ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年2号
特集
在庫削減の上手な会社 新しい在庫理論が管理実務を変える

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

FEBRUARY 2004 14 「新しい在庫理論が管理実務を変える」 およそ40年前に確立した従来の在庫理論は、現在では使い物になら なくなっている。
実際、在庫管理の実務家の多くは、在庫理論などに見 向きもしない。
最新の情報システムも、安全在庫の設定については担当 者の勘と経験に頼っているのが実情だ。
そんな現状を打破する新しい在 庫理論が日本人研究者によって提唱された。
(聞き手・大矢昌浩) 勝呂隆男TSCコンサルティング代表 従来の在庫理論が使えない理由 ――九〇年代の中頃から日本企業にもi2テクノロジ ーズやマニュジスティックスなどの需要予測エンジン (APS:Advanced Planning and Scheduling )が 普及し始めています。
本来、需要が予測できれば、在 庫はなくなるはずです。
「ソフトウェアベンダーの売り文句を真に受けて誤 解している方が少なくないようですが、基本的に需要 は予測できません。
それが在庫管理の前提です。
確か に理屈としては予測が一〇〇%当たれば在庫はゼロに なる。
そんな発想から、販売計画に対する達成率で営 業部門を評価するなどという取り組みも一部では見ら れますが、そんなことをすれば営業部門は縮小均衡に 陥ってしまう。
逆に予測がどれだけ当たらないかを予 測して、それに応じた在庫を持つというのが基本的な 在庫理論の考え方です」 ――しかし実務家の多くは在庫理論を使っていません。
「従来の在庫管理の理論、私は『古典OR(オペレ ーションズ・リサーチ)理論』と呼んでいますが、こ れは四〇年も前に確立した理論です。
そのため現在で は使い物にならなくなっている部分がある。
流通在庫 にはそれなりに当てはまるものの、生産在庫には使え ない。
しかし、それ以外に方法もなかったので、実務 家はだましだまし使うか、あるいは『理論なんて使い 物にならない』として切り捨ててきたのが実情です」 ――使い物にならない部分とは? 「一つはコンピュータによる在庫管理に適応してい ないことです。
古典OR理論はMRP(Material Requirements Planning: 資材所要量計画)が登場 する以前に開発された手法で、これを現在のコンピュ ータ化された生産管理システムに適用して安全在庫を 計算すると、過大な値になってしまう」 ――MRPというのは、製品を部品に展開して必要な 在庫量を計算するシステムのことですね。
そして現在 のERP(Enterprise Resource Planning: 統合業 務パッケージ)も、MRPがべースになっている。
「そのために現在のERPも、在庫水準の設定は担 当者任せになっています。
ERPやAPSには在庫基 準値を入力して在庫を適正な水準にコントロールする 機能がありますが、肝心の適正な在庫基準値を設定 する理論がないため、そこは実務家が経験的に推測値 を入力している。
その結果、推測値が実際の適正水 準より大き過ぎたときには在庫過多、小さ過ぎると欠 品が発生するといった事態を招いています」 「また古典OR理論は生産に必要なリードタイムや 顧客の要求する納品のリードタイムが一定であること を前提にしています。
しかし実際には生産も顧客の求 めるリードタイムも変動するのが普通です。
さらに月 に一〜二回とか、週に一回といった間欠的な需要にも 古典OR理論は対応していない」 ITに経験と勘は通用しない ――それに対して、勝呂さんは昨年九月に発行された 著書「適正在庫の考え方・求め方」(日刊工業新聞社) のなかで新しい在庫理論を提唱されていますね。
この 手の専門書としては異例の売れ行きとも聞いています。
「従来の在庫管理の教科書は、在庫理論について一〜 二頁しか割いていませんでした。
単に計算式を紹介し て、こういう考え方もあるけれど、実際には勘と経験 が必要ですといったことが書かれていたわけです。
『適 正在庫〜』では、その部分を一冊に拡大して論じまし た。
