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OCTOBER 2012 26
東京圏の開発用地の供給と相場動向
本稿では物流施設の“開発用地”に着目し、最
近の動向と将来の見通しについて考察する。 まず
は現在開発中の大型物流施設の用地を見てみよう。
図表1は東京圏(一都三県)に所在し、今年また
は来年に竣工を迎える大型クラスの物流施設開発
の一覧表である。
表に挙げた全一九事例のうち物流会社や荷主が
自ら開発用地を入手し、自社で物流施設を開発す
る事例は六事例で(図表1「開発計画」の白抜き
部分)、残り十三事例はディベロッパーによる賃貸
型の物流施設の開発である(緑色部分)。
また、建築計画の太字はランプウェイもしくはス
ロープが設けられたマルチテナント型物流施設であ
る。 敷地面積が三万三〇〇〇?(約一万坪)以上
の大型クラスの開発計画では、一社で全ての床面
積を利用できるケースは少ないため、複数企業で
の利用を可能とするマルチテナント型物流施設の開
発が主流となっている。
次に、物流施設の開発用地の入手先と従前用途
を調査した(図表1「開発用地の入手経路」を参
照)。 従前用途で最も多いのは工場跡地で、全一九
事例のうち十三事例を占める(赤色部分)。 その
他では地方自治体が整備した工業団地を取得(
No.
1)、地方自治体から遊休地の入手(
No.
9、
15
)、
土地区画整理組合からの入手(
No.
3、
12
)の事例
がある。
周知の通り、製造拠点として国内工場の優位性
は縮小しており、工場の海外流出は本格化してい
る。 今後、国内の産業構造の転換がさらに進めば、
工場閉鎖が相次ぐことも予想され、大型の開発用
地がさらに放出される事態もあり得る。
他方、公的セクターから開発用地を入手するケ
ースは限られている。 東京圏に絞ってみると、リ
ーマンショック前に工業・流通団地の在庫処分(売
却)に目途がつき、その間も新規の工業団地の造
成を控えたことが影響している。
なお、昨年ごろから、地域経済の活性化の一環
として企業誘致を積極的に進めるために、新たな
工業・流通団地の造成に意欲をみせる地方自治体
があることを付記しておく。
この動きを物流施設の開発用地における売り手と
買い手の変遷という角度から整理する。 以下、文
章に併せて図表2を参照してほしい。
物流用地の供給はこれまで、地方自治体による
工業団地の分譲が主流であった。 地方自治体は高
度経済成長期に急拡大する宅地(工業用地)需要
に応えるため、開発公社等を通じて積極的に土地
を取得し、新規の工業団地を造成したうえで、メ
ーカーや物流会社に開発用地を供給してきた。
その流れはバブル崩壊後もしばらく続いた。 現在
と異なり工場閉鎖はあまりなく、大型クラスに限
れば公的セクターが有力な開発用地の供給者(売
り手)であった。 それが現在は、上述の図表1で
確認した通り、工場閉鎖による跡地の売却にシフ
トしている。
高止まりする円相場、電気料金の値上げ、少子
高齢化による労働力確保に対する懸念など、国内
製造業は過去に例をみない厳しい事業環境に陥っ
ている。 製造拠点の海外流出が本格化すれば、工
場跡地を物流センターに転用する事例は引き続き増
加すると考えられる。
一方、地方自治体による工業団地の新規造成は
工場跡地の売却が用地供給のメーンに
現在東京圏に開発中の大型物流施設のうち3分の2が工場
跡地を利用している。 公的セクターによる産業用地の分譲か
ら工場跡地の売却へ物流用地の供給の主体はシフトしている。
買い手はディベロッパーが3 分の2 を占めている。 旺盛な投資
意欲を背景に、当面は用地相場の上昇が続く見込みだ。
一五不動産情報サービス 曽田貫一 代表
27 OCTOBER 2012
No. 開発計画 開発用地の入手経路
開発会社 所在地 敷地面積 建築計画 入手先 従前用途
(物件名/延床面積/竣工時期)
住友倉庫
郵便事業
大和ハウス工業
SGリアルティ
SGリアルティ
プロロジス
松岡
ヤマト運輸
プロロジス
ヤマト運輸
ラサールインベスト
メントマネージメント
/三菱地所
オリックス不動産
GLプロパティーズ
GLプロパティーズ
合同会社小田原
ロジスティクス
GLプロパティーズ
/三井不動産
大和ハウス工業
ラサール
インベストメント
マネージメント
大創産業
34,014?
