2012年8月号
ケース
ケース
キリンビバレッジ 共同物流 グループ統合に続きライバルとも共同化国内市場の成熟と低価格化で協調路線へ
AUGUST 2012 42
三年かけて事業構造を改革
飲料メーカー大手のキリンビバレッジは今
期、四年ぶりの増収を見込んでいる。
同社の 売上高は二〇〇八年度に四〇三八億円を計上 してから三期連続で減収となり、一一年度に は三一七〇億円まで落ち込んだ。
これを今期 は三四二二億円まで戻す。
昨期八四億だった 営業利益(キリンホールディングスに支払うマ ネジメントフィなどを除外する前)も一二〇 億に引き上げる。
それまでほぼ右肩上がりで成長してきたキ リンビバレッジは、〇八年度に転機を迎えた。
例年通り販売奨励金などによる販促活動を 展開したが、思うように業績につながらない。
同社でロジスティクス本部長を務める狩野住 夫常務取締役は次のように振り返る。
「従来のやり方で資金を投入すれば業績が 伸びると思っていたのだが、その前提が崩れ た。
多少売り上げは伸びても、リターン率が まったく伴わない。
当社の内部でもコントロ ールをきちんとできていない面があり、黒字 だと思っていたビジネスが実は赤字というこ とすらあった」 この状況を改めるため、〇九年度からあえ て縮小均衡に舵を切った。
事業の内容を徹底 的に精査して、赤字のビジネスなどを整理し た。
過去三期の減収はその影響だ。
構造改革 が一段落した今期から攻勢に転じる。
とはいえ、清涼飲料をめぐる国内市場の変 化は凄まじい。
五〇〇ミリリットルのペット ボトル入り飲料の店頭販売価格は、以前は一 五〇円が相場だった。
それが今やEDLP (エブリデイ・ロー・プライス)を標榜するス ーパーなどでは、人気ブランドの製品でも常 時八〇円台で並んでいる。
キリンビバレッジの緑茶の主力ブランドで ある「生茶」を例にとると、大手コンビニエン スストアにおける売価こそ一二五円だが、安 さを売りにするスーパーでは八七、八円。
そ れ以外のスーパーでも一〇〇円を切るのが当 たり前になっている。
メーカーが自ら管理している自動販売機で は、他の販売チャネルに見劣りしない?お得 感?を出そうと、内容量を五五五ミリリット ルに増量した派生製品も登場している。
〇五年に大手コンビニエンスストアが、そ れまで一四七円で売っていた五〇〇ミリリッ トルの売れ筋商品を一二五円に値下げしたこ とがターニングポイントだった。
同じ商品を 一〇〇円前後で販売する生鮮コンビニの台頭 や、大手コンビニ自身による割安なPB商品 の投入などで、それまでの相場が崩れた。
キリングループの方針の下、10年かけてグループ 統合を進めてきた。
“競争と協調”を合言葉にラ イバルメーカーとの共同物流にも踏み切った。
約1 カ月分あった在庫は約23日分まで減らした。
国内 市場の成熟化と低価格化に対応するには、それま での戦略を抜本的に改める必要があった。
共同物流 キリンビバレッジ グループ統合に続きライバルとも共同化 国内市場の成熟と低価格化で協調路線へ キリンビバレッジでロジステ ィクス本部長を務める狩野住 夫常務取締役 43 AUGUST 2012 その後も大手コンビニは、スーパーとの店 頭販売価格の差を縮めようと、主要な飲料メ ーカーを集めて「メーカー共同デポ」を展開 するなど、物流の効率化などを通じたコスト 削減の圧力を強めていった。
コンビニチェーンを主力チャネルとして成長 してきたキリンビバレッジは、逆風を真正面 から受けることになった。
単独の経営努力で 受け止めるには限界がある。
これがキリング ループ内の物流統合や他社との共同化、さら には縮小均衡もいとわない最近の構造改革へ とつながった。
近年、キリングループはグループ各社の国 内オペレーションの統合を進めてきた。
キリン ビールが二〇〇〇年代初頭から展開してきた ?グループロジスティクス戦略?がその下敷き になっている。
この戦略に基づいてキリンビ ール、キリンビバレッジなど関係各社の物流 統合を段階的に進めた。
まず二〇〇〇年に地域別に七社あった運輸 子会社を合併して、全国ネットワークを持つ キリン物流を発足させた。
同社を運送実務だ けでなく、受注業務や一部の需給管理業務ま で含めたグループ内のオペレーションを担う機 能会社と位置づけ、グループ各社で物流管理 や需給を担当していた人材を同社に出向させ てノウハウを移植した。
