ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2012年10号
道場
鉄道からトラックへのモーダルシフト

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

湯浅和夫の  湯浅和夫 湯浅コンサルティング 代表 《第66回》 OCTOBER 2012  70 代初めごろまでの二〇年足らずですが、平均 で毎年一〇%超の成長を示したのですから、た しかにすごいです」  物流部長が、大きく頷き、やや興奮気味に 話す。
 「六八年には、米国に次いで世界第二位の経 済大国になってるんです。
世界第二位という 認識は、私などは当たり前のように持ってま したが、改めてそれが、戦争が終わってから たった二〇年強で実現したというのを知って、 ちょっと驚きました。
世界の歴史を見てもそん な成長を記録した国なんてないですよね」  物流部長の勢いに押されるように、大先生 がちょっと引いて、ぼそっという。
 「米国の占領政策が変わったせいでしょ。
語 弊があるかもしれませんが、冷戦構造のおか げといっていいんじゃないでしょうか」  「そうなんです。
ちょっと調べてみましたら、 当初米国は、日本を無害な小さな国にしよう としていたらしいんですが、冷戦構造ができ つつあったり、朝鮮戦争が起こったりしたこと 67《第126はなかった。
 「興味って、何にです?」  「はい、高度成長期についてです。
それで自 分なりにいろいろ調べてみました」  「へー、そうですか。
高度成長期については 懐かしいという感想を何人かの方たちからい ただきました。
みんな、あなたより年長です けど‥‥」  「そうですか。
あのー、もし先生のご都合が よろしければ、どこかでお話しさせていただ きたいのですが、いかがでしょうか?」  大先生が「いいですよ」と即答する。
物流 部長が嬉しそうに頷いて、近くの店に案内す る。
前に何度か利用したことがある店のよう で、慣れた感じで入っていく。
まだ夕方とい うこともあり、客の姿はまばらだ。
ビールで乾 杯すると、物流部長が早速話し始めた。
 「いろいろ調べてみると、高度成長期という のはおもしろいですね。
一言でいうと、奇跡 の時代と言っていいんじゃないでしょうか」  「そうですね。
一九五〇年代半ばから七〇年 高度成長期談義が始まった  「実は私、先生の温故知新の連載を読ませて いただいて、急に興味を持ちましてね‥‥」  ある物流関係の委員会の帰りがけに、出席 者の一人に呼び止められ、話し掛けられた。
あ るメーカーの物流部長で、以前から顔見知りで はあったが、これまであまり親しく話したこと  日本の国内貨物輸送量は高度経済 成長期に爆発的に増加した。
これに 伴い鉄道からトラックへのモーダルシ フトが急速に進んだ。
膨れあがった 輸送需要を当初は荷主の自家用トラ ックが担い、次第にそれが運送業者 の営業用トラックに置き換えられて いった。
マクロ統計の長期推移には 時代の大きな変化が表れている。
鉄道からトラックへのモーダルシフト 第 回7 71  OCTOBER 2012 で、急遽日本を対共産主義の盾にしようとし た。
そこで、急いで日本を自立させるように 政策を変更したようです。
あっ、これは、も ちろん歴史書の受け売りです」  「へー、いろいろ調べてるんですね」  「はぁー、でも、ご多分に漏れず、ネットの 検索です。
勉強したわけではありません」  「いやー、ネット検索だから勉強じゃないと いうわけではないでしょう。
調べるのが便利 になったということです。
重要なのは問題意 識です。
そうそう、当時の経済拡大の柱にな った政策に傾斜生産方式というのがありまし たよね‥‥」  大先生の言葉に物流部長が待ってましたと いう感じで、大先生の話に割り込む。
 「はいはい、ありました。
これもネット情報 ですが、日本の工業生産力を高めるために、石 炭や鉄鋼といった産業の強化に経済政策を集中 させたらしいんです。
これらの基礎的資材の 生産量を増加させることで、他の産業の生産 力を増強させるという循環を作り出したよう です」  「そのようですね。
石炭の生産に向ってすべ ての経済政策を集中的に傾斜せしめるという 意味合いなんですね」 自家用トラックが急増する輸送を担った  「ところで、物流という点では、何か興味を 持たれたことはありますか?」  大先生が話題を変えるように質問する。
