ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2012年12号
SOLE
工場の生産効率を大幅に改善構内物流が果たすべき3つの役割

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SOLE 日本支部フォーラムの報告 The International Society of Logistics DECEMBER 2012  86  サプライチェーンの一角を担う構内 物流は大変重要な役割を持つにも関 わらず、物流関係者の中でもそのこ とについて十分に認識されていないこ とが多い。
本稿で構内物流の役割と その改善方法を解説することで、サ プライチェーンの一層の効率化に多少 なりとも寄与できればと考えている。
(Kein物流改善研究所代表  仙石惠一) 最初に行うべきこと  顧客のオーダーに基づき、資材を調 達して超短納期で生産し、効率的か つ低コストの物流で製品を顧客のもと へ届ける。
この管理をきちんと行っ ていくことがSCMの本質であると 言えるのではないだろうか。
すべて の工程が同期化し、よどみなくモノが 清々と流れていく状態を我々は構築し ていかなければならない。
その一端 を構内物流が握っている。
 では、なぜ今になって改めて構内物 流に注目すべきなのか。
象徴的な理 由を一つ挙げるとすれば、製造業の世 界的な競争激化である。
皆さんご承 知の通り、日本の製造業は既に国際 競争の荒波に飲み込まれている。
アジ アを中心とした新興国の勢いは凄まじ く、過去は「安く大量につくる」た めの製造拠点であった新興国が、今 では「品質」で日本を凌駕するケース も出始めている。
つまり、日本のも のづくりの優位性が揺らぎつつある。
 震災を契機に、日本製品の品質や 安全性に対する評価が低下したとも 言われている。
だからこそ私たちは ものづくりの品質とコストを常にブラ ッシュアップし続けなければならない。
それを支えるうえで物流、特に構内物 流は極めて大きな役割を担っている。
 そうした構内物流の改善について これから話を進めるに当たり、まず皆 さんに一つ考えていただきたいことが ある。
構内物流改善で「最初に」取 り組むべきことは何か、という問題 である。
筆者が工場物流の担当者に この問いを投げかけると、次のよう な答えが返ってくることが多い。
●荷姿充填効率を向上し、運搬回数 を減らす ●納入されたものを直接ラインに払い 出すことで保管の節を減らす ●小刻み運搬をやめ、できるだけま とめて運ぶ  いずれも工場内の物流工数を削減 するために考えつく項目ではあるが、 これらの回答は「最初に」行うべき 物流改善としては不正解だ。
こうい った手を打つことで物流工数が減った としても、それで工場全体の作業効 率は向上しているだろうか。
荷姿充 填率を向上させたことにより、生産 ラインで部品の取り出しにくさが発生 していないだろうか。
納入後に直接 ラインへの払い出しやまとめ運搬をし た結果、ラインサイドに不必要なモノ が置かれたりしていないだろうか。
 私たちが注意すべきは、このよう に物流効率化のための取り組みが生 産ラインに悪影響を及ぼすことがあ り得るということである。
実は構内 物流改善には通るべきステップがある。
「物流」という言葉にとらわれて最初 に物流自体を効率化するのは危険で ある。
工場全体の効率化を図るため には、構内物流が果たすべき三つの 役割について知っておく必要がある (図1)。
第一の役割「サービス業」  まず第一の役割について述べる。
工 場の物流管理者に「構内物流とは業 種で言えば何」と質問すると、モノを ある地点から別の地点へ運ぶ「運送 業」、もしくは、モノの保管や梱包な ども行っているため「倉庫業」との 答えが返ってくる。
通常業務として 運搬や保管、梱包などを行っている だけならばその答えは正しいかもし れないが、厳しい見方をすれば、こ の理解は非常に狭い領域でしか自分 たちの役割を捉えていない。
構内物 工場の生産効率を大幅に改善 構内物流が果たすべき3つの役割 図1 構内物流が果たすべき3つの役割 サービス業としての役割 司令塔としての役割 物流自体の効率化を 行う役割 ●主役に100%の演技をさせる役割。
●即ち付加価値を生み出す工程が本業  に専念できる環境づくりを行うこと。
●主役に決められた通りの仕事をさせる監督  としての役割。
●即ちモノと情報をタイムリーに届けること  を通して生産統制や出荷統制を行うこと。
●工場内で物流を極力発生させないようなレ  イアウト設計を実施する役割。
●工場内で発生した物流を極力効率的に実  施する役割。
87  DECEMBER 2012 のである。
