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日本初の仕組みを相次いで具体化
山梨県を中心に三九店舗を展開する食品ス
ーパーのオギノは、徹底したドミナント戦略
によってナショナルチェーンを相手に互角以
上の戦いを繰り広げてきた。 年商七〇〇億円
余りの中堅チェーンながら、同社の先進的な
マーケティングとオペレーションは多くの流通
関係者の耳目を集めつづけている。
オギノの代名詞ともなっているのが、一九
九〇年代後半から本格化した「FSP」(フリ
ークエント・ショッパーズ・プログラム)と呼
ばれる活動だ。 販促チラシの配布をはじめと
する従来型のマス・マーケティングとは一線
を画し、優良顧客に直接アプローチする。
ポイント制の会員カードに蓄積される顧客
ごとの購買履歴を分析し、実績に応じて個々
の顧客に特典を付与したり、ピンポイントの
ダイレクトメールなどによる販促活動を行な
う。 店舗ごとの品揃えや価格設定も、顧客層
に合わせて細かく調整する。
一括物流の高度化でも先行してきた。 九六
年に稼働した「第一グロサリーセンター」では、
菱食(現三菱食品)をパートナーに日本初と
もされる本格的なレベルで「カテゴリー納品」
を実現。 商品を分野別に仕分けて納品し、店
頭における陳列作業の負担を軽減した。
九八年に稼働した「住関(住居関連品)セ
ンター」では花王システム物流に業務を委託。
日用品センターの常識を覆す通過型の一括物
流を構築した。 このとき作り上げた仕組みは、
後に花王システム物流がセンター事業を全国
展開していく際の原型になった。
二〇〇六年にグロサリーセンターを全面刷
新したときには、カテゴリー納品をさらに進
めて「エリア棚番別納品」を実現した。 また、
物流センターを一地区に集約し、センターか
ら店舗への納品車両に複数カテゴリーを混載
しやすいようにした。 今では常に九〇%以上
の積載率を維持している。
オギノの店舗はLSP(レイバー・スケジ
ューリング・プログラム)に基づいて運営され
ている。 最近では店舗の「稼働計画」と、物
流センターの活動を密接に連動させることで、
一層の効率化を図っている。
同社の三枝誠物流部総括マネジャーは、
「物流センターの役割は、欠品をおこさずに商
品を納入しながら、いかにコストと手間をか
けずに店舗で陳列作業などをこなせるように
するか工夫すること。 当社の場合、グロサリ
ーセンターで実践できていることが、まだ生
鮮センターではできていない。 課題は少なく
ないが、グロサリーと同様のやり方を生鮮で
各店舗のレイアウトに合わせてフロア別・通路
別に商品を仕分けて納品する「カテゴリー納品」
を超え、陳列棚のロケーション別の「エリア棚番
別納品」を実施している。 3種類の自動倉庫を駆
使して日本初の物流サービスを実現し、店舗の商
品陳列作業の負担を大幅に軽減した。
一括物流
オギノ
通路別納品を超える「棚番別納品」を実践
独自の物流機能で店舗作業の負担を軽減
生鮮センター長を兼務する
三枝誠物流部総括マネジャー
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も実現していきたい」という。
物流センターの運営は当初、自前主義だっ
た。 配送業務こそ三〇年来のパートナーに一
貫して外部委託しているが、庫内作業につい
ては、八二年に初めて食品・住居関連・衣
料品の在庫型センターを立ち上げた時点では、
すべて自社で手掛けていた。 だが納得のいく
センター運営を実現するのは容易ではなかっ
た。 ヒントを得ようと卸の物流センターなど
の見学を重ねるうちに、センター運営の外部
委託を検討するようになった。
折しも当時の菱食は、全国規模の汎用物流
ネットワークを構築している最中だった。 そ
の一方で、九三年に神奈川県を地盤とする相
鉄ローゼンのセンター運営を受託したのを皮
切りに、特定企業向けの専用物流センターの
運営にも乗り出していた。
オギノは将来の物量の拡大を見据えて自ら
土地・建物を用意し、菱食を運営パートナー
とするグロサリーセンターを九六年に立ち上げ
た。 前掲の通り同センターでは、オギノ側の
要請でカテゴリー納品に先鞭をつけた。 物流
の役割は店舗作業の支援にあるという信念に
基づく取り組みだった。
店舗支援のための物流を徹底追求
その後は、自社運営と外部委託を使い分け
ながら、矢継ぎ早に各カテゴリーの一括物流
センターを整備していった。 九八年に花王シ
ステム物流と組んで住関センターを稼働させ
たのとほぼ同時期に、食品トレーや事務用品
を在庫型で扱う「用度品センター」と、通過
