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イムばかりを見ているのでなく、コス
トについても必要な情報を把握し、そ
れを自分たちで評価できるようにして
おくのは当然のことかと思います」
──しかし、物流部門にはオペレーシ
ョンの専門家はいても、管理会計やデ
ータベースの扱いに長けた人材は不足
しています。 他部門の活動に口を出す
権限も与えられていません。
「私が九三年に花王の物流部門を任
された時もそうでした。 花王は世間で
は物流先進企業として知られていまし
たが、実際には押し込み販売が横行し、
製造部門、物流部門、販売部門の意
思疎通が十分ではありませんでした。
物流部自体、サービスの購買部門とい
う位置付けから脱却できていなかった」
「そのことで当時の経営陣は危機感
を持ち、製配販の統合プロジェクトを
立ち上げました。 そのプロジェクトで
物流部門は部門間の調整役を務めたの
ですが、その最初の仕事は、『日々発
生しているデータを捨てないで残して
おいてくれ』とシステム部門にお願い
することでした。 一行一行の注文デー
タから、納品、品切れ、その時点での
在庫状況、小さなトラブルに至るまで、
すべてとって置いてくれと」
「そのデータをどう使うのか、その時
点ではっきりと見えていたわけではあ
りません。 それでも私は物流部門に異
物流の因果関係を紐解く
──メーカーにおける物流部門のある
べき姿をどう考えますか。
「やはり第一義的には物流コストの管
理でしょう。 人件費率が一割にも満た
ないメーカーが多いなかで、物流費に
は全業種平均で五%以上を割いている
のだから、これは大きい。 そしてどん
な会社も新しくビジネスを立ち上げる
のでない以上、物流の仕組みやルール
は既にできあがっている。 そうなると
物流部門の役割はイレギュラーが発生
した時の対応やイレギュラーの発生自
体を抑えることになる」
「そして、ここから先は私の個人的
な意見ですが、イレギュラーの発生を
抑えるためには物流に関わる実績デー
タを蓄積し、実態を?見える化?する
必要があります。 伝票に記載された一
行一行のデータには、すべて意味があ
る。 そこには物流コストを発生させて
いる因果関係が隠れています。 それを
紐解いて原因となっているムダを一つ
ひとつ取り除く。 そうやってデータを
使いこなすところに物流部門の本来の
役割があると考えています」
──具体的には?
「イレギュラーの原因を実際に調べて
いくと、セールスマンがうっかり注文
を入力し忘れて、至急出荷するように
指示を出していた、などといったこと
が分かってきます。 その結果、緊急輸
送のコストがかかっている。 あるいは
押し込み販売が原因で毎月月末に出荷
が集中する。 それによって物流現場で
は作業量が平準化できずコストが割高
になっている。 そうした実態が見えて
きます」
「イレギュラーを発生させているのは
誰なのか。 物流に関わる日々のデータ
をきちんと蓄積しておけば、それを明
らかにすることができます。 その結果、
販売部門の発生させたコストだと分か
れば、それは販売部門に負担させる。
それで相手も文句は言えないし、自分
の成績に響くのだから自発的にムダの
発生に目配りするようになります」
「包装にしても、パッケージの寸法を
少し見直すことで、パレット一枚に積
載できる数量やコンテナ一本に入る数
量が違ってくる。 それが具体的にどれ
だけの金額になるのか数字で示せば設
計部門も気にするようになる。 他にも
様々な手が打てます。 ロジスティクス
の観点を大いに生かせる」
──そうなると物流部門のスタッフに
は管理会計の知識が必要になりますね。
「コスト管理が物流部門の最大の使
命である以上、日々の物量やリードタ
松本忠雄 多摩大学大学院 特任教授
「物流部門の役割を改めて問い直せ」
物流管理とは具体的に何をすることなのか。 メーカーで研
究開発畑を歩んできたエンジニアが根源的な疑問と正面から
向き合い、全く新しいマネジメント方法を打ち立てた。 その結
果として辿り着いた物流部門のあり方と役割は、従来のそれ
とは大きく異なっていた。 (聞き手・大矢昌浩、藤原秀行)
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動するまで研究畑が長く、データを集
めて仮説を立てるということをずっと
繰り返してきました。 それが自然科学
の原則ですが、物流管理にしても、事
実をデータとしてきちんと記録しない
限り、その先のステップには進めない
という確信がありました」
──必要な人材は物流部門に揃ってい
たのですか。
「コンピュータを扱うことのできる
若い人材を物流部門に引き入れました。
しかし当初は現状を理解するので精一
杯で、知恵を提供することまではでき
ていなかった。 実態を調べるために社
内の各部門をヒアリングするのだけれ
ど、聞く人によって言うことがみんな
違う。 同じ?在庫?という言葉なのに、
仕掛品だったり、センター在庫だった
り、七、八種類も意味がある。 商品マ
スターも部署によってばらばら。 まず
は言葉を整理するところから始めなけ
ればなりませんでした」
「その後、花王がフロッピーディスク
事業から撤退することになったのを受
けて、そこに従事していた優秀な人材
を相当数、物流部門に引き入れること
に成功しました。 彼等に大いに力を発
揮してもらうことで、活動に一気に弾
みがついた」
──以前に本誌(二〇〇四年一〇月
号)でも誌面化しましたが、その時に
事はどう変わりますか。
「SCMというのは、他社と一緒に
やるものですから、どうしたって経営
トップの仕事になります。 単に取引す
るだけでなく、SCMの世界に入って
いこうとすれば、トップの決断が必要
になる。 そのサポート役、トップの知
恵袋となることが、物流部門の最も重
要な役割になるはずです」
──そのスタッフに求められるスキル
とは?
