ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2012年10号
物流行政を斬る
第19回 日本の物流教育は未成熟行政主導で国家資格を整備し、主要大学には物流学部の創設を

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2012  88 三級でも難しすぎる  私事で恐縮だが、筆者は物流に関する教育を専門 にしている。
四年ほど前から産業能率大学で講義を 受け持ち、物流業界に有能な人材を供給できるよう 務めている。
本年は「物流戦略論」「物流の仕事の しくみ」なる二つの授業を担当した。
前者はカンバ ンシステム、カイゼン、自社物流と営業物流、モー ダルシフトの是非など戦略的な話を中心にし、後者 は、トラック・船・鉄道の種類、ダンボールの積み 方、物流センターの設計のポイントなど実務の話を メインに据えた。
授業では全日本トラック協会、日 本倉庫協会、日本船主協会が作成したDVD等も見 せ、物流の面白さ、奥の深さなどを臨場感溢れる形 で学生に紹介するよう心がけている。
 先般、全一五回のカリキュラムが終了した。
手前 味噌になってしまうが、授業を受け終えた後の学生 の感想を見ると、「物流がこんなに面白いとは思わ なかった」「将来物流業界で就職したいと思うように なった」という声を多く目にする。
そしてまた「物 流業界で就職するにはどうしたら良いですか」「身に 付けておくべき知識・資格はありますか」といった、 日本の物流教育は未成熟 行政主導で国家資格を整備し、 主要大学には物流学部の創設を  日本には物流を体系的に学べる場が圧倒的に少ない。
物流関連の資格も限られている。
物流に精通した有能 な人材を育てることができなければ、近い将来、物流 行政は立ち行かなくなる。
大規模災害をはじめとする 緊急事態にも対応できない。
行政は現状の資格制度、 教育制度にメスを入れ、物流のプロを輩出する環境を 整えるべきだ。
第19 回 物流業界への就職に関する質問を多く受ける。
そこ で今月号では、物流に関する資格制度及び教育につ いて考察することにする。
 物流業界に就職するために、絶対的に必要な資格 は無い。
もちろん実務に携わる現業部門では、大型 自動車免許、フォークリフト免許、倉庫管理主任者、 危険物取扱者等の取得及び習得が不可欠だが、普通 に物流企業に就職するには、何も無くても大丈夫で ある。
 しかし、物流企業としては新入社員や若手社員が、 物流に関してどれくらい知識を積んでいるかを確認 する手段が欲しいのは言うまでもないだろう。
物流 企業を取り巻く競争環境は激化の一途で、今後、他 社と差別化して生き残っていくためには、取引先 (荷主)に提供するサービス機能のさらなる高度化は 避けて通れない。
それを実現するためには、有能な 人材の確保が不可欠であるからだ。
 こうした中で注目されているのが、厚生労働省 所管の特別民間法人・中央職業能力開発協会(J AVADA)が実施する「ビジネスキャリア検定試 験」の中に設けられた「ロジスティクス管理」およ び「ロジスティクス・オペレーション」の二つだ。
そ れぞれ三級と二級が設けられており、年に二回試験 が行われている。
試験内容としては四択の問題が四 〇題出される。
合格の目安は概ね六〇%前後だ。
お そらく、物流関連の知識を測る資格制度としては唯 一の存在だろうと思われる。
それ故、物流業界に内 定及び内々定をもらった学生は、入社までに「ロジ スティクス管理」または「ロジスティクス・オペレー ション」の三級を取得しておくように企業から要請 されるケースも少なくない。
 なお、この他にも日本ロジスティクスシステム協 会(JILS)が認定する「ロジスティクス経営士」 「物流技術管理士」「国際物流管理士」「物流現場改 善士」「グリーンロジスティクス管理士」等があるが、 これらは物流業務に一定年数以上、従事した者を対 象としているため、学生や若手社員向きとは言えな い。
 さて、筆者は試験的な取り組みとして、本年度の 授業においては毎回、「ロジスティクス・オペレーシ ョン三級」の問題を四〜五問出題して学生に解かせ、 その解説を行うようにした。
物流知識の習得はもち ろん、近い将来に同資格を受験することになった際 には必ず有利に働くと見たからだ。
しかし、授業で 物流行政を斬る 産業能率大学 経営学部 准教授 (財)流通経済研究所 客員研究員 寺嶋正尚 89  OCTOBER 2012  扱って痛感したことがある。
三級とはいえ、その内 容が非常に難しいのだ。
試しに、昨年の下期に行わ れた試験問題の一部を抜粋して見てみよう(図表参 照)。
 いかがだっただろうか。
問題三、問題七ともに答 えは「ウ」である(過去四回分のテスト問題及び回 答がホームページに掲載されている為、興味のある方 は下記ホームページをご参照されたい、http://www. javada.or.jp/bc/career/past.html)。
