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まだ物量が伸びていく。 取り組む余地
はたくさんあります」
──世界中の船会社が業績の悪化に苦
しんでいるのに、欧米のメガフォワー
ダーの業績は悪くない。 物量の減少で
売り上げは下がっても利益は維持して
います。 これをどう見ますか。
「それだけメガフォワーダーは船会
社に対して有利な仕入れができてい
る。 そうでなければ、あれだけの利益
は出ません。 今後はさらに『NVOC
C(Non-Vessel Operating Common
Carrier:非船舶運航業者)』の二極化
が進むはずです。 だから我々も急いで
いる」
──これまで日本では大手荷主が船会
社と直接契約を結ぶことが多く、海上
フォワーディングは比較的ニッチなサ
ービスで、寡占化も進んでいない。 メ
ガフォワーダーが市場を牛耳る欧米と
は環境が全く違います。
「その構図も徐々に変わってきまし
た。 世界中の海上キャリアが現在、コ
スト削減の一環で集荷の営業マンを減
らしています。 その結果、日本も荷主
と船会社が直接契約するところからN
VOCCの世界にどんどん変化しつつ
あると感じています。 実際、従来はキ
ャリアとしか付き合っていなかった日
系の大手荷主が、割と大きな量をわれ
われに任せてくれるようになっていま
統合効果で応札の機会拡大
──二〇一二年三月期は、郵船ロジ
スティクスの実質的な初年度となりま
した。 (=一〇年一〇月に旧・郵船航
空サービスとNYKロジスティックス
を統合し、郵船ロジスティクスが誕生)
統合効果は現れていますか。
「国際入札へのお誘いが俄然増えま
した。 荷主は主に外資系、ライバルは
欧米のメガフォワーダーですから非常
に厳しい競争を強いられますが、それ
でも大きな案件を既にいくつか取るこ
とができました。 取扱量で約一〇万
TEUを上積みすることができました。
当社の一二年度の海上貨物取扱量の目
標は六四万TEUなので、一一年度
実績の四五万TEUから二〇万増やさ
なければいけないわけですが、既にそ
の半分を確保したかたちです。 入札に
負けた場合でも、理由を分析すること
ができるようになりました。 統合する
前は入札に参加すること自体が難しか
った」
──今年四月に経済情勢を踏まえ、中
期経営計画の業績目標を下方修正しま
した。 しかし、一三年度に海上貨物が
一〇〇万TEU、航空貨物が五〇万
トンという取扱規模の目標値は据え置
いた。
「あえて手を入れませんでした。 海外
で勝負するには、そのレベルの取扱規
模がどうしても必要だということを社
内に周知させるためです。 ボリューム
を増やすことで、キャリアがわれわれ
を見る目は全然違ったものになる。 そ
れが輸送スペースの仕入れ価格に反映
されます」
「そのために昨年、海上事業部や航
空事業部を設置して仕入れをグローバ
ルに集約しました。 以前は世界各国で
計一〇〇社近くの船社からスペースを
仕入れていました。 それを、コアキャ
リア五社を選定して、そこにできる限
り集めた。 キャリアもそれに対応して
くれて、有利なレートで交渉できるよ
うになってきました。 とはいえ、欧米
のメガフォワーダーと比べると、まだ
まだ差がある。 取扱量をもう一段大き
くしたいと感じています」
──問題は日本発着以外の貨物への対
応ですね。
「ところが足下で最も伸びているのは
日本発着の貨物なんです。 統合によっ
ていっそう競争力が高まっている。 し
かし、中長期的にボリュームを増やす
必要があるのは、日本以外の三国間で
す。 とりわけ中国であり、インドです。
欧米ももちろん取りに行きますが、物
量的には飽和状態です。 アジアはまだ
郵船ロジスティクス 倉本博光 社長
「国際入札でメガフォワーダーと勝負する」
国際入札で勝ち抜く前提として取扱規模で「二〇一三
年度に海上貨物一〇〇万TEU、航空五〇万トン」の中
期目標を堅持する。 欧米のメガフォワーダーをライバル
と位置付け、一兆円の売上高を将来の目標に置く。 成長
市場のアジアで、グローバル企業の物流をどれだけ取り
込めるかが鍵を握る。 (聞き手・大矢昌浩、藤原秀行)
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す。 ポート・トゥ・ポートだけではな
く、配送などの部分も頼むよ、という
かたちで丸投げされるお客様が増えて
きました」
──航空フォワーディングに関しては、
海上貨物ほどメガフォワーダーとの差
はないのでは。
「ただし、日系フォワーダーとの競争
があります。 とくに米国発着や中国発
