2012年11月号
特集

第2部 最前線の仕事、やりがい、人事制度 小売り SCMマネジャー イオングローバル競争の先頭に立つ

NOVEMBER 2012  18 SCM部門の半分を外国人に  現在、イオングループのSCMは、二〇〇七年 に設立した機能子会社、イオングローバルSCMの ジェンク・グロル社長が責任者を務めている。
一九 七〇年、トルコ生まれ。
大学で食品工学を専攻し た後、来日し、新潟の国際大学大学院でMBAを 取得。
一九九六年に新卒でイオンに入社した。
 「当初は食品メーカーでブランドマネジメントでも やろうかと考えていた。
しかし大手メーカーともな ると、組織が既に出来上がっていて、それぞれの 社員がやることも決まっている。
一方、イオンは本 格的にグローバル競争に打って出ようとしていた。
新しいことにチャレンジできるのが魅力だった」と いう。
 当時のイオンに新卒の外国人社員はまだ数える ほど。
会社側もグロル氏にはグローバル化の尖兵と なることを期待した。
とはいえ、特別扱いはない。
入社後最初の配属は、川口店(埼玉県)の「和日 配(漬物、納豆、豆腐など)」売り場だった。
棚 割、発注、在庫管理、陳列、パート管理など、約 二年間にわたり店舗オペレーションを経験した。
 その後、情報システム部門に異動。
発注端末(P OT)の導入や生鮮品の店舗システムの開発に携 わった。
ここまでがグロル氏のいわば修業時代で、 二〇〇〇年代に入って、いよいよ本格的にグロー バル競争の最前線に身を投じることになる。
欧米 の大手小売業を中心メンバーとするeマーケットプ レイス「WWRE(ワールド・ワイド・リテール・ エクスチェンジ」の担当者として渡米、約六カ月に わたりワシントンで研究開発に取り組んだ。
 二〇〇一年、イオングループは長期計画「グロー バル一〇」を発表。
二〇一〇年までに小売業で世 界トップ一〇入りする目標を掲げ、積極的な拡大 路線に打って出た。
同時に卸を経由しないメーカー との直接取引を指向。
それを支えるロジスティクス を、完全に自社でコントロールすることを目指し、 投資総額約八九〇億円に上る独自の物流網の整備 に乗り出した。
 その最適化がグロル氏の仕事だった。
ウォルマー トを始めとする欧米の小売業のノウハウを徹底的に 学んだ。
ただし、それを日本にそのまま持ち込ん でも機能はしない。
例えばウォルマートは五〇〇? 圏を一つの物流センターでカバーする範囲として括 っている。
日本とは条件が違い過ぎる。
 「しかも、日本のロジスティクスコストは配送費 の構成比が高い。
センターから店舗への足が長く なれば日本では配送費割れしてしまう。
効率化の 手法や自動化など、パーツ、パーツでは大いに欧 米を参考にさせてもらったが、当社は当社独自の モデルを作り上げる必要があった」とグロル氏。
 試行錯誤を続ける間にも事業環境はどんどん変 化していく。
急ピッチの店舗展開に加えて相次ぐ買 収、店舗フォーマットの多様化、PB商品の拡大、  イオン グローバル競争の先頭に立つ  メーカーとの直接取引を支える独自の物流インフラの 構築に10 年越しで取り組んできた。
その間に店舗フォー マットは多様化し、PB 商品が拡大、さらにはグローバ ル化が急速に進んだ。
新たな課題が次々に浮上する。
常 に新しいチャレンジを続けることに、SCM マネジャーの 醍醐味がある。
イオングローバルSCMの ジェンク・グロル社長 小売り SCMマネジャー 第 2部 最前線の仕事、やりがい、人事制度 19  NOVEMBER 2012 そしてアジアシフト。
その都度、新たな課題に直面 する。
走りながら考えるしかない。
 〇六年、新設された「SCM改革部」に異動に なった。
社内コンサルタント的な立場でサプライチ ェーンの改善を指導する仕事だ。
翌〇七年、イオン グローバルSCM が設立されると、その創設メンバ ーの一人に選ばれた。
一一年、同社の社長に就任。
グループのSCM責任者のポジションに就いた。
 トントン拍子の出世に見えるが、グロル氏は「見 た目が日本人とは違うので、良いことをしても悪 いことをしても目立つ。