本稿の読者 は、物流を専門にする方が大半であろうから、簡 単に解けたかも知れない。
しかし、これから物流 業界を目指す学生や新入社員、入社五〜六年目位 までの若手社員にとっては、難しく感じる人もい るのではないだろうか。
筆者は授業で問題を取り 扱っていて、少なからぬ数の学生たちが、「物流は 難しい」という苦手意識を抱いてしまわないか気 を揉んだものだ。
 物流業界においては、こうした資格制度自体が 貴重な存在であるので高く評価したいが、出来る ことならば、三級のレベルはもう少し落とすか、あ るいはさらに簡易な四級を設けることで、物流業 界の裾野を広げることに結びつけて欲しいところ である。
さらに望むなら、行政がイニシアチブを取 り当該資格を国家資格として定め、受験者数をさ らに増やしてほしいところである。
物流を学ぶ場がない  物流に関する教育については、資格制度よりも更 に根源的な問題点がある。
物流を学べる場が、日 本においては圧倒的に不足していることだ。
本誌 二〇〇五年五月号に、「大学は物流の専門学部を 作れない」というタイトルの記事が掲載されてい る。
物流の専門家である中田信哉氏(神奈川大学) に対するインタビュー記事であるが、氏は物流を教 える人間の不足や、物流論が体系化されていない 現状に問題があると指摘している。
これを読むと、 悲しいかな、七年経った今でも状況がまったく変 わっていないことに気付く。
 阪神大震災や東日本大震災が発生し、物流の意 味や重要性は広く一般の人にまで知れ渡った。
以前 に比べれば、物流に関心を寄せ、学ぼうという意欲 を抱く若者もずっと増えているはずである。
しかし、 肝心の教育体制が全く整っていない。
かろうじて、 限られたごく一部の大学で講座が設けられているに 過ぎない。
 こうした状況は早急に改めなければならないだろ う。
物流に関する知識を持った人材を一定程度、育 成・維持しておかなければ、地震をはじめとする緊 急時に対応できないばかりでなく、わが国の物流行 政を支える人材そのものがいなくなってしまう。
わ が国の航空行政、港湾行政が中国や韓国に比べて一 貫性がなく、サービス面及びコスト面において後塵 を拝していることも、そうした人材不足に起因する 面が小さくないだろう。
 物流に関する知識を持った人材を育成するとなる と、もはや一企業が行えるレベルを超えている。
国 や業界団体等が積極的に動き、施策を打つ必要があ る。
例えば文部科学省、国土交通省、経済産業省 等が協働し、いくつかの主要な大学に物流学部や物 流学科を設置するといった動きがあって然るべきだ ろう。
あるいはJILS、日本物流学会、日本物 流団体連合会等の諸団体が大学に寄附講座を開いた り、物流業界へのインターンシップを積極的に斡旋 したりすることも合わせて行うべきだろう。
てらしま・まさなお 富士総合研究所、 流通経済研究所を経て現職。
日本物 流学会理事。
客員を務める流通経済研 究所では、最寄品メーカー及び物流業 者向けの研究会「ロジスティクス&チャ ネル戦略研究会」を主宰。
著書に『事 例で学ぶ物流戦略』(白桃書房)など。
ロジスティクス・オペレーション3級の問題(抜粋) 【問題3】 ダンボールに関する次の記述のうち、( )の中に入る用語の組み合わせとして、正しいものを選びなさい。
【問題7】 海上コンテナのターミナル施設、積付け、荷役方式等に関する次の記述のうち、誤っているものを選び なさい。
ア. LCL貨物とは、コンテナ1個に満たない、いわゆる小口貨物であり、ほかのコンテナ貨物と混載され、 仕向け地でも同様にコンテナから出されて出荷される。
イ. FCL貨物とは、コンテナ1個を単位として発送される大口貨物のことで、多くの場合荷主の責任でバ ンニングされてCY(コンテナヤード)に運ばれ、仕向け地でも同様にCYから目的地まで直接運ばれる。
ウ. RO/RO方式は、垂直荷役方式とも呼ばれ、クレーンを使用して、貨物を垂直方向に移動すること で本船への積み込み、荷卸しを行う荷役方式のことである。
エ. CFS(Container Freight Station)とは、小口貨物の集積、保管、蔵置する輸出入貨物の荷捌き 場所であり、コンテナの詰め込み、取り出しを用意にする為に一般的には高床式の倉庫が多い。
段ボールは波形の中しん(芯)を、表裏のライナーで挟んだ構造となっている。
中しんの高さは数種類 あり、厚さ約5 ?の( ? )と厚さ約3 ?の( ? )が日本では主流になっている。
他に厚さ約4 ?の( ? )があり、内容品の質量、大きさ等により使い分けられている。
ア. ?AB段 ?C段 ?A段 イ. ?A段 ?C段 ?B段 ウ. ?A段 ?B段 ?C段 エ. ?BC段 ?B段 ?A段

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