ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2012年10号
グローバル物流市場の実像
第4回 Part4 コントラクト・ロジスティクス市場

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2012  78 Part4 コントラクト・ロジスティクス市場 グローバルリーダーの顔触れ  前回の本稿では欧米メガフォワーダー五社を 比較したが、今回はメガフォワーダー以外にコ ントラクト・ロジスティクスをコアとしている大 手五社の事業展開を見る。
表1に五社の基礎デ ータを示した。
これを前号のメガフォワーダー の実績と併せて概観していく。
 コントラクト・ロジスティクスとは、売買に 関与しない第三者が特定の荷主顧客と契約を結 び、輸送や在庫・配送業務の効率運営を図るサ ービスをいう。
これをアメリカでは3PLと呼 ぶ。
またアメリカではロジスティクスの効率化に かかわるサービスの提供者が自らを3PLある いはサプライチェーン・ソリューション・プロバ イダーと称する傾向にある。
 欧米でコントラクト・ロジスティクスに目が向 けられるようになったのは一九八〇年代後半の ことである。
その後、九〇年代に入って荷主が 自らのコアビジネスに専念するために、ロジス ティクスの効率化と運営を外部に委託するとい うトレンドが世界的に広まった。
 我が国では航空フォワーダーによる海外事業 がその先駆けとなった。
日系航空フォワーダー の海外進出は六〇年代から七〇年代にかけて本 格化した。
日本発航空貨物の着地でのハンドリ ングから始まり、単純な保管と輸送の手配を超 えて、現地に自動倉庫を導入し、ピース単位の 部品管理を手掛けるなど、サービス内容を高度 化させていった。
 しかし、目下のところ、グローバル市場にお けるこの分野の第一人者は、DHLサプライチ ェーンであり、それに続くのがヨーロッパのC EVAロジスティクスやメガフォワーダー、また アメリカの3PLである。
 主要プレーヤーの二〇一一年の売上規模はD HLが一兆四六九三億円と断トツで、二位のC EVAロジスティクスが四一五九億円、三位の キューネ+ナーゲルが三七六〇億円である。
以 下、ノルベール・ダントルサングル( Norbert Dentressangle)、DBシェンカー、UPSサ プライチェーン、メンロー(Menlo Worldwide Logistics)、トール(Toll)と続く。
 現状ではDHLが二位以下を大きく引き離し ているが、近年はキューネやDBシェンカーなど のヨーロッパの伝統的なフォワーダーによるコン トラクト・ロジスティクス市場への積極的な進出 が顕著となっている。
ヨーロッパの輸送とロジ スティクスにかかわるオペレーションは輸出入貨 物のフレイトフォワーディングと域内輸送をメー ンとしてきたが、そこにコントラクト・ロジス ティクスのサービスが加わった格好である。
フ ランスの国鉄SNCFのロジスティクス事業部 門となったジオディス(Geodis)、デンマークの DSVなどはその典型である。
 これに対してCEVAは、TNTロジスティ クスを前身としている。
TNTは利益率の良い エクスプレス事業と郵便事業に専念するため、〇 六年にロジスティクス部門とフォワーディング部 門の売却に踏み切った。
この選択と集中は当初 は市場から高く評価された。
ところが、その後 の世界経済危機で業績が低迷、今春にはついに 主業のネットワークビジネスまでUPSに統合 されることになった。
 コントラクト・ロジスティクスのグローバル市場は 現在、DHLが牽引している。
ヨーロッパのメガフォワー ダーとアメリカの3PLがそれに続く。
また今後の主戦 場となるアジアでは、オーストラリアのトールが勢力 を伸ばしている。
グローバル物流市場の実像 ~新たな可能性の探求に向けて~ 平田義章 国際ロジスティクスアドバイザー 第4 回 79  OCTOBER 2012  一方、TNTからコントラクト・ロジスティ クス事業とフォワーディング事業を受け継いだ CEVAはその後、アメリカのEGL社との統 合を果たし、大きく市場シェアを拡大している。
同様にフランスのノルベール・ダントルサングル も企業買収によってコントラクト・ロジスティク スの拡大を図っている。
本稿ではこの二社をヨ ーロッパ勢として採り上げている。
 アメリカからは、UPSのコントラクト・ロ ジスティクス部門であるUPSサプライチェーン ソリューションと、メンローを採り上げる。
巨 大インテグレーターのUPSもM&Aによってロ ジスティクス部門を強化している。