そ う聞かれて、それまで雄弁だった物流部長がち ょっと口籠って、「やっぱり特徴的なのは、鉄 道からトラック輸送への転換が進んだというこ とではないでしょうか」という。
 「そうですね、国民生活でも車が主役になっ てきますね、その頃から。
モータリゼーション などと言われてましたが‥‥」  大先生の言葉に物流部長がまた息を吹き返 したように雄弁になる。
 「例の三種の神器を引き継ぐ形で3Cの時代 に入ります。
カラーテレビにクーラーに車、カ ーですね。
マイカーなんて言葉が出始めた頃で すから、車への関心は高かったと思います。
車 のための道路整備もどんどん進みました」  大先生が頷いて、言葉を挟む。
 「オリンピックが後押しした?」  「そうです。
オリンピックの開催が決まった のが、開催の五年前の五九年ですが、その年 に道路公団のようなものが作られて、道路建 設に乗り出したようです。
手っ取り早い方法と して‥‥」  「河川を埋め立てて道路に替えていった」  大先生が答えを先に言う。
 「は、はい、安易と言ったら安易ですが、手 っ取り早く作れることはたしかです。
なんか、 戦災の瓦礫処理の一環としても川の埋め立て が行われたそうです」  「へー、そうですか」  大先生の返事が気乗りしないように感じた のか、物流部長が、鞄から手帳のようなもの を出し、ページを繰っている。
そして、話題を 戻す。
 「えーとですね、当時の物流の状況としては、 鉄道からトラックへというモーダルシフトがか なり急テンポで進んだようです。
ちょっと調べ たんですが、あっ、実は私、これまで輸送統 計などあまり見たことなかったんですが、トン 単位とトンキロ単位とではずいぶん違った結果 が出るんですね」  「トンキロは、輸送量に輸送距離を掛けて出 すわけですから、輸送機関の特徴が端的に現 れます。
当然、長距離を得意とする鉄道や海 運などのシェアが高まります」  「おっしゃるとおりです。
まず輸送量で当時 の状況を見てみますと、こうなります。
えー、 総輸送量ですが、一九六〇年の場合、約一五 億トンです。
一五億トンといっても、ぴんとき ませんが‥‥」  「私もです」  「そうですよね‥‥、この輸送量が一〇年後 の七〇年には約五三億トンになります。
なん と一〇年間に三・五倍ですから、その急増ぶ りには驚かされます。
これでは、輸送機関が 付いていけない感じです」  大先生が頷いて、質問する。
 「その輸送機関ですが、その分担率はどうな ってます?」  「はい、明らかに特徴的な動きになっていま す。
まず鉄道が一五%から約五%にまでシェア を落としています。
ただ、全体の輸送量が伸 OCTOBER 2012  72 びていますから、鉄道が運んでいる量は微増 になってます」  「そうなると、輸送量の伸びを吸収したのは トラック輸送ということになりますね?」  大先生の確認に物流部長が手帳を見ながら、 大きく頷き、続ける。
 「そうです、トラックが輸送量の伸びに付い ていったということです。
ただ、トラックとい っても、自家用輸送が主役です。
七〇年時点 でのシェアでいいますと、営業用トラックは二 一%、自家用がなんと六七%です。
この頃は 一貫して自家用トラックによる輸送が伸びてい るということです」  大先生が小さく頷く。
物流部長が続ける。
 「前に先生が、当時は、物流は自前主義で、 基本的には荷主が何でも自分でやる。
自分た ちではできないところ、効率に問題のあると ころを営業用に任せるという役割分担だった と書かれていましたが、たしかにそれを端的 に表している数字だと思います」  大先生が頷きながら補足する。
 「トラック業者や倉庫業者が商売としてやっ ていることは、長距離の路線トラックなどは別 として、すべてアセットさえ入手すれば荷主で もできることという位置づけだったわけです。
物流業者からすれば荷主業務の代行という感 覚になってしまった。
その結果、物流業者のプ ロ意識が醸成されない関係が作られ、それが ずっと尾を引いていると思いますね」  「はー、おっしゃりたいことは何となくわか よ」  大先生が、これで話を終わりにするという 感じで締め括ったため、物流部長は質問した いことがあったが飲み込んでしまった。