グループ各社の業務をキリンビール本体に いったん集約し、それを次の段階でキリン物 流に移管するかたちで、グループの物流を一 元的に管理できる体制を整えていった。
〇一年にキリンビバレッジとキリンシーグラ ム(現キリンディスティラリー)の受注業務を キリンビールに吸収。
翌〇二年には、キリン ビバレッジの各地における需給・物流業務も キリンビールに業務委託するかたちで統合し た。
そして〇三年にキリンビールの受注業務 をキリン物流に移管。
これを皮切りにキリン ビバレッジなどの各地の需給業務も〇九年ま でにすべてキリン物流に集約した。
グループ各社の役割分担を明確化 飲料事業の成長が続いていた九〇年代まで、 キリンビバレッジの物流はキリンビールからの 独立がテーマだった。
キリンビールと同様に 全国を七ブロックに分ける需給体制を採用し ながらも、委託生産比率の高さや生産ロット の制約など、清涼飲料の特性に合った独自の 物流網の構築を目指していた。
二〇〇〇年代に入って、その方針が大きく 変わった。
キリングループ内の共同化や役割 分担の見直しによる効率化が新たな目標にな った。
〇七年にキリングループは純粋持株会 社制を導入し、こうした方向性をさらに後押 しした。
グループの間接業務を一元的に管理 するキリンビジネスエキスパートという機能会 社もこのとき設立されている。
一〇年一月には、グループの飲料ビジネス の物流業務を横断的に管理するための新たな 情報システムを稼働させた。
それまでビール 工場では顧客からのオーダー変更などを見越 して受注情報をバッチで処理していた。
その ために飲料ビジネス全体の作業量が大きく変 動してしまうという難点があった。
これを新システムでは?セル方式への転換? キリングループの国内飲料事業の製造拠点および研究所 自社工場 :2 工場 グループ会社 :4 工場 委託工場 : 約40工場 ライン数:3 ライン (小型PET2ライン、大型PET1ライン) 製造能力:年間 約3,000 万ケース ライン数:1ライン( 缶ライン) 製造能力:年間 約1,500 万ケース 湘南工場からキリンビール横浜工場内の キリンテクノビレッジへ移転 (旧)開発研究所をコア技術研究所と 商品開発研究所に分割 2004 年4月 2009 年10月 湘南工場 舞鶴工場 コア技術研究所・商品開発研究所 自社製造比率 自社工場 :約30% グループ会社含む:約60% 舞鶴工場 湘南工場 信州ビバレッジ キリンチルドビバレッジ キリンビール滋賀工場 キリンディスティラリー御殿場工場 製造体制 2010年 設立 2002年 マルチPET列導入 2008年 大型PET列更新 2005年 マルチ※PET列導入 (※大型・小型兼用) 2011年 設立 チルド清涼飲料 (紙容器) 2000年 高速小型PET列導入 2002年 第2小型PET列導入 2005年 大型PET列更新 2007年 プリフォーム製造設備導入 2003年 大型PET(水)導入・ プリフォーム製造設備導入 2005年 プリフォーム製造設備増設 2008年 第2大型PET列(水)導入 コア技術研究所 商品開発研究所 自社工場グループ会社 AUGUST 2012 44 と称して、バッチ処理で物量を溜めることな く作業実務に入れるようにした。
その意義を キリンビバレッジのロジスティクス本部の新庄 博仁物流部長は、「?セル?で連続的に処理す ることで業務量を平準化し、作業の生産性を 高めるのが狙いだ」と説明する。
新システムはグループの情報システム会社で あるキリンビジネスシステムが管理し、ここで 扱うデータに基づいてキリン物流が実務を運 営する。
以前は事業会社がそれぞれに抱えて いた業務を、グループ内で効率よく分業でき る体制を徐々に整えてきた。
一連の取り組みによって、キリングループ 内の各企業の国内飲料事業における役割分担 も明確になった。
まず調達業務はキリンビジ ネスエキスパートが一元的に手掛ける。
そし て事業会社であるキリンビールやキリンビバレ ッジは、製品の開発から製造、マーケティン グ、各地の物流センターに製品を搬入するま での管理を担当する。
各地の物流センター以降の実務は、顧客か らの受注や需給調整、物流まで含めてキリン 物流が担う。