ただし、そ の狙いは自己のコアビジネス、すなわちパッケ ージ輸送のシェア拡大にある。
 またアメリカの3PLには、トラック輸送を ベースとする会社が多い。
ライダーやペンスキー は、トラックのリース事業から荷主の自家輸送 を代行するサービスへと展開した。
C.H.ロビン ソンもトラックの運行の効率化を強みとする3 PLとしてビジネスを拡大している。
 メンローも極めてアメリカ的な3PLの一つ である。
陸運大手のコンウェイ(Con-Way)の 3PL部門として活動する同社は、輸送の効率 化に加えて荷主のロジスティクス改革を代行す る総合3PLとして事業基盤を確立した。
 アジアからはオーストラリアのトールを採り上 げる。
欧米のメガフォワーダーやロジスティクス 企業がこぞってアジア進出を加速しているのは 先述の通りだ。
わが国の物流企業も同様である。
その混戦市場にあってトールは果敢なM&Aに よってシェアを拡大している。
CEVAロジスティクス TNTロジとEGLを統合しシェア拡大  オランダに本社を置くCEVAロジスティク スは、投資会社アポロ・マネジメントの管理下 にある。
アポロは〇六年にインテグレーターの TNTからロジスティクス部門のTNTロジス ティクスを買収。
続く〇七年八月にアメリカの EGLを買収し、TNTロジスティクスと統合 してCEVAを誕生させた。
 ちなみにEGLはアメリカの国内航空貨物を メーンとするフォワーダーとして一九九五年にナ スダックに上場し、その後、国際フォワーダー兼 通関業のサークルインターナショナルの買収など を通じて事業領域を海外に広げた会社である。
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達釘孱舛琉谿貲�亮��膩廚麓系始仔鷁� 円で、そのうちコントラクト・ロジスティクス部 門の売り上げが五四%を占めている。
地域別売 り上げは、アメリカが三〇%、アジア・パシフ ィックが二八%、北ヨーロッパが二四%と、グ ローバル市場を満遍なくカバーしている。
また 顧客層としては自動車やコンシューマー業界に 強い(図1)。
表1 メガコントラクト・ロジスティクス企業の業績(2011) (単位:百万現地通貨、億円、対前年増減%) メンロー・ワールドワイド ユーロ 億円 前年増減 USドル 億円 前年増減 ユーロ 億円 前年増減 Aドル 億円 前年増減 USドル 億円 前年増減 注:換算レート:米ドル=79.84円( UPSサプライチェーン、メンロー・ワールドワイド)、ユーロ=111.12円(CEVAロジスティクス、ノルベール・ダントルサングル)、オース トラリアAドル=82.46円(トール・ホールディングス)。
()はマイナス。
※親会社のフリーキャッシュフロー。
UPSサプライチェーン、ノルベール・ダントルサングルは主要項目のみ抽出記載のため各項目の計は収入合計に合致しない。
出所:各社財務資料およびアームストロング&アソシエイト社3PLプロフィールより作成 CEVA ロジスティクスUPS サプライチェーン ソリューション ノルベール・ ダントルサングルトール・ホールディングス 3,743 4,159 5.9% 2,000 1,597 11.1% 1,589 1,766 28.2% 1,357 1,119 3.8% 1,590 1,269 7.6% 3,152 3,503 (4.8%) 4,500 3,593 (4.3%) 86 96 622.7% 1,635 1,348 53.4% ─ ─ ─ ─ ─ ─ 2,563 2,046 16.1% 1,966 2,185 20.2% 5,233 4,315 14.5% ─ ─ ─ 6,895 7,662 0.7% 9,139 7,297 5.4% 3,576 3,974 26.0% 8,225 6,782 18.4% 1,590 1,269 7.6% 75 83 108.3% 736 588 24.5% 125 139 21.5% 436 360 7.3% 55 44 108.4% (99) (110) 17.5% 4,536 3,622 42.6% (199) (221) ─ (157) (129) ─ 58 46 142.3% コントラクトロジスティクス フレイトフォワーディング 内陸輸送、その他 収入合計 営業利益 フリーキャッシュフロー※ 営業利益率(前年) 人員(人) 1.1% (0.5%) 8.1% (6.8%) 3.5% (3.6%) 5.3% (5.9%) 3.4% (1.8%) 51,791 35,000 32,700 45,000 4,400 図1 CEVAの荷主業種別収入シェア 出所:CEVA 財務資料より作成 2011年 収入合計 7,662 億円 自動車 28% 消費者と小売り 23% テクノロジー 22% 産業 16% エネルギー 6% その他 5% OCTOBER 2012  80  同社の現在の課題は、借入金の返済を進め、 最終利益を計上できるようになることである。