型の「衣料品センター」も稼働させた。
翌九九年には、取引先の仲卸の一画に専用
スペースを設けてもらうかたちで「青果センタ
ー」を設置した。 青果については、オギノが
一括物流のために運行している納品車両に相
乗りさせるには物量が多すぎることから、あ
えて加工・仕分け業務から店舗納品までを仲
卸に任せるという判断をした。
以降、それぞれに管理温度帯などの異なる
パンや冷凍食品、アイスなどの共配センター
も設置していった。 一連の物流インフラの整
備によって、開店前の店舗に定時納品する車
両の台数を大幅に減らすことができた。
ほぼ全カテゴリーの一括物流を整備し終え
たオギノにとって、次の大きな節目は、〇六
年のグロサリーセンターの刷新だった。 このと
き同社は自社物件である生鮮センターから約
一・五キロメートルの至近地に「第二グロサリ
ーセンター」を稼動。 従来は七カテゴリー(生
プロセスセンターでも機械化 物流標準クレートの導入も推進 土地と建物をオギノが保有
クレートの洗浄ラインを完備 衛生的な鮮魚と精肉の加工場 ルールを決め見える化を徹底
1993 年の稼働以来、自前で管理している生鮮センター
山梨県内を中心とするドミナント出店を徹底
センターから店舗に納品するトラックは1日4 便
出荷便店着時間積載内容
1 便
2 便
3 便
4 便
生鮮PC・TC
生鮮TC、卵、加工食品グループ(特売)
生鮮PC・TC、衣料、住居関連、用度品
加工食品グループ(定番)
7:00
10:00
14:00
16:30
御殿場
塩尻
岡谷
諏訪茅野長野県埼玉県
東京都
神奈川県
静岡県
15km 30km 50km
山梨県
センター
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鮮・日配・総菜・加食・衣料・住関・用度
品)で立地も五カ所に分散していた物流セン
ターを、二カ所に集約した。
まず住関センターについては、新たに構築
したグロサリーセンターの一部に組み入れる
ことで集約を実現した。 それまで花王システ
ム物流に委託してきた住関センターの運営は、
マテハンなど内部の仕組みを買い取るかたち
で菱食へと移行。 そして衣料品センターと用
度品センターは、生鮮センター(日配・総菜
も扱う)と同じ敷地内に移管した。
この〇六年の物流改革のポイントは大きく
二つあった。 一つは、グロサリーセンターの
機能を強化し、それまでの「カテゴリー納品」
を「エリア棚番別納品」へと進化させるこ
と。 もう一つは、オギノが直接管理している
一括物流センターの立地を同一エリアに集約
し、センター間で発生していた横持ちコスト
などを削減することだ。
カテゴリー納品については、同社が九六年
に導入して以来、他チェーンの多くが追随し
ていた。 中にはこれを一歩進めて、店舗の通
路別に納品するための仕分けをセンターで手
ンストッカーに移し、出庫時には各店舗のエ
リア棚番の順に切り出していく。 これらの
商品はコンベヤ上を搬送され、六本ある仕分
けシュートに店別・エリア棚番別に流される。
シュート下の作業者は、箱の大きさや重さな
どを勘案しながらカートラックに積む。 この
カートラックをそのまま店舗に持ち込むこと
で、最短の作業動線で品出しできる。
ピース品については、まず加食や菓子、酒
などのカテゴリーごとにデジタルピッキングラ
インでバラピッキングしてオリコンに収納。 こ
れをすべていったんSASに格納し、特定の
店舗向けのオリコンが揃った時点でエリア棚
番別に切り出していく。 つづいて出荷エリア
の積み付けロボットが、順番通りにカートラ
ックに段積みする。 このカートラックをトラッ
クに積み込めば、センターの出荷作業は完了。
店舗ではそのまま一筆書きのように陳列作業
を行なうことができる。
このように説明すると、マテハン機器さえ
導入すれば棚番別納品を実現できると思うか
もしれない。 しかし、そう簡単な話ではない。
小売りの店舗の陳列棚(フェイス)は頻繁
に変わる。 この情報を常に物流センターと共
有できていなければセンターでの作業はムダに
なる。 このためオギノと三菱食品は、個店ご
との商品陳列情報である「フェイスマスター」
を高いレベルで共有している。 さらに、多彩
なマテハン機器を一元的に制御するシステム
は、構築が難しいばかりか稼働後のメンテナ
掛ける企業も現れた。 これに劣らない生産性
を達成しようと、よりいっそう店舗の負担を
軽減できる仕組みを追求した。
その答えが、「エリア棚番別納品」だった。
店頭で陳列する商品を「棚番」別にセンターで
仕分けて納品するというアイデアである。 八
