ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2012年12号
グローバル物流市場の実像
Part 6 新興国市場の変貌とアメリカの復活「Agility Emerging Markets Logistics Index 2012」を読む

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2012  74 新興国市場の変貌とアメリカの復活 「Agility Emerging Markets Logistics Index 2012」を読む アジアシフトは今後も続く  世界の経済成長は二〇一一年の中盤に下降に 転じた。
この傾向は一三年まで継続すると言わ れている。
EUの経済危機には収まる気配がな く、これと連動してアメリカの景気回復も遅れ ている。
これまで成長を続けてきたアジア太平 洋の新興国市場も今年に入って変調を来してい る。
 グローバル経済の悪化の影響は、新興国も避 けられない。
先進国市場向けの輸出の減少が、 それに付随する新興国の国内需要の減少となっ てコントラクト・ロジスティクス(3PL)市 場に大きなインパクトを与えている。
とりわけ ヨーロッパ向け輸出の大幅な落ち込みは、大き なブレーキとなっている。
 しかし、これは一時的な現象であり、市場の 基本的な趨勢は変わらない。
筆者も含め多くの 市場関係者はそう考えている。
実際、アジア太 平洋の域内物流需要は依然として堅調であり、 足下ではタイ、ベトナムの回復が著しい。
 米Logistics Management誌によると、アジア 太平洋のコントラクト・ロジスティクス市場は今 年から二〇一五年にかけて年平均十三・九%の ペースでの伸張が見込まれている。
伸び率は中 国が一番大きく、一五年までに市場規模は現在 の約二倍に拡大することが予測されている(注 1)。
 これに対応してUPS、フェデックスは中国 市場への深耕を進め、DHL他のメガフォワー ダーもそれぞれアジア拠点の拡充を図っている。
これら外資勢を迎え撃つ現地フォワーダーのシ ェア拡大の動きも依然として継続している。
多 くの新興国市場はいまだ経済危機以前の状況に あると言えるだろう。
 しかしながら、なお好転しない世界経済を 背景として、ロジスティクス市場にも変化の兆 しは見られる。
本稿では「Agility Emerging Markets Logistics Index 2012」(注2)を参照 しながら、新興国市場の変貌を中心に、グロー バル市場の現況を概観してみたい。
 同レポートはロジスティクス市場の現状を以 下のようにまとめている。
●新興国のトップ市場は先進諸国よりもグロー バルな経済減速に耐えている。
●新興国市場は活発な国内消費と新興国間の貿 易により、先進国市場の下降に弾力的に対処 してきた。
●ブラジル、中国、インドがなお世界経済の原 動力となっている (一部に成長の鈍化が見ら れるとしても、なお他の世界各国の成長度を 超えている)。
●ロジスティクスの専門家たちは、エジプト、リ  今年に入って中国をはじめ新興国市場が変調を来して いる。
それでも先進国から新興国へのシフトは今後も続く。
次のターゲットとなる国はどこか。
アメリカやEUはどう 動くのか。
クウェートに本社を置く有力3PL、アジリティ 社の最新レポートを元に市場のトレンドを解説する。
グローバル物流市場の実像 〜新たな可能性の探求に向けて〜 平田義章 国際ロジスティクスアドバイザー Part 6 表1 新興国ロジスティクスの 総合評価ランキング(2012) 順位 (昨年) 国評価度 (昨年) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 (1) (2) (3) (4) (6) (5) (7) (11) (9) (8) 中国 インド ブラジル サウジアラビア UAE インドネシア ロシア マレーシア チリ メキシコ 8.58 6.96 6.84 6.70 6.49 6.44 6.29 6.01 5.97 5.84 (8.07) (6.64) (6.54) (6.27) (6.09) (6.26) (6.06) (5.60) (5.78) (5.93) 出所:Agility Emerging Markets Logistics Index 2012, p. 3および表1より作成 75  DECEMBER 2012 ビア、チュニジアなど、?アラブの春( Arab Spring)?の民衆決起で民主化を達成した国々 が、魅力的なビジネス市場となりつつあると 考えている。
