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2012年8月号
現場改善

第115回 地方中堅食品卸の物流体制刷新

AUGUST 2012  74 首都圏に拠点進出したが‥‥  J社は年商約三〇〇億円の中堅食品卸であ る。
ある地方都市を地盤として総合食品卸事業 を営んできたが、近年は首都圏にも進出し、そ こでは主に外食チェーンや食品小売チェーン向 けの業務用卸として事業を展開している。
 取扱いアイテム数は約七五〇〇。
温度帯別 の取扱量はドライ食品が最も多く、次いで冷凍、 チルドの順である。
これは一般的な食品卸の商 品構成比の通りだが、業務用をメーンとする首 都圏に限れば、チルドの取扱いが最も多い。
 地元と首都圏にそれぞれ一つずつ物流センタ ーを置いている。
二つのセンターは、作業フロ ーから運営体制まで大きく異なっている。
地元 のマザーセンターは土地・建物とも自社所有で 庫内作業も自社運営。
摘み取り式でピッキング を処理して、得意先別に仕分けた状態で六つあ る各支店に納品している。
各支店から得意先へ の配送は、営業担当者が自分で納品する?商物 一致?で行っている。
 一方、首都圏は埼玉に物流センターを置き、 土地・建物から運営まで外部委託している。
D AS(デジタルアソートシステム)を使用した種 まき式で商品を仕分けて、センターから直接店 舗に納品し、オリコンなどを回収する完全な商 物分離体制だ。
 J社で我々日本ロジファクトリー(NLF)と の窓口となったのは、K副社長であった。
?外 部の専門家の力を借りて、さらなるコストダウ ンを図りたい?という。
しかし、初対面の段階 では、当社の他にも複数のコンサルティング会 社に声をかけているとのことで、踏み込んだ情 報の開示はなかった。
 その後、コンサルティング会社の選考を兼ね た面談を重ね、様々な角度から質問することで、 徐々に改善イメージがわき上がってきた。
地元 のマザーセンターに関しては、「?センター運営 における作業生産性の向上」、「?作業フローの 見直し」、「?商物一致体制の検証」が不可欠で あった。
 一方、首都圏に対応する埼玉センターでは、 「?委託先との業務の線引き」、「?作業の数値 化による適正原価の算出」、「?共配による運送 費削減を見据えた配送事業者の見直し」が重点 テーマになりそうだった。
センターごとに改善 の進め方や方法論を落とし込む必要があった。
 我々NLFへの委託が正式に決まり、プロジ 事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表  地方都市を地盤とする中堅食品卸が首都圏に進出し、地 元と埼玉にそれぞれ物流センターを構えている。
地元のセン ターは自社運営で配送も商物一致。
首都圏は商物分離で業 務はすべて外部委託している。
二つの現場は全く性格が違 うため、それぞれ改善のスキームを組み立てる必要があった。
地方中堅食品卸の物流体制刷新 第115 回 あおき・しょういち  1964年生まれ。
京都産業 大学経済学部卒業。
大手運 送業者のセールスドライバー を経て、89年に船井総合研 究所入社。
物流開発チーム・ トラックチームチーフを務め る。
96年、独立。
日本ロジファ クトリーを設立し代表に就任。
現在に至る。
主な著書に『経 営のテコ入れは物流改善から』 明日香出版社、『物流のしく み』(同文館出版)などがある。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp PROFILE 75  AUGUST 2012 ェクトを開始するに当たって一つ確認しておき たいことがあった。
地元エリアと首都圏のどち らの改善に先に着手するかという点である。
J 社にとって地元エリアは売上高の九割を占める 主戦場である。
その一方、首都圏は競争が激し くテコ入れを必要としていた。
 J社の回答は地元エリアの改善を先行させた いとのことであった。
筆者には妥当な判断に思 えた。
