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JANUARY 2012 22
商品は先進国向けの劣化版。 資金回収が怖いので掛け
売りはしない。 売れ残った在庫は流通業者に値引き販売
で押しつけ、後は知らぬ振り。 そんな場当たり的な戦略
で新興国市場を攻略できるはずがない。 市場環境の未整
備な新興国にこそS&OPを適用して管理を強化すべきだ。
(聞き手・大矢昌浩、石鍋 圭)
クロスフェイス 永海靖典 COO マネージングディレクター
サムスンの在庫日数が低いわけ
──クロスフェイスは新興国ビジネスの支援とS&O
Pをソリューションの柱に据えています。 二つはどう
結びつくのでしょうか。
「新興国ビジネスにこそS&OPが必要なんです。
先進国であれば営業マンのスキルが高いため、予算に
対するブレもそうは生じません。 市場環境を見渡し
ても、小売りやディストリビューターが高度に発達し
ている。 必要な情報が取りやすく、非常にビジブル
でビジネスがしやすい」
「一方の新興国では、経験の浅い営業マンがどうし
ても多くなる。 予算や計画を提出させても信頼性は
低い。 自分の思い込みだったりして、数字の裏付け
がほとんどありません。 小売りやディストリビュータ
ーも成熟しているとは言い難い状況で、CPFRも
実現できない。 だからこそ、セールスフォースの強化
も含め、デマンドマネジメントをしっかりする必要が
あるんです」
「ところが日本の企業はこれまで新興国の仕組み作
りを軽視してきた。 現地のニーズに向き合うことを
せず、先進国向け製品の機能を削ぎ落としてコスト
を下げるという短絡的なマーケティングを行ってきま
した。 売り方にしても資金回収が大変なので、キャ
ッシュオンデリバリーでムリヤリ売り切ってしまうと
いうやり方がメーンです。 その結果、無計画な値引
き販売に陥っている」
──その新興国市場ではサムスンの勢いが盛んです。
S&OPが成長のエンジンになっている?
「サムスンでは『S&OM』という言葉を使ってい
ますが、それが強みの一つになっていることは間違
いありません。 もちろんサムスンも新興国でキャッシ
ュオンデリバリーをしていますが、それとは別に、与
信を取りながらのビジネスもしっかり展開している。
そこでは販売と在庫が緊密に同期されています。 計
画を特に重視したPDCAサイクルも上手く機能して
いる」
「だからこそ、押し込みに頼る必要もなくなるので
す。 早いタイミングで経営陣が意思決定して効果的に
製品を流通させることもできるし、状況によっては
生産ラインにブレーキをかけることも可能になる。 あ
えて利益率を削ってシェアを取るというような戦略的
な選択もできている。 新興国だからといって、決し
てレベルの低い仕組みを適用しているわけではないの
です」
──日系企業とサムスンとの差は大きい。
「実際、サムスンの中国事業の在庫回転日数を見て
みると、ライバル企業に比べて極端に少ないことがわ
かります。 二〇一〇年の在庫回転日数は三・九日で、
リーマンショックの影響を色濃く受けているはずの〇
九年でもわずか四・四日です。 しかも売り上げは両
年とも前年比一五〇%以上を達成している。 それに
対し、日系のライバルメーカーは三〇日、四〇日、ア
イテムや時期によっては六〇日というレベルで在庫を
抱えてしまっている。 売り上げの伸び率も前年比で
マイナスでした。 要因はデマンド側の数値計画が統制
できていなかったり、乱れたりしているからに他な
りません」
──日系企業も近年アジアへのシフトを加速させてい
ます。 上場メーカーの海外売上比率も全体的に伸び
ている。 それほど海外事業が不振という印象はあり
ませんが。
「売り上げが伸びている場合でも、事業構造的な問
題を抱えていることが多い。 当社への引き合いが増え
「新興国市場にこそS&OPを適用しろ」
グローバル競争のSCM戦略
特集
