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FEBRUARY 2012 30
日 陸
──危険物をドメインに対象貨物を拡大
危険物の物流とISOタンクコンテナの運用で培った強
みを活かし、新規分野の開拓を進めている。 化学品のフォ
ワーディングや海外物流の強化を進める一方、医薬品、
食品に対象貨物を広げている。 事業拡大に拍車をかける
ため、国内外でいっそう積極的な投資を行っていく。
(聞き手・梶原幸絵)
給与は下げずに『一円管理』を徹底
──現在の経営状況は?
「二〇一一年九月期の売上高は約二一二億円、減
価償却前経常利益は四二億円となりました。 数字的
には〇八年九月期に届きませんでしたが、〇八年九
月期には特殊要因もあったので、それを除外すれば
業績は完全にリカバリーできたといえます。 倉庫部門、
運送部門、フォワーディング部門、ISOタンクコ
ンテナなど輸送容器のレンタル・販売部門の主要部
門すべてが好調でした。 今期一二年九月期は売上高
は約二三四億円で過去最高を見込んでいます。 減価
償却前経常利益は約五〇億円を計画しています」
──外部環境としてはそれほど良くはないはずです。
業績が堅調な理由は?
「リーマンショック以降、本社一括購買を拡大して
購買費の改善を進め、また現場では『一円管理』を
スローガンに、社員一人ひとりがコスト削減に取り
組むなど、あらゆる努力を続けました。 そうした地
道な取り組みが大きな効果を生み出し、人件費を下
げることなく乗り切ることができました」
「主力である化学品や危険物の物流で、一般貨物
に比べて落ち込みが少ないこともありました。 同じ
化学品でも、その時々で“旬”な品物というものが
ある。 例えば、太陽光パネルやリチウムイオンバッテ
リーの原料です。 そうした貨物は不景気の中でも物
流センターでの保管需要が堅調で、しかも危険物が
多い。 当社の危険物に対する知見とノウハウを活か
して取り込むことができました」
「化学品ばかりでなく、新規分野の開拓にも注力
しています。 〇九年頃に医薬品の取り扱いを開始し
ました。 センターには管理薬剤師を配置し、医薬品、
医薬部外品、化粧品の製造業(包装・表示・保管)
許可を取得するなど体制を整え、順調に仕事を増や
しています。 以前は汎用型の危険物倉庫で取り扱っ
ていましたが、昨年七月、大阪物流センター内に初
の医薬品専用倉庫を開設しました」
──医薬品分野に力を入れる会社は多い。 参入に当
たっては何が強みになったのでしょうか。
「当社がターゲットとしているのは医薬品全般では
なく、危険物です。 カテゴリーとしては非常にニッ
チな分野ですが、医薬品の中でも危険物を扱えると
いう会社はほとんどないと思います。 当社は昔から
危険物を得意としており、温度管理が必要なもので
も取り扱いには慣れている。 人材も設備も投入する
ことができたというのが大きいと思います」
「これまで医薬品の危険物は、他の医薬品と同じ
場所、例えば通常の物流センター内の一角に専用エ
リアを設けるようなかたちで保管されるケースが多
かったようですが、危険物はやはり専用の倉庫に集
約して保管した方が安心です。 コンプライアンスに
対する意識が高まっているところへ、当社がアピー
ルすることができました」
「新規分野としては、食品の取り扱いも挙げられ
ます。 糖蜜や酒類の原料など、食品分野でも化学品
と同様に、バルクで動く液体貨物が多い。 液体貨物
の扱いを拡大するという切り口です。 この分野には
引き合いがあれば対応してきた程度でしたが、この
数年は積極的に取りに行こうと動いています」
──食品といっても、国内市場は飽和状態です。 参
入する余地があったのですか。
「われわれは、国際規格のISOタンクコンテナを
武器に化学品の国内外一貫輸送を提供しています。
同コンテナの運用基数は昨年末、五〇〇〇基を超え、
能登洋一 社長
注目企業 トップが語る強さの秘訣
第22位
31 FEBRUARY 2012
国内ではトップシェアを握っています。 ISOタン
クコンテナはマルチモーダルで使え、しかもトラクター
ヘッドと切り離して使うことができる。 容量はタン
クローリーの倍以上です。 そうした利点を組み合わせ、
