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NOVEMBER 2012 44
率先垂範型リーダーの落とし穴
──現在の日本企業が抱える人事面での課題とは?
「大きくは四つあります。 一つは国内事業の構造改
革、要はリストラです。 バブル入社組が四〇代後半
を迎えたもののポストがない。 その結果、部下が一
人もいない部長や課長がたくさん出てきてしまった。
一方で人件費を削りたいのに、同期で年収にそれほ
ど差も付けられない。 どうしよう、と我々のような
専門コンサルに相談に来る。 実は相談に来る本人たち
も何をすべきかは分かっている。 改革、つまりリスト
ラするしかないのですが、それを外部の我々に後押
しして欲しいと」
「そしてもう一つがイノベーション周りの相談です。
研究開発には一貫して相当の投資をし続けてきた。 そ
れにも関わらず、ヒット商品が出ない。 有望な新規
事業を生み出したり、ビジネスモデルを抜本的に改革
するようなイノベーションが起きない。 これはもはや
研究開発ではなく、人の問題なのではないかと疑問
を持つ企業が増えています」
──実際、人の問題なのですか。
「明確に人の問題です。 特にリーダーシップのスタ
イルに問題が隠れている。 当社がフォーチュン五〇〇
の中で『イノベーティブ』と認識されている企業と日
本企業の平均を比較調査したところ、図のような結
果が出ました。 ちなみに、ここでいうリーダーとは経
営層だけでなく、部課長クラスも含みます」
「これを見るとイノベーティブな企業は『ビジョン』
の項目で評価が高く、『率先垂範』が低い。 つまり
イノベーティブな企業のリーダーは、目指すべきビジ
ョンを部下に提示することで組織を引っ張っている。
部下が壁にぶつかっても自分では手を出さない。 コ
ーチングなど他の手法を使って部下の知恵を引き出そ
うとします」
「日本企業は真逆です。 『ビジョン』が著しく低く、
『率先垂範』が高い。 つまり目先の細かい指示は出す
けれど、目指すべき方向や中長期の将来像は示さな
い。 そして、いざとなれば部下の仕事を自分でやっ
てしまう。 率先垂範で部下に見本を見せるといえば
聞こえは良いですが、要は部下に任せ切れない。 二
〜三人程度のチームなら良くても、一〇人以上の組
織になればそれでは回らなくなります。 日本企業が
イノベーティブになるには、まずはリーダーシップの
スタイルを変えていく必要がある」
──リーダーシップというテーマは抽象的で、掴みど
ころがありません。
「多くの人が、リーダーシップを生まれついてのも
のだと考えています。 持って生まれた頭の良し悪し、
容姿、カリスマ性などによって、リーダーになる人は
決まっていると。 しかし、それは誤解です。 少なく
ともアメリカでは、リーダーシップは訓練によって身
につく『スキル』の一つだと認識されています」
「リーダーを育成するプログラムも体系化され確立
されています。 何も人間の中身を、まったく作り替え
てしまおうということではないんです。 そうではな
く、行動を変える。 その結果、部下が付いてくるよ
うになる。 そのために現状を客観的かつ多面的に評
価して、自分の欠けている部分、弱点を自覚し、改
善を図る。 その成果を定期的にフィードバックして学
習を続けることで、リーダーシップのスキルは確実に
上がっていきます」
──しかし、それがどれだけ業績向上に結びつくの
か確認のしようがないのでは。
「GEを再建したジャック・ウェルチ氏は同社のト
「日本人はリーダーシップを誤解している」
ビジネスを成功に導く最大の要因は、経営戦略より
もむしろリーダーシップにある。 そしてリーダーシップ
は、学習によって身につけることのできるスキルの一つ
だ。 イノベーティブな企業はそのことに気付き、経営トッ
プ自らが多くの時間を社員教育に費やしている。
(聞き手・大矢昌浩、石鍋圭)
ヘイ コンサルティング グループ 山口 周 プリンシパル
第 5部
45 NOVEMBER 2012
ップに就いた時、戦略は良いのに、良い結果が出る
部門と出ない部門がある、みんな優秀なのに上手く
やれる人とやれない人がいるのはなぜだろうと考え、
