2012年12月号
特集

Interview 「欧米標準を凌駕するPBが現れた」 根本重之 拓殖大学 商学部 教授

DECEMBER 2012  20 過去のブームと何が違うか ──チェーンストアのPB商品が伸びています。
過去 にも何度かPBブームは起きましたが、いずれも定 着はしませんでした。
今回も同じでしょうか。
 「そうではなさそうですね。
二〇〇七年を境に状況 が変わりました。
過去のPBブームには、四つのス テージが識別できました。
第一ステージでは、景気が 悪くなってPBに火が付く。
そして第二ステージで、 原材料価格の上昇などでNBが値上げをしたり、あ るいは円高で輸入品が安くなることで、NBとPB の価格差が拡大すると、PBがブーム化する」  「しかしその後、小売業はあまりにも多すぎる売り 場スペースをPBに与えてしまう。
品目数も増やして しまう。
その結果、売れないPBが増えて、売場効 率が下がり、儲からなくなる。
そのようにしてPB が自滅するのが第三ステージです。
そして第四ステー ジではNBが新製品を打ち出すなどして何とか巻き 返す。
これまでのPBブームはこうしたサイクルを繰 り返してきたように思います」  「ところが、〇七年にイオンが『トップバリュ』で、 ロジスティクスやマーケティングの裏付けのある本格 的なPBを確立しました。
中小メーカーに生産委託 した商品は、イオンが引き取りにいく。
販促もイオン がやる。
細部には違いが残ったとしても、欧米標準 型のPBがようやくできたという感じです」  「そして同じ〇七年にセブン&アイが『セブンプレミ アム』を出しました。
こちらは欧米標準とは著しく異 なりますね。
欧米のPBはメーカー名をまず出さない。
ところがセブンプレミアムには最初から製造者、それ もNBメーカーの名前が記載されている。
品質保証と 製造責任もメーカーが負う。
世界的には類例がなく、 欧米標準を超えたものである可能性があります」 ──九〇年代のバブル崩壊後にブームになったダイエ ーの「セービング」は欧米型だったのでは?  「円高により海外から安くビールやコーラを調達し たものの、セービングは在庫管理ができず、最後は 投げ売りでしたよね。
トップバリュは同じ轍を踏まな いために、その失敗から十数年かけて、欧米標準に 到達したと言えるでしょう。
一方のセブンプレミアム はセブン─イレブン・ジャパンが、もっと長い期間をか けて蓄積してきた『チームマーチャンダイジング』な どの商品開発ノウハウの上に確立されている。
欧米 型とは異なりますが、それを凌駕しているところが ある。
有力NBメーカーが生産しているので、消費 者の信頼感も得やすいでしょう」 ──小売りとNBメーカーの名前を列記する「ダブル ブランド(ダブルチョップ)」が欧米にないのは、N Bメーカーがそれを認めないからでしょうか。
 「確かにコカ・コーラやP&GなどはPB供給を絶 対しない。
ただし、自社ブランドが強い商品ではP Bに応じないけれど、弱い商品ではやるメーカーもあ ります。
アメリカでもハインツなどはそうしてNBと PBを両方手掛けています」  「PBを拒否し、自社ブランドだけで生きていける なら、NBメーカーとしてはそれが一番良いでしょ う。
しかし、加工度が低く、キャッチアップされやす い品目などでは、自社ブランドだけで生きていける メーカーは限られます。
家電や自動車の大手メーカー も、自社ブランド製品の開発と並行して部品を他社 に供給したり、請負生産を行ったりしています。
食 品メーカーもそういうことを完全に拒むことが難しく なってきている」 ──PBに過度な棚を与えたり、多品目化の行き過 「欧米標準を凌駕するPBが現れた」  現在のPB の台頭は、これまでのようなブームには終 わらない。
イオンは「トップバリュ」でロジスティクス 付きPB を確立した。
そしてセブン&アイの「セブンプ レミアム」は、欧米標準のPBを凌駕している可能性 がある。
      (聞き手・大矢昌浩、渡邉一樹) 根本重之 拓殖大学 商学部 教授 Interview 21  DECEMBER 2012 ぎによって効率が落ちていくという第三ステージでの 問題は、既に現実化しているのでは?  「その可能性はあります。
PBをたくさん売った小 売業は本来であればそれだけ利益も増えるはずなの に、そうなっていない。