ただし、キリン物流が実施する 需給管理の目標数値の設定は、キリンビバレ ッジなどの事業会社が行い、常にウォッチし ていく。
このPDCAを回すことで、国内の 飲料事業の最適化を図る。
この動きをキリンホールディングスが後方か ら支援している。
ホールディングスの役員な どをプロジェクト・オーナーとする「クロス・ 「当社も物流拠点の集約などを進めてきたこ とから、残っている拠点はそれなりの規模に なっている。
こうした大型の拠点を舞台とす る共同化は簡単ではない。
それでもお互いに ウィン─ウィンになれる案件があるようなら、 今後もぜひやっていきたい」という。
キリングループは一一年二月から、チルド 飲料の分野で江崎グリコに物流・販売業務を 委託している。
この業務は従来、キリンビバ レッジの子会社だった小岩井乳業(現在はキ リンホールディングスの子会社)が担ってい た。
しかしグリコ乳業のほうが取扱規模で勝 るうえ、西日本にも強固な販売網を有してい る。
そのため生産は業務委託後も小岩井が手 掛けるが、それ以外はグリコに任せたほうが 得策と判断した。
この提携によって、「キリンビバレッジのチ ルド飲料事業の生産性は大きく向上した。
今 はいろいろな会社と?競争と協調?でやって いる」と狩野常務。
製品開発やマーケティン グでは競争しながらも、物流などでは協調し ていくという現実路線が浸透してきた。
こうしてグループ戦略に沿った活動を進め る一方で、キリンビバレッジ単独でも物流効 率化を進めてきた。
同社はキリンビールの子 会社だった〇四年に社内にロジスティクス本 部を発足させて、生産部門と物流部門を統合 している。
そして〇八年に、生産や物流など のコスト効率を最適化するための計画システ ム「SCOPE」を稼働させた。
カンパニー・チーム」(CCT)が、事業会社 間の調整だけでは進みにくい案件をフォロー している。
キリンビール、キリンビバレッジ、 メルシャンの三社による物流共同化もそこで テーマとして扱われている。
ライバルメーカーとも共同化 キリングループの物流共同化の矛先は今や、 ライバル企業にまで広がっている。
キリンビ バレッジがサントリーと各地で展開している取 り組みはその一例だ。
〇八年九月に和歌山で 共同配送を開始したのを皮切りに、〇九年四 月には長崎で、同年七月には千葉でも運用を スタートした。
千葉では共配だけでなく、サントリーの物 流センターに相乗りするかたちで物流拠点の 統合にまで踏み込んだ。
こうした取り組みは、 キリンホールディングスとサントリーの間で一 〇年二月に経営統合の話が破談になってから も継続しており、今も定期的な話し合いを続 けている。
千葉以降、共同化の対象エリアは増えてい ないが、キリンビバレッジの新庄物流部長は、 ロジスティクス本部の 新庄博仁物流部長 45 AUGUST 2012 国内の主力生産拠点である湘南工場の周辺で 利用していた三つの倉庫を集約し、工場から 二キロ程度の場所に手当てした倉庫に業務を 移管した。
新たな施設の運営はキリン物流が 担っており、結果として年間五〇〇〇万円以 上のコスト削減に成功した。
尼崎(兵庫)でも生産拠点の周囲で二カ所 に分散していた物流拠点を一カ所に集約した。
拠点集約は羽生(埼玉)や川崎でも進めてい る。
キリンビバレッジが生産を委託している 有力委託工場の周辺に複数あった物流拠点を 一カ所に集約したり、委託工場の倉庫と一体 化するなどして効率化を図っている。
一カ月分あった在庫を二三日まで圧縮 キリンビバレッジの在庫は〇六年度には約 一カ月分あった。
これを二四日程度まで減ら すことを目指してきた。
昨年は東日本大震災 の影響で在庫が増えてしまった時期もあった が、現状では二三日程度と目標はすでにクリ アしている。
それでもキリンビールが一〇日から二週間 程度の在庫で事業を運営しているのに比べる と、まだかなり多い。
もっぱら自社工場で製 造しているビールと違って、キリンビバレッジ の自社生産比率は三割程度に過ぎない。
残り はグループ会社と約四〇カ所の委託工場で生 産している。
サプライチェーンが複雑なだけ に在庫水準は膨らみがちだ。
現時点で約二〇〇あるSKUもロジスティ クス本部からすれば減らしたいところだ。
し かし、飲料ビジネスを取り巻く環境がそれを 許してくれない。
