ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2012年1号
特集
第6部 S&OPを成功に導く処方箋 「What-If」シナリオを瞬時に提供──キナクシス・ジャパン

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2012  36  当社はカナダに本拠を構えるITベンダー、 キナクシス社の日本法人で、オンデマンド・サ プライチェーン・マネジメントおよびS&OP のソフトウェアサービスを主力事業としてい ます。
当社グループのユーザー企業はハイテク、 エレクトロニクス分野などを中心に、グローバ ルで三万社以上にのぼります。
 近年、これまでバラバラに行われてきた収 益管理やプロジェクト管理、SCMなど、企 業の主要な業務プロセスを包括的に統合管理 する重要性が増しています。
それを支援する ために当社では『ラピッドレスポンス・コント ロールタワー』というサービスを提供している のですが、S&OPもその主要機能の一つと して組み込まれています。
 
咫OPという言葉は各ITベンダーやコ ンサルタントによって定義がまちまちですが、 当社では従来の「グローバルPSI(※ 生産・ 販売・在庫を調整し、需給バランスを最適化 する取り組み)」に、中長期的な視点とお金 の管理を加えたものだと捉えています。
 多くの企業が、SCMと利益管理の乖離と いう悩みを抱えています。
SCMが売り上げ や利益率にどれだけ貢献しているのかがわか らない。
そこを明確にしたいという声が増え ています。
さらに進んだ企業になると、サプ ライチェーンをシミュレーションして、事前に シナリオを用意したいというニーズが生まれて います。
 テレビ事業を例にとると、メーカーが液晶 を発注して生産ラインに届くまで通常四カ月 ほどかかります。
そこから生産して船便で欧 州の市場まで運び、店頭に商品が並ぶにはさ らに一、二カ月かかる。
トータルリードタイム は六カ月です。
従って、いま欧州の店頭に並 んでいる商品はそのメーカーが半年前に購入 した部品でできているわけです。
液晶の価格 は購入した時点で決まっていますが、市場の 変動が激しいテレビ業界では半年先の商品が いくらで売れるかは分かりません。
 そこで、限界利益や液晶の仕入れ値などを 設定し、半年先の欧州市場での売り上げや利 益率をシミュレーションするのです。
さらにそ の結果を経営レベルの利益目標と照らし合わ せて、どれくらい乖離しているのか、それに 対してどのような手を打つのか、『What─ If』のシナリオを瞬時に用意します。
 欧米の大企業の中には、SF映画さながら の大規模なコントロール・ルームを設けている ケースもあります。
そこでは巨大スクリーンに ビジネスに関するあらゆる情報が映し出され ていて、何か問題があるとすぐにアラームが あがり、それに対する打ち手も提案されるよ うになっている。
そういうことが既に現実に なりつつあるのです。
 欧米と日本では、もともとの企業風土に違 いがあるのでシステム投資に対するスタンスに 違いがあるのは確かです。
日本の場合には二 年、三年という時間をかけて稟議を通すのが 一般的ですが、欧米企業の場合はCIO(最 高情報責任者)が強い権限を持っていて、大 型投資でも導入まで半年とかからない。
ただ、 最近では日本でも利益に貢献するS&OPの 重要性は認知されつつあり、システム投資も 前向きに検討する企業が増えてきています。
 もちろん、どんなに大型で高度なシステム を導入したとしても、最終的に意志決定を下 すのは人間です。
当社のサービスでは複数の シナリオを用意するところまで。
限界利益ぎ りぎりまで価格を落としてシェアを取りに行 くのか、戦略的に在庫を積み増すのか、新興 国に転送して売り切るのか、新製品の投入を 早めるのか、そういった選択は人にしかでき ません。
              (談) 「What-If」シナリオを瞬時に提供 ──キナクシス・ジャパン 金子敏也 社長 S&OPを成功に導く処方箋 ラピッドレスポンスのオペレーショナル・スコアカード。
影響を把握し、シナリオを比較する 特 集 37  JANUARY 2012  事業計画と実行計画の擦り合わせというの は、日本でも従来から行われてきました。
し かしマネジメントの階層とオペレーションの階 層では、顧客や製品の管理単位が大きく異な ります。
そのギャップを従来は中間管理者個 人のセンスによって埋めてきました。
情報の 粒度を個人の裁量で置き換えてきたわけです。
 しかし、それではサプライチェーンの問題を 解決できない。
事業計画と実行計画との間に ギャップが生じても、その原因を特定できま せん。
SCMと利益率の関係も説明できない。
納期順守率が上がれば顧客満足度が向上する のは確かでも、それが利益率にどう具体的な 影響を与えているのかは分かりません。
 そこからSCMをS&OPに進化させる必 要が出てきています。