40,530?
39,648?
39,293?
34,997?
49,821?
53,486?
33,742?
36,580?
51,820?
38,901?
41,778?
46,168?
94,197?
52,921?
98,851?
44,511?
103,778?
104,000?
埼玉県
個人
雑種地
農地
関東レーザー工場跡地
住友軽金属工業工場跡地
日産自動車工場跡地
アサヒ飲料工場跡地
昭和鋼機工場跡地
千葉県企業庁港湾用地(京葉港)
クボタ工場跡地
荏原製作所工場跡地
カルソニックカンセイ工場跡地
工場跡地
農地
工場跡地
川崎市港湾局
カルソニックカンセイ
更地
農地
工場跡地
埼玉県羽生市川崎
1-216-25
埼玉県さいたま市
岩槻区長宮1372-1
埼玉県三郷市番匠免
2-215
神奈川県横浜市神奈
川区守屋町3-11
埼玉県久喜市清久町
6
千葉県柏市新十余二
13-1
神奈川県座間市広野
台2-10-8
千葉県柏市松ヶ崎新
田水神前13-1
神奈川県川崎市川崎
区東扇島88
神奈川県愛川町中津
4001
埼玉県入間郡三芳町
大字上富1163
神奈川県小田原市扇
町4
神奈川県相模原市南
区麻溝台1-760-7
千葉県習志野市茜浜
3
千葉県市川市塩浜
1-6
東京都大田区羽田旭
町11-1
神奈川県愛甲郡愛川
町中津4009-3
神奈川県相模原市中
央区田名3700-3 他
埼玉県三郷市(三郷イン
ター南部土地区画整理
事業施行区域4街区)
羽生アーカイブセンター第2センター/延
床面積2.4 万?/ 2012 年1月竣工
新岩槻支店/延床面積3 万?/ 2012
年4月竣工
Dプロジェクト三郷インターA 棟/延床面
積7.4 万?/ 2012 年4月竣工
SGリアルティ横浜/延床面積8.3万?
/ 2012 年5月竣工
久喜物流施設/延床面積5.9 万?/
2012 年6月竣工
プロロジスパーク座間2 /延床面積
11.6 万?/ 2012 年8月竣工
ロジポート北柏/延床面積12.7 万?/
2012 年10月竣工
東京湾岸物流センター/延床面積5.2
万?/ 2012 年10月竣工
厚木物流ターミナル/延床面積7.2 万?
/ 2013 年2月竣工
所沢ロジスティクスセンター/延床面積
6.8万?/ 2013 年4月竣工
GLP三郷?/延床面積9.4万?/
2013 年5月竣工
小田原ロジスティクスセンター/延床面積
20.4 万?/ 2013 年6月竣工
Dプロジェクト相模原/延床面積10.4 万
?/ 2013 年秋頃
プロロジスパーク習志野4 /延床面積
10.9 万?/ 2013 年8月竣工
ロジポート相模原/延床面積21.1 万?
/ 2013 年8月竣工
市川塩浜プロジェクト/延床面積12.1
万?/ 2013 年9月竣工
羽田クロノゲート/延床面積20 万?/
2013 年9月竣工
GLP 厚木/延床面積11 万?/ 2013
年12月竣工
SGリアルティA棟/延床面積13.0 万
?/ 2012 年6月竣工
SGリアルティMLT2 /延床面積12.2
万?/ 2013 年10月竣工予定
三郷インター南部
土地区画整理組合
JVC・ケンウッド・
ホールディングス
三郷インター南部
土地区画整理組合
ジャパン・
アートプランニング
日本トーカンパッケージ
キャタピラージャパン
(旧:新キャタピラー三
菱)
2008 年3月までジーエス・
ユアサパワーサプライが保有
(工場跡地)
2009 年12月まで日産自動
車が保有(工場跡地)
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
図表1 東京圏の大型物流施設用地の開発状況
減少傾向である。 過去に地方自治体は開発公社を
通じて数多くの工業団地を造成してきたが、最近
では多額の負債を抱えた公社を解散する例もある。
現在も圏央道の延伸を見据えて新規の工業団地を
造成する動きはあるものの、地方自治体ではなく
民間企業が主導するケースもある。 売り手サイド
は、公的セクターから民間企業へと主役が交代し
ているようだ。
買い手サイドの変遷
買い手サイドも変化している。 一九九〇年代ま
で物流施設の開発は、その施設を必要とする事業
者が自ら土地を取得し、物流施設を建設するケー
スが大半であった。 賃貸物流施設を供給するディ
ベロッパーによる開発用地の取得が本格化するの
は二〇〇〇年代に入ってからで、二〇〇二年八月
に竣工したプロロジスパーク新木場(現GLP新木
場)がその先駆けである。
物流会社・荷主が自ら開発用地を入手する事例
は今では限定的となっている(図表1参照)。 ヤマ
ト運輸の「羽田クロノゲート」(図表1
No.