「付加価値の高い新製品を 次々に提案できないのであればナショナル・ ブランドとして生き残る価値はない」と狩野 常務。
ロジスティクス本部としても新製品を 投入する必要性は理解している。
新製品については発売から五週間は営業・ マーケティング部門が在庫責任を負い、六週 目以降はこれがロジスティクス本部に移ると いう社内ルールを設けている。
在庫責任を明 確化することで管理精度を高めることに加え て、トータルのSKUが増えすぎないように コントロールすることでオペレーションの劣化 を防ごうとしている。
こうして社内外で効率化に励んできたが、 ロジスティクス本部がやるべきことはまだ多 いと狩野常務はみている。
「ドライビング・フ ォースは、やはりベンチマーク。
社内で去年 よりも何%コストを下げたなどと言っていて も意味がない。
業界のなかで、どこの位置で、 どういうふうにやっていくのか。
そういう発 想で、現実とのギャップをどう埋めていくの かが重要だ」 今後は個々の作業プロセスの改善を進めて いく方針だ。
キリンビバレッジの倉庫作業の 約四割はケースピッキングが占めており、物 量の平準化などの工夫で作業効率を高めてい くことは可能だと考えている。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) SCOPEでは、それまで手作業に依存す るところが多かった需給計画の策定をシステ ム化し、担当者が計画を修正するとコストが どう変化するのかを即座にわかるようにした。
このような「コストコンシャスな仕組みに基 づいて売り上げを増やせば、おのずと利益は ついてくる」と狩野常務は強調する。
赤字事業の見直しを進めるうえでも、こう した仕組みが機能した。
同社は一〇年四月に、 「SCOPE」の稼働などで管理体制は整った 原材料 生産 引取 在庫管理 受注出荷 需要計画サポート機能需要計画 週次需給計画(引取/生産)機能引取計画 原材料購買システム 生産計画 製造年月日 データ 包材発注 包材受払 生産発注 物流費 在庫実績 マスター サプライヤー トレーサビリティシステム 在庫情報 基幹系システム 物流費管理システム 受注データ 転送データ 可視化・シミュレーション機能 生産実績 生産実績 生産実績 製造工場 生産部 需給担当 SCOPE 転送手配 データ 製造原価 マスター日次需給管理機能
同社の 売上高は二〇〇八年度に四〇三八億円を計上 してから三期連続で減収となり、一一年度に は三一七〇億円まで落ち込んだ。
これを今期 は三四二二億円まで戻す。
昨期八四億だった 営業利益(キリンホールディングスに支払うマ ネジメントフィなどを除外する前)も一二〇 億に引き上げる。
それまでほぼ右肩上がりで成長してきたキ リンビバレッジは、〇八年度に転機を迎えた。
例年通り販売奨励金などによる販促活動を 展開したが、思うように業績につながらない。
同社でロジスティクス本部長を務める狩野住 夫常務取締役は次のように振り返る。
「従来のやり方で資金を投入すれば業績が 伸びると思っていたのだが、その前提が崩れ た。
多少売り上げは伸びても、リターン率が まったく伴わない。
当社の内部でもコントロ ールをきちんとできていない面があり、黒字 だと思っていたビジネスが実は赤字というこ とすらあった」 この状況を改めるため、〇九年度からあえ て縮小均衡に舵を切った。
事業の内容を徹底 的に精査して、赤字のビジネスなどを整理し た。
過去三期の減収はその影響だ。
構造改革 が一段落した今期から攻勢に転じる。
とはいえ、清涼飲料をめぐる国内市場の変 化は凄まじい。
五〇〇ミリリットルのペット ボトル入り飲料の店頭販売価格は、以前は一 五〇円が相場だった。
それが今やEDLP (エブリデイ・ロー・プライス)を標榜するス ーパーなどでは、人気ブランドの製品でも常 時八〇円台で並んでいる。
キリンビバレッジの緑茶の主力ブランドで ある「生茶」を例にとると、大手コンビニエン スストアにおける売価こそ一二五円だが、安 さを売りにするスーパーでは八七、八円。
そ れ以外のスーパーでも一〇〇円を切るのが当 たり前になっている。
メーカーが自ら管理している自動販売機で は、他の販売チャネルに見劣りしない?お得 感?を出そうと、内容量を五五五ミリリット ルに増量した派生製品も登場している。