既存の物流の効率化を提案することによって、業容
を拡大してきた経緯があります。 同じように、食品
分野でもISOタンクコンテナを強みとしていきます」
アジアの拠点網に積極投資
──化学業界では、海外への生産移転が進んでいま
す。 国内だけで業績を伸ばすのは難しいのでは。
「そこでフォワーディング事業を強化しています。
確かに、生産拠点が海外に移転すればその分、国内
の物流はなくなります。 しかし、完全になくなって
しまうわけではない。 国際物流に変わるだけです。
例えば日本とアジアとの化学品の貿易額は、一〇年
前の三倍に膨らんでいます」
「フォワーディング事業も順調です。 国際物流の荷
動きをもっと取り込むため、一〇年には大型投資を
決めました。 横浜市の大黒町で二万二二〇〇平方メー
トルの用地を取得し、一一年に『横浜物流センター』
の建設に着工しました。 新センターは既に一部稼働
しており、今年二月には本稼働となる予定です。 常
温と定温の危険物倉庫計五棟、常温・定温の一般
品倉庫一棟、高圧ガス貯蔵所二棟などから成り、化
学品、危険品の輸出入貨物に関わるさまざまな機能
を整備します。 輸出入貨物の取り扱いを拡大するた
めに、非常に重要な拠点になると大きな期待をかけ
ています」
──海外の現地物流については?
「アジアのネットワークを拡充します。 既に〇二年
に中国に進出しており、シンガポールとマレーシア
にも現地法人を置いています。 今後は、韓国、台
湾、タイなども含めてアジアを面として捉え、日本
国内と同様、“危険物の日陸”をアピールできるよう、
拠点の機能強化と新設を進めたい。 それを期待され
てもいます。 アジアの新興国は日本に比べると、物
流技術という面で遅れている部分がまだまだ多く、
われわれのような会社の出番は多い」
──今後の目標は。
「大きな長期目標として、二〇二〇年に売上高四
五〇億円を目指します。 その内訳は、国内の単体売
上高で三五〇億円、海外で一〇〇億円。 そのための
ステップとして現在、三カ年の中期経営計画を進め
ています。 最終年度となる一三年九月期の単体業績
の目標数値として、売上高は二七七億円、減価償却
前経常利益は約五五億円を設定しています。 目標は
高くもっていく」
「そのための投資は積極的に続ける方針です。 当然、
リスクは最小限にしなければなりませんが、リスク
を恐れて何もしなければ成長はあり得ない。 アジア
に投資するほか、国内では特にタンクコンテナを運
用するためのプール拠点を増やしたい。 今のところメー
ンは神戸と川崎だけなので、需要を見ながら他地域
にも拠点を増設しようと考えています」
「当社の仕事を見渡すと、保管、運送などのパー
ツパーツでは競合がいるかもしれません。 しかし、
豊富なアセットと物流技術、さまざまな機能をフル
で使いこなせれば、もっともっと強くなれる。 ただ、
長い歴史の中で仕事の領域を広げてきたので、社員
がそれを意識することは難しい。 一人ひとりに自分
の受け持つ仕事ばかりでなく、全体のことを考える
という意識を持ってもらわなければなりません。 そ
のための教育や採用が課題です」
ISOタンクコンテナのパイオニア
1946年に日本陸運産業として創業した独立系
企業。 化学品用の鉄道貨車のレンタルや販売を
メーンとしていたが、タンクローリー車へのモー
ダルシフトが進んだことから、運送業、倉庫業に
比重を移した。 ISOタンクコンテナに着目したの
は80年代のこと。 当時、世界中で普及していた
ISOタンクコンテナの国内での陸送許可を初めて
取得し、日本国内での使用に道筋を付けた。
化学品メーカーと安定的な関係を作り上げ、着
実に業績を伸ばしてきたが、2009年9月期はリー
マンショックの影響を受け、減収減益に。 再び成
長軌道に乗るために、新規分野の開拓に本腰を
入れている。
会社プロフィール
08 年
9月期
09 年
9月期
10 年
9月期
250
200
150
100
50
0
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
単位:億円
単体業績の推移
当期利益(右軸)
売上高(左軸)
特 集 《平成 24年版》
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