●新たな新興国?昇る星(Rising Stars)?とし ては、UAE(アラブ首長国連邦)、マレー シア、ベトナム、トルコ、アルゼンチン、オ マーン、モロッコ、エチオピア、ケニアが挙 げられる。
 そして、同報告書が新興国のロジスティクス市 場を評価した一二年の総合順位は、中国、イン ド、ブラジルのBRICs三カ国が上位三位を 占め、四位にサウジアラビア、五位UAE、以 下、インドネシア、ロシア、マレーシア、チリ、 メキシコと続く。
 これを前年の一一年の順位と比較すると、U AEが六位から五位へ、マレーシアが十一位か ら八位へそれぞれ上昇した一方で、インドネシ アが五位から六位ヘ、メキシコが八位から一〇 位へと順位を落としている(表1)。
 新興国が、先進国の景気低迷に備えるには、 国内市場の成長と新興国間の貿易拡大がカギに なる。
とりわけ中国は多くの新興市場に対して 大消費地としての役割を担うようになっている。
それを支える新興国間の輸送ルートも過去数年 の間に飛躍的に整備が進んだ。
 それに合わせて、これまで外国資本を集めて きたBRICsに代わり、インドネシア、ベト ナム、トルコなどが、ロジスティクス企業に新 たな参入の機会を提供している。
これらの国々 は、経済規模こそ小さいが安定した事業環境と 急成長をオファーしている。
 また、アジアと中東からの堅調な需要の下、 アフリカでは天然資源の大量供給が大きな収入 源となっている。
依然として地域に根差した多 くの障害を抱えながらも、アフリカは投資家と の結びつきを深めている。
アフリカ経済は資源 相場の変動に大きな影響を受けるが、アジアか らの需要が今後も継続すれば、ヨーロッパにお ける経済ショックの影響はそれだけ抑制される ことになる。
魅力のある国・魅力のない国  低コスト国への生産シフトは、国際輸送の流 れを大きく変えた。
表2に新興国発・欧米向け、 表3に欧米発・新興国向けトレードレーンの上 位五レーンを記載した。
海上輸送、航空輸送と も、中国とEU間の輸送が最も大きな比重を占 めている。
 また、同レポートではロジスティクス業界の 実務家五五〇人を対象に各種の調査を行って いる。
その一つ「今後五年間で主要なロジステ ィクス市場となる国はどこか」という質問でも、 トップは中国だった。
以下はインド、ブラジル、 表2 新興国発欧米向けの主要トレードレーン 海運航空 ランク新興国発欧米着2011トン 1 2 3 4 5 中国 中国 ブラジル アルゼンチン ロシア EU US EU EU EU 50,479,407 48,761,304 31,199,950 28,435,061 27,566,855 ランク新興国発欧米着2011トン 1 2 3 4 5 中国 中国 インド ケニア コロンビア EU US EU EU US 1,128,332 977,059 211,805 155,978 151,434 出所:Agility Emerging Market Logistics Index 2012, Table 5, 9より作成 表3 欧米発新興国向けの主要トレードレーン 海運航空 ランク 欧米発 新興国着 2011トン 1 2 3 4 5 中国 トルコ 中国 アルジェリア サウジアラビア EU EU US EU EU 34,280,211 27,971,873 22,565,082 15,465,878 10,378,581 ランク欧米発新興国着2011トン 1 2 3 4 5 中国 中国 インド UAE ブラジル EU US EU EU US 615,837 280,421 183,773 163,373 141,038 出所:Agility Emerging Market Logistics Index 2012, Table 6, 10より作成 表4 今後5年間で予想される トップ10ロジスティクス市場 順位国評価度 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 中国 インド ブラジル ロシア トルコ ベトナム UAE 南アフリカ メキシコ インドネシア 802 673 519 182 118 108 101 63 53 52 出所:Agility Emerging Markets Logistics Index 2012, Table 13より作成 表5 市場拡大の要因 順位要因評価度 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 経済成長 労働賃金が安い 外国からの直接投資 貿易の拡大 人口増 消費需要 地理的条件 近距離調達市場 輸送インフラの整備 良好なビジネス環境 セキュリティの強化 汚職がない 1,113 351 301 275 238 236 196 108 108 79 8 5 出所:Agility Emerging Markets Logistics Index 2012, Table 14より作成 DECEMBER 2012  76 ロシア、トルコ、ベトナムと続く(表4)。
