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MARCH 2004 42
保管事業の収益性が低下
「低温物流事業が始まって以来の一大改革
だ」――。 ニチレイが四月に断行するグルー
プの再編を、同社低温物流カンパニープレジ
デントの楡敏秀専務はこう位置付ける。
冷凍食品メーカーとして国内トップシェア
を誇るニチレイは、同時に日本最大の冷蔵倉
庫業者でもある。 ニチレイ本体のほか、子会
社の運営する拠点も含めたグループ全体の冷
蔵倉庫の保管能力は、国内だけで一四〇万ト
ンにのぼる。
この冷蔵倉庫を軸に展開してきた低温物流
事業は、加工食品事業と並ぶニチレイのコア
事業だ。 二〇〇三年三月期の連結決算におけ
る低温物流事業の売上高構成比(内部取引
額を除いた金額ベース)は一七%だが、営業
利益の構成比では三十一%に跳ね上がる。 加
工食品事業に次いで利益面の貢献度が高いこ
とが分かる(図1)。
これまでこの分野でニチレイは、冷蔵倉庫
による保管事業や、物流センターの運営受託
事業、輸配送事業などをグループ会社と役割
分担しながら展開してきた。 なかでも自らも
輸入業務を手掛ける水産・畜産品原料などを
ターゲットとする保管事業は、低温物流事業
の総売上の七割強を占める主力事業だ。
しかし、ここ数年、冷蔵保管事業を取り巻
く環境は厳しくなってきている。 日本冷蔵倉
庫協会のデータによれば、為替が円安基調に
低温物流事業を分社しグループ再編
流通分野の強化で3年後3割増収へ
今年4月に低温物流事業を分社し、グルー
プ会社も巻き込んで組織と拠点を再編する。
事業領域を保管と輸配送とに分け、倉庫事
業は地域に分割して競争力の強化を目指す。
小売業向けセンター運営などの成長分野で
は、事業の重点を「拠点」から「輸配送」
に移して売上拡大を図り、業界トップの地
位を揺るぎないものにする戦略だ。
ニチレイ
――組織改革
43 MARCH 2004
変わった九七年を境に、食料品の輸入増に歯
止めがかかり、冷蔵倉庫業界全体の在庫高は
横ばいで推移してきた。 にもかかわらず、し
ばらくは倉庫の新設が続いたため需給ギャッ
プが発生し、保管料の単価が下落した。
メーカーなどの荷主は近年、在庫拠点の集
約や、首都圏などへの在庫の一極集中化を推
進してきた。 さらに中国をはじめとする海外
への生産移転が相次いだ影響もあって、とり
わけ地方都市で冷蔵倉庫の空洞化が顕著にな
っている。
この厳しい環境下で、ニチレイの低温物流
事業の屋台骨である保管事業の収益力も低下
している。 結果として、低温物流事業全体の
営業利益も九五年をピークに年々減少。 二〇
〇三年三月の決算ではピーク時の六割まで落
ち込んでしまった。
一方で、小売業向けの物流センター運営事
業や輸配送事業は、売り上げを順調に伸ばし
てきた。 冷蔵倉庫事業者として長い歴史を持
つニチレイにとって、これらの事業は比較的
新しい分野だ。 約二〇年前に新規事業としてボランタリーチェーン向けの配送センター業
務を手がけたのが始まりだ。
以来、輸配送子会社の日本低温流通(N
TR)と連携し?足を持った流通型拠点〞を
展開しながら、大手量販店などのセンター運
営に実績を重ねてきた。 また三年前の二〇〇
〇年十一月には3PLの子会社ロジスティク
ス・プランナーを設立し、物流改善の提案や
業務の一括受託ビジネスにも参入。 新たな市
場の開拓を進めている。
現在のニチレイのセグメントでは、これら
の事業を「流通型」と「3PL」に分類して
いる。 二〇〇三年三月期の連結決算で低温物
流事業部門の売上高は一一二九億円。 このう
ち従来からの「保管型」事業が八三三億円で、
「流通型」と「3PL」はあわせて一八八億
円、海外事業(図では「欧州」)が一〇八億
円となっている(図2)。
売上規模ではまだ「保管型」事業がかなり
の部分を占めるが、伸びを見ると「流通型」
と「3PL」が際立っていることが分かる。
二〇〇一年度が前年比四五億円増、二〇〇
二年度が同二九億円増、二〇〇三年度も同
四六億円増を見込むなど、順調に成長を続け
ている。 保管事業の減収分を、これらの事業
の増収でカバーしてきたわけだ。
低温物流事業を統括する楡専務は、「考え