改善活動の費用対効果は、事業規模が大 きいほうが当然ながら有利になる。
それに加え てJ社の首都圏事業はかなり旗色が悪かった。
 首都圏における外食チェーン向けのベンダー 事業は、大手数社による寡占化が顕著になっ ている。
大手による準大手の買収や統合が進み、 温度帯によるベンダーの棲み分けも崩れてきた。
この市場にJ社が明確な競争優位性を持たない まま深入りすれば、経営全体を疲弊させてしま うことにもなり兼ねないと筆者は危惧していた。
 こうして改善の優先順位は決まった。
次のス テップは何より現場である。
「全ての答えは現場 にある」と筆者は考えている。
データは薬にも なれば、時には毒にもなる。
扱い方次第ではプ ロジェクトを間違った方向に導いてしまうこと さえある。
しかし、現場は嘘をつかない。
現場 は生き物であると同時に常にリアルだ。
数多く のプロジェクトで幾度も辛酸をなめた経験から、 筆者はそう結論付けている。
老朽化したセンターが示すもの  J社の現場は荒れていた。
マザーセンターは 衛生管理の心配さえ感じるほど施設の老朽化が 進んでいた。
約一八〇〇坪の保管スペースは商 品で溢れ返っており、人の通る通路さえ十分に 確保できていなかった。
 データ検証前ではあったが、回転率の低いB ランク品、Cランク品の在庫が過剰になってい るのは明らかだった。
在庫差異の発生、先入 れ先出しの不徹底による賞味期限切れ商品の誘 発、元箱(もとばこ)管理の不備による日付の 逆転、ピッキングミスによる誤出荷など、多く の課題が散見された。
 一方、埼玉センターは委託先のB社に業務を ?丸投げ?している状態であり、J社側ではノ ーチェックに近かった。
実際、B社から在庫差 異が報告されても何の手も打たずにいた。
しか も、マザーセンターと同様に施設の老朽化が進 んでいた。
 実はセンター設備の老朽化はJ社に限らず、中 堅食品卸に広く見られる傾向である。
コスト優 先で委託会社を選び、設備投資に資金を回す余 裕もない中堅卸の厳しい現状が如実に表れてい ると言えるだろう。
 さて、現場視察を終え、我々は具体的な施策 の実施に取りかかった。
まずは「?センター運 営における作業生産性の向上」である。
マザー センターの運営スタッフは半分近くが正社員で 残りもほとんどがフルタイムの契約社員であっ た。
その多くはJ社の営業出身者であった。
 J社のような地域密着型企業によく見られる 雇用維持対策かと思いきや、そうではなく、単 にパート採用に消極的なだけであった。
J社の 場合、営業マンでも比較的給与水準が低いこと もあって、人手の必要に応じて営業出身者をセ ンターに異動させていたのだった。
 しかし、川下の流通センターの現場作業は、パ ート化比率九〇%が一つの目安となっている。
いくら正規社員の給料が安いといってもパート の時給とは比べものにならない。
実際、マザー センター運営費に占める人件費比率は一般的な 水準と比較して著しく高かった。
高コスト体質 は明らかだった。
 そこで人員の適正化を含めたレイバーコント ロールを実施し、同時にムダ取りとしての「六 つのない」(待たせない、持たせない、書かせ ない、探させない、歩かせない、考えさせな い)に着手した(図1)。
 その一貫でもある「?作業フローの見直し」 では大きな欠陥が二つ見つかった。
「ダブルピッ キング」と入荷検品の形骸化である。
このうち 図1 レイバーコントロールを支える仕組み、現場ルール 1.終わりじまいの 雇用契約と 終了時間の設定、 通達 3.多能工スタッフ の育成 2.「昼礼」の実施 による 人員調整 4.ホワイトボード、 掲示板による 現場での共有化と 可視化 レイバーコントロールの 実現と徹底 AUGUST 2012  76 ダブルピッキングとは、その日に出荷する総量 を先ず棚から取り出し、その後で得意先別に仕 分けるやり方だ。
スペースが手狭なセンターに は不向きであり、J社の場合はアイテムもばら ついているため効率が悪かった。
 そこで得意先毎に各アイテムを摘み取り式で ピッキングするシングルピッキングに変更するこ とにした。
