ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年2号
特集
在庫削減の上手な会社 データで生産と営業を納得させる

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

FEBRUARY 2004 16 「データで生産と営業を納得させる」 在庫削減プロジェクトは物流に関する詳細なデータを揃えるこ とから着手すべきだ。
データは在庫の責任が生産側にあるのか。
そ れとも販売側にあるのかを明確にしてくれる。
プロジェクトリーダ ーに指名されることの多い物流部長に欠けているのは数字を使い こなすためのスキルだ。
(聞き手・岡山宏之、刈屋大輔) カサイ経営 河西健次代表 三〇年前にSCM ――カサイ経営は在庫管理のコンサルティングを得意 としていますが、そのノウハウは何がベースになって いるのですか? 「三〇年以上前に在籍していた旭硝子の物流部での経 験がとても役に立っています。
それがあるから、いま こうしてコンサルとして独立してやっていけている。
当時の旭硝子は先進的な物流改革に取り組んでいて ね。
在庫管理も進んでいた。
その頃はまだそんな言葉 はなかったけれど、いまのロジスティクスやサプライ チェーンマネジメント(SCM)に似たようなことを すでにやっていましたよ」 ――オイルショックの頃の話ですか? 「いやもう少し前の話。
旭硝子では昭和四三年に物 流部を発足させたんだけど、その際に物流部に需給調 整の権限を与えたんだ。
当時としては珍しいよね。
旭 硝子ではその頃、在庫の問題がクローズアップされて いたんだけど、その在庫を減らせるのは物流部門しか ない。
経営トップがそう判断して新たに物流部を設け ることになった」 ――いきなり物流部門に需給調整機能を持たせた。
斬 新なアイデアですね。
「結局、頭の切れる経営者というのは言葉こそ違っ ても、昔も今も考えることは一緒なんです。
そのトッ プは当時こうも言っていました。
メーカーだけが在庫 を減らしても意味がないから、問屋さん向けに在庫管 理マニュアルを作って、それを配ってこい、と。
部分 最適ではなく、全体最適で在庫のことを考えろ、とい う意味だったのでしょう。
まさに現在流行っているS CMの発想そのものです」 ――在庫削減プロジェクトで河西さんは物流部の実行 部隊の一人として全国を駆け回った。
「年頭の挨拶で在庫問題について触れてくれたり、社 長が物流部に対して協力的だったので、とてもやりや すかった。
それでもプロジェクトを進めていく上では 随分と生産や営業の抵抗にあいましたよ。
物流の連中 に生産や営業の何がわかるっていうんだ。
そう言って 物流部の話をほとんど聞いてくれない」 ――どうやって理解を求めていったのですか? 「徹底的に数字を示しました。
保管費や輸送費とい った物流に関するデータ、同業他社とのコスト比較の データ、さらにそれらを事業部別に出したりと、あり とあらゆるデータを用意しました。
しかも詳細なもの を。
そしてそれを持って生産や営業の責任者のところ に行って説明するんです。
数字というのはとても便利 です。
ココをこうすれば、このくらいコストが下がり ます。
在庫が減ります、と説明すると、どんな人でも 理解してくれるんですね。
そんなに効果が出るのか。
じゃあ協力しようか、とね」 ――河西さんは経理部出身で数字に強い。
だからそう いうやり方で相手を口説いていくことができた。
しか し物流マネジャーが皆、同じようなスキルを持ってい るとは限りません。
どうやって数字の使い方を身につ けていけばいいのでしょうか? 「われわれのようなプロに頼むのも一つの手でしょう ね(笑)。
まあ、それは冗談として、昔ならともかく、 今では物流部門にも優秀な人材がたくさん放り込まれ ています。
物流のデータ分析はそんなに難しい話では ありませんから、ポイントさえ掴めば誰にでもできる はずです」 ――物流ABC(活動基準原価計算)で算出したデ ータなども在庫管理には有効ですか。
「物流ABCは対象とする範囲が物流センターの中 Interview 17 FEBRUARY 2004 特集 だけなので、それだけでは在庫管理のデータとしては 不十分です。
物流センターにモノが入るまでの部分と 出た後の部分のデータも準備する必要があります。
先 程も説明しましたが、物流センターの在庫だけが減っ ても意味がありませんから」 ――かなり優秀な人材じゃないと在庫管理は任せられ ませんね。
「在庫削減のプロジェクトでは数字に強いとか、能 力や知識よりも、むしろ改革に燃える意気込みみたい なもののほうが重要です。
生産や営業などプロジェク トに関係する部署に何を言われようが絶対にやり遂げ てやるんだという気持ちがないと成功しません。
在庫 管理のノウハウはいくらでも教えられます。
しかし、 やる気のない人をやる気にさせるのはとても難しいこ とです」 債権を在庫として計上する ――在庫削減には、うまく進めていくための手順のよ うなものが存在するのでしょうか。
「手順よりもまず最初に、自社の在庫管理のレベル がどの程度なのか。