その最も大きな特徴は、 企業戦略や事業計画と、現場レベルの日々の業 務とを結びつけてくれることです。
過去、現 在、将来という時間軸でサプライチェーンを可 視化することもできるようにもなる。
過去の 実績があり、今やるべきことがあり、その結 果としての将来が見える。
 今日なぜこの業務をやっているのかという ?What?が本当にわかっていれば、?Ho w?を導き出すのは難しいことではありませ ん。
日常業務が業績にどう影響を与えるのか を把握すること自体に大きな価値があります。
 数字に対する各部門のコミットメントも変 わってきます。
営業部門が価格と販売量を約 束すれば、生産側はそれを満たすための生産 を行い、ロジスティクスは必要最低限の在庫 で回すための手配を行うという役割と責任が はっきりする。
 すべての階層で扱う情報の粒度を揃えるこ とで、SCMが経営に与えるインパクトが具 体的に見えてきます。
事業計画と実行計画の それぞれの階層できちんとPDCAサイクル を回し、PDCAのActに主眼を置けるよ うになる。
裏付けのある意思決定が可能にな ります。
 中でも情報の粒度を大きく変える必要があ るのは、予算策定プロセスです。
従来のよう に前年の実績などから大括りな製品カテゴリー 単位の予算を作るのではなく、S&OPにお いては個々の製品の販売予測、価格推移の見 込み、生産性、製品の不良率、原価、リード タイム、販促計画などの具体的な細かい粒度 の数字を積み上げて予算を立てることになり ます。
 そうした予算策定プロセスにおけるデータ の粒度が、S&OPの取り組みレベルの差だ といってもいいでしょう。
それが大きくその 会社の業績を左右することになります。
 米アバディーングループの行った調査結果を 米IBMで分析したところ、S&OPの取り 組みのレベルによって、企業の粗利率の改善 に大きな違いの出ることが分かりました。
「初 歩的なS&OP」を実施している企業の粗利 率の改善率は三〇%弱、「標準的なS&OP」 では約四〇%、「高度なS&OP」では五〇% 超という結果が出ており、S&OPの経営へ のインパクトが非常に大きいということがわ かります。
             (談) 情報の粒度が粗利率を左右する ── IBMビジネスコンサルティングサービス 佐伯哲雄 SCMコンサルティング シニア・マネージャー S&OPを成功に導く処方箋 企業が直面しているビジネスチャレンジS&OPの目的S&OPの特徴 利益率の縮小 市場シフトスピード の加速 顧客ニーズの 多様化 計画や見込みを 下回るビジネス成長 サプライチェーン スピードの向上グローバル競争 の増加 顧客ロイヤルティー の低下 最適な需給 バランスの確保 ● ● ● ● ● ● 財務パフォーマンスと 顧客サービスレベル の最大化 需要と供給のバランスを維持するた めの公式なプロセスである 通常、月次サイクルで製品ファミリ ーレベルの金額ベースにて行われる 営業、マーケティング、財務・経理、 オペレーション、ロジスティクス、 R&Dなどの各部門代表によってク ロスファンクショナルに実施される 経営トップも含めた複数のマネジメ ントレベルが関与する 企業戦略と事業計画を詳細な日常 業務プロセスと連携する役割を持つ 過去、現在、将来を全体的観点 から可視化する 特集 JANUARY 2012  38  従来のSCMには三つの課題が見え始めて います。
一つがグローバル化への対応。
日本 国内で調達、生産、在庫、販売、納品といっ たサプライチェーンが完結している時代なら良 かったのですが、製造業を中心に海外進出が 進み、サプライヤーや生産拠点、販売先など が世界中に広がるようになると、現地の在庫 や流通在庫が見えなくなってしまった。
現地 法人の実態もブラックボックス化してしまい、 従来のSCMでは管理しきれなくなっている のが実情です。
 二つ目の課題として、需給変動などの小さ な波には対応できても、予測の困難な大きな 波には対応できないことが証明されています。
リーマンショック直後、多くの企業はすぐに生 産のブレーキを踏むことができず、在庫が積 み上がってしまいました。
経営陣が生産を止 めろと指示を出しても、現場はその通りに動 くことができなかった。
東日本大震災やタイ の洪水などでも、サプライチェーン上の問題が 大きく取り沙汰されました。
もちろん、これ らのことを予測するのは不可能ですが、S& OPのコンセプトを取り入れ、事前にシナリオ やプロセスを準備しておくことは有用なはず です。
 三つ目がROA(資産収益率)への貢献で す。
これまでのSCMは在庫(資産)とコス トをギリギリまで減らすことでROAの改善 に貢献してきました。
しかし、売り上げに対 する貢献は抜け落ちていた。
SCMで売り上 げに貢献するというとハードルが高いように 聞こえるかもしれませんが、要は予算を守る ためのサポートです。
予算に基づいて立てら れた事業計画の完遂に貢献することが、今後 は求められてくる。
S&OPの中にその鍵が あります。
 
