ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2012年11号
特集
第2部 最前線の仕事、やりがい、人事制度 特別積合 営業 トールエクスプレスジャパン仮説を持って荷主に臨む

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

NOVEMBER 2012  26 精鋭部隊を指揮  トールエクスプレスジャパン(トールジャパン)に は国内営業を担当する部門が四つある。
全国規模 の大口荷主の新規開発をミッションとする「コーポ レートアカウント部」、エリアごとに貨物の受託を 目指す「ナショナルセールス部」、既存顧客のフォ ローと拡大受注を担当する「法人営業カスタマーケ ア部」、既存顧客のフォローに特化する「カスタマ ーケア部」だ。
 なかでも花形はコーポレートアカウント部で、年 商一〇〇億円以上、想定される年間の支払物流費 が五億円クラス以上の荷主をターゲットに、その特 積み輸送をメインに狙う。
一つひとつの案件規模 が大きい同部の成績は、トールジャパンの成長スピ ードを少なからず左右する。
 ただし、コーポレートアカウント部に所属する営 業マンの人数は、四つの国内営業部門のうち最も 少ない。
高いスキルを持った選りすぐりの精鋭だけ で固めるというスタンスをとっている。
 その精鋭部隊をまとめるのが、中西祥夫部長。
この道、二〇年以上のベテランだ。
特積み営業の 酸いも甘いも知り尽くしている。
自身が管轄する コーポレートアカウント部の部員だけでなく、国内 営業を担当するトールジャパンの営業マンの多くが、 トラブルや相談ごとがあれば中西部長をまず頼る。
 「仕事のモチベーションはなんといっても成約を 勝ち取って予算を達成すること。
営業マンにとって はそれが全て。
結果としてそれが会社の成長にも 繋がるし、お客さんに対する貢献にも繋がる」と 中西部長。
 そんな中西部長が自身の営業活動で特に重視し ているのが、事前の下調べだという。
狙いを定め た荷主とファーストコンタクトを取る前に、可能な 限りその荷主の関連情報をかき集める。
 集める情報の範囲は、売上高や利益などをはじ めとする一般的な業績データはもちろん、その荷 主の製造拠点や物流拠点の位置や規模、扱ってい る荷物の種類や量、その荷主から幹線輸送を受託 している特積会社などにまで及ぶ。
情報収集には、 インターネット上のホームページや有料データサイ ト、自身の足も駆使する。
 中西部長は「いきなり客先に行って『はじめま して、何か仕事ください』では値段勝負の御用聞 きしかできない。
良い提案をしようと思ったら、そ のお客さんの物流情報や自分たちのライバルとなる 特積会社など、最低限の情報は頭に入れておく必 要がある」と言う。
 事前準備はまだ終わらない。
集めた情報をもと に、今度は荷主のおおよそのモノの流れ、物流フロ ーを予想する。
それを見つめているうちに、荷主 トールエクスプレスジャパン 仮説を持って荷主に臨む  特積みの営業は荷主の課題を引き出すところから始ま る。
何のカードも待たずに飛び込んでも成功の確率は低い。
ファーストコンタクトの前に情報をかき集め、それをも とに相手が抱えている課題を想像する。
具体的な仮説を ぶつけることで、交渉はスムーズに動き出す。
第 2部 最前線の仕事、やりがい、人事制度 特別積合 営業 コーポレートアカウント部の中西祥夫部長 27  NOVEMBER 2012 が抱えているであろう物流上の課題が、仮説とし て自分の中に芽生えてくるという。
その仮説が生 まれて、初めて相手先の担当者にアポを取り、実 際に会いに行く。
 「営業の入口としてまず大事なのは、お客さんの 悩みを本音で聞くこと。
初対面で『何かお悩みは ありませんか』では、なかなか本当のことは話し てくれない。
事前に立てた仮説をもとに『もしか して、こういうことで悩みがあるのではないです か』と具体的な質問をぶつけてみる。
そうすると お客さんも『実はそうなんだよ』とか、あるいは 『それよりもこっちの問題がね』と乗ってきてくれ る」と中西部長は仮説を立てて臨むことの重要性 を説明する。