営業用トラックが存在感を増した  大先生が物流部長の手元の表を覗き込むよ うにして聞く。
 「そこにある表ですが、ずいぶん数字が並ん でいますね。
最近まであるんですか?」  「はい、トンベースとトンキロベースの数字 をコピーして持ってます」  「参考までに教えてもらいたいんですが、六 〇年当時と最新の輸送機関分担率を比べる と、どうなっていますか?」  物流部長が嬉しそうに頷いて、表を見なが ら説明を始める。
 「えーと、まずトンベース、つまり輸送量で すが、六〇年の鉄道のシェアは一五%でした。
それが最新の数字、二〇〇九年のものですが、 何と〇・九%です」  物流部長がもったいぶった感じで数字を示 す。
大先生が小さく頷く。
大先生のあまり驚 いた様子もない反応に、拍子抜けした感じで 物流部長が続ける。
 「同じように見ていきますと、海運は九・ 一%から六・九%になっています。
これに対 して、営業用トラックが二五%から五六%へ と大きくシェアを伸ばしています。
そして、自 家用トラックは五一%から三七%に落ちてい りますが、先生がよく主張されている『3P Lは時代を転換させる存在だ』ということと 関連するのでしょうか?」  「そうです。
当時、荷主の物流担当者は何 でも自分でやりました。
拠点配置はもちろん 拠点内のレイアウトや作業システム、作業者 の手配やトラックの手配、場合によっては配 車まで自分でやった。
でも、これらは、本来 物流のプロとして物流業者がやって然るべき ものです。
でも、それができる事業者がいな かったというのが当時の状況です。
物流業者 は荷主の求めに応じてトラックや倉庫を提供 するだけという役割に甘んじたってことです。
こういう荷主と物流業者との関係を?1P L?といいます」  「なるほど、そういう1PLでずっときた わが国の物流の歴史の中で、いま物流業者が 荷主に代わって物流を管理する時代になった。
それが3PLで、まさに時代の転換を象徴す るってことですね」  「そう。
さっきの委員会でも話題になって いましたでしょ。
最近、物流関係のセミナー の受講者の多くが物流業者や物流子会社で、 荷主の受講が少ないのは問題だという意見も 出てましたが、私は、メーカーでいえば、工 場倉庫から顧客納品までの物流は、一貫して 物流業者が担えばいいと思ってますので、物 流業者や物流子会社が積極的に勉強を始めた ことはいいことだと思ってます。
荷主の物流 担当者はロジスティクスをやればいいんです 73  OCTOBER 2012 てことですね。
ちなみにトンキロではどうなっ てますか? 最新の分担率だけ教えてくださ い」  「はい、えーと、二〇〇九年度で、鉄道が 三・九%、海運が三二%、営業用トラックが 五六%、自家用トラックが七・九%です」  「なるほど、営業用トラックがかなり長距離 輸送も担っているってことですね」  「はい、でも、これからはドライバー不足、特 に長距離のドライバーのなり手が減ってるとい いますから、どこかで下降に転じるんでしょ うね」  「そう、トラック業者が鉄道を使うというケ ースが増えるかもしれません。
それに鉄道が どれだけ応えられるかってとこですね。
それ はいいとして、大変興味深いデータを有難うご ざいました」  「いえいえ、ネットからデータをコピーした だけです。
でも、私どもは、いまはトラックを 自由に使えてますから、ずいぶん楽ですけど、 六〇年代の物流担当者は苦労が多かったでし ょうね。
輸送に苦労したはずです」  「そうです。
トラック業者の存在感を再認識 すべきでしょうね。
いまや荷主がトラックを動 かすなんてできません。
労務管理や事故対策、 環境対応、安全対策などもはやプロでなけれ ば無理です」  「おっしゃるとおりです。
その意味では、六 〇年代の物流担当者がどんなことをやってい たか、大変興味があります」  「そのあたりについては、次回にでも紹介し たいと思います」  「楽しみにしています。
今日は先生とお話し できてよかったです。
そろそろ食事でも頼み ましょうか‥‥」  そう言われて、急に空腹感を覚えた大先生 が大きく頷いた。
ます。
こんな感じですが、やはり営業用トラッ クの拡大が目立ちます。
ただ、営業用トラック と自家用トラックのシェアが逆転したのは、意 外に遅くて、二〇〇〇年のことです」  「そうですか、私も正確な年は知りませんで した。