なぜその計算式で適正な安全在庫の水準が分かる のかということから、計算式を使って実際に在庫を減 Interview 15 FEBRUARY 2004 特集 らすにはどうしたら良いのかということを丁寧に書い たつもりです」 「そのうえで古典OR理論をERPやAPSに適合す るように修正した新しい在庫管理の手法として、私の 開発した『APIM(Advanced Production & Inventory Management: 先端的生産在庫マネジメ ント)』の考え方を紹介しました。
『APIM』は現在、 特許も出願中です」 ――APIMの考え方を簡単に説明していただけませ んか。
「完全な受注生産の場合、在庫は必要ありません。
在庫が必要になるのは見込み生産のときです。
しかし 実際のビジネスでは受注生産と見込み生産で、きれい に分けられるケースはまれです。
顧客の要求する納期 よりも生産のリードタイムのほうが長い時に、見込み 生産による在庫が必要になるわけですが、要求納期も 生産リードタイムも常に変動します。
そのため受注生 産と見込み生産が混在しているのが多くの会社の実態 だと思います」 「そこでAPIMでは、『見込み生産比率』によって 受注生産分を安全在庫の計算から除く。
そして、顧 客の要求する納期と生産リードタイムのタイムラグ (実効リードタイム)から安全在庫の水準と発注点を 求めるというアプローチをとります(下図)。
これに よって理論的に適正在庫を計算することができるよう になります」 なぜ日本企業の収益性は低いのか ――そもそも、勝呂さんが在庫理論に注目した理由は。
「在庫は組織と組織の間に溜まるものです。
それを コントロールするには、誰もが納得できる理論が必要 です。
理論がないと、力の強い組織の言いなりになっ てしまう。
その組織だけに都合の良いことになってし まう。
それを避けるには普遍的な価値を持つ、あるい は理論的に正しい数字を提示する必要があります。
し かし、これまで日本には理論を受け入れる土壌がなく、 理論そのものも使えるものがなかった」 ――そもそもこれまで日本企業は在庫を減らすことに、 それほど重きを置いてこなかったのでは。
「企業によって温度差があります。
トヨタは何十年 も前からそれに取り組んできました。
私が以前に勤め ていた東芝もバブルが崩壊する前の八〇年代の後半か らトヨタ生産方式の導入を目的とした在庫削減運動 に徹底して取り組んでいました。
そして最近、キヤノ ンやソニー、NECなどが本格的に生産革新に取り組 むようになって、ようやく在庫の問題が経営者レベル で脚光を浴びるようになってきた。
しかしいまだにそ うした意識のない会社のほうが多いのが日本の実情だ と思います」 ――経営者が気にしているような経営指標には、在庫削減の効果があまり鮮明には現れてきません。
それも 影響しているのでは。
「在庫の評価指標が未整備だという問題は確かにあ ります。
それでも長い目で見れば在庫管理はその会社 の収益力に影響してくる。
今の日本の製造業の最大 の課題は競争能力と収益力が一致しないことです。
つ まり、競争力はあるのに儲からない。
『強い工場、弱 い本社』などといわれるように、現場はすごいけれど 収益力はないという会社がいっぱいある。
実際、エク セレントと言われている欧米の製造業者でも、現場は 日本に比べるとはるかに下です。
ところが会社の収益 力は向こうのほうがはるかに上。
この違いは何なのか。
やはり生産管理や在庫の最適化のようなシステム的な アプローチの違いだと私は考えています」 発注点 現時点 (≒発注日) 顧客要求納期 リードタイム 実行リードタイム 安全在庫 = 安全係数 ×  実行リードタイム × 単位期間当たり需要量の標準偏差 × 見込み生産比率 発注点 = 単位期間当たり需要量の平均 × 実行リードタイム + 安全在庫 「APIM」の考え方 適正在庫の 考え方・求め方 勝呂隆男 著 日刊工業新聞社 (すぐろ・たかお)1985年、早稲田大学大学院 理工学研究科修士課程修了。
同年、東芝入社。
生 産技術研究所勤務。
99年独立。
TSCコンサルテ ィングを設立。
現場改善やSCM構築支援を中心 としたコンサルティング業務を数多く手掛ける。
PROFILE

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