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FEBRUARY 2004 12
「在庫削減はもう終わった」
キユーピーは過去5年間で在庫を半減させることに成功した。
その結果、もうこれ以上在庫を減らす必要はないと判断してい
る。 物流部門は今年から新たに「生産と営業に負担を掛けず
にコストを削減する」という難しいテーマに挑戦することにな
った。 (聞き手・刈屋大輔)
キユーピー山上英信取締役情報物流本部長
アイテム数は横這い
――九九年の平均在庫日数は二十一日でした。 それが
二〇〇三年には十二日と、ほぼ半減したことになりま
す。
「
実は二〇〇二年に十二日を達成するという目標を
掲げていたのですが、結局達成が一年遅れてしまった。
ちなみに二〇〇二年は一五日と、その前の年と比較す
るとほぼ横這いという結果に終わりました。 ここまで
在庫を減らしてくると、正直言って減らすのがとても
しんどくなるんです。 それでも何とか二〇〇三年は一
五日から十二日へと約二割在庫を減らしましたけどね」
――足踏みした原因は?
「商品アイテム数を減らせなかったのが大きかった。
現在アイテム数は二七〇〇。 過去には九〇〇〇とい
う時期もありましたから、こちらも在庫と同じように
だいぶ減ってきてはいるんです。 それでもまだ多い。
上のほうからも『何とかしろ』と言われているんです
が、なかなか前に進まない。 アイテムの問題はお客さ
んとも密接に絡んでくる話ですからね。 とくに業務用
商品のアイテム数が減っていきません」
「在庫もアイテム数もそろそろ限界のところまでき
たのかな、というのが本音です。 それでも在庫は二〇
〇四年十一月末の時点で十一・五日分と、さらに〇・
五日分減らす計画です。 もうここまでくれば十分でし
ょう。 これ以上やると今度は欠品とかそういう問題が
出てくる恐れがある。 実は昨年あたりからはこれまで
とは少し違ったアプローチで物流コストの削減に取り
組んでいこうとしているんです」
――それは興味深い。 具体的にはどのようなコスト削
減策を?
「当社では九二年以降、情報物流本部という部署を設
置して、そこが物流全般を管理する体制を敷いてきま
した。 本部がカバーする業務領域には製品の需給調整
も含まれる。 生産から販売までを一元管理するという
やつです。 しかし昨年四月にこれを改めました。 営業
部門に新たに物流管理部という部署を設けて、さらに
各支店に物流管理担当者を置く体制にしました」
――時代の流れと逆行していませんか。 生産や営業か
ら物流の権限を奪い、一元管理体制に移行することで
在庫を減らしていく。 少なくともSCMではそうすべ
きだとされてきました。
「いったん物流の機能を一カ所に集約して力業で在
庫を削減する。 そしてある程度成果が出てきたら今度
は営業に近いところに再び物流のセクションを置く。
需給担当と営業部門の情報のやり取りを密にして、よ
り細かい在庫管理を可能にするのが狙いです。 結局、
現場の生の情報がないと需給担当は生産量や在庫量
の微調整ができないんです。 営業部門から物流を完全
に切り離してしまうと、そうした情報が入ってこない」
――集約化の弊害をなくそうと?
「在庫削減など物流効率化は情報物流本部がすべて引
き受けてくれる。 その考え方が浸透していくと、営業
部門の在庫に対する意識が薄れていってしまうんです。
今回の組織改正には『品切れや在庫をなくすためには
貴方たちの協力が欠かせないんですよ。 本来は貴方た
ちがきちんと在庫管理すべきなんですよ』ということ
を営業に再認識させるという意味合いもあります」
需給管理にメリハリ
――昨年十二月にスタートした中期経営計画で「工場
の安定操業によるコスト削減」を一つのテーマに掲げ
ています。 生産の急ブレーキや急発進をやめると再び
在庫が膨らんでいくのではないかと懸念されます。
Interview
13 FEBRUARY 2004
特集
「柔軟な生産体制にすれば、確かに在庫は減るかも
しれない。 しかし、生産の急ブレーキ、急発進をやる
と、今度は一回当たりの生産ロットが小さくなって商
品一個当たりの生産コストが上昇する。 在庫は減った
が、反対に生産コストは上がってしまった。 それでは
まったく意味がありません」
「そこで各商品アイテムを五段階に分類して、それ
ぞれ段階別に生産のやり方や在庫の持ち方などを決め
ることにしました。 細かく需給管理すべき商品と、そ
の必要がない商品とに分けた。 商品ごとの在庫水準と
生産頻度にメリハリをつけました」
――メリハリですか?
「まず商品を回転率の高い順番にA〜Eにランク付
けする。 このうちA商品とB商品は市場の動向を見な
がら日々需給調整を行っていく。 生産の急ブレーキや
急発進もアリです。 これに対してCランク以下の商品、
例えば業務用でもほとんど動きがない商品、PB(プ
ライベートブランド)商品、企画品などは予め安全在
庫水準を決めておいて、それを下回ったら自動的に在
庫を補充する体制にしていきます」
――それによってCランク以下は安定的な生産が可能
になる。
「いったん生産量を決めたら、絶対にそれを動かさ
ない。 生産計画の変更はよほどのことがない限り認め
ません。 営業が決めた販売計画を基に生産量を決める
ので、品切れが発生した場合は営業サイドの責任にな
ります。 今回の取り組みには在庫を対する責任を明確
にするという目的もあります」
――大きな成果が期待できる?
「Cランク以下で全アイテム数の五〇%を占めてい
ますからね。 現在、当社では一工場当たり一五〇〜
二五〇アイテムを生産している。 そのうちの半分のア
イテムについて生産ラインのライン繰りに苦労しなく
て済むようになる。 工場の安定操業が実現できれば、
生産コストが一気に下がる。 コスト削減の効果は大き
いですよ」
――それよりもCランク以下のアイテムをカットして
いくことのほうが大切なのでは?
「冒頭でもご説明しましたが、アイテムカットとい
うのは一筋縄にはいかない。 そこで一つのアイデアが
あります。 ロットの小さい商品については当社で生産
しないという選択です。 子会社や他社にCランク以下
の生産を委託することで自社の工場の生産性を高める。
それも一つの手でしょう。 あくまでもアイデアの段階
ですけどね」
――キユーピーでは、在庫削減はもう終わり。 次のス
テップに入ったと解釈してもいいのでしょうか?
「在庫も今後のテーマの一つであることに変わりは
ないのですが、大きなテーマではなくなった。 そんな
に力を入れていくところではありませんね。 何か画期的に在庫を減らせる手法が新たに見つかったというの
であれば、話は別ですが。 これ以上在庫を減らしても
意味がないし、カネにならない。 次は物流の部分の労
務費をどうやって削減していくかなど、そういう議論
に移っていきます」
――会社側も在庫はもういいという結論に達している
のですか?
「昨年十二月に経営トップと『もう在庫はいいから、
これからは営業と生産に無理をさせることなくコスト
を削減できる方法を考えていこう』という話になりま
した。 経営という視点では在庫を削減することが目的
じゃないんです。 ムダなコストを減らして利益をきち
んと出してキャッシュフローを高めていくことが本来
の目的です」
キユーピーの商品アイテム数と平均在庫日数の推移
4500
4000
3500
3000
2500
2000
1500
1000
500
0
25
20
15
10
5
0
99年
11月末
00年
11月末
01年
11月末
02年
11月末
03年
11月末
04年
11月末
予定
アイテム数
平均在庫日数
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