ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年2号
特集
在庫削減の上手な会社 「在庫ゼロを目指す本当の狙い

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

FEBRUARY 2004 20 「在庫ゼロを目指す本当の狙い」 在庫に強いメーカーは“製造技術”と“物を流す技術”を対等 に扱っている――。
30年以上にわたり生産現場でジャストインタ イムの指導に携わってきた平野氏は、こう強調する。
独自にJI T生産の技術を体系化し実践するコンサルタントに、在庫管理の 真髄を聞いた。
(聞き手・岡山宏之) 平野裕之ジット経営研究所 会長 ――長年、JIT(ジャスト・イン・タイム)生産に 関するコンサルティング活動を続けていますね。
「JIT(ジット)を始めてから、去年でちょうど 三〇年になります。
まだ日本で大量生産、ロット生産 が盛んだったころから、私は『一個流し』による物づ くりということを言ってきました」 ――?一個流し〞というのはトヨタ自動車や、トヨタ 出身者によるNPS研究会の専売特許なのでは? 「恐らく『一個流し』ということを言ったのは、私 の方が先でしょう。
もちろんトヨタからは、いろいろ なヒントをもらいました。
押すより引けだとか、かん ばんで引っ張れだとかね。
でも私の場合は、別にトヨ タに知り合いがいたわけでもありませんから、自分の 指導企業の生産現場で考えてきた結果です」 「もちろん『ジャストインタイム』というのも、もと はトヨタで生まれた言葉です。
二六才でこの考え方と 出会ったとき、私は『素晴らしい生産があるなぁ』と 思いました。
それでこれを一つの機軸に、実際にジャ ストインタイムをやるためには、どんな手順を踏めば いいのかを考えて体系化したんです」 「ジャストインタイムという言葉をJITとつなげて ?ジット〞と呼び、ジット生産と言ったのは私が初め てのはずです。
だからトヨタの人たちは絶対にジット 生産とは言わない。
こう言うと平野の臭いがするとい う話になるからね(笑)。
でも今ではトヨタの人たち が私の本を見て勉強していますよ。
なにせ、うちの会 社にいる一〇人くらいのコンサルタントは、みんなト ヨタかトヨタ関係の会社の出身者ですからね」 ――そもそもJITの狙いは?在庫〞なのですか? 「在庫というよりはムダ取りです。
その現象として 在庫があるのであって、それが最終目的ではありませ ん。
なぜ在庫が溜まるのかを見ていくと、前工程の不 良が多いとか、マシンが止まったときのためとか何か しら理由がある。
何か問題を隠すために在庫を持って いるわけです。
つまり在庫を減らさなければ真の問題 は見えてこない。
JITには真因の追求と、その解決 によるコスト削減という二つの狙いがあります」 JITはどんな会社にも通用する ――JIT生産では?生産技術〞と?物の流れ〞を 対等に置いていると理解していいのでしょうか。
「もちろんです」 ――しかし、日本の一般的なメーカーでは、これまで 物づくりの技術が圧倒的に上位にあって、物の動かし 方は物流を含めて軽視されてきたように思えます。
「私はプレスとか旋盤など物づくりの技術に関して は素人です。
でも?物を流す技術〞に関しては、とて つもなく詳しい。
生産現場というのは固有技術の集ま りで成り立っているわけですが、たとえばある現場で 段取り替えに一時間かかるとする。
そうすると私は 『なんでそんなに時間がかかるんだ』と切り込んでい き、こうやって物を流せば『三分以内にできる』と言 う。
そして、実際にやってしまうわけです」 ――トヨタが系列企業に社員を送り込んで生産指導を するのと同じですね。
「同じでしょうね。
ただ大きく違うのは、これをトヨ タは自動車産業だけでやってきた。
これに対して私は、 ジット生産として体系化して、どんな製造業にも通用 するようにした。
現に今日、指導にいってきたのは三 洋電機の半導体工場ですよ。
もはや半導体まで、こう いう概念で物を作るようになってきています」 ――JIT生産というのは、どんな業界の、どういっ たメーカーにも適用できるものなのですか? 「できます。
実際、新電元工業というカスタムIC Interview 21 FEBRUARY 2004 特集 を作っているメーカーでは、製品在庫を無くして、中 間部品で持つように変えてきました。
その会社の社長 がある新聞で言ってたことだけど、彼はよく分かって います。
『在庫の中身で会社の力が分かる』、『リード タイムの短さと在庫の少なさは完全に比例している』 ――その通りですね」 「『どの段階の在庫が一番多いかで、その会社の力が 分かる。