でも、着実に営自転換が進んでいるっ 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2006 2007 2008 2009 年度自家用 総計 鉄道 海運 トラック 航空 営業用 トラック 自家用 鉄道 海運 トラック 航空 営業用 トラック 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2006 2007 2008 2009 年度自家用 総計 鉄道 海運 トラック 航空 営業用 トラック 自家用 鉄道 海運 トラック 航空 営業用 トラック 1526 230 139 381 776 0.009 2617 244 180 664 1529 0.033 5253 250 377 1113 3513 0.116 5025 181 452 1251 3141 0.192 5980 163 500 1661 3565 0.329 5597 96 452 1892 3156 0.538 6777 87 575 2428 3686 0.874 6643 77 549 2647 3370 0.960 6371 59 537 2933 2841 1.103 5446 52 426 2858 2108 1.082 5431 52 417 2900 2062 1.099 5395 51 410 2928 2005 1.145 5144 46 379 2809 1910 1.074 4830 43 332 2687 1767 1.042 15.1 9.1 25.0 50.9 0.0 9.3 6.9 25.4 58.4 0.0 4.8 7.2 21.2 66.9 0.0 3.6 9.0 24.9 62.5 0.0 2.7 8.4 27.8 61.1 0.0 1.7 8.1 33.8 56.4 0.0 1.3 8.5 35.8 54.4 0.0 1.2 8.3 39.8 50.7 0.0 0.9 8.4 46.0 44.6 0.0 1.0 7.8 52.5 38.7 0.0 1.0 7.7 53.4 38.0 0.0 0.9 7.6 54.3 37.2 0.0 0.9 7.4 54.6 37.1 0.0 0.9 6.9 55.6 36.6 0.0 貨物輸送トン数(単位:100 万トン) 国内貨物輸送量と輸送分担率の長期推移 国土交通省資料より作成 輸送分担率(%) 1383 539 636 96 112 0.06 1857 567 806 224 260 0.21 3502 630 1512 673 686 0.74 3606 471 1836 692 605 1.52 4388 374 2222 1035 754 2.90 4341 219 2058 1373 686 4.82 5467 272 2445 1942 800 7.99 5590 251 2383 2231 716 9.24 5780 221 2417 2555 576 10.75 5704 228 2116 2908 442 10.75 5786 232 2078 3022 444 10.94 5822 233 2030 3102 446 11.45 5577 223 1879 3028 436 10.78 5236 206 1673 2932 414 10.24 39.0 46.0 6.9 8.1 0.0 30.5 43.4 12.1 14.0 0.0 18.0 43.2 19.2 19.6 0.0 13.1 50.9 19.2 16.8 0.0 8.5 50.6 23.6 17.2 0.1 5.0 47.4 31.6 15.8 0.1 5.0 44.7 35.5 14.6 0.1 4.5 42.6 39.9 12.8 0.2 3.8 41.8 44.2 10.0 0.2 4.0 37.1 51.0 7.7 0.2 4.0 35.9 52.2 7.7 0.2 4.0 34.9 53.3 7.7 0.2 4.0 33.7 54.3 7.8 0.2 3.9 32.0 56.0 7.9 0.2 貨物輸送トンキロ(単位:億トンキロ) 輸送分担率(%)

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