇万人程度と推測されている。 日本の労
働力人口の約一%に過ぎない。 マクロ的には法改正
の影響も限定的だ。
ただし、物流は違う。 コンプライアンスに配慮して
地道に直接雇用化を進めてきた現場でも、繁忙期や
法改正が迫る新たな波動対応
1
今年10 月1 日から日雇い派遣が原則禁止になる。 仕
事量に合わせて現場に投入する労働力を柔軟にコント
ロールする仕組みを、新たに社内に構築する必要がある。
それが無理ならアウトソーシングしかない。 対応を現場
任せにしていれば、いずれコンプライアンス問題に直面
することになる。 (大矢昌浩)
物流現場のコンプライアンス
特 集 日雇い派遣禁止
15 AUGUST 2012
予想外に物量が増えた場合には、スポット派遣に頼ら
ざるを得ないのが実情だ。 事前に作業量を確定でき
る製造業と違って、物流には波動がつきものだ。 日
雇い派遣が禁止なら、それに代わる日々雇用の仕組
みを構築する必要がある。
厚労省では、そうしたニーズを「日々紹介」に寄
せたい考えだ。 日雇い派遣と同様に電話一本で必要
な作業員を集めるサービスだ。 ただし、派遣と違って
利用者が労働者と直接雇用契約を結ぶ。 雇用者責任
が発生するうえ、「日払い」や「週払い」にも対応す
る必要がある。
日々紹介の利用を支援するサービスも登場してい
る。 〇六年に創業したベンチャー企業のパルマSVC
では、月払い制度を維持したまま、日払いや週払い
に対応する「速払いサービス」を提案している。 既存
の「仮払い」や「前借り」の仕組みを使って、個々
の労働者の要求に応じた支払いを管理する。
同社の伊藤義治CTOは「パートの募集広告に?週
払いあり?と記載できるので、応募数が増える。 元
は直接雇用化の支援を目的に開発したサービスだが、
日々紹介のユーザー企業にも有効だ。 実際、法改正
をキッカケに日々紹介で使いたいという相談が増えて
いる」という。
波動対応は誰が担う
ただし、日々紹介には事実上の日雇い派遣と変わ
らないという社会的な批判がある。 しかも、利用者
の直接雇用になるため、コンプライアンス上のリスク
と負担が増える。 それでいて作業員のスキルアップに
よる生産性の向上や現場力は期待できない。
派遣を業務請負に切り替えるという対応策にも多
くの課題がある。 日雇い派遣市場の拡大は偽装請負
問題が一つのドライバーだった。 日雇い派遣の禁止に
よって業務請負に揺り戻せば、改めて同じ問題が再
燃する。 実際、労働局は一〇月以降、偽装派遣の取
り締まりを徹底する考えだ。
また業務請負会社が物流のオペレーション能力や波
動対応力を備えているとは限らない。 スキルのない
業務請負に庫内作業を丸投げすれば予想外のコスト
アップや、繁忙期のパンクを招く恐れがある。
どのようなスキームを組んだとしても、物流は波
動対応から逃れられない。 日雇いやパートを必要な
だけ調達する機能を誰かが担うことになる。 現場力
を重視するなら、その機能を自社化する必要がある。
しかし、人材派遣業界出身で現在は首都圏の業務請
負事業をメーンとするセル・ホールディングス率いる
三浦弘人社長は、「物流会社と人材派遣会社では採用
力に格段の開きがある」と指摘する。
パートの採用・募集ノウハウは地域性に大きく影
響される。 時給単価はもちろん、募集の時期や媒体、
交通アクセスなど様々な角度から、その地域の労働
市場を分析して効果的な採用活動を行う必要がある。
そのために面での展開が基本になる。 点でセンターを
運営する3PLや荷主企業では対応できない。
三浦社長は「拠点の立ち上げ時にパートを大量に
採用するのは、実はそれほど難しくはない。 しかし
波動対応用に都合良く使えるパートを、採用ノウハウ
も土地勘もない3PLが集めるには、一人当たり恐
らく八〇〇〇円から一万円かかる。 プロは同じこと
を三〇〇〇円でやる」という。
日雇いやパートの調達・管理機能を軸に、3PL
業界の構造が変化していく可能性がある。 どの機能
を自社化し、何を誰にアウトソーシングするのか。 派
遣法の改正は改めて問いかけている。
セル・ホールディングスの
三浦弘人社長
パルマSVCの
伊藤義治CTO
13,348 6.1% 4.8%
7,930 3.7% 2.9%
4,733 2.2% 1.7%
1,892 0.9% 0.7%
1,634 0.8% 0.6%
450 0.2% 0.2%
221 0.1% 0.1%
9 0.0% 0.0%
0 0.0% 0.0%
30,217 13.9% 10.9%
17,200 7.9% 6.2%
10,000 4.6% 3.6%
2,500 1.2% 0.9%
2,000 0.9% 0.7%
500 0.2% 0.2%
217,217 100.0% 78.6%
50,756 23.4% 18.4%
8,417 3.9% 3.0%
276,390 127.2% 100.0%
厚生年金保険料
健康保険料
有給休暇
労働保険料
雇用保険料
健康診断
児童手当拠出金
一般拠出金
介護保険料
小計
通勤交通費
募集費
制服・作業用消耗品費
教育研修費
福利厚生費
コンプライアンス対策コストとは
費目金額原価に占める割合合計に占める割合
賃金
原価
154,800 71.3% 56.0%
コンプライアンスコスト
原価合計
販売費等固定費
経常利益
合計
時給1,000円(交通費込み)39 歳以下
月21.5日勤務 標準月額報酬 170,000円
セル・ホールディングス資料より
算出前提
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