ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2012年9号
現場改善
第116回 食品メーカーX社の在庫横流し疑惑

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

93  SEPTEMBER 2012 場当たり的な管理で拠点が分散  今回、取り上げるのは冷凍食品メーカーの現 場である。
取扱いアイテム数は約七〇〇。
中堅 規模だが全国に商品を供給している。
大手食品 卸および外食チェーンの物流センターが主な納 品先である。
ここでは仮に社名をX社としてお くが、後に述べる理由によって会社を特定でき てしまうような情報は出せない。
 このX社の筆頭株主である金融機関のS社か ら我々日本ロジファクトリー(NLF)にコンサ ルティングの依頼が入った。
目的はコストダウン である。
「現場ではそれなりに分析も行い、デ ータを取ったりしながら改善を行っている。
し かし我々や経営陣からチェックが入ると腰を上 げるという受身の姿勢で、取り組みのレベルも 知れている。
専門家の力を借りれば、もっと違 う切り口から改善できると思っている」とのこ とであった。
 実際にX社に出向く前に、金融機関の担当 者にいくつか事前情報として質問を投げかけた。
営業に関する質問には詳細過ぎるほどの回答が 返ってきた。
ところが、こと物流については、 「わからない」あるいは「確認する」といった 不明瞭な返答しかない。
大量のデータも受け取 ったが、どれも整理されていない。
粗データを そのまま送ってきたようであった。
我々は一抹 の不安をぬぐえなかった。
 後日、X社の物流責任者を務めるM部長の案 内で本社工場隣接型のセンターと近隣にある外 部倉庫を視察した。
金融機関S社のL執行役員 もこれに同行した。
その移動途中にM部長を相 手にヒアリングを行った。
それによるとX社は これまで、会社の成長に合わせて継ぎ足し的に 保管スペースをはじめとする物流機能を手当て してきたようであった。
 その結果として物流拠点は、小規模な借庫を 除いても五カ所に分散していた。
本社センター のほか、そこから車で約二〇分圏内にある近隣 に外部倉庫を三カ所、そして本社から約一時間 の距離にある第二工場の出荷センターの計五カ 所である。
拠点間で複雑な横持ち輸送が発生し、 物流の整流化にはほど遠い状況であった。
 最初に視察したのは、大口顧客向けの外部倉 庫で、通過量および支払い物流費ともX社最大 の拠点であった。
庫内を一見して、大きな問題 が二つ目に付いた。
一つは天井高である。
二m 強しかない。
荷物の高積みは不可能だった。
も 事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表  金融機関から相談が入った。
出資先の冷凍食品メーカーの 物流を見て欲しいという。
蓋を開けて驚いた。
管理レベルが 低いだけでなく、在庫差異が極端に大きい。
どうやら不正 が行われているようだ。
しかも、そのことが社内では公然 の秘密となっていた。
食品メーカーX社の在庫横流し疑惑 第116 回 あおき・しょういち  1964年生まれ。
京都産業 大学経済学部卒業。
大手運送 業者のセールスドライバーを経 て、89年に船井総合研究所入 社。
物流開発チーム・トラッ クチームチーフを務める。
96 年、独立。
日本ロジファクトリー を設立し代表に就任。
現在に 至る。
主な著書に『経営のテ コ入れは物流改善から』(明日 香出版社)、『物流のしくみ』(同 文館出版)などがある。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp PROFILE SEPTEMBER 2012  94 う一つはロケーション管理だ。
得意先別に分け て保管してはいるが、棚番地の表示がない。
ロ ケーションが頭に入っている熟練者でないと作 業できないだろう。
 続いて本社センター、そして二つ目の外部倉 庫と回ったが、先の二つの問題は共通していた。
現状の施設では倉庫の天井高を利用して在庫を 集約することはできそうになかった。