 特積案件の受注を入口に、物流センターの在庫 管理、加工業務、フォワーディング、国際輸送な ど、その荷主のサプライチェーンやロジスティクス にさらに深く入り込む提案を継続する。
「目の前に ある荷物だけでなく、より大きな視野で提案をで きるかどうかが営業マンとして次の段階に進める かどうかを決定づける」と中西部長は言う。
「トール」ブランドを日本で広める  中西部長は高校卒業後に、特積みの名門企業・ 日本運送(後のフットワークエクスプレス)に入社 した。
「今はほとんどやらない」と言うが、剣道の 特待生として会社側から誘われ、ノー面接、ノー 試験で入社したというから、かなりの腕前だった のだろう。
 入社後に配属されたのは現場作業の担当部署で、 しばらくは仕分けや積み降ろし業務に従事した。
だ が、「勢いのある会社だとは思ったが、当時は仕事 にやり甲斐を感じることは特になかった」(中西部 長)という。
 入社五年目に営業部門に異動になった。
この人 事に中西部長は勇躍した。
初めて飛び込み営業を した客先で契約を取り付けるなど、営業マンとし ての才能をすぐに開花させた。
会社の中核支店で ある中部支店の支店長に若くして抜擢されるなど、 その後も出世の階段を駆け上がった。
 一人の物流マンとしては結果を残し続けたが、そ の間、会社を取り巻く環境は大きく変化した。
一 九九〇年に日本運送からフットワークエクスプレス に社名を変更していた同社は、二〇〇一年に経営 破綻に伴い民事再生法の適用を申請。
三年後の〇 四年に再出発を果たすが、社員には新たにスポンサ ーとなった国内資本のファンドから “金融の理論” が容赦なく押しつけられた。
求められるのは常に 「効率」ばかり。
荷主目線の提案もしにくくなっ た。
当然、士気も上がらない。
「その頃が働いてい て一番きつかった」と中西部長は表情を曇らせる。
 転機になったのはオーストラリア最大の国際物流 企業であるトールグループの日本進出だ。
豪トール は〇九年一〇月にフットワークの全株式を取得する と、社内の事業リストラクチャリングを実行。
今年 三月には社名を現在の「トールエクスプレスジャパ ン」に改め、新たにスタートを切っている。
 「トールは外資である前に物流企業。
営業やオペ レーションの現場を熟知している。
働く社員にと っては大きなプラスだ。
それに加えて、社員への 評価項目もハッキリするなど、外資の良さもある。
ここで頑張って、日本ではまだあまり知られてい ない『トール』というブランドを広めていきたい」 と中西部長は考えている。
社員評価のスタンスを一新  資本がオーストラリアのトールグループに変わっ たことに伴い、今年から人事評価制度にもメスが 入っている。
現在、本社のアシスタントマネージャ ー以上の社員および、支社長、支店長、支店次長 クラスまでの社員を対象に、評価の見直し作業を 進めている。
 具体的には「リーダーシップ」「マネジメント能 力」「業務遂行能力」などのテーマに紐つく約五〇 の評価項目を設け、面談やこれまでの成績をもと に五段階で点数をつける。
同じ階層の社員の評価 結果を比較し、現在の待遇が適正かどうかを、役 員や人事部長が中心になって検討する。
評価内容 は本人にもフィードバックされる。
自分の強みや、 次のステップに上がるためには何が必要なのかを明 確に示す。
 トールジャパンの玉川篤史専務執行役員最高 戦略責任者は「これまでの人事評価はひどく曖 昧なものだった。
昇給や昇格に明確な基準も無 く、アンフェアな状態だった。
客観性、公平性の ある評価指標を明確に定め、パフォーマンスの高 い社員にはそれに見合った待遇を用意できる体 制を整える。
上のポジションに上がるために必要 なことも具体的に示す。
性別も年齢も関係ない。
仕事に意欲的な 社員にとっては、 ポジティブな話に なるはずだ」と説 明する。
   (石鍋 圭) 人事戦略 特集 物流のプロになる 玉川篤史専務執行役員 最高戦略責任者

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