てみればこれは世の中の流れ(流通構造の変
化がそのまま反映されたもの)だ」という。
かつて冷蔵倉庫が担っていた機能は、需給調
整や備蓄が中心だった。 それが今では食品の
生産・加工と一緒に原料保管も海外にシフト
してしまった。 日本国内の物流では、輸入し
ニチレイの低温物流事業を統括
する楡敏秀専務
加工食品26%
水産18%
低温物流17% 畜産12%
不動産
1%
食品卸売25%
その他1%
不動産19%
食品卸売4%
その他4%
低温物流31% 水産3%
畜産2%
加工食品37%
売上高 配賦不能営業費用控除前営業利益
図1 売上高と営業利益の構成比
た商品をいかに短いリードタイムで顧客に提
供するかが重要になった。
現在の流通構造のもとでは、従来型の保管
事業はすでに成熟市場になっている。 今後、ニチレイが低温物流事業で成長し続けるため
には、流通型の事業を伸ばしていくことが不
可欠となったのである。
二七〇〇人と一〇一拠点を再配置
今回の低温物流事業の組織改革に先立つ
昨年四月、ニチレイは社内カンパニー制を導
入している。 各カンパニープレジデントに業
務執行権限を委譲し、自律的な経営体制の実
現を図った。 このとき低温物流事業も加工食
品事業などとともにカンパニーに移行し、関
連分野を手掛けるグループ企業と一体となっ
て収益基盤の拡大をめざすことになった。
その低温物流カンパニーが二〇〇四年度か
らの中期経営計画を策定するにあたって、経
営改善策として盛り込んだのが、事業の分社
化と、グループ企業の再編による組織改革で
ある。 この分野で競争力をつけて新たな成長
軌道に乗るためには、ニチレイ本体と切り離
したうえで経営資源の配分を最適化する必要
があると見たからだ。
今回の改革のポイントは事業領域の区分に
ある。 まず国内の低温物流事業の領域を、成
熟市場である「地域保管事業」と、今後も成
長が期待できる「物流ネットワーク事業」と
に明確に分ける。 そのうえでグループ企業を
含む人的・物的資源を、それぞれの事業に再
配置するというのが組織再編の骨子だ。
低温物流カンパニーは現在、ニチレイ本体
の低温物流企画部、低温物流事業部、不動
産事業部、北海道・東北・関東・中部・関
西・九州の六支社と、NTRや地域の倉庫会
社などの子会社によって構成されている。 ニ
チレイだけで七〇〇人、グループ全体では二
七〇〇人を超える大所帯だ。 拠点は合わせて
一〇一カ所あり、それぞれ「保管型」と「流
通型」の二つのタイプに区分してきた。
これを二〇〇四年四月からは、「地域保管
事業」と「物流ネットワーク事業」というセ
グメントに区分しなおす。 原料などを主に扱
う在庫型の「地域保管事業」は、組織を地域
ごとに分割して地域密着型を志向する。 一方、
製品を中心にしたスルー型の「物流ネットワ
ーク事業」では、倉庫事業から輸配送事業へ
業態転換を図る。
そして、この二つの事業領域にグループの
人材と拠点を再編する。 冒頭に引用した楡専
務の言葉通り、ニチレイの低温物流事業にと
って一大組織改革であることは間違いない。
まず「地域保管事業」では全国を八地域
(北海道・東北・関東・東海・関西・中国・
四国・九州)に区分。 会社の新設による分割
や、子会社への吸収分割、子会社の社名変更
などによって、各地に保管会社「ニチレイ・
ロジスティクス」(仮称)を発足する。 その
うえでグループの全拠点のうち八〇拠点を、
それぞれの地域会社に再編する。
例えば北海道・東北・関東の地域会社は
ニチレイからの分社によって設立し、各地域
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単位:億円
1400
1200
1000
800
600
400
200
0
140
120
100
80
60
40
20
0
(決算期)
図2 低温物流事業の業績の推移
91/3 92/3 93/3 94/3 95/3 96/3 97/3 98/3 99/3 00/3 01/3 02/3 03/3 04/3E
売上高
営業利益
注:03/3から配賦不能営業費用の基準に変更あり。 その影響は、
03/3期では従来の方法と比べて2億円の費用増となっている。
保管型
流通型
3PL
欧州
全体(00/3まで)
営業利益