 構内物流がサービス業であるからに は、お客様に喜ばれる商品をお届けす ることを第一義と考えるべきだ。
し たがって、提供するサービス水準を極 力高め、お客様に当たる生産ラインの 効率化を最大限進めることが構内物 流の望ましい姿だと言えよう。
タイムリーに部品供給  生産ラインが本業に特化できる環境 を整備するため、構内物流は具体的 に何をすべきだろうか。
構内物流が 生産ラインに部品を供給する際の理想 的なコンセプトは以下のようになるだ ろう。
   「タイムリーに」「使う順番で」「部品 だけを」「今必要な数だけ」渡す(図4)  あたかもリレーで次の走者にバトン を渡すようなイメージだ。
究極の姿は 今必要な「一つ」だけを渡すという ことになるだろうが、現実的には次 回生産ロット分を納入容器から取り出 し、生産順に並べて、使うぎりぎり 前に生産ラインに届ける、ということ になるだろう。
 そのために構内物流はロット生産を 行っている前工程で、容器に詰めら れた部品を取り出し、生産ラインで使 う順番にラインサイドの専用レーンに 投入することになる。
あるいは次に 生産するために必要な複数部品を一 占める割合のほうが多かった(図2)。
 図3に本来生産ラインで発生させ るべきではない作業を例示した。
主 役が本業に特化できないのはこうい ったムダを抱えているからだと言える。
皆さんの職場でこのような現象が発 生していないか、一度じっくりと現 場を観察していただきたい。
 ここで工場としてやるべきことは、 まずこれらのムダを生産ラインの外に 出すことである。
外出しされた作業 はそれをやらずに済むように改善さ れるまでの間、一時的にどこかの部 署が手がけなければならないが、そ れを引き受けるのが構内物流部署な 流は運送業でも倉庫業でもなく、「サ ービス業」であることに気づかなけれ ばならない。
 工場の本業は何か。
それは「もの づくり」である。
ではその本業を行 う主役は誰か。
それは生産ラインであ る。
つまり、工場では主役である生 産ラインが本業のものづくりに特化し、 効率的に仕事を行うことが最も大切 だと言える。
そのことがどの程度実 現できているかが、工場の製造品質 や収益の向上に直結するのは言うま でもない。
では、果たして実際に現 場はそのようなかたちになっているだ ろうか。
 生産ラインの仕事は部品を加工する ことだ。
そのプロセスを単純化すると 「部品を取って機械にセットし、機械 を起動させる」、そして加工が終われ ば「加工後の製品を取って指定場所 に置く」という流れになるだろう。
大 切なのは、これ以外の動作や作業を 生産ラインの作業者がやっていないか どうか見極めることだ。
 そうした観点で実際に現場をチェッ クしてみると、本業以外の動作を行 っている実態が次々に出てくる。
例え ば、当研究所がある企業を調査した ところ、生産ラインが稼働している中 で、本来の加工業務である「部品取 り」「取り付け」「製品格納」に当たっ ている時間はトータルで全体の四〇% にも満たず、「部品入れ替え」「製品検 査」など、それ以外の動作や作業が 図3 生産ラインで発生させるべきではない作業 ラインサイドに仮置きさ れた部品を、ライン作 業者が生産を中断して ラインへ投入している。
ライン作業者が部品を 容器から取り出す時 に、梱包材を取り除く 手間がかかっている。
部品の梱包材や荷姿 の副資材をゴミ箱まで 捨てに行っている。
ライン内に溜まった空 容器を、ライン作業者 が生産を中断してライ ン外へ搬出している。
ラインに届けられた折り 畳んだままの完成品用 容器を、ライン作業者 が生産を中断して組み 立てている。
資材や完成品用容器 がタイムリーに供給され ず、生産が中断しライ ン作業者の手待ちを発 生させている。
今必要でない種類の 部品がラインに供給さ れており、取り出し時 に「迷い」が発生してい る。
今必要でない数量の 部品がラインに供給さ れており、つくりすぎの 要因になっている。
図4 理想的な生産ラインへの部品の渡し方  タイムリーに 部品だけを この前提のもとで構内物流の第一の役割を考える 使う順番で 渡す! “今” 必要な数だけ 図2 ある企業の生産ラインの稼働分析結果 部品取り 14% 取り付け 16% 製品検査 12% 9% 製品格納 迷い 5% 9% 歩行 伸び上がり 4% 絡みほぐし 6% ラベル貼付 3% 10% 空容器処理 部品入れ替え 12% 本業は 40 %に満たない! 台ずつのキットにしてライン供給する のも効果的だろう。
ただし、これら の作業を行うための場所を工場内に 確保する必要がある。
 このように物流サービスを向上させ ることで、生産ラインでは次のような 効果が期待できる。