 次の課題に出くわしたのは、第二工場の出荷 センターであった。
本社センターと同様に製造ラ インの出荷口に、大型の「前室(定温の荷捌き 場)」が設けられていた。
かなりの空きがある にも関わらず、別に借庫もしているという。
現 場のスタッフによると、ピークの時間帯にはス ペースが足りなくなってしまうとのことだった。
 これは生産と物流のタイムスケジュールが上 手く噛み合っていないことが原因だった。
生産 の遅れが頻繁に起きて、物流業務とかち合って しまう。
現行のタイムスケジュールは売り上げ が現在の約半分しかなかった時に作ったもので、 それ以降、見直しがされていなかった。
 こうして五カ所のうち四カ所の現場を視察し た段階で、既に大小合わせて五〇を超える改善 項目が見つかった。
コストダウンに取り組む前 に、必要なデータの整備や「整理・整頓」レベ ルの基本から着手することが避けられない状況 であった。
 この後、最後の視察先となる外部倉庫を訪問 する前に、受注、営業、製造、本社などの担当 者にヒアリングを行った。
上級管理職ではなく、 各部門の中間職を対象にして、業務上の要望や 困っていることなどを尋ねた。
 その多くは改善項目に採り上げるまでもない 内容だが、当初は取るに足らないように思えた 情報が、後から重要な意味を持ってくることが 案外多いのである。
「在庫が合わない」  
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ヒアリング対象 者の多くが「在庫が合わない」という。
調べて 見ると、全五拠点のうち三拠点では不定期なが ら棚卸しを行っていたが、本社センターと外部 倉庫のうちの一つの二カ所では棚卸しをしてい ない。
その理由をM部長に尋ねると、在庫差異 がないために棚卸しの必要がないからだという。
現場からは在庫が合わないという声が上がって いるのに、理解しがたい話であった。
 ヒアリングした担当者に改めて話を聞いたと ころ、「倉庫にあったはずの在庫が無くなるこ とがある」という。
さらに追求すると「そちら でお察しください」と、暗にM部長に原因があ ることを示しているようだった。
 トータルでの在庫差異が発生した場合、その 修正作業はM部長が行っていた。
つまり、M部 長は誰からのチェックも受けずに、在庫を動か せる立場にあった。
もっとはっきりいえば、在 庫の横流しが可能な立場にあった。
 実は金融機関やX社の経営陣も、M部長に対 しては以前から疑惑を持っていた。
それを事前 に我々に伝えなかったのは、先入観のない状態 で客観的に事態を判断することを求めたために 相違なかった。
 最後に訪問した外部倉庫は、在庫が合わな い拠点の一つであった。
協力倉庫会社の社長が 我々とM部長を出迎えてくれた。
驚いたことに 庫内には在庫がほとんどなかった。
説明による と、一部は得意先B社のセンターに寄託在庫と して置いていて、その他にも借庫があるという。
M部長の顔つきは次第に厳しいものになってい た。
その姿を見ていて、M部長は限りなく?ク ロ?に近いと感じた。
 しかし、筆者の仕事は犯人探しではない。
そ して、誰が犯人であったとしても、物流管理業 務をブラックボックス化させたまま放置していた 経営陣は責任を免れない。
不正の発生を未然に 防ぐ仕組みを作ることが筆者の任務であり、そ れ以上の深入りは避けることにした。
 以上の事情を踏まえながら、X社の物流の ?あるべき姿?とコストダウンの方法を検討した。
そして現場視察とヒアリングから抽出した計六 〇以上の改革・改善テーマを、以下の五つの最 重要事項に絞り込んだ。
?X社の現状と将来も見据えた物流スペッ クに対応できる物流パートナーの発掘と 在庫拠点の集約化 ?協力会社に支払う物流費を変動費化する ことによるコストダウン ?在庫の可視化、管理ルールの見直し、お よび情報の共有化 ?横持ち輸送を行う自社便の減車 ?在庫削減による保管料の削減 95  SEPTEMBER 2012  「?物流パートナーの発掘と在庫拠点の集約 化」は、過去の延長線上で物流機能の継ぎ足し を繰り返してきた現在の体制をいったんリセッ トし、全体最適を図るための手段である。
