ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2012年9号
ケース
アデランス SCM ERPパッケージで国内システムを統合生産依頼から受注・出荷まで一元管理

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SEPTEMBER 2012  66 組織改革で業務の標準化を図る  アデランスは国内最大手のウイッグ(かつ ら)メーカーだ。
全国の直営店や百貨店など 約二三〇店舗で商品を販売している。
二〇一 二年二月期の連結売上高は四七四億円。
男 性向けのオーダーメイドウイッグで成長した 会社だが、近年は売り上げの過半を「フォン テーヌ事業」をはじめとする女性向けが占め ている。
海外進出も進んでいる。
欧米やアジ アなど一〇カ国に販売拠点を展開。
タイとフ ィリピンに工場を置き、そこから日本を含む 世界各国に商品を供給している。
 二〇一〇年九月まで、同社の事業はオーダ ーメイドの男性女性用ウイッグ「アデランス」 と、レディーメイドの女性用ウイッグ「フォ ンテーヌ」のブランド別に会社が分かれてい た。
持ち株会社の「アデランスホールディン グス」が両社を吸収合併する形で現在の体制 へ移行した(当初の社名は「ユニヘアー」で 二〇一一年七月に「アデランス」へ変更)。
 この統合を機に同社は業務改革とシステム 統合に乗り出した。
それ以前はアデランスと フォンテーヌでサプライチェーンが全く異なっ ていた。
 アデランスは客の希望するヘアスタイルで 頭の形に合わせて一点ずつ生産する受注生産 方式で、販売チャネルは直営店のみ。
一方の フォンテーヌは客が店頭にある商品のなかか らスタイルや色を選んで購入する在庫販売方 式で、販売チャネルは百貨店が中心。
このほ か、美容材料卸を通じて美容院の顧客へ販売 する「美材ルート」もある。
 受注・請求の仕組みも違った。
アデランス は本社で集中処理。
卸ルートを持つフォンテ ーヌは地域ごとの「営業支店」に処理を分散 していた。
支店によって処理方法もまちまち で効率が悪かった。
 また両社とも販売管理や在庫管理、会計 管理などの業務ごとにそれぞれ固有のシステ ムを持っていた。
システム間の連携はバッチ 処理で運用は複雑だった。
しかも海外の生産 拠点や販社とは情報システムが連携していな かった。
受発注情報や財務データをファクス かメールでやり取りしているのが実情だった。
 統合を契機として、同社は直営店でレディ ーメイド品を販売したり、百貨店でオーダー メイド品を販売するなどの相互乗り入れによ る販売拡大策や、グローバル展開の強化を打 ち出した。
これらの施策を実行し、統合のシ ナジー効果を上げるためには、業務プロセス を標準化するとともに、ネットワークとシス  事業会社の統合を機にSCM改革に着手した。
業 務を標準化してシステム統合を行い、在庫管理の 一元化と情報の共有を実現、在庫削減を進めるた めの環境を整えた。
今後は海外の工場の生産の進 捗や在庫状況を「見える化」して、グローバルな 需給調整機能の統合を図る。
SCM アデランス ERPパッケージで国内システムを統合 生産依頼から受注・出荷まで一元管理 廣瀬拓生情報システム部長 67  SEPTEMBER 2012 テムの統合によって業務管理や経営情報の管 理を一元化する必要があった。
 そのために、まずは組織改革を断行した。
統合前の二〇一〇年四月にアデランスホール ディングスに「サプライチェーンマネジメント 統括部」(以下ではSCM統括部)を発足させ て、受注、在庫、出荷などのサプライチェー ンに関連する管理業務を段階的に同部に集約 した。
 物流拠点も見直した。
統合前までは二社と も物流拠点を新潟に置いていた。
もともとは グループの工場が新潟にあり、二社がそれぞ れ工場併設型の倉庫で物流業務を自社運営し ていた。
その後、生産拠点は海外に移管した が、物流機能は新潟に残したままだった。
海 外から商品を調達して日本各地へ供給する物 流基地としては、相応しいロケーションでは なかった。
 そこで二〇一〇年十一月に、消費地に近 い千葉県舞浜に物流センターを移して両社の 拠点を統合した。
これに伴い入出荷・在庫 管理業務を3PL業者への委託に切り替えた。
同時に物流センターをSCM統括部の管轄下 に置いた。
 続いて受注業務も営業部門からSCM統括 部に移管した。
舞浜物流センター内に「業務 センター」を設置し、直営店・百貨店ルート の注文を集約した。
美材ルートは都内の別の 事務所内に専用の業務センターを設けた。
 さらに在庫型のレディーメイド品について、 需要を予測して工場に生産依頼を行う「需 要予測チーム」をSCM統括部に発足させた。
これによって、同部が受注情報や需要予測を もとに工場への生産依頼や物流センターへの 出荷指示を出し、サプライチェーン全体をコ ントロールする体制が整った。
標準プロセスに業務を合わせる  この組織改革に平行して国内のシステムの 統合に取り組んだ。