●どの部品を使うべきか判断する必 要がなくなり、誤組み付けの低減 など品質が向上する ●部品が手元に供給されることで余 分な歩行が無くなる ●容器返却や部品の入れ替えを無く すことで生産のリズムの乱れが解消 される  その結果として、品質と生産性の 大幅な向上につながることが考えら れるのである。
 本来ならば生産ラインを設計する際 に前述のような部品供給方式を確立 すべきであろう。
しかし、実際には そうなっていない場合が多く、生産 ラインの稼働後に改善の取り組みが必 要になることがほとんどである。
 また、この取り組みを行おうとす ると、物流部門からは反対の声が上 がることがある。
取り組みの意義自 体は理解できても、自部門にも効率 化目標が与えられているために工数 が増えることには躊躇してしまうか らである。
 そこで工場管理者の方には、仮 に一時的に構内物流の工数が減らず、 場合によっては増えたとしても、生産 ラインへのサービス水準向上を優先す べきだと認識していただきたい。
業 種により若干の違いはあるにせよ、一 般的に工場における生産ライン作業者 と物流作業者の人数の比率は九対一 くらいである。
どちらを優先的に効 率化すべきかは論議するまでもない ことであろう。
さらに、構内物流の サービス度向上は製品の品質向上に も直結する。
 これら生産ラインで現れる効果は、 構内物流のサービス度向上による成 果として評価することが望ましい。
な ぜなら、「生産ラインへのサービス水 準を高める」という取り組みこそが 最初に進めるべき構内物流改善その ものだからである。
 さて、工場の主役が本業に特化で きるような環境を整えた構内物流は 「次に」どのステップを踏むべきだろ うか。
「工場において物流はムダだか ら余分な部分を効率化していく」と の答えが返ってきそうだが、ちょっと 待っていただきたい。
実はその前に もう一つ重要な役割を担ってもらう必 要がある。
そのステップを踏ませてか ら効率化に進んでいくべきなのだが、 この点に気づいていない工場が非常に 多いのが実態である。
第二の役割「工場内の司令塔」  次に進むべきステップは、「工場内 の司令塔」としての役割を果たす、と いうことである。
この言葉を見て驚 かれた方も多いのではないだろうか。
構内物流が「サービス業」だというこ とは素直に受け入れられたとしても、 「司令塔」などといった大それた役割 など担えるはずがない、とてもイメー ジがわかない、という考えが本音で はないだろうか。
 我が国において「物流」とはあま り華々しい立場にはないと言えそうだ。
むしろ脇役、縁の下の力持ちといった 言葉の方がよく似合う。
工場でも決 してエリートコースとは言えず、どち らかと言うとその反対で、「第二の職 場」とか「受け皿」などと揶揄され ることすらある。
 しかし、未だにこのような認識で は今後ますます厳しくなることが見 込まれる製造業の競争に勝ち残って いくことはできない。
構内物流をも っともっと効果的に働かせることが、 会社を一歩リードさせる方策となるの である。
 構内物流について、私たちが注目 すべきことがある。
それは「あらゆ る情報を入手し、それを必要な部署 に届けることが出来る特殊性を持って いる」ということである。
 読者の皆さんは内閣府が各地域の 景気動向を把握するため、毎月実施 している「景気ウォッチャー調査」を ご存じだろうか。
この調査客体には 「タクシー運転手」が含まれている。
彼らは職業柄、乗客と話す機会も多 く、街の動向を毎日のように自分の 目で確認することができるため、非 常に景気に敏感だからである。
実は 構内物流は前述のような特殊性から、 工場でタクシー運転手と同じ立場にあ ると言えるのだ。
 すなわち、常に工場内を巡回する ことにより、どこで生産遅れが発生 しているか、どのメーカーの資材が納 入遅れの状態にあるのか、どの製品 の在庫が異常値になっているのかなど の「生の情報」をタイムリーに把握で きる特殊な立場にいる。
この情報を 工場で有効に使わない手は無いだろう。
物流はモノだけではなく、「情報」を 運ぶことも重要な仕事である。
構内 物流は工場の「血管」として「モノ と情報」をタイムリーに運ぶ使命を負 っているのである。
生産・出荷統制で工場効率化  具体的に第二の役割を整理してお こう。
まずは供給作業の方法につい てである。
必要なタイミングに、次 回の生産に必要な数量の資材と完成 DECEMBER 2012  88 品を入れる容器および完成品に貼付す るラベルを生産ラインに届ける。
この 供給作業が生産ラインへの実質的な 「生産指示」となる。
資材と容器がモ ノ、ラベルは情報に相当すると言える。
この時にラインに届ける数量は多すぎ ても少なすぎてもいけない。
「次回の 生産に必要な数量だけ」届けること がポイントだ。
