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佐高 信
経済評論家
JANUARY 2012 64
『文藝春秋』二〇一二年新年特別号に「オ
リンパス元社長の告白」が載っている。 追放
された同社の元社長でCEOだったM・ウッ
ドフォードのそれである。
ワンマンの前会長、菊川剛から、
「私は思ったように会社を変えることがで
きなかったが、あなたならできると信じている。
引き受けてくれるか」
と言われて社長に就任したウッドフォード
は、菊川の考える方向にではなく、会社を変
えようとして解任された。
その闇を暴いた『FACTA』という雑誌
を菊川は「ただのタブロイド・ジャーナリズム」
と一蹴し、菊川と同じ穴のムジナの財務担当
副社長、森久志は、
「森さん、あなたは誰のために働いている
のですか」
と尋ねたウッドフォードに
「菊川会長です」
と答えたという。
日本のヤクザ映画と西部劇の違いについて、
映画評論家の佐藤忠男が、西部劇では、
「指図は受けねぇ」
というセリフが多いのに、ヤクザ映画では、
「親分、なぜ、一言、死ねとおっしゃって
下さらねぇんですか」
となると指摘している。
社長という役割で部下をコントロールして
いるのではなく、社長という身分が社員を支
配している。 上司と部下の関係がほとんど親
分子分のそれになるのである。
だから、部長あるいは課長の引っ越しに、
部員や課員が駆けつけて手伝うことがおかし
いと思われない。 仕事を離れても、上役下役
の関係が続くのは、役職が機能ではなく身分
となってしまっているということである。
会長になってもCEOの座を譲らない菊川
に対して、社長となったウッドフォードがそ
れを求めると、菊川が怒鳴り出したので、ウ
ッドフォードは「私に対して怒鳴りつけるな。
私はあんたの走
プードル
狗じゃないんだ!」
と言い返した。
彼らが絶対に露見しないだろうと自信を
持っていた同社の不正が暴かれ、菊川も遂に
十一月二四日に取締役を辞任せざるをえなく
なった。
ところが、菊川らが不正を認めた後も出社
していたという。 それについてウッドフォー
ドは次のように憤慨する。
「信じられないことだ。 証拠の隠滅が行わ
れない可能性がどこにあるというのだ。 私は、
すべての社内システムからアクセスを拒絶さ
れたというのに」
なぜ菊川のような人間がトップになり、こ
うした不正をやるのか。
ウッドフォードはその原因の一つを「あま
りに静かな株主」に求める。
オリンパスの不正な買収が表に出てから、
欧米の機関投資家やファンドは、公の場で取
締役の退陣や情報公開を徹底してやるよう要
求してきた。 その一方で、過半数を占める日
本の株主は黙ったままである。
これは株式持合いの弊害ではないか、とウ
ッドフォードは指摘する。 つまり、相身互いで、
会社同士、批判し合わないのだ。
オリンパスにおいて菊川は絶大な権力を誇
っていて、自分以外の人間が菊川に異論を唱
える場面を一度も見たことがない、とウッド
フォードは回顧している。
「私が社長に復帰したら、アメリカ型の強力
な社外取締役制度を導入するつもりだ。 社長
に対しても強い発言権を持ち、経営の舵取り
を監視する役割を担ってもらう。 また、フレ
ッシュで有能な人材も登用していきたい」
これがウッドフォードの提言と抱負である。
それにしても『FACTA』が書くまで、
どうして『日本経済新聞』をはじめとしたメ
メディアはその秘密を暴けなかったのか。 癒
着しているからか、それとも無能だからか?
?ただのタブロイド・ジャーナリズム?が暴露
オリンパス問題を報道しないメディアの堕落
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