経営統合した直後の二〇 一〇年九月に、先行して業務標準化のプロジ ェクトを立ち上げていたSCM統括部のメン バーが合流して、購買部や営業企画部など の関係部署と情報システム部で構成するプロ ジェクトをスタート。
業務の標準化を支援し、 海外を含むグループ全体の業務内容や経営状 態を一元的に把握するための「基幹統合シス テム」の構築をめざした。
 それまでの同社のシステム開発のやり方は、 まず関係部署から要望を聞き、その内容を要 件として取り込んで手づくりで独自システム を構築する方法をとっていた。
だが今回は時 間的な余裕がなかった。
一刻も早く情報イン フラを整備して事業統合後の経営管理を効率 化する必要があった。
プロジェクトには何よ りもスピードが求められた。
 従来の手法を用いて支店ごとの固有の要望 に耳を傾けることは、業務の標準化を狙いと するプロジェクトの趣旨にも合わなかった。
 そこでプロジェクトで要件の大枠をまとめ、 標準化の可能な業務についてはERPパッケ ージを活用する方法をとった。
パッケージの 活用が開発期間の短縮だけでなく業務の標準 化にも有効だと考えた。
 廣瀬拓生情報システム部長は「ERPパッ ケージの標準的なプロセスに沿って従来の業 務のやり方を変更するよう各部門に了解して もらい、どうしてもパッケージで対応できな い部分に限り要件を加えて開発する形にした」 と説明する。
 会計、購買、販売管理、物流管理の各シ ステムにERPパッケージを利用することで、 商品の受注・出荷から売り掛け・請求までの 処理や材料の仕入れ・会計処理を一元化した。
ただし、オーダーメイド品は統合の対象から はずした。
レディーメイド品と業務内容が大 きく異なっているためだ。
 レディーメイド品のアイテム数は約六〇〇。
SCM統括部の需要予測チームがアイテムご とに需要を予測して工場に生産を依頼する。
店舗への商品供給は、店の規模に応じて在庫 数を設定し、売れた分を物流センターから補 充する。
店に在庫がないときは、午後三時ま での受注分については物流センターから当日 に出荷し、宅配便で翌日または翌々日までに 店に届けるというのが基本パターンだ。
 これに対しオーダーメイド品は、店で客の 頭の形やサイズを計測して型をとり、一点ず つ工場へ発注する。
舞浜のセンターで全国の 店舗の受注情報を処理し、顧客ごとの仕様書 SEPTEMBER 2012  68 (設計図)と「型」を海外の工場へ送る。
工 場では仕様書と型をもとに生産を行い、完成 品を日本へ輸入する。
 舞浜の物流センターに着荷したオーダーメ イド品は、その日のうちに出荷して航空便で 全国の店舗へ翌日中に届ける。
オーダーメイ ド品は受注時に客に生産や輸送の日数を計算 して納品日を約束しているため、納期を確実 に守る必要がある。
 その際、型も商品といっしょに店に戻す。
店で仕様書とともに型を管理し、アフターサ ービスに活用する。
レディーメイド品と違っ て品番・カラーによる在庫管理は不要だが、 その代わりに顧客の注文データや型を商品と 一体で管理しなければならない。
 また海外の工場から日本への出荷にはいず れも航空便を使っているが、レディーメイド 品は見込み生産した商品を一週間か二週間に 一度まとめて出荷する。
これに対してオーダ ーメイド品は工場で生産が終わったものを毎 日出荷している。
 こうしたさまざまな違いを考慮して、オー ダーメイド品については受注・工場への生産 依頼・出荷・売り上げ管理などの業務を既存 システムでそのまま管理することにした。
た だし、既存システムとERPの会計システム とのインターフェースを開発することで、売 り上げなどの経営情報を一元管理する仕組み は担保した。
 海外の工場や販社とのデータ連携も行った。
頼ができるようになり、在庫削減を進めてい くための下地が整った」と強調する。
 物流センターでの入出荷・在庫情報は、3 PL業者のWMSとインターフェースしてE RPパッケージで管理している。
日に一度の バッチ連携で、ERP側の在庫データが出荷 のたびに更新されるわけではない。
しかし、 ERPで理論在庫を管理し、受注データをも とにリアルタイムで理論在庫を更新している ため、受注時の在庫引き当てに支障はない。
 新システムによって購買の履歴管理も実現 した。
ウイッグの材料には需要予測や生産依 頼をもとに工場が独自に仕入れるものと、日 本の購買部門が集中購買しているものがある。
このうち日本で集中購買する分についてはE RPで履歴を管理し、サプライヤーへの発注 業務もシステムで処理できるようにした。
従 来はどの仕入先から何をいくつ買ったという 情報を紙の伝票で管理していた。
 廣瀬部長は「集中購買によって事務の軽減 はもとより、在庫適正化の効果も期待できる。
これから集中購買を増やしていくうえで、い ろいろな判断材料となるデータをシステムに 蓄積できるようになった」と話す。
 統合基幹システムによって工場を出荷した 後の在庫の「見える化」が実現したことから、 次のステップとして工場の生産管理システム との情報連携の強化を狙っている。
