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AUGUST 2012 18
民主党案は骨抜きに
──この十月からいよいよ改正派遣法が施行されま
す。 どう評価していますか。
「十分とは言えません。 もともと民主党が提出し
ていた案よりも大きく後退しました。 ねじれ国会の
影響で、自民党・公明党の要望を飲まなければ法律
を成立させられなかったためですが、労働者にとっ
ては不利益な修正で、骨抜きになってしまいました。
今回の改正では、物流業を中心に広く使われている
日雇い派遣が原則禁止となり、その点は一歩前進で
す。 しかし、民主党案では『二カ月以内』を『日雇
い』とする扱いだったのが、『三〇日以内』に変更さ
れてしまいました」
「日雇い派遣はそもそも、低賃金で、雇用が最も不
安定で、ものすごく危険で、私たちが知る限り一番
酷い働き方なので、全面禁止にすべきです。 いわゆ
る日雇い労働をすべてなくせと言っているわけではあ
りません。 企業の側だけでなく、労働者側にも日雇
い労働のニーズはあります。 例えば学生など、元々日
雇いで働きたいと思っている人について問題視して
いるわけではありません。 変えていかなければなら
ないのは、『日雇い派遣』が広がった結果、本来は安
定して働きたいと考えている人たちまで、不安定な
形で働かざるを得なくなってしまっている現状です」
──ほかに「登録型派遣」と「製造業派遣」の原則
禁止も民主党案から削減されました。
「その二つを禁止しようとしたのは、それが?派遣
切り?の温床になったからです。 二〇〇八年の暮れ
に仕事と住まいを失った派遣労働者たちがホームレス
状態となって『派遣村』に集った姿は記憶にも新し
いと思いますが、その後も、震災や円高など、こと
あるごとに多くの労働者が派遣切りに遭っています」
「もともと登録型派遣が増えたのは『いざという時
には簡単に切り捨てられる労働力を雇いたい』とい
う企業のニーズに応えるためです。 だから何らかの
きっかけがあれば、派遣切りが起きるのは当然の帰
結です。 派遣労働者はそうやって、企業にとって都
合の良い『雇用の調整弁』に使われています」
「しかし、働く人間には日常の生活があります。 『企
業が必要だという時だけ働け。 あとは寝ていてくれ』
では生きていけません。 非正規雇用があまりにも広
がった結果、多くの若者が不本意な有期雇用での就職
を余儀なくされていて、このままでは一〇年後、二〇
年後には、ますます深刻な状態になるでしょう」
──日雇い派遣や偽装下請けが社会問題としてクロー
ズアップされて以来、数年が経ちましたが、労働者
の状況は好転していないのですか。
「日雇い派遣の問題は〇六〜〇八年にかけて世間を
騒がせ『こんなことを許してはいけない』と大騒ぎ
になりました。 今は話題としてはちょっと下火になっ
てしまっていますが、状況は好転するどころか、いっ
そう悪くなっています。 当時よりも賃金水準が下が
り、深刻さが増しています」
「私があちこちの日雇い派遣会社に潜入して働いた
〇六〜〇七年の時点では最低賃金に比べれば少しは
乗っかっていた状況でしたが、今はほとんど最低賃
金に張り付いています」
「〇八年には違法派遣がきっかけで、それまで二大
巨頭の一つとして大手を振って業務を拡大していた
グッドウィルが廃業に追い込まれました。 現在はも
う片方のフルキャストが最大手として残り、後はいく
らか規模の小さい業者が続いているという状況です。
そのフルキャストは低価格路線を打ち出していて、結
「ワーキングプア問題は悪化している」
1 法改正が迫る新たな波動対応
ワーキングプア問題は改善どころか悪化している。
日雇い労働者の賃金はその後も低下を続け、今や最
低賃金に張り付いている。 法改正は不十分だ。 まずは
登録型派遣の原則禁止と製造業派遣の禁止を実施し、
同一価値労働・同一労働条件の実現に向けて進んで
いく必要がある。 (聞き手・渡邉一樹)
派遣ユニオン 関根秀一郎 書記長
物流現場のコンプライアンス
特 集 日雇い派遣禁止
19 AUGUST 2012
果的に賃金はどんどん下がっています」
