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物流指標を読む
AUGUST 2012 78
経営者と物流現場で異なる景気判断
第44 回
●消費増税=税収増という幻想
●大企業の景況感は改善の動き
●国内の荷動き指数は停滞傾向さとう のぶひろ 1964 年
生まれ。 早稲田大学大学院修
了。 89年に日通総合研究所
入社。 現在、経済研究部担当
部長。 「経済と貨物輸送量の見
通し」、「日通総研短観」など
を担当。 貨物輸送の将来展望
に関する著書、講演多数。
どじょう豹変す
二〇〇九年の衆院選で「消費税率を引き上げて
も、シロアリがたかるだけ。 増税の前に無駄遣い
を無くす必要がある」と立派な演説を打っていた
野田佳彦首相が、どうやらシロアリに洗脳されて
しまったようだ。 今では「不退転の決意で、政治
生命をかけて、命をかけて」消費税増税を実行す
ると言っている。 マニフェストに書いてあることは
ほとんどやらず、逆に絶対やらないと言っていた
消費税増税には命をかけるという。 「君子豹変す」
と言うが、泥鰌(どじょう)も豹変するようだ。
ただ、テレビの街頭インタビューを見ていると、
「孫子の代に借金を付け回してはいけない」とか
「社会保障制度を維持するために」などの理由で、
消費税増税はやむなしと答えている国民は少なか
らずいるようだ(もっとも、この手のインタビュ
ーは「世論調査」ではなく「世論誘導」のために
やっているとしか思えないのだが)。
しかし、消費税を増税すれば、危機的な財政状
況から脱却できるのだろうか。 様々な試算がある
ようだが、わが国のプライマリーバランス(注:
基礎的財政収支=国の収入のうち国債発行による
収入を除いたものと、国の支出のうち国債の償還
費・利払いの費用を除いたものの収支バランス)
を均衡させるためには、消費税率を二〇%程度ま
で引き上げる必要があるというのが大方のコンセ
ンサスだ。
では、消費税率を二〇%に引き上げた場合、日
本経済はどうなるのだろうか。 本当に財政赤字は
減少するのだろうか。 参考までに、二つの事例を
挙げてみよう。
まず、財政危機の真っ只中にいるギリシャの消
費税率をご存知だろうか。 標準税率は〇六年の一
八%から段階的に引き上げられ、一〇年には二三%
となっている。 また、軽減税率が適用されている
食料品にも十三%の消費税が課せられている。 こ
れだけ高い税率の消費税が課せられていても、放
漫財政のもとでは財政は破綻するのだ。
もうひとつ、わが国でも、橋本龍太郎首相の時、
九七年に消費税率は三%から五%に引き上げられ
た。 それに伴い、九七年度の一般会計の税収は
五三・九兆円で、前年度より一・八兆円増加した。
しかし、翌九八年度には四九・四兆円と逆に四・
五兆円も税収が減少したのである。 消費税収は少
し増加した(注:〇・八兆円増)ものの、所得税
や法人税の税収が激減した(注:所得税収は二・
二兆円減、法人税収は二・一兆円減)ためだ。 も
っとも、九八年度においては、所得税については
定額の特別減税、法人税については税率の引き下
げが行われたことが税収減の大きな要因であった。
だが、消費税増税は景気に急ブレーキをかけ、九
八年度の実質経済成長率はマイナス一・五%、名
目の成長率もマイナス二・〇%とマイナス成長に
逆戻りし、その後、一般会計の税収も落ち込んで
いった。 この消費税増税によって、バブル崩壊後、
せっかく良くなりつつあった景気は再び悪化し、失
われた一〇年、二〇年に突入してしまったわけで
ある。 橋本氏は、後に「大蔵省は、消費税を増税
しても景気は悪くならないと言った。 大蔵省に騙
された」と言っていたそうだ。
言うまでもなく、現在のわが国経済はデフレの
日本銀行「短観」
日通総合研究所「企業物流短期動向調査」
79 AUGUST 2012
度に八%に、さらに一五年度には一〇%に引き上
げられる予定であるが、重篤なデフレ病を患って
いる日本経済は耐えられるのだろうか。 ちなみに、