18
)のよ
うに、長期利用を前提とした中核拠点であれば自
社開発は合理的であるが、物流業務委託の契約期
間が短期化しやすい3PLビジネスでは、自社保
有に固執する必要性はない。
また、大手企業においては、借入金の担保とし
て不動産を金融機関に差し入れる必要性も薄れて
いる。 土地神話が崩壊した今、企業が不動産を所
有する意義を見出すことは難しい。 物流施設に関
しても自前主義から脱却し、その道の専門家であ
る不動産ディベロッパーに運用・管理を任せてしま
うのは自然な流れと言える。
賃貸物流施設への投資実績が蓄積されてきたこ
とで、金融市場で物流施設の認知度が高まってい
ることも、この流れを後押しする。 これまでは外
資系プロバイダーが物流施設の不動産投資市場の
拡大を牽引したことも影響し、リスクマネーを海外
から調達するケースが多かった。
しかし、今後は日本版の不動産投資信託(Jリ
ート)や日本の機関投資家からの資金が本格的に
流入してくる。 その結果、物流不動産市場がさら
に拡大し、金融商品としてのポジションを確立する
ことで、一層のリスクプレミアムの低減が期待され
る。
用地価格はさらに上昇
これに伴い用地相場も強含みで推移することが
OCTOBER 2012 28
図表2 物流施設開発用地における売り手と買い手の変遷
地方自治体(工業団地の分譲)
メーカー(工場跡地の売却)
メーカー(工場跡地の売却)
地方自治体
(工業団地の分譲・遊休地処分)
メーカー(工場跡地の売却)
民間企業による工業団地の新規造成
地方自治体(遊休地処分)
物流会社・荷主(自社開発)
ディベロッパー(賃貸型の開発)
ディベロッパー
(賃貸物流施設の開発)
物流会社・荷主(自社開発)
ディベロッパー
(賃貸物流施設の開発)
物流会社・荷主(自社開発)
公的セクターから
民間企業へ
自前主義(自社開発)から
外部調達(賃貸)へ
売り手買い手
過去
(〜2000年)
現在
(2012 年)
将来
(2013年〜)
図表3 半年後の物流用地価格の見通しに関するアンケート調査結果
08 年1月
(第1 回)
N=65
08 年7月
(第2 回)
N=88
09 年1月
(第3 回)
N=83
09 年7月
(第4 回)
N=77
10 年1月
(第5 回)
N=81
10 年7月
(第6 回)
N=83
11 年1月
(第7 回)
N=91
11 年7月
(第8 回)
N=87
12 年1月
(第9 回)
N=85
12 年7月
(第10 回)
N=78
100%
80%
60%
40%
20%
0%
27.7%
5.7% 6.2%
18.1% 34.1%
36.8% 41.2%
69.2%
2.4% 2.6%
58.5%
13.8%
46.6%
47.7%
72.8%
21.0%
72.3%
9.6% 4.4% 6.9% 2.3% 0.0%
61.5% 56.3% 56.5%
30.8%
8.4%
89.2%
54.5%
42.9%
下落
横ばい
上昇
予想される。 当社(一五不動産情報サービス)で
は半年後の物流用地の土地価格の見通しについて、
定期的にアンケート調査を実施している(図表3、
4参照)。 なお、設問では「最も高い市場競争力を
備える物流用地(物流施設)を想定」しているこ
とから、好立地にある大規模物流施設における土
地価格が前提である。
最新の調査(一二年七月)では、半年後の土地
価格の見通しについて「上昇」の構成比が六九・
二%と最多で、「横ばい」は三〇・八%、「下落」
は〇・〇%となった。 一二年一月の前回調査と比
較すると、「上昇」が四一・二%から六九・二%へ
急増する一方、「横ばい」が五六・五%から三〇・
八%へ減少し、「下落」は六・九%から〇・〇%に
なった。