──実際の給与はどれぐらいなのですか。
「例えば最近だと、一日がかりの引っ越しを九五〇〇
円で受ける派遣会社もあり、それだと労働者には
七〇〇〇円払うのがやっとでしょう。 三〇年前だっ
てそんな金額での募集はありませんでした」
「交通費も馬鹿になりません。 その日にどこで働く
ことになるのかわからない立場の日雇い派遣労働者
は、働く場所にたどり着くまでにけっこうな交通費が
必要です。 東京都の最低賃金は時給八七三円で、八
時間働いたとしても六九八四円です。 元が少なすぎ
るので、例えば一回の交通費が一〇〇〇円としても
大きな負担です。 一回に八時間勤務ができるとも限
らないし、景気次第で働けない日もある。 こんなこ
とでは生活は成り立たちません」
──改正法施行でそういった状況は変わりますか。
「実際にどうなるかは、まだわかりません。 しかし、
日雇い派遣会社に問い合わせると『改正の影響はな
い』という回答が多いですね。 おそらくそう答える
会社は、規制が中途半端でいい加減なものに終わる
と高をくくっているのでしょう」
──厚労省は日雇い派遣を日々紹介に寄せる考えの
ようです。
「日々紹介は古くからある形態で、配膳人やマネキ
ン(販売員)といった業界では広く使われています。
ただし、これも長期にわたって働いていても都度紹介
手数料が徴収され続ける、おかしな仕組みです。 実
態として労働者の立場は弱く、必要なくなったら『明
日から来なくてもいい』と切られてしまっています。
様々な名目で給与から天引きが行われているといっ
た相談も、私たちのところに多く寄せられています」
──どんな改善をすれば良いのでしょうか。
「企業は労働者を直接雇用すべきです。 雇用から生
じる責任・労働者とのトラブルを回避したいという企
業の考えが、労働者派遣を支える根本ですが、それ
自体がおかしい。 まずは今回骨抜きになった登録型
派遣の原則禁止と製造業派遣の原則禁止については、
きちっと法律にしなければなりません。 長期的には
同一価値労働・同一労働条件の実現と、有期雇用の
規制が必要だと考えています」
有期雇用の原則禁止が必要
──有期雇用を、どう規制するのですか。
「合理的な理由のない有期雇用は禁止すべきです。
育児休暇に伴う代替要員の募集や、元々期限が決まっ
ているプロジェクトなどのケースは例外として、そう
いった合理的な説明ができない場合については原則
禁止すべきです。 こういった『入り口規制』という
観点が、いま国会で議論されている労働契約法の改
正案には欠けています」
「同法改正案では『五年を超えて反復雇用された
場合、有期雇用から無期雇用への転換を企業に申し
出る権利(無期転換申出権)を労働者に与える』と
いう出口規制が加わります。 これは一歩前進ですが、
不十分です。 五年は長すぎますし、五年経過する前
に雇い止めされるという意見も出ています」
──一方で企業は国際的な激しい価格競争に晒され
ています。 国内の人件費が高くなれば、企業が安い
労働力を求めて海外へ進出し、産業空洞化が加速す
るのではないでしょうか。
「派遣制度がどうなろうが、為替レート次第で企業
は海外に出て行くでしょう。 近隣に労働条件が悪い
国があれば、周辺の国にも悪影響があります。 国際
的なルールを作っていくべき段階に来ています」
関根秀一郎氏は派遣ユニオンの創立者。 1994年東京
ユニオンの専属職員になって以来、一貫して非正規雇用
で働く人の労働相談や権利向上に取り組んでいる。 2008
年末の「派遣村」発案者の一人でもある。
派遣ユニオンは05年に結成された個人加入の労働組
合。 企業別・職種別の組合と違い、派遣や請負会社で働
く労働者を中心に正社員、契約社員、派遣、パート等、
誰でも加入できるのが特徴。
現在は派遣・請負労働者の権利向上のほか、フリーシ
フト、名ばかり事業主、同一価値労働・同一労働条件、
細切れ契約更改などに力を入れて活動しており、定期的
に労働相談を受け付けているほか、組合づくり、団体交
渉のアドバイス、学習会開催なども行っている。
《プロフィール》
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