〇五年に大手コンビニエンスストアが、そ れまで一四七円で売っていた五〇〇ミリリッ トルの売れ筋商品を一二五円に値下げしたこ とがターニングポイントだった。
同じ商品を 一〇〇円前後で販売する生鮮コンビニの台頭 や、大手コンビニ自身による割安なPB商品 の投入などで、それまでの相場が崩れた。
キリングループの方針の下、10年かけてグループ 統合を進めてきた。
“競争と協調”を合言葉にラ イバルメーカーとの共同物流にも踏み切った。
約1 カ月分あった在庫は約23日分まで減らした。
国内 市場の成熟化と低価格化に対応するには、それま での戦略を抜本的に改める必要があった。
共同物流 キリンビバレッジ グループ統合に続きライバルとも共同化 国内市場の成熟と低価格化で協調路線へ キリンビバレッジでロジステ ィクス本部長を務める狩野住 夫常務取締役 43 AUGUST 2012 その後も大手コンビニは、スーパーとの店 頭販売価格の差を縮めようと、主要な飲料メ ーカーを集めて「メーカー共同デポ」を展開 するなど、物流の効率化などを通じたコスト 削減の圧力を強めていった。
コンビニチェーンを主力チャネルとして成長 してきたキリンビバレッジは、逆風を真正面 から受けることになった。
単独の経営努力で 受け止めるには限界がある。
これがキリング ループ内の物流統合や他社との共同化、さら には縮小均衡もいとわない最近の構造改革へ とつながった。
近年、キリングループはグループ各社の国 内オペレーションの統合を進めてきた。
キリン ビールが二〇〇〇年代初頭から展開してきた ?グループロジスティクス戦略?がその下敷き になっている。
この戦略に基づいてキリンビ ール、キリンビバレッジなど関係各社の物流 統合を段階的に進めた。
まず二〇〇〇年に地域別に七社あった運輸 子会社を合併して、全国ネットワークを持つ キリン物流を発足させた。
同社を運送実務だ けでなく、受注業務や一部の需給管理業務ま で含めたグループ内のオペレーションを担う機 能会社と位置づけ、グループ各社で物流管理 や需給を担当していた人材を同社に出向させ てノウハウを移植した。
グループ各社の業務をキリンビール本体に いったん集約し、それを次の段階でキリン物 流に移管するかたちで、グループの物流を一 元的に管理できる体制を整えていった。
〇一年にキリンビバレッジとキリンシーグラ ム(現キリンディスティラリー)の受注業務を キリンビールに吸収。
翌〇二年には、キリン ビバレッジの各地における需給・物流業務も キリンビールに業務委託するかたちで統合し た。
そして〇三年にキリンビールの受注業務 をキリン物流に移管。
これを皮切りにキリン ビバレッジなどの各地の需給業務も〇九年ま でにすべてキリン物流に集約した。
グループ各社の役割分担を明確化 飲料事業の成長が続いていた九〇年代まで、 キリンビバレッジの物流はキリンビールからの 独立がテーマだった。
キリンビールと同様に 全国を七ブロックに分ける需給体制を採用し ながらも、委託生産比率の高さや生産ロット の制約など、清涼飲料の特性に合った独自の 物流網の構築を目指していた。
二〇〇〇年代に入って、その方針が大きく 変わった。
キリングループ内の共同化や役割 分担の見直しによる効率化が新たな目標にな った。
〇七年にキリングループは純粋持株会 社制を導入し、こうした方向性をさらに後押 しした。
グループの間接業務を一元的に管理 するキリンビジネスエキスパートという機能会 社もこのとき設立されている。
一〇年一月には、グループの飲料ビジネス の物流業務を横断的に管理するための新たな 情報システムを稼働させた。
それまでビール 工場では顧客からのオーダー変更などを見越 して受注情報をバッチで処理していた。
その ために飲料ビジネス全体の作業量が大きく変 動してしまうという難点があった。