 その理由として最も大きいのは「経済成長」 である。
他に「労働賃金が安い」、「外国からの 直接投資が可能」、「人口が増加」、「消費需要が 堅調」、「近距離調達市場」であることなどが市 場拡大の条件と考えられている(表5)。
 一方、市場の成長を阻害する要因としては、 「輸送インフラの未整備」、「収賄」、「政府の方 針(規制)」、「税関手続の難しさ」などが上位 に挙がっている。
また「会社設立が困難」や 「利益の本国送金が困難」などの事業環境の難 しさも指摘されている(表6)。
 逆に、最も魅力のない市場には、イラン、エ チオピア、シリア、イラク、リビアなどが挙げ られている(表7)。
その他、市場規模が比較 的大きなロシアやエジプトなどもリスト入りし ている。
これらの市場の魅力は「セキュリティ リスク」、「収賄」、「貧困」などの理由によって、 失われている。
 地域別の市場成長度をみると、回答者の約四 分の一が「アジア域内」に最も大きな成長の可 能性を感じている。
以下は「アジア─ヨーロッ パ」、「アジア─南アメリカ」、「アジア─アフリ カ」、「アジア─中東」の順であり、「アジア─ 北米」は六位である。
 アジアとヨーロッパ間には、ニッチなルートを 開拓する余地がまだ残されている。
とりわけイ ンドネシアやベトナムは、ヨーロッパの企業にと ってこれからますます重要性を増していくもの と予想される。
なお、「アジア─南米」、「アジ ア─アフリカ」、「アジア─中東」のルートの拡 大は、これらの市場に対する中国の投資にかか っている(図1)。
 「今後五年間で企業が投資効果を期待できる 国はどこか」との問いに対しては、ブラジルが トップで、以下、中国、インド、ロシア、ベト ナム、メキシコの順となっている(図2)。
ブラ ジルが浮上した背景としては、天然資源の物流 ニーズがあるというだけでなく、企業の関心が 中国やインドから多少遠ざかりつつあることも 影響しているようだ。
グローバルトレードの構造変化  先進国の企業が低コスト国へ生産のアウトソ ースを進めたことで、グローバルロジスティクス 市場は欧米から新興国に重点を移している。
そ れと同時に世界の貿易構造は単純な二国間貿易 から経済圏単位の流れへと動いている。
 先日、EUとアメリカが経済協定構想の実現 に向けて一三年前半にも交渉に入ることを模索 していると報じられた。
これが実現すれば世界 のGDPの半分を占める巨大自由貿易市場が創 設されることになる(注3)。
 ちなみに、IMFによると一二年の世界経済 全体の成長見通し は、実質GDP対 前年比で三・三%、 一三年が三・六% である。
これに対 して先進国の一二 年・一三年の伸 び率は、アメリカ が二・二%と二・ 一%、ユーロ圏が マイナス〇・四%と〇・二%、日本が二・二% と一・二%で、いずれも世界経済全体の成長率 を下回っている。
 現在の世界経済の成長が新興・途上国にかか っているのは明らかで、一二年に五・三%、一 三年に五・六%の成長が見込まれている。
うち 中国は七・八%、八・二%と予測されている。
しかし、中国の今年七─九月期の実質GDP は、欧州向けの輸出減少を主因として七・四% 増に留まった。
中国経済の減速によって世界経 済の先行きには不透明感が増している。
 一方、アメリカでは、製造業の七五%がこれ まで中国とかかわりを持ってきたが、現地の人 件費の高騰とアメリカ国内の生産性の向上によ り、ここ二、三年のうちに大きな転機を迎える ことになるだろうとの指摘がある。
実際、アメ リカと中国の生産コストの差は過去八年間で五 〇%縮小し、一三年までにその差は一六%に縮 まると予測されている(注4)。
 そして、ここ数年間の世界貿易における顕 著な現象の一つが、アメリカの輸出生産の拡大 である。