それがリーダーシップの問題であることに気付きまし
た。 成果を左右する一番の要因は、戦略ではなくリ
ーダーシップだと気付いたことが、彼にとっての最大
の意識改革だったと言っています」
「そしてウェルチ氏はリーダーシップ開発を経営の最
重要課題に位置付け、ニューヨーク州のクロトンビル
にある研修センターを拡充し、自分自身相当な時間
をそこで過ごすようにしました。 同社と同様にイノ
ベーティブとされる企業はどこも経営トップが教育に
かなりの時間を割いています」
日本型人事制度は既に限界に
──国内事業のリストラと並んで、グローバル化への
対応も日本企業の大きな課題になっています。
「それが四つの課題のうちの三つ目です。 最近では
日本企業でも外国人社員が当たり前のように働いて
います。 そこで最もネックになるのが人事評価です。
日本の人事制度は基本的に、その人物を職務遂行能
力で評価する『職能型』を採っています。 それ自体
は悪くはないのですが、能力の評価方法があいまい
で、外国人社員は自分が何を求められていて、上を
目指すにはどうすれば良いのかがわからず、戸惑っ
てしまう。 そして職能制とはいいながら、実際には
社歴が長いほどポストや給与が上がっていく仕組み、
つまり年功序列になっている」
「日本以外のグローバル企業では『職務型』が人事
制度の主流です。 担当する職務で社員の序列や待遇
が決まる。 その職務に就くための条件も明確化されて
いる。 もちろん年齢や入社年次などは関係ない。 職
能型に比べて客観性、説明性が非常に高い」
──日本企業も職務型に舵を切るべきでしょうか。
「しがらみや企業風土などに左右されず、厳密な評
価ができるのであれば職能型でも職務型とそれほど
結果は違わないはずです。 しかし、それができない
場合には、職務型に切り替えることが有効な手段の
一つになる」
──最後、四つ目の課題とは?
「経営人材が育っていないという相談が多く寄せら
れています。 人間が成長するドライバーは七割が実務
経験、二割が学習などの自助努力、一割が研修とい
うのが我々の見解です。 まず実務経験を豊富に積み、
それを血肉とするために勉強や研修を受ける」
「キーになるのは何といっても実務経験ですから、
優秀な人材には若いうちから責任の大きな仕事を任
せて、場数を踏ませることが大切です。 高度経済成
長期までの日本企業はそれができていました。 戦争
で上の世代を失っていたことに加え、会社がどんど
ん成長していましたから」
「しかし、現在の日本では若いうちに責任ある実務
を経験する機会が大きく減っています。 四〇代にな
ってようやく課長になり、経営に関与するのは五〇
代、社長はそこからさらに一〇年かかる。 昔に比べ
て昇格が二〇年も遅れている。 十分な経験を与えら
れないまま、五〇代になって急に『経営の視点を持
て』と言われても、それは無茶というものです」
「結局のところ日本的な終身雇用・年功序列が邪魔
をして、若い人に打席が回って来ない。 上の世代が
蓋になって、人材が育たない。 事業の構造改革は進
まず、イノベーションの芽も潰されてしまう。 これま
での経営システムが日本企業の大きな足枷になってい
るのは明らかです」
人事・組織に特化したコ
ンサルティング会社。 1943
年に米フィラデルフィアで
設立。 現在は世界48カ国、
84カ所にオフィスを設け、
人材開発・組織開発の支援
を行っている。 日本におい
ても30年以上の実績をも
ち、家電、自動車、製薬等
のメーカー、商社、銀行等
500社以上のクライアント
に対してコンサルティング
サービスを提供している。
ヘイ・グループ
46 50
51 59 59
36
60 58 59
イノベーティブな会社
リーダーシップスタイルの比較
日本企業の平均
100
80
60
40
20
0
指示命令
ビジョン
関係重視
民主
率先垂範
育成
100
80
60
40
20
0
指示命令
ビジョン
関係重視
民主
率先垂範
育成
52
63
42
(出所)ヘイ・グループ資料より
特集 物流のプロになる
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