一一年の営業利益は前年対比一〇八・三%増 の八三億円を計上している。
しかし、最終利益 は前年から一五・三%改善しているものの、二 四〇億円の赤字である。
フリーキャッシュフロ ーも一一〇億円のマイナスだ。
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圍裡圓�蹈献好謄��紘�腓鯒箋僂靴人�� は、その低い採算性にあったとされる。
それ を吸収し、M&Aによって事業を拡大したCE VAが、どうやって収益性を改善していくのか。
IPO(新規株式公開)の噂もあり、注目が集 まっている。
ノルベール・ダントルサングル イギリスの有力企業を相次ぎ買収  ノルベール・ダントルサングルはヨーロッパの 典型的なロジスティクス企業である。
イギリス とフランスを結ぶ複合輸送業者として七九年に ロンドンで創業し、九四年にフランス市場に株 式を公開した。
 〇七年にイギリスの有力3PLのクリスチャ ン・サルベッセン、一一年に同じくイギリスの 大手輸送業者のTDGをそれぞれ買収して、ヨ ーロッパ市場におけるシェアを拡大している。
 一一年の売上高は三九七四億円。
そのうち内 陸輸送が二一八五億円と過半を占めている。
そ れと並ぶ柱がコントラクト・ロジスティクスで、 売上高は一七六六億円だ。
フォワーディングの 売り上げは九六億円に過ぎない。
 営業利益(EBIT)は一三九億円。
TD Gの買収効果によって対前年二一・五%増を記 録している。
利益率は三・五%だが、フリーキ ャッシュフローは買収の影響から二二一億円の マイナスとなっている。
UPS 小口配送事業への貢献に主眼  �
妝丕咾離灰▲咼献優垢蓮∪里盧�睚胴馥發� 小口配送である。
同社はオペレーションを「米 国内パッケージ」、「国際パッケージ」、「サプライ チェーンと輸送」の三つに分けている。
三部門 の売り上げシェアは米国内パッケージが六〇%、 国際パッケージが二三%、サプライチェーンと輸 送が一七%で、米国内パッケージが飛び抜けて いる(図2)。
地域別売り上げも、アメリカ国 内が七四%、国際が二六%で、事業基盤が国内 にあるのは明らかだ。
 表1にはUPSでフレイトフォワーディング と国内トラック輸送、そしてコントラクト・ロ ジスティクスを統括する「UPSサプライチェ ーンソリューション(UPS SCS)」の一一 年の業績を掲載している。
売上高が前年比五・ 四%増、営業利益が同二四・五%増の大幅な増 収増益を達成している。
 ただし、UPS全体の売上高四兆二四〇〇億 円のうち、UPS SCSの売り上げは七二九 七億円に過ぎない。
その内訳はフォワーディン グが三五九三億円、トラック輸送が二〇四六億 円、ロジスティクスが一五九七億円である。
ロ ジスティクスよりもフォワーディングのシェアが 大きい。
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妝丕咾蓮三貲�紡膽蠶夢惷伴圓離侫螢奪弔� 買収してNVOCCを含むフォワーディング業 務を拡大した。
ただし、同社のフォワーディン グ事業は小口混載貨物を含めたアジア・アメリ カ間の輸送をメーンのターゲットに据えたもの で、ロジスティクス事業も小口輸送の拡充に貢 献することに主眼が置かれている。
 現在の同社にとって最も大きな課題は、今春 買収に踏みきったTNTエクスプレスの統合で ある。
それに伴って展開されるフェデックスお よびDHLとのエクスプレス分野における競争 において、UPS SCS部門がどのように貢 献するかが今後のポイントである。
メンロー 中国・アジアに積極展開  九〇年に大手路線会社のCNFによって設立 されたアメリカの伝統的な3PLである。
コン トラクト・ロジスティクスを含め3PLにかか わる総合的なサービスを提供している。
現在は CNFグループの中核企業コンウェイのロジス ティクス部門という位置付けである。
 メンローの一一年の業績は総収入が前年比 七・六%増の一二六九億円、総売上から傭車 費用を除いた純収入が同五・二五%増の四八〇 図2 UPS の部門別収入 出所:UPS 財務資料より作成 2011年 全社収入 4兆 2,462 億円 国内 パッケージ 60% 国際 パッケージ 23% サプライチェーン &フレイト 17% 81  OCTOBER 2012  同社の一一年の連結売上高は六七八二億円 で、部門別の内訳は内陸輸送が四三一五億円、 フォワーディングが一三四八億円、コントラク ト・ロジスティクスが一一一九億円となってい る。