常にそのことを意識して、 時には利用しながら、他部門や取引先、協力会社 との調整に当たってきた。
“空気を読む”ことを心 がけてきた」という。
 イオングローバルSCMの取扱対象を、グループ 全体に拡げることがグロル氏の当面の役割だ。
現 状でグループの全物量の六割程度を扱っている。
設 立時から約二倍に増えた。
残り四割を取り込んで グループの物流を統合する。
 同時にサービスのスコープを拡大する。
PB商品 では既に商品企画から製造、物流、販売まで垂直 統合している。
ただし、工場から先の原材料調達 は、まだ本格的にカバーできていない。
海外の原 産地から国内工場に至るプロセスにまで管理の手を 伸ばし、サプライチェーンを完全にコントロール下 に置く。
 アジア各国の出店攻勢にも、これからますます 拍車がかかる。
イオングローバルSCMは各国の一 号店の計画段階からプロジェクトに参画している。
現地で複数店舗を展開し、専用物流センターを立 ち上げる段階にならないと、イオングローバルSC Mの売り上げは立たない。
 しかし、インフラの整わない新興国で物流の仕 組みをゼロから作り上げる仕事は専門家の助けが ないと難しい。
オペレーションの設計をはじめ、協 力物流会社の選定や契約方法など、手弁当でアド バイスしている。
「欧米モデルを日本型にカスタマ イズしたのと同様に、中国モデル、アジアモデルを 作っていく必要がある」とグロル氏。
 イオングローバルSCMの社員数は現在約二〇 〇人弱。
うち外国人はグロル氏を含め一〇人程度に 過ぎない。
しかし、今後はアジア各地の現地スタッ フに活躍してもらう必要がある。
二〇二〇年にイ オングループは海外事業の利益構成比を五〇%に 引き上げる目標を掲げている。
それに準じて、S CM担当者の人員構成も半分を外国人が占めるか たちに持っていくつもりだ。
 「入社した時の約束だったグローバル化がまさに 今、現実のことになっている。
我々の前には、も はや誰もいない。
お手本にできるものもない代わ り、壮大なビジョンの実現に向けて、自分の能力 と創造性を発揮するチャンスを与えられている」と グロル氏はやりがいを感じている。
正社員とパートの垣根を撤廃  これまで一〇〇社に上る合併を繰り返してきた企 業だけに、国籍、性別、年齢、出身企業を問わな い機会均等を人事制度の基本方針としている。
二 〇〇四年には正社員とパート社員の人事制度の統 合も実施した(図)。
雇用形態による待遇格差を軽 減し、六ヵ月契約のパート社員でも副支店長・小 型店店長クラス(M─3)の管理職まで昇格できる 職能資格制度に改めた。
 一方、大型店の店長以上の幹部スタッフは職務 制で、企業業績とコミットメントの達成度、「三六 〇度評価(上司だけでなく、部下や同僚など多面 的に評価する人事考課の方法)」などによって総合 評価される。
 グロル社長の場合、イオングローバルSCMの業 績とグループへの財務的貢献度、物流サービスレベ ル、在庫レベル、社内教育などが人事考課のKP Iになる。
成果主義の傾向が強く、毎年の評価が 待遇にダイレクトに反映される。
   (大矢昌浩) 人事戦略 特集 物流のプロになる 図 イオンの人事制度──正社員とパート社員を一元化した 職群 S職 職務等級制度 経営幹部 戦略スタッフ 事業部長 大型店店長 中型店店長 副店長 販売課長 主任 売り場長 担当 S-6 S-5 S-4 S-3 S-2 S-1 J-1 M-3 M-2 M-1 J-3 J-2 職務? 職務? 職務? フレッシャー オペレー ション層マネジメント層 職能資格制度 M職 J職 人事等級 制度主な職位 等級 N 社員 (全国転勤) R 社員 (勤務地限定) コミュニティ社員 (転居転勤なし) 労働時間 年間 1920 時間 (フルタイム) 年間 1920 時間未満 (パートタイム) 出典:「イオンGMS のマーチャンダイジング・プロセス改革とコミュニティ社員制度」 平野光俊、厨子直之、朴弘文.2009. 神戸大学大学院研究論文より

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