2012年12月号
特集
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Interview 「日本型S&OPへの挑戦が始まっている」 アビームコンサルティング 安井正樹 執行役員プリンシパル
DECEMBER 2012 22
何が自律分散を可能にしたか
──御社は二〇一〇年に『日本型SCMの将来』と
いうレポートを発表し、日本の消費財メーカーのSC
Mが欧米型とは違う独自の進化を遂げていることを
指摘しました。
その後の進展をどう見ていますか。
「現在は、欧米でSCMのトピックとなっている 『S&OP( Sales & Operation Planning)』が、日 本市場にどのようなかたちで広がっていくのかについ て注目しています。
既に一部の食品メーカーは『S& OP』という言葉は使っていなくても、実質的にそ れに取り組んでいる。
ただし、そこでも欧米のやり 方をそのまま持ってくるのではなく、?日本型S&O P?と呼べるようなカスタマイズが起きている」 ──どういうことでしょう。
「それを説明するために、我々が『日本型SCMの 将来』で発表した分析結果をおさらいさせて下さい。
このレポートで我々が主張したかったのは、在庫パフ ォーマンスとSCMの機能配置には相関関係がある、 つまりSCMを誰が主管するかで在庫のレベルが違っ てくるということでした」 「中堅以上の日本のCPG(食品・日用雑貨品)メ ーカーを調査したところ、在庫日数が三〇日以上の 企業群は、営業・生産・物流の各部門がそれぞれ自 分たちで勝手に活動計画を立ててバラバラに動いて いました。
それを『レベル3』とすると『レベル2』 は在庫が二〇〜二六日の企業群で、そこでは需給機 能が一つの部門に集約されていた。
従来の物流部を SCM部に格上げし、そこが需給を主管するという かたちです」 「これに対して在庫が一五日未満の『レベル1』の 企業群では、改めて需給機能の分散が起きていまし た。
いったん機能をSCM部に集中して標準化し、 そこで仕組みを作り上げた後で、もう一度、意思決 定を営業や生産の前線に戻すという進化が起きてい た。
それぞれの部門が自律的に需給を判断すること で、変化に対応するスピードを高めていたんです」 ──レポートではそれを「自律分散型組織」と呼ん でいました。
「その結果、日本のメーカーは他に例のないほど高 精度のSCMを実現しました。
大変な数のSKUを、 極めて鮮度の良い状態で、少ない在庫量で回して、し かも欠品させないという離れ業をモノにした。
欧米 のメーカーが、限られたSKU、鮮度もほどほどで、 三〇日、四〇日の在庫を持っているのとは対照的で す。
そこから我々は日本型SCMにはむしろ優位性 があるという判断をしました」 「その判断は間違っていなかったと今も確信してい ます。
ただし、その後の展開を見ていくうちに、自 律分散型組織はあくまで結果であることに気付きま した。
本質は組織よりも、緻密な管理にあった。
つ まり自律分散型にすれば在庫が減るというわけでは なく、SCM部門にいったん機能を集約して、そこ でSKUごとに在庫量の上限と下限を決めて、さら にそれを工場単位、デポ単位に落とし込んだことで、 意思決定を分散させることが可能になったんです」 ──SKUごとの在庫レベルを決める方法論は既に 確立されているのですか。
「当社が食品メーカー向けに開発したテンプレート が既に出来上がっていて、投資金額を抑えようとす れば四〇〇〇〜五〇〇〇万円から導入できます。
一 昔前のSCPパッケージのような大金は必要ありませ ん。
ただし、成功のポイントはシステムそのものでは なく、新しいルールを各部門に徹底させるところに 「日本型S&OPへの挑戦が始まっている」 大量のアイテムを少ない在庫で回して、しかも欠品 させない。
緻密な管理を徹底することで日本の食品 メーカーは、グローバル企業を遙かに超える水準まで SCM を進化させた。
次のテーマはS&OP だ。
「日本型 S&OP」の構築に向けて、先進的なメーカーは既に動 き出している。
(聞き手・大矢昌浩、石鍋 圭) アビームコンサルティング 安井正樹 執行役員プリンシパル Interview 23 DECEMBER 2012 あります」 「SKUごとの在庫レベルを決めて、それを現場単 位に落とし込んでいくのは、システムがあればそれ ほど難しいことではありません。
しかし、それを組 織に定着させるのに、どこも大変苦労する。
在庫が 上限を超えたからラインを止めてとSCM部門が指 示をしても、工場では型変えを嫌がってこっそり作 っていたりする。
あるいはSCM部門の担当者が変 わって引き継ぎがスムーズでないために、システムの 発したアラームを見落としてしまう」 「そうした課題を一つひとつ愚直に潰していけるか どうかに成功がかかっています。
それには各部門の KPI、目標設定、戦略を変更する必要も出てきま すので、やはり最後はトップの理解とリーダーシップ が問われることになります」 超ベストプラクティスを目指せ ──小売りのPBの拡大は、メーカーのSCMにど う影響してくるのでしょう。