現状を把握しておく必要がありま すね。
私は旭硝子時代の経験やコンサルティングでの 経験を基に『在庫管理状況に関する診断表』という ものを作成しました。
ここでは在庫戦略、需給調整、 情報支援、在庫管理手法の導入状況、フォローアッ プ、現物管理の六項目について各五問ずつ、計三〇 問の質問を用意しています。
それに答えて○が一八個 以上あれば合格です」 「×がついたら、そこを一つひとつ克服していけば いいわけですね。
○がついていくにつれておのずと結 果、つまり在庫も減っていくはずです。
われわれもコ ンサルをやるときにこの診断表を予備調査に活用して います。
どこにメスを入れればいいのか。
悪い部分が はっきりと見えてくる。
とても便利です」 ――主にメーカーの話になりますが、今後はどういう 視点で在庫を捉えていけばいいのか。
そして、どうや って在庫を減らしていくべきなのかを教えてください。
「思わず、へぇーって関心してしまったんだけど、昨 年の物流学会で非常に興味深い在庫の考え方に出会 いました。
大阪国際大学の中野幹久先生の発表だっ たんだけど、なるほどと思いましたね。
その内容は簡 単にいうと自社の在庫だけを見ているのでは不十分。
売り先の在庫までを含めて評価すべきだというもので した。
私は当初、売り先の在庫をどうやって把握する のか。
そんなもの分からないじゃないかって思った。
そしたら、売り先の在庫は売掛金や債権という指標で 掴めっていうんだな」 ――在庫=キャッシュとした場合、例えばサイトが長 い債権は現金化が遅れるので、なかなか売れない?悪 い在庫〞と解釈する。
「在庫を減らすためにサイトを長くして無理に相手 に買ってもらうこと、いわゆる押し込み販売は、やは り好ましくないということになりますね。
見掛けの在 庫、つまり棚卸資産ベースで在庫が減っていても、債 権というかたちで実は在庫が残っている。
これを見逃 してはならない。
自社の棚卸資産と売掛金(債権)の 残高を足して在庫とすべき。
恐らく中野先生はこう言 っているんでしょうね」 ――確かにおもしろい発想です。
「この発表を聞いて目から鱗が落ちたわけだけど、要 するに自社の在庫をウオッチしているだけではもうダ メだよ、ということなんでしょうね。
サプライチェー ン全体で在庫を捉えろ。
時代の流れと見事にマッチし た在庫管理理論です」 1 . 「在庫削減」が経営管理の重点課題になっていますか。
2 . 在庫管理の対象を原材料や部品等の調達まで拡げていますか。
3. 経営最適の立場で在庫をコントロールする部門がありますか。
4 . 在庫コストに金利、陳腐化ロス等を加えていますか。
5 . 役員会などを通じて毎月経営トップに在庫問題が報告されてい ますか。
在庫戦略 6 1 . 新製品、廃止製品の基準(売上高など)がありますか。
7 . 販売計画をコントロール部門がチェックし修正することがで きますか。
8 . 生産計画をコントロール部門がチェックし修正することがで きますか。
9 . 期末・月末などの押し込み販売をしていませんか。
10 . 生産部門は週単位又は日単位で生産計画を変更していますか。
需給戦略 11 2 . 顧客からの在庫問い合わせに即座に回答できますか。
12 . 入荷予定、出荷予定などを加味して在庫引当ができています か。
13 . 全社、物流拠点ごとの在庫の偏在・過不足状況を容易に知る ことができますか。
14 . アイテム別の出荷トレンドがコンピュータで把握できますか。
15 . セールスマンからの特売、イベント、特需情報がタイムリー に報告されていますか。
情報支援 16 3 . ABC分析による在庫管理を行っていますか。
17 . 常備在庫品と非在庫品の基準は明確になっていますか。
18 . 商品群、アイテムごとに在庫基準が設定されていますか。
19 . 最適生産ロット・経済的発注量などが設定されていますか。
20 . 欠品、誤納、遅延などのデータを日々つかんでいますか。
在庫管理手法の導入状況 21 4 . 在庫基準は毎期見直しが行われていますか。
22 . 二年に一回程度、顧客別に納期、欠品などの満足度の調査を 行っていますか。
23 . 毎期、調達先別に納期、欠品率などをつかみ、発注量の増 減、選別に取り組んでいますか。
24 . 毎期、在庫拠点ごとに在庫品目、数量の見直しが行われてい ますか。
25 . 最近三年間で二〇%以上の在庫削減が行われましたか。
フォローアップ 26 4 . 最低月一回の実地棚卸が実施されていますか。
27 . 帳簿と現物との誤差は、社内的に許容される範囲内に収まっ ていますか。
28 . 先入れ先出し、後入れ後出しなどの出荷基準が設定され、守 られていますか。
29 . 棚卸ロスの原因はきちんと分析されていますか。
30 . 毎期、不良在庫は除却(帳簿在庫から償却)されていますか。
現物管理 5 在 庫 管 理 状 況 に 関 す る 診 断 ( 30 問) (出典)カサイ経営 ※十八問以上該当が合格ライン

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