「部門長レベルに求められるのは、関
係部署のコーディネイト力です。 そし
て実際の業務は常にプロジェクトを動
かしているようなものですから、プロ
ジェクトリーダーの役割も求められる。
部門のメンバーには、ITや管理会計、
データ分析など、各分野の専門家が欲
しい。 そうした人的資源をうまく巻き
込んで全体を進めていくリーダーシッ
プがカギになります」
花王は物流拠点の出荷実績データから
アイテム別の需要を予測するシステム
を開発して、それで全体のロジスティ
クスを回す仕組みを導入しました。
「そのために需要予測の仕組みを開
発するのと並行して、従来は別グルー
プに所属していた需給調整担当者を全
員、物流部門に移しました。 その結果、
物流部門が計算したアイテム別の需要
予測をベースにして、販売部門や生産
部門がそれぞれの計画を立てるという
プロセスが出来上がりました。 それま
では販売部門や生産部門がバラバラに
計画を立てていました。 担当者の思い
入れや思い込みが入った計画で需要予
測としては当てにならなかった」
権限委譲など必要ない
──計画機能を物流部門に移すことで
他部門からの反発は?
「もちろん配慮はしましたが経営ト
ップの後ろ盾があったし、私自身もそ
の頃には役員になっていたので、それ
なりに発言できる立場にはありました。
そして一連の活動の結果、在庫は大き
く削減されて、同時に欠品率も改善さ
れた。 そのことがアニュアルレポート
にも特集として紹介されて、改革の成
功が公に認められました」
──とはいえ、他部門に権限を奪われ
ることに抵抗がないとは思えませんが。
「権限に手を付けたわけではないんで
す。 物流部門が予測した数字で計画を
作れと強制した覚えもありません。 た
だ事実を見せて論理的に説明しただけ
です。 そのほうが権限を奪って命令す
るより、よほど影響力がある」
──花王の改革から既に一〇年が経ち
ましたが、日々のトランザクションデ
ータを分析して仮説を立て、改善する
というアプローチは、他にあまり聞き
ません。
「しかし、今振り返ってみても、極
めて当たり前のことをしただけだと思
います。 生産部門で昔からやってきた
ことが、物流の世界に持ち込まれてい
なかっただけです」
──そこに疑問を感じていた?
「物流部門への異動は自分で希望し
たものでした。 物流のマネジメントと
は何をすることなのか、当時はまだ固
まっていなかった。 それをゼロから始
められることに魅力を感じました。 面
白い仕事ができそうだと思ったんです。
異動が決まった時、当時のトップには
?物流部をなくすことが私の仕事です?
と生意気な口を聞いて、組織名も『物
流部』から『ロジスティクスセンター』
に変えてもらいました」
──その後、ロジスティクスからSC
Mにマネジメントのコンセプトは進化
しました。 それによって物流部門の仕
松本忠雄(まつもと・ただお)
大阪大学理学部化学科卒。 同大
学院理学研究科博士課程中退。
花王に入社。 栃木総合研究所長、
川崎工場長を経て、取締役ロジス
ティクス部門統括。 この間、花王
システム物流および花王ロジスティ
クスの社長を兼務。 同社退職後、
2005〜09年、イオン特別顧問
SC M 管掌として活動。 05年、
多摩大学大学院教授。 現在に至る。
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