そのメリットは明らかだったが、後 にも述べるように、この作業フローの変更はス ムーズにはいかなかった。
新たな運用が安定す るまでには約二カ月を要することになった。
 もう一方の入荷検品の形骸化は、明確な検品 ルールのないことが原因だった。
そして入荷デ ータの精度が低いことが後工程の在庫差異、ピ ッキングミスに繋がっていた。
 出荷精度の向上は、正確な入荷・格納が大前 提である。
?出るを制する?には、まず?入る を押さえる?必要がある。
ところが多くの現場 が入荷検品を疎かにしている。
業種・業態によ っては、受け入れ作業の負荷を軽減するために、 納品に来たドライバーに種まき式に入荷させる ことで、却って管理精度を落としているケース も見られる。
 とはいえ、J社の場合、検品精度の向上の ために設備投資をする余裕はなく、また作業負 荷を大きくしてしまうことも避けたかったため、 検品方法をサンプリング(一パレットにつき三 ケースなど)による数量だけのチェックにして、 そのかわり入荷検品者には自筆サインを徹底さ せることにした(表1)。
顧客別にサービスレベルを設定  「?商物一致体制の検証」は、卸であれば必 ず一度は試行錯誤するテーマである。
商流と物 流を分離してコストを下げるか、あるいは営業 力を重視して一体化するか、単純な二者択一で 十把一絡げに決めてしまう会社も多い。
しかし、 筆者は顧客特性に合わせてそれぞれサービスレ ベルを設定する方法を推奨している。
 基本的には、取引量が多く提案や値段交渉 を本社(本部)で行うAランクの得意先は「分 離」が得策である。
また月に一度しか注文がな いようなCランク以下の得意先も「分離」が適 している。
Aランクに引き上げるか、Cランク 以下に落ちるか、見極めが必要となるBランク 顧客に、納品と同時に営業活動を行う商物一致 が効果を発揮する。
 ただし、営業マンにスキルや能力がない会社 では、これらの分類も意味を成さない。
商物一 致によって得意先とのコンタクト回数を増やし ても何のプラスにもならないからだ。
幸いにし てJ社の営業マンは、若くまじめで成長余力も あった。
そこでBランクの得意先だけ商物一致 を続けることにした。
この改革は後に、営業マ ン一人当たりの売上金額を約九%アップすると いう効果に繋がった。
 また、商物分離によって商流機能を切り離し た配送ルートには、二つのパターンを設定した。
一つは自社社員による配送専任スタッフが担当 するルートであり、もう一つは外部委託である。
配送に時間を要する遠方の納品先や共同配送が 成り立つルートを外部委託の対象とした。
同じ 納品先向けの荷物を持つ物流会社を探して配送 を委託したのである。
 マザーセンターにおけるこれらの改革・改善 に対して、現場の古参組には当初抵抗感が強か った。
プロジェクトチームと衝突する場面も少 なくはなかった。
そのたびにK副社長と我々N LFのメンバーも同席して話し合いの場を設け て意識の共有に努めた。
 とりわけ、総量ピッキングからオーダーピッ キングへの変更に、現場は大きく戸惑った。
作 業の混乱から約一カ月半にわたって残業が発生 してしまった。
しかし、それも二カ月を過ぎた 頃からようやく落ち着きを見せ始めた。
これは 表1 入荷検品チェックリスト 入荷日: 年 月 日 1 2 3 4 5 商品CD 賞味期限 段数 パレット数 入荷数量 パレット組形態 商品名 年 月 日年 月 日年 月 日年 月 日年 月 日 段段段段段 担当者名        印 77  JULY 2012 意識改革が現場に定着したことが大きかった。
 「なぜこのようなことをする必要があるのか」、 「何のために今までのやり方を捨てなければな らないのか」──センター運営と輸・配送の両 方を管理する若手のリーダーと、古参組のリー ダーは何度も話し合いを重ねていた。
 その話し合いを通して現場の中軸となるリー ダー二人に?納得感?が芽生え、それが現場に 浸透していった。
思えばK副社長は、プロジェ クトに着手した当初から「納得しなければ人は 動かない」と口癖のように繰り返していた。