地域別ではオーストラリアとニュージーラン ドが四五一三億円で、全体の六六%を占めてい る。
次いでアジアが二二%で一四七八億円、E MEA(ヨーロッパ、中東、アフリカ)が七% で四七九億円、北米が五%で三一二億円となる (図3)。
 近年は香港のフォワーダーのBALトランス やシンガポールのロジスティクス企業、セムコー プ・ロジスティクスなどの買収によりアジア域 内に勢力を広げている。
日本でも〇九年に中堅 路線会社のフットワークエクスプレス(現・トー ルエクスプレスジャパン)を買収した。
 一連の買収によって従業員数は約四万五〇〇 〇人まで拡大した。
一一年の営業利益(EBI T)は三六〇億円、利益率五・三%と高い収益 性を維持しているが、フリーキャッシュフロー はマイナス一二九億円となっている。
我が国のサービスプロバイダーの課題  物流市場調査会社の英トランスポート・イン テリジェンス社によると、一一年のコントラク ト・ロジスティクスのグローバル市場規模は、前 年から四・五%伸張し、約一七兆円(一五三〇 億ユーロ)に達したという。
エリア別では北米 市場が二・八%増、ヨーロッパ市場が三・一% 増、アジア市場が七・四%増で、いずれも伸び 率は前年を下回っている(注1)。
 ヨーロッパ市場が低迷し、アジア市場が伸び 八億円であった。
また総収入のうち輸送収入は 九・六%増、倉庫収入は二・八%増であった。
 営業利益は四四億円で対前年一〇八・四% 増。
利益率は三・四%であった。
同社の総収入 の四五・四%はGMを始めとする大手荷主三社 によって占められており、主要荷主の業績に影 響を受けやすいところがある。
 近年は海外展開を本格化させている。
〇七年 には中国の七八都市に一三〇拠点を展開する3 PLの上海煕可物流を買収した。
東南アジアで も現在二七カ所に拠点を展開し、一一七五人の スタッフを投入して計三五〇万平方フィートの 付加価値倉庫を運営している。
トール オーストラリアからアジアへ  オーストラリアのトールグループは、一八八 八年にアルバート・トール氏が馬車による石炭 の運搬事業で創業した老舗の物流会社だ。
その 後、八六年にポール・リトル氏らがMBOを実 施。
同氏のリーダーシップの下、積極的な買収 攻勢に打って出て、グローバルな総合物流企業 へと成長した。
悩むなか、一二年の見通しはなお不透明である。
それでも欧米のインテグレーター、フォワーダー、 ロジスティクス企業と並んで、日本のフォワーダ ーやロジスティクス企業もアジア市場での活動を 活発化させている。
 戦後、我が国は経済復興の依り所を欧米の先 進市場に求めた。
これに応じて日本の物流会社 もアメリカやヨーロッパに進出し、現地の日系 荷主の事業展開を支援してきた。
しかし、市場 環境は大きく変化し、生産、販売ともアジアを 始めとする新興国市場へと移行している。
 これに対応してEUは現在、域内の輸出入物 流の効率化をはかるために関税法を改正し、貨 物の情報管理による手続きの一元化を進めよう としている。
アメリカでは、中国への丸投げ的 な生産委託を見直し、メキシコや自国での生産 に回帰する動きがある。
 同様に我が国にもロジスティクスの効率化や リードタイムの短縮をもたらすサプライチェーン 最適化が強く求められている。
国内の空洞化に 対処するためには国内生産体制の効率化と徹底 的なコスト削減によって内外価格差を解消する 必要がある。
 コントラクト・ロジスティクスは、それに大き く貢献できるはずである。
期待されるサービス をどのように実現し、同時に自らの利益率をい かに高めていくのか、日本の物流会社が直面す る課題である。
注 (1) C o n t r a c t l o g i s t i c s g r o w t h w e a k e n s but margins increase in 2011, Transport Intelligence, 01/Jun/2012. 図3 トールの地域別収入シェア 出所:トール財務資料より作成 2011年 総収入 6,782 億円 オーストラリア・ ニュージーランド 66% アジア 22% ヨーロッパ・中東・ アフリカ 7% 北アメリカ 5%

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