ボストンコンサルティンググループの予 表6 市場成長を阻害する問題点 順位問題点評価度 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 輸送インフラの未整備 収賄 政府の方針(規制) 税関手続の厳しさ 会社設立が困難 セキュリティ 詐欺 ITインフラの未整備 人権問題 利益の本国送金が困難 地理的条件 614 450 405 380 322 281 113 94 87 70 65 出所:Agility Emerging Markets Logistics Index 2012, Table 15より作成 表7 最も魅力のない国 順位国評価度 1 2 3 4 5 イラン エチオピア シリア イラク リビア 337 246 193 167 144 出所:Agility Emerging Market Logistics Index 2012, Table 17より作成 77  DECEMBER 2012  我が国も、こうした動きを傍観していてはな らない。
自らの高コスト構造にメスを入れ、輸 出の拡大に戦略的に取り組むことで戦線に復帰 する可能性を追求すべきだろう。
アメリカの改 革はその一つの指針となるはずだ。
フォワーダーの役割  今後のグローバルトレードは、アメリカとE Uによって進められる経済協定構想や「TPP (環太平洋戦略的経済連携協定)」、そして二国 間の自由貿易協定(FTA)の実現等によって 方向性が決まってくる。
また新興国市場のさら なる発展を促進するためには当該国間の貿易貨 物の流れを一層円滑化する必要がある。
政府が 測によると、アメリカは一五年までに、ドイツ、 イタリア、フランス、イギリス、そして日本に 対して、業種別に五〜二五%の輸出コストのア ドバンテージを得るという。
その主たる要因は 生産性の向上やドル安による労働人件費の相対 的低下、そして割安な天然ガスと電気料金にあ る。
 結果としてアメリカは今後一〇年間で、ヨー ロッパの先進四カ国から二〜四%、日本から三 〜七%の輸出を取り込み、その他の国の分まで 含めて総額で年間一三〇〇億ドル(約一〇・三 兆円)の輸出増を獲得することが予測されてい る。
その主な品目は、機械、輸送機器、電気機 器と化学品である(注5)。
果たすべき役割は大きい。
 そして企業としては、中国経済の今後の推 移と並んで、新興国のなかでも躍進の期待され る市場をターゲットに定め、その動きを注視し ていく必要がある。
その際に念頭に置くべきは、 ドイツを始めとするEUのキー国のさらなる経 済発展と、なお世界のリーダーであり続けるア メリカの変化である。
 フォワーダーはこれまで、グローバルビジネス が多様化していくのに伴い、荷主それぞれの固 有のニーズに即応することで、その能力を評価 されてきた。
今後も多国間にわたる複雑なサプ ライチェーンを連結し、最も効率的な流れを組 み立てる、新たな局面に対応したサービスを創 造していく必要がある。
 フォワーダーに国境はない。
メガフォワーダ ー、ローカルフォワーダー、ニッチフォワーダー がそれぞれの分野で新たな役割を果たしていく ことが期待される。
(1)注 Global Logistics: Asia Pacific's challenges and opportunities in market integration, Logistics Management, September 01, 2012より。
(2) クウェートに本社を置く有力3 P LのAgility と英ロジスティクス市場調査会社、Transport Intelligenceによる新興国市場の分析レポート二〇 一二年版。
(3) 読売新聞、一二年一〇月一〇日。
(4) U.S. manufacturers may be leaving China, analysts report, Logistics Management, May 29, 2012. (5) Global Logistics: Freight forwarders maintaining their speed, Logistics Management, October 01, 2012. 図1 地域別新興市場の予想(2012) 図2 今後5 年間の国別投資効果 出所:Agility Emerging Markets Logistics Index 2012, Figure 17より作成 出所:Agility Emerging Markets Logistics Index 2012, Figure 18より作成 アジア域内 アジア│ヨーロッパ アジア│南アメリカ アジア│アフリカ アジア│中東 アジア│北アメリカ 南アメリカ│北アメリカ アフリカ│ヨーロッパ ブラジル 中国 インド ロシア ベトナム メキシコ トルコ 南アフリカ UAE アルゼンチン 30 25 20 15 10 5 0 200 180 160 140 120 100 80 60 40 20 0 (%)

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