そ の意味を筆者は改めて痛感させられたのであっ た。
 地元のマザーセンターにおける改革・改善の 実施には結局、約六カ月を要した。
その後の三 カ月間は、新たな体制の安定軌道化に向けた猶 予期間として、K副社長と我々に与えられてい た。
それを仕上げた後、プロジェクトは埼玉セ ンターの改善に大きく舵を切った。
 埼玉センターを管轄する首都圏事業部門のス タッフは、J社の地元エリアではないこともあ って、大半が首都圏進出に伴って採用した中途 入社組であった。
そしてセンター運営業務は先 述の通り協力会社に?丸投げ?の状態だった。
しかも、センター運営をA社、輸・配送をS社 と、別の協力会社に委託するかたちをとってお り、外注化のコストメリットを十分に享受でき ていなかった。
 まずは「?委託先との業務の線引き」を明 確にする必要があった。
物流管理機能はJ社自 身が持たなければならないことを改めて確認し た。
具体的には、在庫差異と配車組み(ルー トと台数)について、運営を担うA社とS社か ら毎日、J社に報告させる。
それをJ社側でチ ェックし、指示をフィードバックする。
このサ イクルのルーティン化を図った。
 同時に月一回の定例連絡会議を組織した。
現 場作業の管理指標として「誤納率」、「商品破 損率」の二つを設定。
連絡会議でA社とS社 がそれぞれ状況を報告し、J社と共に原因の究 明と対策を講じる体制だ。
センター運営と配送の委託先を一本化  「?作業の数値化による適正原価の算出」に は大きな壁があった。
J社には物流データの蓄 積がなかった。
そのことは今回のプロジェクト の前半戦ともいえるマザーセンターの取り組み で既に判明していた。
 J社は販売管理システムに、卸業界ではトッ プシェアを誇る情報システム会社T社のパッケ ージを導入していた。
しかし、そこに付帯し ている物流管理機能さえ全く利用できていな かった。
そのままでは原価を算出できないた め、販売管理データの加工やワークサンプリン グの実施などによって応急措置的にデータを集 めて、注釈付きの暫定的なものではあるが、原 価を弾き出した。
 その結果、センター運営費の現状の委託料金 は相場レベルにあり、J社の物量を考慮すれば、 むしろ安価に抑えられていることが確認できた。
しかし、運賃はやや割高だった。
これを受けて 「?共配による運送費削減を見据えた配送事業 者の見直し」に着手した。
 現在の卸のセンター運営業務を物流会社側か ら見た場合、「センター運営は赤字。
運送で多 少利益が出て、全体で収支トントンか若干の黒 字」というのが実状である。
つまりセンター運 営と配送の両方を受託しなければ物流会社とし ては収支が合わない。
しかし、J社の場合はセ ンター運営がA社、配送がS社の分離発注とな っている。
物流会社側から見てJ社の業務に魅 力がないことは明らかであった。
 また、輸配送とセンター運営をローコストで 対処できている物流会社は、その大半が足回り を自ら持っている。
ルート配送を他社への傭車 に頼っている物流会社はコスト面でコンペに勝 てない傾向がある。
品質面でもセンター運営と 配送は同一会社に任せたほうが、着車時間の 融通や指示の徹底などの点で有利になる。
 検討の結果、これまでセンター運営だけを委 託してきたA社に配送まで一括して委託するこ とにした。
A社はJ社以外に外食チェーンや小 売業の輸配送を手掛けていた。
そのネットワー クを利用することで、共配メリットを受けられ ると同時に輸送費の変動費化が可能になること が判明したからだ。
 こうして埼玉センターの改善に着手してから 三カ月後にセンター運営と輸配送業務をA社に 一本化した。
その結果、七%強のコストダウン が実現した。
ただし、新体制はまだ盤石とはい えない。
新体制の運用が完全に安定するまでは、 コストの上振れ懸念がある。
引き続き目が離せ ない状況である。

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