ていること自体がその一つの証左です。 確かに、部
分的に勝っている分野はあります。 例えばあるカテ
ゴリーでシンガポール国内のシェアを取れていたとし
ても、それではマレーシアやインド、中国といった市
場ではどうなのか。 局地戦で成功しているケースは
あってもグローバル市場全体を上手くマネジメントで
きている日系企業は数えるほどしかありません。 た
とえ売れていたとしても、キャッシュオンデリバリー
で押し込んでいるだけで、流通段階に大量の不良在
庫がだぶついていたり、採算割れを起こしているケ
ースが多い」
日本型S&OPの確立を
──どこから手を付ければ良いでしょうか。
「多くの日系企業は本社の事業部と海外販社が分離
されています。 製販が分かれていて完全に別組織に
なっている。 海外販社は売上高を伸ばすことしか考
えていない。 一方、各事業部に紐付いている生産側
はラインの稼働率や生産対応力の向上ばかりを考え
ている」
「本社事業部と海外販社を比べれば当然ながら事業
部の方が権限は強いので、結局のところ現地のマー
ケットやデマンドを無視した、売れる見込みの立たな
い製品がどんどん作られ、販社側に押しつけられる
格好になる。 結果として、サプライチェーン上の同期
が全く取れていない。 まずはこの構造を見直さなけ
れば」
──サムスンを真似るべきですか。
「単純にサムスンの真似をしてもうまくはいきませ
ん。 部分的に要素を取り入れたり、同じベクトルを向
くのはありですが、結果の導き方は違ってくるはず
です。 日系企業とサムスンでは、組織や権限、マネ
ジメントやオペレーションのプロセス、ITインフラ、
原価構造、マーケットにおけるポジションなど前提条
件が違いすぎます」
「例えば、サムスンは本国である韓国で生産して中
国のボリュームゾーンに売り込むという戦略を採って
いますが、これが可能なのは既に中国のマーケットシ
ェアを抑えているからです。 流通させるための拠点
や政策、カスタマーサービス機能なども充実させてい
て、規模のビジネスを展開できている。 そこを見ない
で日系企業が日本本国で生産して出荷するというの
は、現地の海外販社からすると無謀な施策でしかな
い」
──ではどうすれば?
「日本型のS&OPを確立する必要があります。 私
がイメージしているのは、これまでの在庫ドリブンの
モデルから、もう少し販売サイドの視点に立ったマー
ケットドリブンのモデルへの転換です。 具体的には、
販売サイドのマネジメントの短サイクル化を何よりも
優先させる。 日系企業の特徴として数字に対するコ
ミットメントの弱さが挙げられますが、販売サイドが
コミットメントを明確にした上で、メッシュをこれま
での月次から週次に縮める。 そして、逐次、立てた
予算や利益への影響を確認する。 シンプルですが、こ
れだけで数字は上がる」
「S&OPでは中長期の視点も確かに重要ですが、
いくら将来の計画を立てても足下の短期的な数字が
曖昧なままでは意味がありません。 まずは販売サイ
ドのビジネスプロセスを革新し、その上で生産や事業
部サイドと連携させていく。 それが利益を創出する日
本型S&OPに繋がってくるはずです。 この一、二
年でそれが確立できるかどうか、私はそこが勝負だ
と思っています」
23 JANUARY 2012
今後のデマンド・サプライチェーンマネジメント
今後の
デマンド・サプライチェーン
マネジメント
グローバル・各国市場への対応
*今後の事業環境(先進国と新興国の混在)
売上機会を意識しつつ、利益創出型への転換
顧客要求への対応・同期
*業界他社に先んじた見通しと競争力の向上
供給体制の再編 *対応力とスピードの両立
*部材、モジュール、製品
(外部リソース活用含)
あるべきプロセス、組織、事業インフラへの変革
*マネジメント/オペレーション
クロスフェイス資料より
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