ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2012年11号
特集
第2部 最前線の仕事、やりがい、人事制度 通販 物流事業企画 楽天日本一のプラットフォームを作る

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

NOVEMBER 2012  20 物流拠点展開の計画を策定  二〇一二年正月、楽天物流で物流事業企画を担 当する佐々木喜仁グローバル事業企画推進室長の 頭の中を様々な計算が全速で駆け巡っていた。
楽 天が日本各地に物流センターを整備していく具体 的な事業計画を作るためのシミュレーションだ。
 クリアすべき条件は楽天でCOOを務める武田 和徳常務から明確に指示されていた。
「まずは日本 全国のこれだけのエリアを網羅する。
店舗では何 割、カテゴリーでは何割をカバーしたい・・・・」。
 ビジョンを咀嚼し、物流拠点ネットワークのかた ちを描いていく。
関係各部署に問い合わせ、現在楽 天が持っているデータ・ファクトと照らし合わせな がら、投資と事業収入が会社全体の損益(P/L) に与える影響まで考慮してプランを練り上げる。
 「A地方に拠点を置く想定ですが、現状ではその エリアの店舗は数%しかカバーしていません。
そこ に自社倉庫を持っても、一〇年契約でペイバック するのは難しいのではないですか。
A地方はサー ドパーティに委託しましょう・・・・」様々なアイデア を取捨選択し、実行計画に落とし込んでいく。
 楽天は一一年三月、配送サービスレベルの一層の 向上を狙い、通販向けフルフィルメント機能を担う 自社物流拠点「RFC(楽天・フルフィルメント・ センター)」を千葉県市川市に本格稼働させた。
 それまで同社は、全国各地の物流会社とパート ナー契約を結び、そこでフルフィルメントサービス を提供してきた。
しかし、ライバルのアマゾンにキ ャッチアップしようとすれば、サービスをもっと先 に進める必要があった。
 とはいえ、巨大なDC型センターに在庫を集約 し、そこから一斉に配送するシンプルな通販物流 モデルは採用できない。
楽天は全国各地に散らば る約三万九〇〇〇の店舗と購入者をネットモール で結ぶマーケットプレイスだ。
単なるB2Cではな く、「B2B2C」企業として、前例のない「楽 天式物流モデル」を構築する必要がある。
 楽天はそのモデルを無数のテナントが様々な形で 物流インフラを利用する「ハイブリッド型」と呼ん でいる。
大口テナントにはRFCへの在庫移管を 提案、中小テナントにもRFCへの持ち込みなど、 楽天ネットワーク経由での出荷を呼びかける。
同社 が手がけるネットスーパー用の物流センターも前線 基地として活用し、同梱、混載を徹底してできる 限りまとめて届ける。
リードタイム削減により顧客 満足度を上げ、配送コスト削減で店舗を支援する。
それが最終的に楽天の利益になる。
 第一号センターとなった千葉のRFCを立ち上げ た段階で構想の大枠は出来上がっていた。
しかし、 拠点の具体的な配置やスケジューリングは、佐々木 室長の作成する事業計画に掛かっていた。
 正月返上で完成させたプランを提げて、三木谷浩 楽天 日本一のプラットフォームを作る  入社3カ月で日本全国に物流拠点を展開する事業計画 をまとめ上げた。
すぐに役員会の稟議を受け、電子書籍 リーダーの「kobo」と並ぶ楽天の二大新規事業プロジェ クトとして位置付けられた。
ドラスティックな事業展開 とスピード経営を、楽天式人材マネジメントが支えている。
通販 物流事業企画 楽天物流グローバル事業企画推進室 佐々木喜仁室長 第 2部 最前線の仕事、やりがい、人事制度 21  NOVEMBER 2012 特集 物流のプロになる 史社長をはじめとする経営陣にプレゼンを行った。
その結果、佐々木室長が提出した事業計画は、電 子書籍リーダーの「kobo」と並ぶ同社の二大 新規事業プロジェクトとして位置付けられた。
 佐々木室長が楽天に入社したのは一一年九月のこ と。
それから三カ月でまとめた頭の中のアイデアが会 社全体の計画になった。
「楽天経営のスピードとダイナ ミクスを身をもって味わった」と佐々木室長は言う。
 そこから同社の物流戦略は一気に熱を帯びた。
経営幹部への報告は最低週に一度、社長に対する プレゼンも二週間に一度のペースに急増し、拠点計 画が日に日に煮詰まっていった。
