ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2012年8号
特集
第4部 それでもドライバー派遣は増え続ける

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2012  28 “派遣法改正は追い風だ”  営業用トラックや自家用トラックのドライバーを派 遣する「ドライバー派遣」は一九九九年の派遣法改 正によって解禁になった比較的新しいサービスだ。
派 遣法の枠組みとしては他職との違いはないが、営業 用トラックの場合には当然、運送業者に対する規制 も受ける。
そのため日雇いなどのスポット派遣には従 来から制約があった。
 国交省令の「貨物自動車運送事業輸送安全規則」 の第三条一項は「一般貨物自動車運送事業者等は、 事業計画に従い業務を行うに必要な員数の事業用自 動車の運転者を常時選任しておかなければならない」 と定めている。
 さらに、続く二項では「選任する運転者は、日々 雇い入れられる者、二月以内の期間を定めて使用さ れる者又は試みの使用期間中の者(一四日を超えて 引き続き使用されるに至った者を除く)であっては ならない」としている。
 文字通り受け取るとスポット派遣はできないことに なる。
しかし、現実には日雇い派遣が横行している。
しかも事実上それが黙認されてきた。
同省自動車局 安全管理課によると、同規定は通常業務を対象とし ており、臨時・繁忙期にスポットで派遣を利用する ことを禁じたものではないという。
 どんな場合に短期雇用の運転者が許されるのかに ついて、同省は「明文規定はなく、個別判断」とし ているが、十月から短期派遣は原則禁止となる。
 この事態を「チャンス」と捉える向きもある。
東 京・五反田で物流向けの人材派遣や3PL事業を手掛 けるウィンコーポレーションの中村真一郎社長は「法 改正の結果、日雇い派遣が使いにくくなり、逆に長 期的な派遣を中心に行っている業者への依頼が増え る。
改めて会社を挙げてドライバー派遣の営業活動に 取り組むつもりだ」という。
 同社は特定労働者派遣事業者のため、派遣スタッ フを自社で常用雇用する義務がある。
そのためドラ イバー派遣は基本的に日雇いの案件は引き受けてこ なかった。
 トラックドライバー出身の中村社長をはじめ同社の 経営陣はほぼ全員が物流現場で働いた経験を持つ。
交 通事故やトラブルなど現場の危険性は知り尽くしてい る。
その経験から「物流ドライバーという仕事の性 質を考えると、日雇い派遣にはもともと馴染まない」 との判断だ。
 トラックドライバーの仕事は免許や運転技術が必須 で、庫内作業労働などよりハードルが高い。
それで も以前は「稼げる」イメージや、上司から離れて客 にあれこれ指示されることもなく一人黙々と仕事の できる点などが人気で、それなりに希望者はいた。
 しかし、今や環境は大きく変わった。
運賃の下落 に伴ってドライバーの賃金は大幅に低下した。
以前は 「月一〇〇万稼ぐ」というような話も珍しくなかった が、今では月三〇万、四〇万円がやっとだ。
 一方で代引きや営業、クレーム対応など、ドライ バーに求められる業務は多様化し「黙々と働く」と いうわけにはいかなくなった。
これまで魅力とされ てきた部分が薄まって、キツイ側面ばかりがクローズ アップされている。
 その結果、ドライバーの採用コストは世間の就職難 とは裏腹に高止まり状態が続いている。
現在は軽ト ラックの運転手を一人採用するのに十三万〜一五万 円、二トンや四トントラックでは二〇万〜三〇万円の コストがかかるとも言われる。
大々的に募集広告を それでもドライバー派遣は増え続ける  ドライバーのスポット派遣も原則禁止になる。
しか し、ドライバーの採用難には今後いっそう拍車がかか る。
中長期の派遣ニーズは高まり、市場は拡大する。
それを見越して有力プレーヤーはドライバー派遣事業 の強化に動いている。
         (渡邊一樹) 4 物流現場のコンプライアンス 特 集 日雇い派遣禁止 29  AUGUST 2012 打つ余裕やノウハウがない多くの中小物流企業は、人 材業に頼らざるを得ない。
 総合人材派遣業者で世界二位のランスタッドは 二〇一〇年一〇月に年商約六〇〇億円のフジスタッ フホールディングスを買収し、その子会社だったアイ ラインのドライバー派遣事業を継承した。
同事業の責 任者を務める雲戸隆使DR推進部長は「現在、ドラ イバー派遣を利用している会社の一番の動機が採用 コストだ」という。
 〇七年六月に実施された運転免許制度の改正が、 その後のドライバー不足を決定的なものにした。
警 視庁発表の運転免許統計を見ると、大型免許(第一 種)の合格者数は、新法に切り替わる〇七年以前は 毎年十一万〜十三万人が合格していたのが、新法以 降五万人前後と半分以下になっている。
 ここまで減った理由は、それまで多かった「一発 試験」での合格が試験内容の変更によって難しくな り、大型免許を取得するために教習所に通う必要が 出てきたこと、その割に大型免許に対応した指定教 習所が減っていることが指摘されている。
 同改正で新設された「中型」(車両総重量五〜十一 トン)免許の影響も大きい。
それまでは普通免許で 八トンまで運転が可能だったが、できなくなった。
そ して中型の新規合格者数は年間一万人程度と非常に 限られている。
 トラックドライバー志望者の意識自体も大きく変化 している。
「〇五〜〇六年時点では仕事を選ぶ一番の 要素は圧倒的に『お金』だったが、今は『ワークラ イフバランス』や『休みをきちんと取りたい』という 人が増えている」と雲戸部長はいう。
 大型免許(第一種)取得者全体に占める二〇代の 割合はわずか四%。
今や大型ドライバーの七割以上が 四〇代となっていて、この構造が近い将来、好転す る見込みはほとんどない。
雲戸部長は「ドライバー 不足がこれからさらに深刻化していくのは明らかだ。
それに伴いドライバーの派遣事業のポイントは『採用』 から『育成』に変わる。
教習所と提携するなど、ド ライバーを一から育てるという観点が必要になってく る」と見ている。
派遣ドライバーの直接雇用を提案  ドライバー派遣市場は現在「大手不在」の状態だ。
当初は日雇い派遣ベンチャーとして一世を風靡した グッドウィルやフルキャストが同市場を牽引してきた。
とりわけグッドウィルはピーク時、年間一〇〇億円近 い売り上げを確保していたとされる。
 しかし、同社は違法行為の発覚から事業継続が不 可能になり〇八年に廃業。
フルキャストも〇六年に設 立したドライバー派遣の合弁会社の株式を合弁先に譲 渡して同市場から撤退した。
現在はベンチャー企業や グッドウィル出身者たちが各地で起業した中小事業者 を中心に市場が構成されている。
 今のところ明確な「勝ち組」は市場に存在しない。
しかし「派遣法改正を契機に、近い将来、整理統合 が起きる可能性が高い。
しかも市場の成長は必至だ」 と雲戸部長はみている。
財務基盤の安定したランス タッドにとっては魅力的な条件が揃っている。
実際、 売上規模は着実に伸びている。
 現在、同社ではドライバーの派遣先に対して直接雇 用化への切り替えを提案している。
その結果、短期 的には派遣によるマージンを失うことになるが、クラ イアントの懐に深く入り込んで包括的な人材ニーズに 対応することで、継続的な取引と事業領域の拡大が 可能になると判断している。
ウィンコーポレーションの 中村真一郎社長 ランスタッドの 雲戸隆使DR推進部長

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