これを新システムでは?セル方式への転換? キリングループの国内飲料事業の製造拠点および研究所 自社工場 :2 工場 グループ会社 :4 工場 委託工場 : 約40工場 ライン数:3 ライン (小型PET2ライン、大型PET1ライン) 製造能力:年間 約3,000 万ケース ライン数:1ライン( 缶ライン) 製造能力:年間 約1,500 万ケース 湘南工場からキリンビール横浜工場内の キリンテクノビレッジへ移転 (旧)開発研究所をコア技術研究所と 商品開発研究所に分割 2004 年4月 2009 年10月 湘南工場 舞鶴工場 コア技術研究所・商品開発研究所 自社製造比率 自社工場 :約30% グループ会社含む:約60% 舞鶴工場 湘南工場 信州ビバレッジ キリンチルドビバレッジ キリンビール滋賀工場 キリンディスティラリー御殿場工場 製造体制 2010年 設立 2002年 マルチPET列導入 2008年 大型PET列更新 2005年 マルチ※PET列導入 (※大型・小型兼用) 2011年 設立 チルド清涼飲料 (紙容器) 2000年 高速小型PET列導入 2002年 第2小型PET列導入 2005年 大型PET列更新 2007年 プリフォーム製造設備導入 2003年 大型PET(水)導入・ プリフォーム製造設備導入 2005年 プリフォーム製造設備増設 2008年 第2大型PET列(水)導入 コア技術研究所 商品開発研究所 自社工場グループ会社 AUGUST 2012 44 と称して、バッチ処理で物量を溜めることな く作業実務に入れるようにした。
その意義を キリンビバレッジのロジスティクス本部の新庄 博仁物流部長は、「?セル?で連続的に処理す ることで業務量を平準化し、作業の生産性を 高めるのが狙いだ」と説明する。
新システムはグループの情報システム会社で あるキリンビジネスシステムが管理し、ここで 扱うデータに基づいてキリン物流が実務を運 営する。
以前は事業会社がそれぞれに抱えて いた業務を、グループ内で効率よく分業でき る体制を徐々に整えてきた。
一連の取り組みによって、キリングループ 内の各企業の国内飲料事業における役割分担 も明確になった。
まず調達業務はキリンビジ ネスエキスパートが一元的に手掛ける。
そし て事業会社であるキリンビールやキリンビバレ ッジは、製品の開発から製造、マーケティン グ、各地の物流センターに製品を搬入するま での管理を担当する。
各地の物流センター以降の実務は、顧客か らの受注や需給調整、物流まで含めてキリン 物流が担う。
ただし、キリン物流が実施する 需給管理の目標数値の設定は、キリンビバレ ッジなどの事業会社が行い、常にウォッチし ていく。
このPDCAを回すことで、国内の 飲料事業の最適化を図る。
この動きをキリンホールディングスが後方か ら支援している。
ホールディングスの役員な どをプロジェクト・オーナーとする「クロス・ 「当社も物流拠点の集約などを進めてきたこ とから、残っている拠点はそれなりの規模に なっている。
こうした大型の拠点を舞台とす る共同化は簡単ではない。
それでもお互いに ウィン─ウィンになれる案件があるようなら、 今後もぜひやっていきたい」という。
キリングループは一一年二月から、チルド 飲料の分野で江崎グリコに物流・販売業務を 委託している。
この業務は従来、キリンビバ レッジの子会社だった小岩井乳業(現在はキ リンホールディングスの子会社)が担ってい た。
しかしグリコ乳業のほうが取扱規模で勝 るうえ、西日本にも強固な販売網を有してい る。
そのため生産は業務委託後も小岩井が手 掛けるが、それ以外はグリコに任せたほうが 得策と判断した。
この提携によって、「キリンビバレッジのチ ルド飲料事業の生産性は大きく向上した。
今 はいろいろな会社と?競争と協調?でやって いる」と狩野常務。
製品開発やマーケティン グでは競争しながらも、物流などでは協調し ていくという現実路線が浸透してきた。
こうしてグループ戦略に沿った活動を進め る一方で、キリンビバレッジ単独でも物流効 率化を進めてきた。
同社はキリンビールの子 会社だった〇四年に社内にロジスティクス本 部を発足させて、生産部門と物流部門を統合 している。
そして〇八年に、生産や物流など のコスト効率を最適化するための計画システ ム「SCOPE」を稼働させた。
カンパニー・チーム」(CCT)が、事業会社 間の調整だけでは進みにくい案件をフォロー している。
キリンビール、キリンビバレッジ、 メルシャンの三社による物流共同化もそこで テーマとして扱われている。
ライバルメーカーとも共同化 キリングループの物流共同化の矛先は今や、 ライバル企業にまで広がっている。
キリンビ バレッジがサントリーと各地で展開している取 り組みはその一例だ。
〇八年九月に和歌山で 共同配送を開始したのを皮切りに、〇九年四 月には長崎で、同年七月には千葉でも運用を スタートした。
