*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

佐高 信 経済評論家 NOVEMBER 2012　　70 　『夕刊フジ』の九月一九日付から一〇月六 日付までの紙面で、「角栄のＤＮＡ」という 集中連載をした。
言うまでもなく、同紙は 産経新聞社発行で石原慎太郎は本紙の産経 新聞で月一回かの連載コラムを持っている。
　だから、九月二一日付の第三回「国家観 の違い」で石原を批判した時は、『夕刊フジ』 から注文がつくかと思ったが、何もなかった。
　そのまま載った「角栄のＤＮＡ」の後半 部分だけ引く。
　〈オリンピックだ、尖閣諸島だと石原は大 騒ぎしているが、鳴り物入りで発足させた「新 銀行東京」、すなわち?石原銀行?はどうな ったのか。
　田中（角栄）を追及した日中国交回復でも、 土壇場で石原は裏切ったと、先ごろ亡くな った浜田幸一が書いている。
勇ましい青嵐 会の同志のハマコーが、日中平和友好条約 に対する石原の態度だけは許せない、と息 巻いているのである。
　衆議院外務委員会で同条約を採決する時、 　「賛成するときはいましかない」 　と呟いて石原は立ち上がった。
自民党で は中山正暉だけが賛成せず、彼以外の自民 党議員から共産党議員までが賛成した。
　石原は本会議では棄権し、中山を含めた 林大幹とハマコーの三人だけが反対する。
　「石原くんはあらゆる場において『ＮＯと いえる日本になりたい』といっているけれど、 それではなぜ、血判まで求めた青嵐会幹事 長の彼が、本会議に上程される前の外務委 員会において、日中平和友好条約に起立賛 成したのだろうか？」 　ハマコーは「石原慎太郎さんへ　キミは『Ｎ Ｏ』とは言えない」の中で、こう批判している。
　ロッキード事件は、エネルギーの自立を求 めた田中がアメリカによって葬られたのだと いわれるが、それでは、石原よりも田中の 方がアメリカに「ＮＯ」と言っていたことに なる〉 　こうした石原の卑怯をメディアはなぜ、い ま取り上げないのか？ 　卑劣な石原に比して、田中の方が格段に 日中友好に命を賭けていた。
　一九七二年に中国に出発する時、田中は 娘の真紀子を同行させなかった。
その理由 を田中はこう言ったという。
　「たしかにお父さんは、真紀子に世界中を 見せてあげようと約束をし、今までもその とおり実行してきた。
しかし、今回の訪中 だけは別ものだ。
中共という国が赤いカーテ ンの向こう側で何をしているのか、何をし ようとしているのか何一つとして正確な情 報はない。
しかも日本国内においては台湾 派、親米派による猛烈な反対がある。
前門 に虎を拒 ふせ ぎ後門に狼を進む覚悟で出発する のだ。
いつ撃たれるか、毒を盛られるか分 からぬ状況で出発をする。
我が家のたった 一人の跡取りであるお前は、どんなことが 起こっても取り乱すことなく、毅然として 正しい判断をしてくれたまえ。
お父さんが今、 真紀子に望むのはその一点のみだ！」 　真紀子の『私の歳時記』（海竜社）によれ ば、そして田中は 　「いつか日中両国の人々が、笑顔で自由に 往来できる日が必ずやってくる。
その日を 実現するためにお父さんは一命を賭する覚 悟で北京へ旅立つ」 　と付け加えた。
　何とか交渉をまとめて帰国した田中を 迎えた自民党の両院議員総会は大変だった。
親台湾派議員の田中弾劾は激烈を極めたか らである。
しかし、「一命を賭する覚悟」の 田中は怯まなかった。
　多分、田中を非難する台湾派の中に石原 もいたのだろう。
よく石原は「一命を賭す る」などと言うが、先の卑怯を思い出しても、 石原のは口先だけである。
それを見抜けな いメディアの不明が私は腹立たしい。
中国との国交回復に一命を賭した田中角栄 片や口先だけのＮＯと言えない石原慎太郎