「SCMのポートフォリオ管理が進んできました。
そ のSKUはNBなのかPBなのか、家庭用か業務用 か、見込み生産か受注生産かといった特性によって SKUを区分し、それに合わせた需要の読み方、生 産の仕方、供給の仕方を適用する。
つまりアイテム の特性に応じたサプライチェーンを組む。
この取り組 みを進めて行くことで、実質的にS&OPに行き着 くことになる」 ──と言うと? 「そもそもSCM部門に需給を集約したのは、営業 の販売計画が当てにならないからでした。
しかし例え ばPBや業務用で受注生産しているアイテムなどは、 過去の実績から需要を予測することが難しい。
担当 営業から先方の動きをつかむ必要があります。
メー カーとしての営業戦略もある。
新製品などは特に営 業の意思が入る。
そうしたアイテムはSCM部門が統 計的に需要を予測するのではなく、営業に任せる」 「ただし、営業部門の期待値をそのまま全社計画と して使うというわけではなく、各得意先との取引条 件をはっきりさせて、計画を数量だけでなく金額に も換算して、生産コスト、物流コストに与える影響や 廃棄リスクのトレードオフまで検証する。
そのうえで 意思決定させるんです」 ──そこまで来ると、確かにS&OPですね。
結果 として、いったんSCM部門に移った計画業務が再 び営業部門に戻ることになる。
「全部のアイテムではないですよ。
需要予測ができ ないアイテムや営業が予測したほうが合理的なアイテ ムだけを、営業に計画させる。
それ以外は営業には 特売情報だけ出してもらいSCM部門が需要を予測 する。
複数の食品メーカーがそうしたプロセスをとり 始めています」 ──それが成功した場合は? 「欧米型のS&OPを超える日本型のS&OPが誕 生します。
これまで日本のメーカーは血のにじむよう な努力を重ねて供給をコントロールし、在庫の低減を 進めてきました。
その面では既に欧米モデルを凌駕 している。
しかし、これまで需要面のコントロール、 ディマンドチェーンマネジメント(DCM)は低いレ ベルにとどまっていた。
売り方の高度化や取引先と のコラボレーションでは欧米メーカーに分がありまし た。
日本型S&OPは、それを逆転させる可能性を 秘めています。
効率的なSCMと効果的なDCMを、 高い次元で両立させた、欧米を超えるベストプラクテ ィスが実現することを期待しています」 勝つのは誰だ 食品SCM 特集 日本型SCM──多SKUを高鮮度で低在庫 需要と供給の 潤滑油 需要 短LT生産/日次調整 日次供給 徹底した上下限管理 SCMポートフォリオ 予測のチューニング 特売取込 供給 強さの秘訣 SCM 部
その後の進展をどう見ていますか。
「現在は、欧米でSCMのトピックとなっている 『S&OP( Sales & Operation Planning)』が、日 本市場にどのようなかたちで広がっていくのかについ て注目しています。
既に一部の食品メーカーは『S& OP』という言葉は使っていなくても、実質的にそ れに取り組んでいる。
ただし、そこでも欧米のやり 方をそのまま持ってくるのではなく、?日本型S&O P?と呼べるようなカスタマイズが起きている」 ──どういうことでしょう。
「それを説明するために、我々が『日本型SCMの 将来』で発表した分析結果をおさらいさせて下さい。
このレポートで我々が主張したかったのは、在庫パフ ォーマンスとSCMの機能配置には相関関係がある、 つまりSCMを誰が主管するかで在庫のレベルが違っ てくるということでした」 「中堅以上の日本のCPG(食品・日用雑貨品)メ ーカーを調査したところ、在庫日数が三〇日以上の 企業群は、営業・生産・物流の各部門がそれぞれ自 分たちで勝手に活動計画を立ててバラバラに動いて いました。
それを『レベル3』とすると『レベル2』 は在庫が二〇〜二六日の企業群で、そこでは需給機 能が一つの部門に集約されていた。
従来の物流部を SCM部に格上げし、そこが需給を主管するという かたちです」 「これに対して在庫が一五日未満の『レベル1』の 企業群では、改めて需給機能の分散が起きていまし た。
いったん機能をSCM部に集中して標準化し、 そこで仕組みを作り上げた後で、もう一度、意思決 定を営業や生産の前線に戻すという進化が起きてい た。
それぞれの部門が自律的に需給を判断すること で、変化に対応するスピードを高めていたんです」 ──レポートではそれを「自律分散型組織」と呼ん でいました。
「その結果、日本のメーカーは他に例のないほど高 精度のSCMを実現しました。
大変な数のSKUを、 極めて鮮度の良い状態で、少ない在庫量で回して、し かも欠品させないという離れ業をモノにした。
欧米 のメーカーが、限られたSKU、鮮度もほどほどで、 三〇日、四〇日の在庫を持っているのとは対照的で す。
そこから我々は日本型SCMにはむしろ優位性 があるという判断をしました」 「その判断は間違っていなかったと今も確信してい ます。