イオンやヨーカ堂がPBで儲 かっているとはとても思えません」 ──ただし、セブン─イレブンを始めとする大手コン ビニは好調です。
 「以前はPBといえばスーパーのものでしたが、〇七 年度以降は、セブンをはじめとするコンビニが、スー パーマーケットから顧客を奪う有力な武器としてPB をうまく使っています。
とくに主婦層、高齢層など をかなり獲得しているでしょう。
しかもコンビニの単 品販売力は圧倒的です。
そしてPBにとって重要な のは、品目数の多さなどより、一品ごとの売上高で す。
少し古いデータですが、〇七年度、〇八年度の 各社のPBの一品目当たり売上高を調べたところ大 きな開きがありました(表1)」  「ちょうどトップバリュが売り上げを伸ばした時期で す。
しかし、トップバリュは全体の売り上げは大きく ても品目数が五〇〇〇もあるため一品目当たりにす ると七〇〇〇万円程度にしかならない。
それに対し てセブンプレミアムは全体の売り上げはトップバリュよ りずっと少ないけれど、品目数が八〇〇なので一品目 当たりの平均売上高が二億五〇〇〇万円もある」  「以前から私は一品目当たりの平均売上高が一億円 に満たないようなPBプログラムは、どれだけ売れて いるといっても利益は出ていないはずだと主張してき ました。
売り上げの小さなアイテムが何千もあれば、 在庫管理は大変だし、ロジスティクスも追い付いてい かない。
儲かるはずがありません。
品質管理も甘く なります」 アイテム数を絞り込め ──この後はどうなりますか?  「すでにPBは一定の評価を得たし、国内消費は今 後も好転しないでしょうから、事故を起こさなけれ ば、PBはコンスタントに売れ続けるでしょう。
人口 の減少により生産ラインに余剰が生ずる状態も続く。
そこに来て、今度は消費税率が引き上げられます。
価 格転嫁が難しいところで、消費税率の引き上げがP Bを鍛えることにもなるはずです」 ──第四ステージ、NBの逆襲がまだ見られません。
 「そうとばかりは言えません。
常に商品の改良を続 け、プロモーションを続けているメーカーが存在しま す。
たとえば味の素の自然解凍で食べられる冷凍食 品などのように、従来品からワンステージ飛躍した商 品を開発しようとする動きもあります。
この国には まだ一億二〇〇〇万人を超える市場がありますから、 頑張ってほしい」  「それから、NBも過度に多品目化している可能性 がある。
そのために、本来パワーを注ぐべき商品が おざなりになっている。
NBメーカーも改めて自分た ちの商品ラインを見直して、徹底的に勝負していく 商品に注力し、そうでない商品は思い切って整理す るべきでしょう。
人口減少社会に耐え、鍛えられた PBと戦うための準備が必要です」  「ただ、その一方で、サッポロビールがセブン&アイ にビールのダブルブランドを提供するというようなニ ュースもあります。
そうした動きも『アリ』とせざる を得ない時代になっている。
そして、おそらくこの 動きは次の動きを引き起こすことにもなるでしょう。
この国のPBがもう一段階ステージを進める可能性が あります」 売上高 (億円) 品目数 (品目) 1 品目当たり 売上高 (万円/品目) 表1 主な小売りブランドの2007、2008年度の売上高、品目数および1 品目当たり売上高 トップバリュ セブンプレミアム コープ商品 CGC 商品 2,647 4,000 6,618 3,687 5,000 7,374 845 380 22,237 2,000 800 25,000 3,665 6,975 5,255 4,000 4,500 8,888 2,000 1,500 13,333 2,500 1,500 16,667 2007年度 売上高 (億円) 品目数 (品目) 1 品目当たり 売上高 (万円/品目) 2008年度 〈データ出所〉 2007年度:トップバリュ(イオン)「09年2月期決算期捕捉資料」、セブンプレミアム(日経MJ080613)、コープ商品(日 生協)「生協の社会的責任報告書2006、2007」、CGCはヒアリング。
2008年度:トップバリュ(同上)、セブンプレ ミアム(日経090423)、コープ商品(日経MJ090810)、CGC(日経MJ090810)。
なお、コープ商品の売上高は、日生協の供給額を小売り段階の粗利率を25%として小売売上高に換算している。
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