また、「上昇」の構成比は第三回調査(〇九年
一月)の二・四%から七回連続で増えている。 特
に、前回調査では「横ばい」の回答構成比が「上
昇」のそれを上回っていたが、今回は
「上昇」が六九・二%で三分の二を超
えている。
アンケート結果から、物流用地の土
地価格は強気の見通しが支配的になっ
ている。 土地価格の上昇を牽引して
いるのは不動産ディベロッパーで、不
動産投資における収益性の向上と期
待利回りの低下を背景に、ディベロッ
パー各社が不動産開発を積極化して
いる様子がうかがえる。
公的セクターの役割も変わる
振り返ると高度経済成長期からバ
ブル期に至る時代には、メーカーや物
流会社による拠点の新設・拡張ニーズ
が旺盛で、適切な開発用地を提供す
るために、公的セクターが積極的に関
与して工業・流通団地を造成した。
その結果、企業進出が相次ぎ、地
域経済が活性化するという好循環が
生まれた。 公的セクターによる産業用
地の開発は時代のニーズに合致した有
効な施策のひとつであったと言えるだろう。
東京圏に限れば、現在も物流会社・荷主による
新設・拡張ニーズはある。 今後、景気が拡大に転じ
れば、売り手市場となって、開発用地を求める声が
さらに高まる可能性もある。 しかし、もはや公的セ
クターが無理にそこに関与する必要はないはずだ。
今後も工場跡地を中心に、大型用地の売りモノ
は継続的に不動産売買市場に流れ込んでくると考
えられる。 中長期的に見れば開発用地が枯渇する
ことは東京圏であっても考えにくい。 圏央道など
道路インフラの整備が進む地域を除き、公的セクタ
ーは工業団地の造成への関与を控えた方が無難で
あろう。
その一方で今後は老朽化した空倉庫の再活用が
社会的な課題となってくる。 少なくない数の中小
クラスの物流倉庫が、管理の行き届かないまま長
期にわたって放置されている。 売買・賃貸市場を
通じて後継利用者を確保するのが第一、住宅・事
務所などその他用途への転用が次善の策だが、民
間企業で構成される不動産市場だけではこの問題
は解決できないと思われる。
公的セクターには、かつて高度経済成長期に需
要超過にあった不動産市場の歪みを補正するため
に工業団地を新規造成したように、今後は中小ク
ラスの物流倉庫の過剰在庫への対処という難しい
課題と向き合っていくことを期待したい。
29 OCTOBER 2012
曽田貫一(そだ・かんいち) 一九七五
年生まれ。 生駒シービー・リチャードエ
リス(現シービーアールイー)を経て、二
〇〇七年十二月、一五不動産情報サー
ビスを設立、代表に就任。 物流不動産
に特化した市場調査、コンサルティング
を行っている。
図表4 半年後の物流用地価格の見通しの回答理由
ディベロッパー・プロバイダーが積極的に開発用地を取得するため
限られた物流適地にニーズが集中するため
資金調達環境が良好なため
不動産投資における期待利回りが低下するため
物流施設の賃料水準が上昇するため
日本経済の安定的な成長が期待できるため
その他
賃料水準の見通しに大きな変化がないため
土地売買の需給バランスが均衡するため
売り手・買い手とも様子見で、動きが乏しいため
金利の見通しに大きな変化がないため
その他
物流施設の賃料水準が下落するため
工場の海外流出によって、用地売却が増えるため
ユーロ危機によって投資マネーが委縮するため
土地価格の上昇が終わり、下落局面に突入するため
ローンの調達が困難なため
日本経済の見通しが暗いため
その他
上昇理由下降理由横ばい理由
0 10 20 30
33
26
13
10
14
1
0
0
0
0
0
0
0
0
6
6
3
4
40
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