一番弱い会社は製品在庫を最も多く持って いる』というのも正しい。
なぜ製品在庫が溜まるかと いうと、販売で一〇〇売るぞと言うと、生産管理は 一〇〇作る手筈を整えます。
で、販売の方が、やは り七〇しか売れそうにないといっても、もはや生産を 止められない。
さらに販売にも残りの三〇を売り切る 力がない。
それぞれが弱いから結局、製品在庫ができ てしまう。
これを長年やっていると、会社は倒産しま す」 全体の流れを考える部署を作れ ――ただトヨタが昔からジャストインタイムを実現し てきたのは、強い販売部門が平準化を実現できたから です。
これは普通の企業には難しいのでは? 「難しいなんて言ってたら何もできません。
難しい なかで、どうやってやるかに取り組めば、それなりに できるものなんです。
その業種、その会社なりの、物 の流し方というのが必ずある。
それが同業他社より優 れた仕組みであれば、それで生き残ることができる。
ライバルが一〇日で納品しているのを、五日で納品す ると言えば、それはお客さんは喜びますよ。
そして、 ライバルには簡単には真似できない」 ――まさにロジスティクスですね。
「その通りです」 ――しかし一般的なメーカーの物流部門は、運送業者 の管理であったり、輸送コストの管理をしているだけ で、そういう視点はありません。
「私が一番悪いと思うのは、管理がなぜあるかをき ちんと考えないことです。
それは途中で溜まるからで すよ。
自然にさらさらと流れていれば、管理なんてい らない。
川に管理者なんていないでしょう? 溢れた りするから管理が必要になる。
それが一般的にやられ ている物流管理だとか在庫管理です。
なぜ、在庫管理 が必要なのか。
それは、在庫があるからです。
本来で あれば在庫ゼロを目指すのが当然なんです」 ――でも現状では在庫を持たざるを得ない。
結局、誰 かが生産を止めるなり、販売計画を修正する強い権限 を持たなければ在庫は減りません。
「それはJITを担当する人間が権限を持つべきで しょうね。
全体の物の流れを整理して、どうやったら きれいに流れるようになるかを考えるのが、私流のJ IT担当者の役割です。
当然、そこには販売活動か ら物流も含まれている。
お客さんからの注文という情報をもらって、注文通りの製品を滞ることなく作り、 要求された納期通りに届けるわけですから」 「本来であれば、組織も製品別にするのが望ましい。
ある製品を作るところから、売るところまでを一つの 組織で完結させる。
そして、その組織のなかに全体の 流れを考える人間がいればいいわけです」 ――我々の立場では、そこはロジスティクス部とかS CM部がそれをやるべきだと考えているのですが? 「その通りです。
でも現実のロジスティクス部長は 『我々がやるのは工場以降です』などと言って製品在 庫しかみていない。
それで前工程を見にいくと『ここ にはファクトリーオートメーションを導入しました』 なんて言って在庫を持っている。
呆れてしまいます。
私の仕事は、それを無くすところから始まります」 在庫はなぜ悪い ・在庫維持費用の発生 ・資本の固定化 ・金利負担の増大 ・場所をとる 在庫の悪い本当の理由 ・要求納期についていけない ・注文変更に対応できない ・不良が発生する ・設備故障が起きる 在庫の種類 ・原材料  ・半製品 ・部品   ・製品 ・組立品  ・商品 政策在庫品 ・短納期対応 ・投機買い ・サービスパーツ 政策在庫品 ・ロット生産 ・不良率 ・納期遅れ 在庫はゼロが基本 在庫を認めると真の問題が見えなくなる。
ゼロ ベースでの考え方が重要 在庫がなければ在庫管理もない 在庫があるうちは基礎的在庫管理の手法を身に つける。
?在庫とは ?在庫は必要か ?在庫管理の 必要性 (ひらの・ひろゆき)1946年生まれ、専修大学卒業、 26才のときに「ジャストインタイム(Just In Time)」 という概念と出会って以来、JIT生産の体系化とコンサル ティング活動に取り組む。
86年にジット経営研究所を発 足、自動車やエレクトロニクスといった製造業だけでなく 外食産業まで幅広く指導。
82年に『中小企業のMRP』 (日刊工業新聞)を発刊して以来、著書は50冊を超える。
90年『ジャストインタイム生産の実際』(日経文庫)、 91年『在庫管理の実際』(日経文庫)、99年『製造業の 未来戦略』(ジット経営研究所)、2001年から2002年 にかけて書いた『新IE入門シリーズ(全11巻)』(日刊工 業新聞社)では日本規格協会から平成14年度標準化文献 賞を受賞。
PROFILE

購読案内広告案内