当然 ながらコスト削減も期待できる。
 
惻劼了拱Гな流費は総額では年間数億円規 模に上っている。
しかし拠点別に協力会社が異 なるために支払いは分散され、一社当たりでは 数千万円程度になってしまう。
コンペを開催し て協力会社を集約することで、ボリュームディ スカウントを引き出すことは可能であった。
 「?協力会社に支払う物流費を変動費化する ことによるコストダウン」も、物流パートナー の発掘を通して実現できる課題であった。
現状 の協力会社との契約書や見積書を確認したとこ ろ、保管における契約坪数の固定化、車建て料 金、最低運賃の設定など、荷主側に不利益な契 約が多く見られた。
改めて物流パートナーを選 ぶに当たり、「RFP(見積り依頼書)」に変動 費型の料金体系の導入を盛り込めばいい。
 「?在庫の可視化、管理ルールの見直し、お よび情報の共有化」は、段階を踏んで改善を進 めることにした。
最初のステップでは、表計算 ソフト(エクセル)を使って「在庫管理表」を 作成し、それを全社の部課長クラスが日々共有 化することを義務化した。
 このルールの定着を見て、第二段階で本格的 な在庫管理システムの導入を図る計画だ。
既存 の販売管理システムをカスタマイズして、バーコ ード管理を導入する。
システムベンダー各社に 見積もりを依頼し、それをベースに投資の予算 化を図るという段取りだ。
 「?横持ち輸送を行う自社便の減車」は、繁 忙時には協力物流会社を使うことにして、従来 の三台を二台に減らした。
これに伴い正社員ド ライバー一人を生産部門に異動した。
 「?在庫削減による保管料の削減」は、終売 品や売れ残り品の在庫が主な対象である。
外部 倉庫の一つがそのための専用拠点となっていた。
営業、物流、生産で情報を共有化することによ って、需要予測の精度を上げていくことから着 手した。
 それと並行して終売品や売れ残り品を捌くデ ィスカウントルートの開拓も検討した。
しかし ブランド価値を毀損する恐れがあるという判断 から見送りとなり、現在は賞味期限、味覚、コ ンプライアンスに配慮した再加工の検討に動き 出している。
体質改善は経営陣から  こうしてプロジェクトの着手から約三カ月が 経過し、道半ばであるが、これまでに支払い物 流費の一四・五%の削減までは道筋が見えてき た。
在庫問題に関しても、在庫管理表の共有化 が進み、過去はどうあれ現在は健全化に向かっ ている。
 ただし、一つ気になることがある。
改善活動 の期間中にX社のトップと昼食を共にする機会 があった。
以前はオーナー兼社長という立場だ ったが、持ち株を金融機関に売却した現在は雇 われ社長の身である。
さすがに「座り心地が悪 い」と筆者に愚痴っていた。
既に経営意欲を失 っているように筆者の目には見えた。
 在庫疑惑を招いた管理不在のやりっ放し体質 の改善は、X社にとって長期的に取り組まなけ ればならない問題であり、それにはトップの気 力が不可欠だ。
新たなオーナーとなった金融機 関は早い時期に、次の経営陣を送り込むべきか も知れない。
●場所 東京都中央区銀座六│二│一     
庁瓧蕋a銀座ビル ●日程(時間はすべて9: 15〜18: 15) 第1回 九月一九日(水) 第2回 九月二六日(水) 第3回 一〇月一〇日(水) 第4回 一〇月二四日(水) 第5回 十一月七日(水) 第6回 十一月二一日(水) ●参加費用 一名:三一万五〇〇〇円(税込み) ●問い合わせ先  日本ロジファクトリー 担当:松波  東京〇三│五五三七│五六八〇  大阪〇六│六二四五│三三六八  e-mail:info@nlf.co.jp  本連載の筆者、青木正一日本ロジファクトリー (NLF)代表が、東京・銀座で物流企業の営 業マンや経営幹部を対象にした「物流コンサル タント育成コース」を開催します。
九月一九日 (水)を初回として一日みっちり月二回、延べ六 日間をかけた独自カリキュラムで物流営業の実 務ノウハウを指導します。
詳しくはNLFの ホームページ(http://www.nlf.co.jp/ )をご覧 下さい。
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