 その成果の一端は既に表に出始めている。
楽天 は今年九月、兵庫県川西市に二カ所目となる物流 拠点を開設すると発表した。
後続となるセンター も続々とアナウンスされる予定だ。
 佐々木室長が初めて本格的に物流に関わったのは 〇六年、経営コンサルタント会社に勤務していた時 だった。
そこで経験した食品メーカーのコンサルテ ィング案件がその後のキャリアを決めた。
クライア ントのデータを分析したところ、ペットボトルのケ ースを二つまとめるだけで配送料が半額になること がわかった。
提案はすぐ採用され、次の日には実際 にコストが下がった。
パズルのように頭の中で組み 立てたソリューションが、瞬時に「お金」になって 跳ね返ってきた。
物流改革の威力に魅せられた。
 コンサル時代には合計五件の物流プロジェクトを担 当。
〇八年にはクライアントだった外資系総合小売 業から「インダストリアルエンジニアリング部門を立 ち上げてくれ」と声をかけられ移籍。
日本法人SC M部門のナンバーツーとして働きながら経験を積み、 本社とも積極的にコミュニケーションを取って世界一 と呼ばれる小売物流のオペレーションを学んだ。
 楽天に移ったのは、「ECで日本一のプラットフォ ームを作る」「ECの世界展開を拡大する」という 二つのビジョンに共鳴したことに加え、武田常務か らロジスティクスを学びたいと考えたからだ。
 そこからは一気呵成の展開が待っていた。
まず は入社と同時にRFCの生産性改善チームと、グ ローバルITのプラットフォーム基本設計のチーム の責任者を任された。
入社二カ月目にはイギリス・ ジャージー島にある「プレイドットコム」のセンタ ーの改善を命じられ、現地へ飛んだ。
実質三日間 というシビアな期間の中、改善機会を洗い出し三カ 月後に生産性を一〇%以上向上させた。
 現在はPMO(プロジェクト・マネジメント・オ フィサー)として、フルフィルメントサービスに検 品・検針などのVAS(付加価値サービス)を拡 充するプロジェクトや、複数センターが立ち上がっ た後にクロスドッキングやシャトル便をどう整備す るかを検討するプロジェクトなど、重要なプロジェ クトの課題解決・進捗管理も担当し、物流全体の KPI策定や運用改善も受け持っている。
 一二年八〜九月は、アメリカやヨーロッパでのフ ルフィルメントサービス立ち上げサポートを中心に、 業務の大部分を欧米で行った。
アジア関連でも物 流の戦略策定にコミットするなど、ビジネスのフィ ールドが大きく世界に拡大している。
 現在三七歳。
専属の部下は一人もいない。
プロ ジェクトに必要な部下は、随時各部署から集まる形 だ。
「遊軍」の機動力で、日々世界中を飛び回る。
「国内・世界の両方を活かし、M&Aも含めた拡大 も含めて、独自の物流ネットワークを作っていける。
こんな機会は他にはない」──。
これまで培ってき た全ての力を、このチャンスに注ぎ込む。
出身業界より基礎能力を重視  楽天は一〇年三月、本体の物流部門を移行する 形で楽天物流を立ち上げた。
今のところ約八〇人 いる社員の多くは本体からの出向だ。
今後も新卒 は楽天本体で一括採用する。
一方、中途は本体と 楽天物流とケースバイケースでの採用となる。
 「楽天としては単なる物流会社を作るつもりはない」 と楽天物流の菊池徹也人財部長は言う。
物流現場の 知識があることも大事だが、それ以上に楽天の物流 を使ってビジネスを変革し、顧客価値を創造できる、 「ロジスティクス人材」の採用を重視する方針だ。
 採用基準は楽天の掲げるバリュー・ミッションを 共有する「マインド」、物流・ビジネスに関する「ナ レッジ」、そしてその二つをドライブして実際に仕 事をしていく「スキル」などの基礎能力を身につ けていること。
様々な部署と横断的に繋がり、コ ミュニケーションしながら動き、実際のアクション につなげられるかどうかなどがポイントになる。
出 身業界にはこだわらない。
 今後数年は、拠点の全国展開に伴って、多くの 人材が必要となる見込みだ。
そのため現在は、そ の上司となるマネージャーへの研修に力を入れてい る。
彼らが部下を育て、チームとして組織化し、最 大のアウトプット を生み出せるよう に、マネジメント 能力を高めていく 方針だ。
(渡邉一樹) 人事戦略 楽天物流の菊池徹也 人財部長

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