千葉では共配だけでなく、サントリーの物 流センターに相乗りするかたちで物流拠点の 統合にまで踏み込んだ。
こうした取り組みは、 キリンホールディングスとサントリーの間で一 〇年二月に経営統合の話が破談になってから も継続しており、今も定期的な話し合いを続 けている。
千葉以降、共同化の対象エリアは増えてい ないが、キリンビバレッジの新庄物流部長は、 ロジスティクス本部の 新庄博仁物流部長 45 AUGUST 2012 国内の主力生産拠点である湘南工場の周辺で 利用していた三つの倉庫を集約し、工場から 二キロ程度の場所に手当てした倉庫に業務を 移管した。
新たな施設の運営はキリン物流が 担っており、結果として年間五〇〇〇万円以 上のコスト削減に成功した。
尼崎(兵庫)でも生産拠点の周囲で二カ所 に分散していた物流拠点を一カ所に集約した。
拠点集約は羽生(埼玉)や川崎でも進めてい る。
キリンビバレッジが生産を委託している 有力委託工場の周辺に複数あった物流拠点を 一カ所に集約したり、委託工場の倉庫と一体 化するなどして効率化を図っている。
一カ月分あった在庫を二三日まで圧縮 キリンビバレッジの在庫は〇六年度には約 一カ月分あった。
これを二四日程度まで減ら すことを目指してきた。
昨年は東日本大震災 の影響で在庫が増えてしまった時期もあった が、現状では二三日程度と目標はすでにクリ アしている。
それでもキリンビールが一〇日から二週間 程度の在庫で事業を運営しているのに比べる と、まだかなり多い。
もっぱら自社工場で製 造しているビールと違って、キリンビバレッジ の自社生産比率は三割程度に過ぎない。
残り はグループ会社と約四〇カ所の委託工場で生 産している。
サプライチェーンが複雑なだけ に在庫水準は膨らみがちだ。
現時点で約二〇〇あるSKUもロジスティ クス本部からすれば減らしたいところだ。
し かし、飲料ビジネスを取り巻く環境がそれを 許してくれない。
「付加価値の高い新製品を 次々に提案できないのであればナショナル・ ブランドとして生き残る価値はない」と狩野 常務。
ロジスティクス本部としても新製品を 投入する必要性は理解している。
新製品については発売から五週間は営業・ マーケティング部門が在庫責任を負い、六週 目以降はこれがロジスティクス本部に移ると いう社内ルールを設けている。
在庫責任を明 確化することで管理精度を高めることに加え て、トータルのSKUが増えすぎないように コントロールすることでオペレーションの劣化 を防ごうとしている。
こうして社内外で効率化に励んできたが、 ロジスティクス本部がやるべきことはまだ多 いと狩野常務はみている。
「ドライビング・フ ォースは、やはりベンチマーク。
社内で去年 よりも何%コストを下げたなどと言っていて も意味がない。
業界のなかで、どこの位置で、 どういうふうにやっていくのか。
そういう発 想で、現実とのギャップをどう埋めていくの かが重要だ」 今後は個々の作業プロセスの改善を進めて いく方針だ。
キリンビバレッジの倉庫作業の 約四割はケースピッキングが占めており、物 量の平準化などの工夫で作業効率を高めてい くことは可能だと考えている。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) SCOPEでは、それまで手作業に依存す るところが多かった需給計画の策定をシステ ム化し、担当者が計画を修正するとコストが どう変化するのかを即座にわかるようにした。
このような「コストコンシャスな仕組みに基 づいて売り上げを増やせば、おのずと利益は ついてくる」と狩野常務は強調する。
赤字事業の見直しを進めるうえでも、こう した仕組みが機能した。
同社は一〇年四月に、 「SCOPE」の稼働などで管理体制は整った 原材料 生産 引取 在庫管理 受注出荷 需要計画サポート機能需要計画 週次需給計画(引取/生産)機能引取計画 原材料購買システム 生産計画 製造年月日 データ 包材発注 包材受払 生産発注 物流費 在庫実績 マスター サプライヤー トレーサビリティシステム 在庫情報 基幹系システム 物流費管理システム 受注データ 転送データ 可視化・シミュレーション機能 生産実績 生産実績 生産実績 製造工場 生産部 需給担当 SCOPE 転送手配 データ 製造原価 マスター日次需給管理機能