〇年代から一貫してオギノの物流の高度化を
牽引し、今春まで執行役員物流部総括マネジ
ャーを務めていた野田勝物流部顧問は、当時
を次のように振り返る。
「この日本初の取り組みを実現するために、
私がプロジェクトリーダーになり、菱食さんか
らも五、六人の人を出してもらって議論を重
ねた。 プロジェクトで一年半にわたって発注
データの分析などを進めながら、エリア棚番
別の納品体制を構築した」
三種類の自動倉庫を駆使
エリア棚番別納品を実施するうえで技術的
なポイントは自動倉庫の使い方にある。
在庫型の同センターには、三種類の自動倉
庫が導入されている。 商品保管に使う収容能
力二四五三パレットのパレット自動倉庫(ダ
イフク製)と、ケース品の保管と仕分けに活
用する収容能力四万ケースのケース自動倉庫
(ダイフク製=ファインストッカー)、そしてオ
リコンを仕分ける収用能力六〇〇個の自動倉
庫(イトーキ製=SAS)だ。
ケース品については、入荷した商材をパレ
ット自動倉庫に保管し、必要に応じてファイ
物流部の野田勝顧問
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有などの業務改善を進めた。
エリア棚番別納品を実現したことによって、
店舗における商品陳列の作業時間は平均三
五%ほど短縮できた。 一般的な小売業にとっ
て、店内で発生する経費の約四割は商品の陳
列作業と発注業務に伴って発生している。 こ
うした業務の一部を物流センターで肩代わり
できた意味は大きかった。
さらに特筆すべきは、商品知識のない担当
者でも生産性を落とすことなく店舗での陳列
作業をこなせるようになった点だ。 高齢化の
進展などによる将来の人手不足まで見越して
物流の高度化を進めてきたオギノにとっては、
まさに狙い通りの成果だった。
もう一つのポイントである拠点集約の効果
も明らかだった。 新しいグロサリーセンターが
稼働した〇六年以降、センター発の納品車両
を一日四便に集約した。 一部の便では生鮮品
と衣料品、住関品などを混載することで積載
率の向上を図ってきた。
当初は管理温度帯の異なる商品をどうやっ
て効率よく運ぶかが課題になった。 この点は、
ほぼすべてのカテゴリーの商品を低温で運ぶ
ことでクリアした。 現場の経験に基づくこう
した柔軟な判断こそが、オギノの合理的な物
流管理を下支えしている。
自動発注支援システムを運用
グロサリーセンターを刷新した〇六年には、
店舗からの自動発注にも着手した。 正確には
自動発注支援システムの導入である。 過去の
販売実績などに基づいてコンピューターが算
出した数値を、最終的に人間がチェックする。
加食と衣料品からスタートして、現在ではほ
ぼすべての商品を対象に展開している。
物流センターとの連動がその前提になって
いる。 店舗で発注してから実際に納品される
までのリードタイムが長くなるほど需要予測
の精度は落ちる。 発注後の天候の急変などが、
発注数量と販売実績を乖離させるためだ。 そ
の点、オギノのグロサリーセンターは、午前
中に受けた注文を当日の午後には納品できる。
予測の不確実性を最小限に抑えられる。
配送面でも多くの工夫をしている。 一日に
四便ある納品車両の混載の組み合わせを工夫
することで、店舗におけるオペレーションの
負担軽減につなげている。 仮に同一カテゴリ
ーの商品ばかりを同時に送り込めば、店舗の
受け入れ作業にもピークが生じて、効率的な
人員配置が難しくなる。 物流センターで調整
して商品をバランスよく混載することで、店
舗作業の平準化を図っている。
現在の課題はLSPに基づく店舗の稼働計
画と、物流センターのオペレーションとの連
動だ。 三枝総括マネジャーは、「グロサリーの
分野ではすでに稼働計画と物流を密接に連動
させはじめているが、まだ精度を高める余地
がある。 生鮮や衣料の分野についてはこれか
らだ」と、いっそうの高度化に向け余念がな
い。 (フリージャーナリスト・岡山宏之)
ンスにも非常に手間がかかる。
多くの課題をクリアするため、プロジェク
トはセンター稼働までに一年半という時間と
手間を費やす必要があった。 稼働してからも、
フェイスマスターの管理や、関係者の情報共
オリコンを段積みするロボット 棚番別にSASで整列して出荷 三菱食品と組み効率化を推進
最後は作業者が確認しカートへ 収容能力4万のケース自動倉庫 デジタルピッキングのエリア
「エリア棚番別納品」を実践するグロサリーセンター(土地・建物は賃貸、運営は三菱食品)
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