四月の国会において、「デフレ下で国民所得が減
っているなか、税率を上げれば税収は増えるのか、
減るのか」と追及された財務省の古谷主税局長は
「減少します」と答えたという。
このように、消費税率を上げたら税収が増える
というのは幻想であり、失われた三〇年へのスタ
ートを切るだけのように思えるのだが‥‥。
もっとも、先日衆議院を通過した消費税法改正
案では「名目三%、実質二%の経済成長」とい
う景気条項は残っているように記憶しているので、
一四年度に消費税率が自動的に八%に上がるわけ
ではないが、「景気条項」がいつまでも残ってい
る保証なんてどこにもない。
荷動きプラス転換に至らず
ところで、そもそもの話、企業は現在の景気動
向をどう判断しているのだろうか。 日銀「短観」
(六月調査)の業況判断DIをみると、大企業・
製造業ではマイナス一(三月調査:マイナス四)、
大企業・非製造業ではプラス八(同プラス五)で、
ともに前回調査時よりも三ポイント上昇しており、
大企業における景況感には改善の動きがみられる。
一方、中堅企業においては、非製造業ではプラス
三となっているが、製造業ではマイナス六、中小
企業に至っては、製造業:マイナス十二、非製造
業:マイナス九と厳しい状況が続いている。
一方、日通総合研究所が六月に実施した「企業
物流短期動向調査」(日通総研短観)では、国内
向け出荷量『荷動き指数』は、四〜六月実績がマ
イナス五と、前期(一〜三月)実績のマイナス七
から二ポイントの改善にとどまった。 また、七〜
九月見通しについてはさらに二ポイントの上昇が
見込まれるものの、マイナス三と引き続き水面下
の動きとなっている。
この結果は、筆者にはかなり意外なものであっ
た。 なぜならば、前年(一一年)の四〜六月は、
震災の発生に伴うサプライチェーンの寸断の影響
などを受け、マイナス二一と急落した時期であり、
正直なところ筆者は、一二年四〜六月実績ではプ
ラスに転換するものと予想していたからだ。 しか
し、ふたを開けてみると、前述のとおり、前回調
査における見通し(マイナス七)よりは若干上ブ
レしたものの引き続きマイナスとなり、さらに次
期の見通しでも荷動き停滞の動きに変化はみられ
ない。
ところで、国内向け出荷量『荷動き指数』は、
実質GDPの動きと連動する傾向にあり、物流面
からみた景気動向の指標である。 日銀「短観」に
おける大企業・製造業の業況判断DIと比較し
て、『荷動き指数』は若干弱めの結果となってい
る。 このギャップは何なのか。
「日通総研短観」は、荷主企業の物流担当者、す
なわち実際の物流の現場を把握している方に回答
していただいている。 すなわち、生の経済状況を
肌で感じている方々だ。 それに対して、日銀「短
観」の回答者はおそらく企業の経営企画などの担
当者であり、経営者に近いところにいる方々なの
ではないか。 経営者と現場の間の見解には、やは
りギャップが存在しているように思う。
状態である。 九七年度は景気が上向きかけていた
時期で、当時の名目GDPは五二一兆円もあっ
た(注:一一年度は四七〇兆円)。 にもかかわら
ず、二%の消費税率引き上げによって、日本経済
はその後のデフレ不況へと突き進むことになった
のである。 消費税率は、このままでいけば一四年
国内向け出荷量『荷動き指数』の推移
荷動き指数
20
10
0
-10
-20
-30
-40
-50
-60
-70
-80
? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ?
2008 2009 2010 2011 2012
△57
△75
△69
△56
△28
6
14 15
7
3
△21
1
△7
△7
△5
△25
△74
△61
△38
△15
0 1
△8
△4
△10
5
△12
△7
△3
13
実績
見通し
△65
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