着は、ライバルに見劣りがする。 旧郵
船航空サービスは日系荷主の日本発着
貨物をメーンにしてきました。 米国や
中国は、日本通運や近鉄エクスプレス
に先行されました。 両社がベンチマー
クであり、負けていられません」
──エリア別の業績を見ると、米国と
欧州ではコントラクト・ロジスティク
ス(3PLに相当)の売り上げが圧倒
的で、フォワーディングがとれていな
い。
「社内では『プラスワン』と言って
いますが、例えば航空貨物をやってい
る人間はプラスワンで海上貨物の話を
取ってきなさい、と指示しています。
統合で海上、航空、コントラクト・ロ
ジスティクスの壁が取り払われたので、
そういった形での営業がやりやすくな
りました。 非日系の企業が攻めどころ
です。 欧米でもコントラクト・ロジス
ティクス以外の部分を取りに行くよう
営業担当者を教育していて、少しずつ
通運や日立物流とビジネスモデルが似
てきました。 財閥系の倉庫会社も同様
です。 M&Aで業務領域や事業規模を
急拡大させている。 フォワーダー同士
の競争から総合物流会社としての競争
に変わってきました。
「日本国内の物流が減っている以上、
どこも海外に出て行かないと負けてし
まう。 日本のお客様もほとんどが海
外に出ていっている。 それに付いてい
かなければ切られてしまうのだから、
我々とぶつかる場面が増えてくるのは
当然です。 しかし、フォワーディング
ではわれわれに一日の長がある。 取扱
規模が違う。 まだ脅威には感じていま
せん」
「やはり、欧米のフォワーダーのほう
が怖い。 もともと欧州との貿易が多い
インドで彼等は相当に強いし、中国で
も着実に歩を進めている。 東南アジア
でも伸びています。 手遅れになる前に、
われわれは今攻めていきます」
効果が出ています。 既に二、三大きな
契約が取れています」
──コントラクト・ロジスティクス事
業はメガフォワーダーにしても、あま
り利益が出ていません。
「やり方次第でしょう。 米国や欧州
はすごく頑張ってくれていたが、物
量が減っているので今は確かに厳しい。
儲かっていないところは、儲かってい
たころの過去の栄光にとらわれず、縮
小も考えないといけない。 その一方、
物量が増えている中国やASEANは
利益をとれる。 中国やインド、インド
ネシア、東南アジアあたりはアセット、
特に倉庫やトラックなどに積極的に投
資していくつもりです。 タイやマレー
シア、インドなどでは具体的に増床の
計画がどんどんできています」
国内3PL強化が課題
──長期目標として「連結売上高一兆
円」を掲げています。 それにはM&A
が必須だと思いますが、これまでのと
ころ大きな動きはありません。
「もちろんM&Aも検討しています。
とはいえ、まずは足固めが大事です。
今は世界中で経営統合を進めている最
中で、落ち着くまでに今年一杯はかか
ります」
──グローバル化に対応するために3
PLが国内外のフォワーディング会社
を買収する動きが活発化しています。
「当社の場合は他社とは違って、む
しろ日本国内の物流拠点が薄い。 海外
で物流センターの運営を請け負ってい
るお客さんからよく『日本でもできな
いか』という打診を受けますが、十分
に対応できていません。 現在、当社は
全世界に計二〇〇万平方メートルの倉
庫スペースを展開していますが、その
うち日本は七万平方メートルに過ぎま
せん。 しかも、その多くは港にある倉
庫です。 配送や流通に対応した施設が
必要です。 自分で作るのか、よそから
買うのか、何かしら対処しなければな
りません。 そういう問題意識を持って
いるので、国内の物流会社でニーズに
合う企業があれば、M&Aの選択肢に
なります」
──海外フォワーダーの買収は?
「欧米で商圏を手に入れるという意味
では興味はあるし、出物も結構ありま
すが、ポイントはやはり人です。 フォ
ワーダーの場合、買収によって従業員
が出ていってしまえば意味がない。 仕
事まで出ていってしまいますから。 買
収後に既存の組織と一緒にうまくでき
るかどうかが問題です。 いろいろ考え
なければ効果が出ないので簡単ではあ
りません」
──郵船ロジスティクスとしてフルラ
インのサービスを揃えることで、日本
倉本博光(くらもと・ひろみつ)
1948年生まれ。 慶應義塾
大学経済学部卒、72年日本郵
船入社。 米国子会社社長など
に就いた後、2001年日本郵船
取締役。 同社副社長、郵船ロ
ジスティクス副社長を経て、11
年4月から現職。 東京都出身。
64歳。
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