 工場の生産管理の仕組みも、オーダーメイ ド品とレディーメイド品ではやはり異なって 工場のシステムで管理する出荷予定・出荷実 績などのデータをERPパッケージに取り込 めるようにした。
各販社のデータも基幹シス テムに取り込み、ERPパッケージの「BI (ビジネス・インテリジェンス)」ツールを使 って報告書の作成やデータ分析ができるよう にした。
在庫削減への環境整う  プロジェクトの開始から一年後の二〇一一 年九月に会計と購買のシステムが稼動し、続 いて翌二〇一二年一月に販売・物流システ ムも稼動した。
 統合基幹システムの稼動によって、工場で 商品を出荷してから物流センターでの保管を 経て店に届くまでの一元管理が実現した。
社 内ネットワークを通じて店や物流センターが 在庫情報をいつでも共有できるようになった。
 サプライチェーンマネジメント統括部の平 尾彰敏SCM部兼業務センター部長は「店に 在庫がなくても他店や物流センターから補充 したり、需要予測チームが在庫情報をもとに 将来の過不足を判断して工場へ適切な生産依 平尾彰敏SCM部兼業務セン ター部長 69  SEPTEMBER 2012 いる。
オーダーメイド品の生産 スケジュールは顧客に約束した 納品日によって自動的に決まる。
一方、見込み生産のレディーメ イド品は三カ月前に日本から生 産依頼を送り、これに対して工 場側で生産計画を立て、納期 を確定している。
 統合システムの稼動後は、日 本からの生産依頼に対する「一 次納期回答」と、生産完了後の 「出荷予定日」を、工場で生産 管理システムに入力すると、そ の情報を各店舗の端末画面でチ ェックできるようになった。
こ れによって店や物流センターに 在庫がなくても、画面を操作し て入荷予定日を確認し、顧客 に納期を即座に答えることがで きるようになった。
 しかし、情報共有はまだ十 分とはいえない。
現状では「一 次納期回答」からセンターへの 「入荷予定日」までの生産・物 流工程の進捗状況がまったく分 からない。
納期が遅れそうな事 態になっても直前までそれを把 握できないため対応が後手に回 る。
追加の依頼をしたり、納 期を早めてほしいときなどは、 工場に余力があるかどうか、いちいち問い合 わせなければならない。
 そこで今後は工場の生産管理システムをリ ニューアルし、工場の進捗状況を日本側で管 理して、納期の正確な把握や、在庫の柔軟な コントロールを可能にしていく考えだ。
 同時にグローバル化に対応して海外の販社 も含めたサプライチェーン管理の一元化を進 める。
現在、工場から日本や海外の販社へ の輸送については、すべてSCM統括部が国 際入札によってフォワーダーを選定している。
だが工場への生産依頼は各販社が需要予測を もとに個別に行い、工場が独自の判断で生産 を受託している。
これを見直し、SCM統括 部が工場へまとめて生産依頼を出すかたちに 変える。
 「日本だけでなくグローバルな需給調整機 能をSCM統括部が担い、各国ごとの需要予 測をもとに供給を最適化する必要がある」と 平尾部長は話す。
この展開を想定して今回の システム構築にあたっては、国別にバラバラ だった商品コードを統一した。
 さらにその先も見据えている。
平尾部長 は「工場の生産や在庫をコントロールできる ようになれば、日本などに余分な在庫を持た ず、工場の近くにハブを設けて必要な分を各 国へ補充する体制が作れる」と見る。
同社の グローバルなSCM改革の幕が開くのはこれ からだ。
(フリージャーナリスト・内田三知代) 図1 国内システム統合&業務改革について 1.受注関連業務の整理と役割分担(オーダー入力・顧客対応)による効率化 2.在庫・納期状況の見える化による部門間の煩雑なコミュニケーションを低減 3.請求業務の集中化とより適正な職務分掌への移行 旧体制新体制 部門の壁 システム の壁 営業部業務センター 営業部業務センター 営業営業 業務処理 本社経理 経理 管理 顧客対応 受注管理 管理 業務センター 納期管理 受注請求出荷・在庫管理受注・出荷・請求プロセス 受注 請求 在庫 出荷 営業支店システム舞浜側システム 顧客対応 受注入力 納期回答 請求事務 など 受注残管理 出荷業務 納期回答(社内) 在庫確認 Mail FAX 進捗確認は電話やメールFAX によるコミュニケーション 在庫 舞浜倉庫 営業部・店舗 得意先 納期回答 受注日 希望納期 出荷予定日 着荷予定日 在庫引当状況 役割分担入力業務に特化 在庫情報・納期予定を常時閲覧可能 (全員が同じ情報をリアルタイム共有) 営業事務業務の集約 システム入力と顧客対応の分離 受注 出荷在庫 進捗情報の 更新 請求 新システム(OracleEBS) 営業関連 商品関連 納期・在庫確認 など問合せ対応 営業部出荷 受注入力 納期回答 在庫管理 出荷業務 (顧客対応) 売掛・入金 請求事務 請求書発行 商品伝票発行 バッチ処理

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