ただし、その後の展開を見ていくうちに、自 律分散型組織はあくまで結果であることに気付きま した。
本質は組織よりも、緻密な管理にあった。
つ まり自律分散型にすれば在庫が減るというわけでは なく、SCM部門にいったん機能を集約して、そこ でSKUごとに在庫量の上限と下限を決めて、さら にそれを工場単位、デポ単位に落とし込んだことで、 意思決定を分散させることが可能になったんです」 ──SKUごとの在庫レベルを決める方法論は既に 確立されているのですか。
「当社が食品メーカー向けに開発したテンプレート が既に出来上がっていて、投資金額を抑えようとす れば四〇〇〇〜五〇〇〇万円から導入できます。
一 昔前のSCPパッケージのような大金は必要ありませ ん。
ただし、成功のポイントはシステムそのものでは なく、新しいルールを各部門に徹底させるところに 「日本型S&OPへの挑戦が始まっている」 大量のアイテムを少ない在庫で回して、しかも欠品 させない。
緻密な管理を徹底することで日本の食品 メーカーは、グローバル企業を遙かに超える水準まで SCM を進化させた。
次のテーマはS&OP だ。
「日本型 S&OP」の構築に向けて、先進的なメーカーは既に動 き出している。
(聞き手・大矢昌浩、石鍋 圭) アビームコンサルティング 安井正樹 執行役員プリンシパル Interview 23 DECEMBER 2012 あります」 「SKUごとの在庫レベルを決めて、それを現場単 位に落とし込んでいくのは、システムがあればそれ ほど難しいことではありません。
しかし、それを組 織に定着させるのに、どこも大変苦労する。
在庫が 上限を超えたからラインを止めてとSCM部門が指 示をしても、工場では型変えを嫌がってこっそり作 っていたりする。
あるいはSCM部門の担当者が変 わって引き継ぎがスムーズでないために、システムの 発したアラームを見落としてしまう」 「そうした課題を一つひとつ愚直に潰していけるか どうかに成功がかかっています。
それには各部門の KPI、目標設定、戦略を変更する必要も出てきま すので、やはり最後はトップの理解とリーダーシップ が問われることになります」 超ベストプラクティスを目指せ ──小売りのPBの拡大は、メーカーのSCMにど う影響してくるのでしょう。
「SCMのポートフォリオ管理が進んできました。
そ のSKUはNBなのかPBなのか、家庭用か業務用 か、見込み生産か受注生産かといった特性によって SKUを区分し、それに合わせた需要の読み方、生 産の仕方、供給の仕方を適用する。
つまりアイテム の特性に応じたサプライチェーンを組む。
この取り組 みを進めて行くことで、実質的にS&OPに行き着 くことになる」 ──と言うと? 「そもそもSCM部門に需給を集約したのは、営業 の販売計画が当てにならないからでした。
しかし例え ばPBや業務用で受注生産しているアイテムなどは、 過去の実績から需要を予測することが難しい。
担当 営業から先方の動きをつかむ必要があります。
メー カーとしての営業戦略もある。
新製品などは特に営 業の意思が入る。
そうしたアイテムはSCM部門が統 計的に需要を予測するのではなく、営業に任せる」 「ただし、営業部門の期待値をそのまま全社計画と して使うというわけではなく、各得意先との取引条 件をはっきりさせて、計画を数量だけでなく金額に も換算して、生産コスト、物流コストに与える影響や 廃棄リスクのトレードオフまで検証する。
そのうえで 意思決定させるんです」 ──そこまで来ると、確かにS&OPですね。
結果 として、いったんSCM部門に移った計画業務が再 び営業部門に戻ることになる。
「全部のアイテムではないですよ。
需要予測ができ ないアイテムや営業が予測したほうが合理的なアイテ ムだけを、営業に計画させる。
それ以外は営業には 特売情報だけ出してもらいSCM部門が需要を予測 する。
複数の食品メーカーがそうしたプロセスをとり 始めています」 ──それが成功した場合は? 「欧米型のS&OPを超える日本型のS&OPが誕 生します。
これまで日本のメーカーは血のにじむよう な努力を重ねて供給をコントロールし、在庫の低減を 進めてきました。
その面では既に欧米モデルを凌駕 している。
しかし、これまで需要面のコントロール、 ディマンドチェーンマネジメント(DCM)は低いレ ベルにとどまっていた。
売り方の高度化や取引先と のコラボレーションでは欧米メーカーに分がありまし た。
日本型S&OPは、それを逆転させる可能性を 秘めています。
効率的なSCMと効果的なDCMを、 高い次元で両立させた、欧米を超えるベストプラクテ ィスが実現することを期待しています」 勝つのは誰だ 食品SCM 特集 日本型SCM──多SKUを高鮮度で低在庫 需要と供給の 潤滑油 需要 短LT生産/日次調整 日次供給 徹底した上下限管理 SCMポートフォリオ 予測のチューニング 特売取込 供給 強さの秘訣 SCM 部