108
83 85
98
109
116
98 94
81
76
82 81
80
69
57
622
710
754 786
833 853
890
909 901
957
1078 1109 1129 1149
69
2 112
146
13
894 864 833
790
166
178
22 56
87 125
45 MARCH 2004
のニチレイの拠点を承継する。 東海・関西・
中国・九州の地域会社は、東海冷蔵・関西
日冷などの子会社が承継会社となりニチレイ
の拠点と事業を引き継ぐ。 四国ではすでに子
会社の四国水産冷蔵に事業を一本化しており、
社名変更だけを行う。
なお、神奈川県内で果汁・乳製品の通関・
保管に特化した事業展開をしている子会社の
キョクレイは、従来通り独自の強みを活かす
ことを狙って、これらの地域会社への編入は
行わない。 関連会社との合併によって経営基
盤を強化したうえで九つめの保管会社として
存続させる(図3)。
ニチレイの冷蔵倉庫事業には、過去に業界トップの地位を築き上げた成功体験がある。
このため、「三〇年以上も同じビジネスモデ
ルを踏襲し、全国一律の画一的なマネジメン
トを行ってきた」と楡専務は振り返る。
だが市場の成熟化が進み価格競争が激化す
るにつれて、従来のビジネスモデルでは地域
における競合他社とのコスト競争で優位に立
てなくなってきた。 大組織のため意思決定に
時間がかかり、戦略や施策が現場の実態と乖
離するなどの問題も出ていた。 ニチレイ本体
と地域子会社との間で顧客が重複するなど、
事業の棲み分けも十分ではなかった。
そこで同社は、「地域ごとに分割・再編し
てコスト構造を地域の水準に合わせ、競争力
をつけていくことが事業の活性化につながる」
と判断した。 各地域会社は今後、運営のロー
コスト化によって利益を追求し、地域特性に
合ったサービスを展開しながら差別化を図っ
ていく方針だ。
流通分野の事業に本腰
一方、「物流ネットワーク事業」では、輸
配送子会社のNTRが社名を「ロジスティク
ス・ネットワーク」(仮称)に変更し、ニチ
レイの拠点を引き継いで二十一拠点体制で再
スタートする。
二十一拠点のうちニチレイから承継するの
は一九カ所あり、このうち十一拠点は、これ
まで「流通型」事業に区分されていたTC
(通過センター)だ。 残る八拠点は、従来は
「保管型」事業に区分されていたものの高回
転で流通型に近い運営形態の拠点を「物流ネ
ットワーク事業」に組み込むことにした。
これらの拠点でニチレイは、従来からNT
Rと連携して事業を行ってきた。 ただし、冷
蔵倉庫業者であるニチレイが運営する以上、
それはあくまでも?拠点をベースにして足を
絡める〞かたちでの事業展開だった。 営業活
動も庫腹をいかに埋めるかに重点が置かれて
いた。 輸配送子会社とはいえNTRの実態は、
ニチレイの倉庫の顧客に対して輸配送を手配
する取次業の域を脱していなかった。
しかもこの事業形態のもとで、ニチレイと
NTRがそれぞれ拠点と輸配送の領域で収益
をあげる考え方をとってきたため、トータル
で高価格の料金設定にならざるを得なかった。
そこで今回の再編にあたってニチレイは、
「物流ネットワーク事業」を?輸配送事業〞
として明確に性格付けることにした。 事業主
体が、?足を持った冷蔵倉庫業者〞から?拠
点を持った輸配送業者〞へ変わることを意味
する。
四月以降は「ロジスティクス・ネットワー
ク」が拠点と輸配送を一貫して運営し、営業
活動も独自に行う。 「拠点を?通過点〞とし
てとらえ、倉庫ではなく、車両の積載率や回
転率で儲ける運送業者の発想に切り替えてい
く」(楡専務)ことで、競争力を高めようと
いう戦略だ。
ニチレイ・ロジスティクス北海道 6 6 なし
ニチレイ・ロジスティクス東北 3 3 なし
ニチレイ・ロジスティクス関東 8 8 なし
ニチレイ・ロジスティクス東海 10 7 3
ニチレイ・ロジスティクス関西 16 9 7
ニチレイ・ロジスティクス中国 7 3 4
ニチレイ・ロジスティクス四国 10 なし 10
ニチレイ・ロジスティクス九州 16 6 10
キョクレイ 4 なし 4
計 80 42 38
ニチレイから
分割する拠点数
拠点数 子会社から承継
する拠点数