 次は回収作業の方法についてだが、 これも決められたタイミングで生産ラ インから完成品を引き取る。
当然早 すぎても遅すぎてもだめである。
あ たかも列車が時刻表通りに運行する ように、構内物流も工場の中を動き 回らなければならない(図5)。
 このような仕事を行うことで、構 内物流は生産ラインにとってペースメ ーカーになるとともに、生産・出荷 への指示機能を併せ持つことにより、 「計画通りの生産」を遵守させる役割 も担うことになる。
まさに司令塔と して生産管理機能の役割を担うので ある。
 通常時は以上のような作業をサイ クリックに行っていくが、工場内巡 回時に得た情報をタイムリーに関係部 署にフィードバックし、柔軟に生産計 画変更や追加納入指示につなげるこ とで、工場での大きな問題発生を未 然に防ぐ役割も担っていくのである。
 いかがだろうか。
「物流を第二の職 場」と位置づけていたとしたら、そ れは大変もったいないことをしている ことになるだろう。
むしろ生産を統 制させることで工場の一層の効率化 に寄与できると言えるのだ。
第三の役割「物流自体の効率化」  第一、第二の役割がそれぞれ構築 できたら、次は第三の役割が待ち構え ている。
それが「物流自体の効率化」 である。
「サービス業」だから、ある いは「工場内司令塔」だから効率化 を免れるということはあり得ない。
工 場ではどの部署であれ「改善」の手 を止めることは許されない。
構内物 流も例外ではない。
 読者の皆さんには釈迦に説法かもし れないが、工場レイアウトを作成する 際には極力物流が発生しないようにす ることが重要である。
運搬が発生す ると運搬の通路や機器、要員、管理 などのさまざまなコストが付随的に発 生してくる。
したがって物流は「生 まれが肝心」。
物流工程の設計時に失 敗すると後々まで尾を引くことになる ので、構内物流担当者は入念に効率 的な設計を行わなければならない。
 そうは言っても、出来上がってし まったレイアウトはおいそれと変更す ることはできない。
一〇〇m以上離 れた場所に資材を届けたり、通路か ら奥まった場所から完成品を引き取っ たりする場面も出てくるだろう。
こ れらの課題に対しては構内物流の担 当者による改善活動が求められる。
 たとえば今までフォークリフトで 単品長距離運搬を行っていたものを 連結台車による定期混載運搬方式に 変更し、効率化を図ってみる。
また、 奥まった場所からは自重で製品を転が せるシュートを設置して通路まで運搬 する方法を考えてみる。
このように 絶え間なく「改善」を実施すること で、第三の役割を果たしていくこと が必要なのである。
 以上のように、構内物流の正しい 役割について解説させていただいた。
もしかしたら、ここまでの仕事をや らせてこなかった工場もあるのでは ないだろうか。
「ロジスティクス」と いう言葉には戦略的に補給を行うと の意味が含まれている。
工場におけ る戦略的補給とは、生産ラインが最 も効率的に高品質を維持しつつタイ ムリーに生産を行っていくためのも のである。
工場が高い経営目標を達 成できるか否かは、構内物流が課さ れた役割を果たしていくことにかか っていると言っても過言ではないの である。
89  DECEMBER 2012 ※ S O L E(The International Society of Logistics: 国際ロジスティクス学会) は一 九六〇年代に設立されたロジスティクス団体。
米国に本部を置き、会員は五一カ国・三〇〇 〇〜三五〇〇人に及ぶ。
日本支部では毎月 「フォーラム」を開催し、講演、研究発表、現 場見学などを通じてロジスティクス・マネジメ ントに関する活発な意見交換、議論を行って いる。
次回フォーラムのお知らせ  次回フォーラムは12月10日(月)、東 京・霞ヶ関の商工会館6階で開催。
「サ プライチェーンAPS」をテーマとする構 造計画研究所・野本真輔氏の講演などが 予定されている。
このフォーラムは年間 計画に基づいて運営しているが、単月の みの参加も可能。
一回の参加費は6000 円。
お問い合わせは事務局(s-sogabe@ mbb.nifty.ne.jp)まで。
図5 引き取り作業を通して生産統制を行う 〈出荷工程〉〈生産工程〉 発車時刻 9:00 11:00 14:00 16:00 AA 工程 8:15 10:15 13:15 15:15 BC 工程 8:20 10:20 13:20 15:20 DD 工程 8:30 10:30 13:30 15:30 CD 工程 8:25 10:25 13:25 15:25 定刻に完成品を引き取りに行く 不必要なモノは引き取らない

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