咫OPを導入する際、ITを入口にしな いことが重要です。
かつてERP(統合業務 パッケージ)やSCMシステムがブームともい うべき盛り上がりを見せた時、その本質を理 解しないまま導入に踏み切って失敗したケース がいくつもありました。
ソフトやパッケージの 導入自体が目的になってしまっていたのです。
 
咫OPとは経営レベルの事業計画とSC Mのオペレーションを連動させ、経営に効果 的な打ち手やシナリオを備えることです。
そ こでは関係する経営陣や社員がS&OP全体 および各レイヤーの役割を深く理解し、仕組 みを構築・遂行していくプロセスが何よりも 重要になる。
ITはそれを手助けするツール に過ぎません。
目的と手段を間違えれば失敗 します。
 ただし、ITが必要ないというわけではあ りません。
S&OPでは生産と販売という従 来のSCMの管理基準に、収益という概念を 加えて経営全体を見渡します。
例えば生産側 になんらかの問題が発生すればただちにアラー ムを上げ、それに対して経営層が最適な意志 決定を下す。
その時、アラーム発生までに何 時間もかかったり、分析や打ち手の効果予測 が不正確であればS&OPを実行する意味が 全くありません。
エクセルなどのシンプルなソ フトでもS&OPのプロセスを回していくこ とは可能ですが、迅速性、正確性を担保する 上で、ITの存在は欠かせません。
重要なの はその機能の意味を理解して使いこなすとい うことです。
 
咫OPを社内に導入する際、それを主導 する担当部署なりポジションを社内に設ける ことを薦めます。
取り組みが進んでいる欧米 企業の中には『S&OP』という名の付く部 署が存在することも決して珍しくない。
SC M部内にS&OPの推進チームがあるケース も多くあります。
 そういった部署や部門を創設するときに留 意すべきは、形だけではなく、しっかりと権 限と責任を与えることです。
かつてSCM部 が在庫を削減できたのは、それまで誰も負っ ていなかった在庫の責任を負い、同時に権限 も有したからです。
S&OPにおいても同じ ことが言える。
 例えば、販売の閾値に対してアラームが出 た時、必要な部署から人員を召集できる、あ るいはアラームに対する打ち手を作成できる 等の権限と責任が考えられます。
責任を持っ てS&OPを推進し、経営陣が最適なシナリ オを選択できる環境を作ることが、彼らへの 評価指標になるはずです。
      (談) 「S&OP推進部隊」を組織せよ ── KAIコンサルティング 貝原雅美 代表 S&OPを成功に導く処方箋

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