図3 <再編後の会社名(仮称)と拠点数> 地域保管事業
社名
MARCH 2004 46
分社・再編後は、ニチレイ本体のなかの低
温物流カンパニー本部が持ち株会社として事
業を統括する。 同カンパニーは新しいセグメ
ントに基づく二〇〇四年度からの中期経営計
画で、二〇〇六年度に一五〇〇億円の売上
高を達成する目標を掲げている。
二〇〇三年度の売上高は一一四九億円を
見込んでいるため、三年間で三五一億円の増
収を図るという計画だ。 このうち二九九億円
を「ロジスティクス・ネットワーク」や「ロ
ジスティクス・プランナー」など物流ネット
ワーク事業の売上増によって達成していく考
えだ(図4)。
今後、新たにスタートする大手量販店向け
のセンター運営事業や、既存センターに新規
顧客を取り込むことで、目標の達成は十分可
能と同社では見る。 物流ネットワーク事業に
編入される二十一カ所の拠点は、これまで
「保管型」のDCが川上領域のフローズン帯
を、「流通型」のTCが川下のチルド帯を扱
ってきた。 「この境界線をなくすことで、顧
客ニーズに合ったサービス領域の拡大が可能
になる」と楡専務は言う。
たとえば、アイスクリームなどで実績のあ
るメーカー共同物流では今後、チルド帯の乳
業メーカーなどもターゲットに加える。 一方、
小売業向けのセンター運営は従来、チルド帯
が中心だったが、フローズン帯でもスーパー
や食品卸向けなどにニーズはあると見る。 ま
た外食産業などを対象にTCとDCを併設し
た汎用型拠点の運営も手がけていく。
このほか同社では、新たなニーズに対応し
た「センター前センター」の構想も進めてい
る。 「センター前センター」とは、メーカーや
卸が、量販店やCVSの指定するセンターに
商品を納入する際に、共同で仕分けや配送を
行う拠点のこと。 首都圏などには小売業の指
定するセンターが数多くあり、ベンダーは各
センターへ個別に納品をおこなっている。 こ
のため地域によっては配送が錯綜し効率が悪
くなっている。 「センター前センター」があれ
ば動線はすっきりする。
すでにNTRがこのタイプのセンターを埼
玉県の浦和で実際に運営している。 顧客は順
調に増え、今年四月には岩槻でも新規にオー
プンする予定だ。 この事業のほか、業務用製
品や地方の少量荷主をターゲットにした輸配
送サービスなど、中長期的なスパンで成長を
めざす事業にも新たに取り組んでいく。
また、二〇〇二年一〇月にスタートした名
糖運輸との提携関係も強化する。 この提携は
量販店向けセンター運営を主体に展開しフロ
ーズン帯に強いニチレイと、CVS向けセン
ター運営が中心でチルド帯を得意とする名糖
運輸との相互補完により、ネットワークの強
化を図ったものだ。 NTRを含めた三者間で
の株の持ち合いや、拠点の相互利用、輸配送
の共同化などを進めてきた。 今回の組織再編
を機に「もう一段上のより一体化できる関係
へ」(楡専務)提携を深める考えだ。
ニチレイの推計によれば、首都圏には量販
店とCVS向けの物流センターが一二四カ所
ある。 このうちニチレイと名糖運輸が合わせ
て二八カ所を運営しており、そのシェアは量
販店で一五%、CVSでは三〇%になるとい
う。 「提携の強化によるシナジー効果で、?セ
ンター前センター〞など新事業分野の展開が
有利になる」(同)とニチレイではにらんでい
る。 今回の事業再編は、この提携強化に向け
た地ならしと見ることもできる。
冷蔵倉庫業界のトップから、「名実ともに
低温物流業界のナンバーワンへ」の道を、ニ
チレイはこの組織再編で開こうとしている。
(フリージャーナリスト・内田三知代)
1600
1400
1200
1000
800
600
400
200
0
物流ネットワーク事業
地域保管事業
海外事業
その他の事業
全体(03/3のみ)
03/3 04/3
見込み
07/3
計画
(決算期)
1129 1149
1500
24 125
426
574 873
458
143
26
注:数値はなお検討中のものであり、
04/3に発表予定の次期中期
経営計画においては、変更す
る可能性がある。
単位:億円
図4 3年後に351億円の増収を見込む
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